第二百五十九話 受胎
それから沢山語った。
【イシュタル王国】で起きた政変に、【カムーン王国】でエリーシャを納得させた話。
ボクが造る国で、メリッサがどれほど重要な役割を成すのか。
「国を興す、のか?」
「うん」
「その...ね? 神力? それを使えばわざわざそんな手間をかけなくてもいいんじゃない?」
「エリー? それはだめなんだ。ボクが事象改変をする程の神力を行使すれば、すぐにゼウスが降りてきてしまう。そうなれば部下の、"天使の軍団"も一緒に降りる。
今の世界勢力じゃ、間違い無く滅びの道を歩む事になるんだよ」
だから各国の国力――ひいては軍事力を底上げしないといけない。
もちろん1対1ならゼウスを倒せる...と思う。
火竜王バハムートと、水竜王リヴァイアサンの力があれば完全に倒せるから、やっぱりまだその時じゃない。
「そもそも、なんでゼウスはこの世界にそこまで固執するのかしら?」
「それはね? "未知の力"があるからだよ」
「"未知の力"?」
「うん。絶対神ゼウスにとって、自分の因果から外れた存在は脅威に感じる。そして未知とは恐ろしいだけじゃなく、憧れでもあるんだ。
考えてみてよ? 何もかも思い通りにできる自分が、まったく知らない存在に出会ったら? 嫌悪すると同時に触れてみたい。見てみたいと思わないかな?」
それがゼウスの筋書きだ。
未知の存在――精霊王と竜王――をボクに取り込ませ、神位を退きじっくりと調べ上げる。
おそらく――ゼウスも世界に辟易としていたんだろうと思う。
だって、自分が生み出した子供達は、自分の思惑と外れ戦いを好んでしまったから。
だから三千大千世界をいくつも壊したんだ。
落胆...したんだろうね。
同情はしないけど。
「だから国を興すのか」
「うん。統一国家じゃダメなんだ。ボクが全てを従えるなんて手に余る。それに――ボクも人間だからね。信じたい気持ち。希望を持ちたい。そう...思うんだ」
それは願い。でもそれだけじゃない。
今のボクは太陽神アポロンという名の神だけど、やがて禁忌を犯し子供を作る。
そして死ぬんだ。
だから、ボクの死後に子供達が愚かな行ないをしない為に、各国と協力体制を作らなければいけない。
それでも、もし――戦争が起きてしまうならば、その時代を生きる子供達がどうにかすればいい。
保険はかけておく。だけど、人間としての生を終えれば、全ての責任をボクが取る事なんてできないんだから。
「あ、ちなみにだけど、ボクが国を興すって事は、ボクが国王でローゼ達が王妃に成るって事だからね?」
「「「「エッ!?」」」」
「あはは♪ なに驚いてるの? 当然でしょ? 結婚するんだから♪」
本当に、騒がしくて、おかしくて、面白くて、素敵な家族だよ。
ずっと...ずっと一緒に居たいって、ボクは心から望んでいるよ。
「お、王妃か...わ、私が王妃...フヒ」
「王妃...王妃! (これは本当に第1級冒険者にならないと序列が...がんばれ私!)」
「あらあら~♪ おねぇちゃんが王妃ちゃん~♪ うふふ~♪」
「私は元々王女ですから...ハッ!? ヴァルが...いえ、ローゼが王女!? まさか!」
「え? ああ、そうだなぁ...ククク..."第一王妃"は私だなぁ?」
「そ、そんな!」
「あらあら~♪ おねぇちゃんは気にしないわよぉ♪」
「私とカオル様の子供は、次代のエルフ王に....そうです! カオル様! お子を! お子を沢山作れば私にも!」
「いや、何を張り合ってるのか意味がわからないけど、たぶん、第一とか第二とか関係無くなるよ?
それに、ボクが造る王国はローゼの子供が継ぐだろうし」
「か、カオル...わたしは...私の子供はどうなるの....」
「ん~...『第1級冒険者に成れば』どこかの王家に、嫁なり婿なり行くんじゃないかな?」
「エッ!? それって王族!?」
「いや、それ以外の道が無いから。子供には悪いけど...」
「ぜんっぜんいいよ! 王族かぁ...ふへへ...」
にやけているところ悪いけど、エリーはボクと結婚したらその王族だってこと忘れてない?
まぁ、納得したならいいけど。
「で、カルアとの子供は...まぁ【聖騎士教会】だろうねぇ」
「そうね。枢機卿くらいの席は用意しておくわ」
「し、しし、シヴ様!? そんな勝手に!!」
「あら? 私が主神なんだもの。それくらい可能よ? ねぇ? アブリル?」
「そうにゃ! ご神託で言われたらどうしようもないのにゃ!」
「だそうよ? もっとも――カオルの子供だもの。もしかしたら、アブリルよりも私と親和性が強い可能性もあるわね」
「にゃにゃ!? 生命の危機にゃ! カオル! 養ってほしいにゃ!」
「いや、もうじゅうぶん家のペットだから。死ぬまで居ればいいんじゃない? 【聖都アスティエール】の生活に戻れないでしょ?」
「わかってるにゃらいいのにゃ♪」
それでいいのか教皇。
まぁ可愛いから許す!
ペットだし?
「それで――まぁ言い難いんだけど...」
「なんだ改まって?」
「これ以上何が起きてもおどろかないわよ!」
「なにかしら~? うふふ♪」
「...カオル様?」
「いや、ね? 【カムーン王国】の第二王女エメと婚約した」
ぶっちゃけコレが一番怖かった。
だってみんな怒るんだもん。
そりゃ節操無しなボクも悪いんだけど...
でも必要な事で....
だから怒らないでくれると...いいなぁ...
「まぁ....仕方が無いな。だが! 1番は私だぞ!」
「エッ!? ローゼは許すの!?」
「当たり前だろう。カオルは国を興すんだ。政略結婚の一つや二つは必要だ。それにな? カオルが私達を蔑ろにするなんてありえないだろう?」
「それはそう...だけど...」
「おねぇちゃんはいいわよ~♪」
「私も特には...(本当は嫌ですけど)」
エルミア? 本音が漏れてるよ?
でも、受け入れてくれてよかった!
ボクは無罪だ! ばんざーい! ばんざーい!
「しかし、エメ王女だけでよく済んだな? エリーシャ女王陛下が何か言ってくると思ったんだが....」
「いや...言われたよ? 『なんなら3人同時に』的な事を....」
「やっぱりか! それはダメだ! それだけはダメだからな!」
「さすがにボクも保留にして逃げたよ。だいたい――エリーシャっていくつ?」
「ん? ん~...そうだな....確か34....だったか?」
「同い年にゃ!」
「ぜんっぜん見えないわね...」
「エリーは酷いのにゃ!」
「まぁ...アブリルは見た目幼女だから....」
「当然よ。私の加護を受けてるんだもの」
「いや、自慢げなシヴがボクにはわからないよ」
無駄なところに神力を使うな!
もっと違う使い方があるだろうに....
っと、そうだ。
駄女神だけど、神力を回復させてあげないと。
「シヴ? ウェヌス? ちょっと手を出して」
「なにかしら?」
「カオルは、私に触れたいのですね?」
「いいから! さっさとする!」
そうして存在維持できる程度の神力を与えた。
あまり強力に成られて駄女神暴走するかもしれないし。
またカルアの中に入られても困るし!
今のボクは無尽蔵に魔力も神力も使える。
そのために示現した天羽々斬だから。
キミも、ありがとう。
ボクに出会ってくれて。
そして待っててね? 風竜。
絶対に取り戻してみせるから。
まだまだ話さなければいけない事は沢山あるけど、一度に情報開示するとみんなの頭がパンクするから止めておいた。
時間は有限だってわかってる。でも、残された時間はあるしね。
それにさっさと手駒を増やしたかった。
ボク独りでできる事なんて、高が知れてるんだもん。
「で、どうかな? "エルザ"」
金色の髪を纏め上げて、ポニーテール姿の女性。
右目が紫色、左目が青色のオッドアイで、日焼けした健康的な肌色が元気の証。
そして"エルザ"とボクに名付けられた彼女の本体は――雷剣カラドボルグ。
中位天使第五位の力天使で、"ボクが居た世界"でバルバトスと呼ばれた堕天使で悪魔。
魔核――本当は悪だと思う――と呼ばれる、ノワールにも使われた代物。
ソレにカラドボルグの意識を完全複製して移設させた。
そうして"ただの鉄"に、膨大な魔力を浴びて作り出された魔鉄金属を依代に、受胎したのがエルザだ。
「『どうかな?』じゃねぇよ! 服を寄越せ服を!」
「あれあれ? もしかして恥ずかしいの? 無性なのに?」
「『無性なのに?』じゃねぇって! 胸があんだろ胸が!」
いっちょ前にまぁ...照れちゃって....エルザはからかい甲斐のある子なんじゃよ♪
「ま、とりあえずシーツでも被ってなよ。"この子達"も受胎させちゃうからさ!」
そう言い、ササッとパパッと"彼女達"も受胎させる。
藍鉄色のセミロング。
左右非対称の目の色に、柔らかな雰囲気を纏った女性。
元は聖盾イージスとして、ボクに沢山貢献してくれた相棒。
そして中身は――熾天使上位天使第一位"ラファエル"。
四大天使や、七大天使と称され、ルルと同じ階位の存在。
聖核――本当は神聖な意味――と呼ばれる、魔核よりも上質な代物を用い、同じく"ただの鉄"に膨大な神力を浴びせて作り上げた"神鉄金属"を依代にした。
なにせ"堕天使"と"天使"じゃ格が違うからね。
"堕落する"という事の意味は、"格が落ちる"と同義だから。
全てを捨てて強く成る。なんて事はありえないんじゃよ~♪
「おはよう? よろしくね? "マリア"」
「よろしくお願いします。マスター」
カルアと良く似た仕草でお辞儀をしたボク命名"マリア"。
彼女は、これからこの国を護る要の存在。
なにせ元が元だからね。
【ソーレトルーナの街】――いや、この"王都"を護る為に結界を張り続けて貰わないといけない。
それに....もう"みんな"と話は着いているんだよ。
聖剣アスカロンも、聖槍ガエボルグも、雷槌ミョルニルも...
だから、同じ様に"受胎"させたんだ。
「マスター? "グレーテル"が眠いそうです」
ルルが話した"グレーテル"。
飴色の髪をサイドテールに纏め、眠そうにオッドアイを手で擦る。
この中で一番年下な彼女は、聖剣アスカロンに宿らせていた能天使中位天使第六位"カシエル"。
堕天前のエルザよりも階級が低く、見た目もボクと変わらない。
そして、ルルに懐いている理由。
それこそ、天界でラファエルの軍勢の一員だったから。
「う~ん...先に服のデザインを決めたいから、もう少し起きてようね?」
「...うん。マスター」
「良い子だねぇ」
「あまり甘やかさない方が良いかと思います」
まるでグレーテルの母親みたいなルル。
まぁ、ボクはそれで楽ができるから教育は任せるんじゃよ!
「"フラウ"もよろしくね?」
「....うん」
恥ずかしがり屋な"フラウ"。
どこかアイナに似ているけれど、見た目はまったく全然違う。
ローゼ並に高い身長。エルミアの様に美しい銀髪を腰よりも長く伸ばし、人形...いや、怒った時のエルミアみたいな...鋭い目付き。
オッドアイはみんなと同じなんだけど...どうやら何か不満があるそうで....
「エッ? 雷槌ミョルニルは地味だから嫌なの?」
「うん」
「いや...一番破壊力があるんだけど...」
雷神トールが所有する武器だからね。
一撃で大地を割っちゃうんだよ~?
その気に成れば、この大陸すら分断できるかも?
「...そ、ソカー...大鎌がイイノカー」
雷槌ミョルニルの化身、座天使上位天使第三位"ガルガリエル"は、死神の大鎌が欲しいそうな。
なんだか思考が【イシュタル王国】で大暴れした時のボクみたいなんだけど...
大丈夫かな!?
とか思いつつ、土魔法の《製作欲求》で雷槌ミョルニルを作り変えてしまう親馬鹿なボク。
チャウネン。怒った時のエルミアみたいな視線で懇願されると、弱いねん。
ボク...まだ12歳なのに...おじぃちゃんみたいだよ....
「マスター? ありがと」
「...どういたしまして」
無性とはいえ、全裸の女体が嬉しそうに死神の大鎌を抱えてお辞儀するとか...
ボクは、もしかしたらとんでもない事をしてしまったのかもしれない。
「で、まぁ...問題は彼女か...」
唯一誰にも懐かなかった人物? 天使か。
空色の髪で、エリーくらいの年頃。
地面を叩きブツブツと呟いている内容が、また....
「あの"ジジィ"! 絶対に許せませんわ! なにが『ちょっと行って来てくれ』ですか! 何百年...何千年ワタクシが待ったと思ってるんですの!?
そもそもあの"ジジィ"が行けば、ワタクシがこんな目に合うはずなんてなかったのですわ!」
ちなみに"ジジィ"はゼウスじゃなくて、大天使長ミカエルなんだって。
マリアがこっそり教えてくれた。
「あー...なんだ。"ソフィア"も、さ? 悔しいのはわかるけど、ここはボクの顔を立ててくれないかな?」
「マスター! わかっているのです! わかっているのですけれど! あの"ジジィ"だけは許せませんわ!」
聖槍ガエボルグの化身、智天使上位天使第二位"ゾフィエル"。
ミカエルの腹心だったらしく、常に情報伝達を献身的に行なっていた。
それが"ソフィア"なんだけど....
「とりあえずさ? みんなの制服を決めちゃおうよ?」
じゃないとボク、ローゼ達にコロサレテシマウ。
なにせ無性とは言え全裸の女性姿の5人組だ。
ルルは学校の制服を着てるから大丈夫だけど、早くしないと鬼が来てしまうんじゃよ!
「なぁマスター? アレでいいじゃねぇか。ほら、マスターが良く着てる"白い騎士服"」
「アレは、アーニャがデザインしてくれた大切な物だからダメ!」
「なんでだよ! 別にいいだろ!? 寒かねぇけど、なんかモヤモヤすんだよ!」
それは女体だからじゃよ?
羞恥心を身に着けなされ?
「エルザ? いい加減にしないと、斬りますよ?」
「わわ!? ちょ、ちょっと待て! マジで斬れるから! 魔鉄金属じゃ神鉄金属に敵わねぇから!」
「マスター? 試し斬りしても...いい?」
「フラウもか!? やめろ! そんなでっけぇ鎌をこっち向けんな! ま、マスター! 助けてくれよ!」
う~ん...なんだろう? ちょっと楽しい♪
休日にローゼ達とワイワイ騒いでいる気分?
もっとも、ローゼ達と一緒だと、添い寝とか、膝枕とか、食べさせ合いっことか....
ボクは、みんなが好きなんだよね。
「よっし!! シュパパッと作っちゃうからちょっと待って――」
「ほほぅ? "何を"『シュパパっと作る』んだ? カオル?」
「アンタねぇ...いい加減にしなさいよ! 何人の女に手を出せば気が済むのよ!」
「おねぇちゃんも許さないんだから!」
「...カオル様? なぜ目を逸らすのですか? やましい事でもあるのですか?」
Oh....ボクの部屋...扉が無いんだった....
「チャウネン」
「なんだ? アガータ達の真似で誤魔化すつもりか?」
「こ、こんなに沢山....私という者がありながら!!」
「おねぇちゃんは悲しいわぁ...」
「浮気、確定ですね?」
どうしよう!? どうする? どうすればいい!?
しかーし! 起死回生の手段は残っているんじゃよ!
「何を言っているのかな? ボクは浮気なんてしていないよ? だって――この子達はボクの守護勇士。無性だから、問題は無い!!」
どうだ! 参ったかー!
香月カオル――もとい、太陽神アポロンの辞書に"不可能"という文字はあるけど、『なんとかなる!』という言葉は残っているのだ!
「ご主人! メッ!」
「酷いです! ご主人様!」
「ごめんなさい!!」
光希達を歓迎する為に迎賓館へ向かわせたアイナとフラン。
さすがにローゼ達以外、普段から真面目に頑張って職務を全うしていた2人に怒られたら、ボクも謝らない訳にはいかないわけで...
「マスターよえぇ...」
「...不敬ですよ? エルザ」
「斬りたい。斬っていい?」
「結界を張りますから、中でどうぞ?」
「眠い...」
エルザが憎ぃぃぃぃ....
重責を押し付けてやるからな! 覚悟しておけよー!
グレーテルは、もうちょっと起きてようね?
「静まりなさい!」
声高に上がるソフィアの音色。
空色の髪がフワリと舞い、手にした聖槍ガエボルグが光輝く。
そうして本来の姿をローゼ達に見せ、5対10枚の翼を大きく広げた。
「な――っ!?」
「てん、し?」
「すごーい! 綺麗ねぇ♪」
「まさか...そんな!?」
「キャッ!?」
「ムッ!!」
輝かしき燐光が零れ落ちる。
見れば、ルルも含めて6人の天使が顕現していた。
若干1名、翼先端部分が黒色から灰色へグラデーションかかってるのは堕天使のエルザ。
真っ黒じゃないからそこまで目立たないけど。
「お騒がせいたしました。ワタクシ達は天使。太陽神アポロン様――いいえ。マスター、香月カオル様の守護天使。
彼のお方の願いを叶える為に、再誕したのでございます」
「初めまして、皆様。私はマリア。聖盾イージスに宿る、熾天使のラファエルでした」
「...死神の大鎌のフラウ。座天使のガルガリエル」
「聖剣アスカロンに宿ってた? グレーテル! 能天使で、カシエルって呼ばれてたー」
「はぁ...雷剣カラドボルグ改め、エルザだ。力天使つって、バルバトスなんだってよ」
「ルル。熾天使ガブリエル」
各々が名乗りを上げ、ローゼ達は益々凍り付く。
なにせ燐光が激しい。
階位によって翼の数も違うし、なにより容姿と瞳だろう。
オッドアイの理由は、"魔眼"と"聖眼"なんだけどね。
「皆様? もう少しキチンと名乗りをされてもよろしいのに...
コホン! ワタクシは、"ソフィア"とマスターに名付けていただきました。
聖槍ガエボルグに宿り、慈悲深きマスターのおかげで新たな肉体へ受胎したのです。
そして、ワタクシは智天使上位天使第二位のゾフィエル。
そちらに居ります、ルルとマリアは、ワタクシよりも上位の存在なのです。
地上界の方々も、名前くらいはお耳にした事があるのではないかしら?
『四大天使』。その上位存在が、ルルとマリアの2柱。
そもそもワタクシは"エデンの園"へ至る"生命の樹"を守護し――」
突然物凄く饒舌に語り出したソフィア。
ルルは一応エルザの頭を叩き、フラウはマリアに止められ残念そうに死神の大鎌を抱き締める。
グレーテルはベットに凭れ掛かって居眠りを始め、何故か隣でアイナも寝てる。
ソフィアのご高説は続き誰も聞いていない。
ローゼ達はマリアとフラウ、エルザと談笑をし始め何故か意気投合。
もちろん、彼女達の身体を創造した時に参考にしたのがローゼ達だからだ。
天使の意識が肉体に馴染んだ。
ただそれだけなんだけどね。
「さて、ソフィア? 話が長い」
放って置くと、いつまでも話してそうだからいい加減止めておいた。
なにせ、とっくに彼女達の制服――黒軍服――は仕上がってるんだ。
ボクの《魔透糸》を利用した超高速縫製技術でね。
「マスター! ここからが良いところですのに!」
「うん。それは今度聞くから。先に服を着ちゃいなよ? あと、翼を戻しておいてね?
みんなびっくりするから。最悪、悪魔と勘違いされて攻撃されるよ? ボクに迷惑がかかるからね?
もちろん、ソフィアが悪魔だなんて思ってないよ?
光輝く10枚の翼。とっても綺麗だもん♪ みんなもそう思うでしょ?」
「はい、マスターの言う通りです」
「ん? ああ、そうだな」
「そうね~...それで? へー! ルルが剣を教えてくれるのね?」
「はい。マスターが私達へお願いされた内容に、エリーの特訓も入っています」
「じゃぁおねぇちゃんが監督ね~♪ 治癒術師だもの~♪ 回復は任せて~♪」
「私は、カオル様から直々にお教えいただく事に...なんですか?」
「...髪の色一緒。嬉しい」
「確かに同じ...ですね」
「俺に任せとけば大丈夫ってもんだぜ!」
「そうなんですか!? 凄いんですね! エルザさん!」
「へへっ! まぁなぁ――ッブ!?」
ボクの話をまったく聞いていないローゼ達。
とりあえず涙目のソフィアに服を着させ、フランに自分語りをしたエルザは蹴り付けておいた。
堕天使はダメだ。
《魔法箱》に死蔵されてる他の"魔武器"達も信用できないし、最悪このまま放置だ。
"魔剣グラム"も、"魔剣バルムンク"も、『俺様がー! 俺様がー!』とか喚き散らしてたから受胎なんてさせるものか!
どこかの近衛騎士団長を思い浮かべたよ!
「ほらほら、ソフィアも泣いてないでみんなと交友しておいで。あと、エルザ? 次にボクの逆鱗に触れたら...わかってるんだろうな?」
「ワカリマシタ! マスター!」
「よしっ!」
しっかり釘を挿して全員外へ追い遣った。
あの調子ならすぐに馴染むだろう。
最後にルル達の聖武器とエルザの魔武器を取り上げて仕上げにかかろうとしたんだけど...
死神の大鎌を余程気に入ったのか、フラウが悲しそうな顔をしていた。
『すぐに返すから!』と言い含めてなんとかなったけど...そんなに雷槌ミョルニルが嫌だったのか。
雷神トールよ...雷魔法の使い手として、哀れんでおくよ。
出会う事はないだろうけどね!
「さーて...やるか...」
自室の隣、作業場のテーブルに並べた彼女達の武器。
この先、彼女達には活躍して貰わないといけないから、防具も作らないと。
もちろん、彼女達に合わせた素材を基に、ね。




