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第二百五十六話 早く帰りたい


 【カムーン王国】第二王女エメとの婚約も決まり――後でローゼ達に絶対怒られる――、領地へ帰る為にフェリスの荷物を纏めさせて王城を出ようとしたらブレンダに呼び止められた。

 なんでも、『今のボクが王都を自由に出歩くと不味いのじゃ』だそうで、大講堂に居た貴族連中がまだボクの後ろ盾を狙って追いかけてくる可能性があるんだって。

 さらに、ボクの容姿も問題だった。


 肩出しの胸を強調した黒いドレス。

 白い髪をツインテールに纏め、毛先は巻いてロール状。

 右の頭部に瞳の色と同じ赤い薔薇のコサージュを着けて、どこからどう見ても深窓の令嬢。


 しかも、侍女も美形の人間(ヒューム)

 青丹(あおに)色の髪に茶色い瞳。

 黒いメイド服姿だが、どこか気品を感じられる。  


 そんな2人が武器も持たずに王都を歩いたら?

 バカな事を考える輩はどこにでも居る。

 つい魔が差して、愚かな行為を犯してしまう事もある。

 だから護衛は必要。


「で、その護衛がエーファと、イーナって....仰々し過ぎじゃないかな?」

「いやー....私達は、あの場から逃げられて嬉しいんだけどね」

「うんうん。私も貴族とか嫌いだし?」


 連れ立って歩くボク達4人。


 赤樹騎士団長エーファは、人間(ヒューム)の女性で、腰に曲剣(サーベル)を帯剣し、半鋼鉄鎧(ハーフアーマー)を纏っている。

 赤衣騎士団長イーナは、猫人族の女性で、三又槍(トライデント)を背に、板金鎧(ブレストプレート)姿。

 ブレンダとフェイは大講堂で貴族連中を足止めという名の陳情を受けている最中で、エーファとイーナもその場で警護していたそう。

 無知蒙昧(むちもうまい)で、空席になった内務大臣、外務大臣の次席は『是非私に!』と声高に叫ぶバカ貴族に辟易としていたんだって。

 理由を聞けば納得するし、ボクもその場に居たくは無い。

 でも、だからって貴重な戦力の2人をボクの護衛に就けるとは...

 まぁいいんだけどね。


「ああ、そうそう。ボクの事はカオルでいいから。それと、今みたいに気軽に話してくれる?」


 精神安定上ね。

 呑み込まれちゃうから軽い感じで。


「え? あー...うん」

「畏まらなくて良いならそっちの方が嬉しいし?」

「うんうん。そんな感じでよろしくね~♪」


 何か言いたそうなフェリスは無視して、ボク達は大通りを進む。


「それで、どこに行くのー?」

「とりあえず、王立騎士学校だね~。しばらくの間休学するから、ララノア学長とキティ先生に挨拶しないと」

「あらま!? そうなの? 通い始めてまだ2週間も経ってないのに?」

「うん~..."色々"やる事があってね~...」


 さすがに国を興すから! とは言えない。

 知ってるのは、ルチア、ルーチェと薊達くノ一の5人。

 あとは、ブレンダにエリーシャと、ティル、エメ、エイネ、フェリスくらいかな?

 ま、知られても、それはそれでどうにでもなるんだけどね~。


「やっぱり、伯爵とか面倒なんだねぇ」

「そうだね~....ボクの場合は、半年の間に名誉男爵から伯爵に陞爵(しょうしゃく)されたりしたし。年齢も12歳だしね~」

「すっごいよねぇ! おとぎ話の主人公みたいだよね!」

「あー...確かにそうかも? でも、みんな"自分の物語の主人公"なんじゃないかな?」

「なにその台詞(セリフ)! ちょっとカッコイイ!」

「おー? 英雄譚とか憧れちゃう人?」

「もちもち! じゃなきゃ、こんな得物(モノ)振り回してないよー!」


 三又槍(トライデント)を指差し笑うイーナ。

 その隣でエーファも満更ではなさそうな顔をしている。


 女だてらに――なんて言う男尊女卑な人も居るけど、ボクの周りは女性の方が圧倒的に強い。

 師匠が師匠だから、同類を引き寄せるオーラでもあるんだろう。


三又槍(トライデント)かぁ...いいよねぇ...間合いが長くて」

「お? わかる? わかっちゃう?」

「わかっちゃうね~....ボクの場合は身長が伸びなくて、どうも長柄の武器は扱い難くてね~」

「あー...私もその口だわ。だから曲刀(コレ)使ってるし」


 エーファの帯びる曲刀(サーベル)

 反りも深いし、幅広の刀身。


 ボクが以前ローゼから贈られた曲剣(ファルシオン)よりも、斬撃に特化している。


「ボクもソッチ派だなぁ...体重軽いし、重いの持てないし」

「フッフッフ...そこで使うのが<気闘術>よ!」


 ん? なんだそれ?


「あー...また始まった...」

「そう邪険にしないでよー」

「ねぇ? イーナ? その<気闘術>って何?」

「よくぞ聞いてくれました! <気闘術>って言うのはね――」


 そうしてイーナのながーい講釈が始まる。

 エーファは溜息を吐いていたけど、ボクはとてもためになる話しだった。


 なんでも、攻撃出来るだけの魔力を持つ魔術師に対抗すべく編み出された戦闘技術(スキルアーツ)

 人種が、体内の気を操り爆発的な力を解放するんだそうで。

 所謂、"気功"の類で、多少の天賦の才と、コツコツと積み上げた修練の賜物だそうだ。


「流派によって、口伝(くでん)で伝わる代物なんだけどねぇ。私の泉流槍術は――」


 ん? 泉流?


「しっつもーん!」

「なんと奥義は槍に"気竜"を宿す事が――ってなに?」

「泉流槍術って、開祖が"泉"って苗字だったりする?」

「そうだよー?」

「もしかして、薙刀とかの技もある?」

「あるある! なんだー知ってたのかー」


 いや、知ってるも何も、千影と天音の苗字が"泉"だよ。


「....あのさ? 道場があるの?」

「もちろんあるよ?」


 アンノネ!


「開祖って【ヤマヌイ国】の人間じゃない?」

「うんうん!」


 えっと....いや、薄々気付いていたよ?

 だって、ローゼの武器とか、ブレンダの武器とか? 打刀に、小太刀だし?

 そうだろうなぁとは思っていたけど....西洋文化に日本文化が混じってた!?


「っていうか、カオルが知ってて当然なんだよねー」

「ドウイウコト?」

「ん? だって、前に三又槍(トライデント)の手入れを頼んだでしょ? そのあと、元剣聖ヴァルカン殿の事を前の団長――シリルって言うんだけどね? その人に聞いたら、『騎士学校時代に道場破りされたな』って言ってたし?」


 道場破りって....

 ローゼ何してるの...

 そしてなぜ黙ってたぁぁぁ!?

 デコピン決定だ!!


「そ、そうなんだ...聞いてなかった、かな....」

「あらら? そかー....ま、言えないよねぇ~! お金受け取って帰ったみたいだし~!」

「エッ? お金?」

「そそ! その時の道場主が、シリルのおじぃちゃんなんだけどね? ヴァルカン殿に負けて、『看板持ち去られるくらいなら、お金で許してくれ』って懇願したらしいよ~」


 .....デコピンじゃだめだね。脳天チョップに変更されました。


「よくある事だよ?」

「うんうん」


 いや、そんな慰めの言葉いらないから。

 ローゼは本当にどこまでも『残念美人』だよ...

 そして、強いなぁ...

 騎士学校時代って、14~17歳くらいの時でしょ?

 どんだけ大人を倒したんだか。


 その後も2人の剣術やら、槍術やらの講釈は続き、ボクはフェリスと黙って聞いていた。





















 そうして貴族街と平民街の中間地点に存在する、王立騎士学校へ辿り着いた頃にはグッタリしてしまう。

 フェリスはエーファとイーナの話しを右から左に聞き流し、まったくもって涼しげな顔。

 ボクはというと、もう本当にグッタリ。

 ローゼの道場破り件数やら、酒場での悪名やら、出るわ出るわ黒歴史。

 『酒豪エルフ』なんて軽い物から、『無限の胃袋』なんて...それって二つ名かね?

 ボクも『万能の黒巫女』とか呼ばれてたけど...『無限の胃袋』はナイワー。

 そして、剣術や、槍術以外にも様々な流派があり、色々聞いているうちにふと気付いた。


 それ、全部使える...と。


 ボクの予想では、ローゼは人に教えるのが苦手なタイプなんだと思う。

 いや、実際に2年以上もローゼの下で修練をしてきたボクが言うのもなんだけど、エーファとイーナの説明の方が実にわかりやすい。

 感覚的に教えるローゼよりも、実証的に話して貰った方が断然に理解が早い。

 よくあの教え方でボクも強く成れたものだよね....


「でね~! 私はやっぱり<大車輪>が好きな訳よ!」

「それカウンター技じゃない」

「だって、<二段突き>とか地味なんだもん! 普通に速く突けば同じよ!」

「だろうねぇ...」


 何この女性4人――見た目はボクも女性だ――集まってるのに武技談議に花を咲かせてる状態。

 セシリアとエイミートリオとかだと、もう少し華やぐんだけど...

 なんだろう...カイと話してる感じ?

 ようするに、同年代の男同士で話してる。そんな雰囲気だよ。


「お? なんてステキなタイミングでララノア学長!」

「はい?」


 仕事中? だったであろう、学校の玄関先に出てきたエルフの女性。

 端整な目鼻立ちに金色の髪。

 赤い法衣を纏い左肩からぶら下げた金糸の縄がちょっと眩しい。


「えっと...久しぶりね? エーファさんに、イーナさんも」

「「ご無沙汰してます」」

「それで...こちらの女の子は?」


 不思議なモノでも見るかのように、ララノア学長の視線が泳ぐ。

 フェリスを一瞬見詰め、メイド服から侍女だと判断。

 そしてボクに視線を移し首を傾げた。


「ボクの名前は(かえで)ですよ? ララノア学長♪」


 ちょっとした悪戯。

 銀髪じゃないけど、白髪に赤い瞳。

 性別は間違い無く女性に見えるから気付くかどうか。

 なんて――


「エッ!? か、カオルさん!? まさか本物の女性に!?」


 ちょっと待とうか。

 ナニをドウしたら、性別が変わると言うのかな?

 そんな魔術も薬品も――ある...ナ。


 『(アーウェルサ)の丸薬』


 アレなら性別も引っ繰り返る。

 そもそも母体内で成長する過程で性別が――って、女性に成りたい訳じゃないから作らないけどね!


「いえ、この身体は仮初めのモノで、本体はちゃんとありますから」

「か、仮初めで女性に!?」

「いや、そういう意味じゃなくて」

「やっぱり女性に興味が!?」

「それは生存本能的にあるんじゃないですか?」

「それで女性の姿に!?」

「だから、そういう意味ではなくて」


 なにこのカタブツ....

 いや、学長だからそういう性格なのか。

 理解してもらうまで、随分と時間がかかったよ!


「――そうだったのですか。ビックリしました...治療中なのですね? もうっ!! カオルさんなら、言ってくれればいつでも裸くらい見せてあげますよ!」

「え?」

「え?」

「え?」

「....」


 よーし! もう帰ろう! これ以上は危険だ!


「私が入学中に散々男から告白されても靡かなかった"鉄の乙女"が...」

「まさかの"美少年(ショタ)趣味"だったなんて....」


 いや、ボク美少年じゃないから。

 せいぜい中性的で女性寄りなだけだから。

 お母様に似過ぎただけだから!

 お父様が中性的だっただけだから!


「....それで、カオルさん? 本日の授業は始まってますよ?」

「苦しい! 話題の逸らし方が苦しい!」

「じ、自滅...プークスクス! キャー!」

「エーファさん? イーナさん? "何の話し"をしているのかしら? そう言えば、エーファさんは入学中にターヴィ君に横恋慕を――」

「イィィィヤァァァァ!!」

「イーナさんは、アビー先生から化粧の仕方を習ってみぐる――」

「ニャァァァァァ!!」


 アーアーアー....キコエナーイ....

 女の人怖い怖い怖い...


「ご主人様? 大丈夫でございますか?」

「むしろ、フェリスはなんで平気なの?」

「? 女性同士の会話は、ああいうものですよ?」

「いや、ボクは違うと思うよ...」


 少なくとも、ローゼ達はこんな醜い争いをしない...はず。


「コホンッ! それで、カオルさん?」

「ハイッ!!」

「何か用事があったのではないですか?」

「ソウデアリマスッ!」

「....どうぞ?」


 チャウネン...チョットコワカッタネン...(アマゾネス風)


「実は、当面の間休学します」

「ウソッ!?」

「いえ、本当です。領地の問題などが積み上がってしまいましたので...」

「そんな....」


 いや休学なだけで戻って来るよ?

 そもそも3ヶ月だけの留学だし。


「それで、ですね――」


 そっと耳元に口を寄せ、囁く。


「"エリーシャ"と既に話しは着いているから安心して? ボクもキチンと留学は終えたいからね? それと、学生の訓練の件も用意しておくよ? わかったかい? "ララノア"」

「――っ!?」


 ボクが何をするかララノア学長に伝わっただろう。

 なにせ女王を呼び捨てにしたんだから、わからないはずがない。

 ドS心が疼いたのが本音だけどね~。


「そういう訳で、しばらくの間休学させていただきます。何度か顔は出しますよ?」

「....わかりました。ですが、カオルさん? 次に逢う時は――」

「もちろん。"元の身体"で、ね?」


 目を細めて嗤って見せる。

 なんて卑怯で卑猥なのか、この身体は"こういった仕草"に適していた。


「それでは、キティ先生にもお伝えしなければいけませんから、"また"」

「ええ...カオルさん? "また"」


 何か用事があって校舎から出てきたはずなのに、踵を返して学長室へ向かう"ララノア"。

 あの火照った頬に潤んだ瞳。

 恥ずかしそうに胸に手を当て、ギュっと握った拳。

 間違い無く――堕ちた。


 って! 何してるのボクは!?


「うわぁ...恐ろしい...」 

「鉄の乙女が蕩けてた...」

「ご主人様? よろしいのですか? 婚約者がいらっしゃるのに」


 は...ハハハ....ちゃうねん。


「さぁて、行こうか」

「苦しいどころか、ちょっと尊敬するよ」

「魔性だねぇ...」

「(私は踏んでいただければそれで...)」

「フェリス? 聞こえてるよ」

「聞こえる様に言ったのですが?」

「尚悪いよ!」




















 どうにかこうにか収拾――は着かなかったけど、教室へ向かった。

 道中ヒソヒソ話をするエーファとイーナを何度睨んだか。

 逆恨みだってわかってるさ!

 でも止まらなかったんだもの!

 ボクは被害者だよ!

 全部この身体が悪いんだ!

 ノワールまだー!?

 意識の同期(リンク)できないんだけど!?

 本当に危機だよ!

 増えてる! 増えてるよ! なんか本当にヤバイよ!?

 誰か助けて....


「しっつれいしま――アレ居ない?」


 勝手知ったる2階の教室。

 皆も居るかと思ったら、まさかの無人。

 数瞬首を傾げ、ふと思い出す。

 あ、実技訓練の時間だ。


「訓練場か!」

「みたいだねぇ」

「うわぁ~...教室とか懐かしい...」


 元生徒だからか、エーファとイーナは校舎に入ってから懐かしげにアレコレ見ている。

 怪我も多かったそうで、『治療所には何度もお世話になったんだよ~』だってさ。


 そしてせっかくだから、教室のクローゼットに預けっ放しのメリッサ作、灰色のトロール革の軽装鎧一式を取り出したんだけど...


「....ナニコレ?」


 ドサドサと、ダバダバとなにやら丸められた書簡やら、羊皮紙やらの束がどっさりとてんこ盛りに落ちる。


 おかしいな...昨日はこんな物...って、昨日は実技訓練なんて無かった!!

 ルルが色々自分の見解で【マーショヴァル王国】の話しとか『真実の鏡』とか《異界(ムンド・)(オース)》とか!

 軽々しく話しちゃいけない内容を話してたんだっけ!?

 って、その内容をエリーシャにもボクが伝えたような....

 そうか! だから、『そう...本当に何もかもわかっているのね...』みたいな意味深な言い方だったのか!


 ハハハ...そこまで考えてなかったんじゃよ?


「うっわ! なっつかし~」

「あったねぇ...こういうの...」

「...『アナタは荒れ果てた心に咲く一輪の黒い花の様に美しい。 愛の使徒 アンドルフ・エ・ロモン子爵より』」

「ナルシーだねぇ」

「いや、キモイね」

「っていうか、どれもこれも同性異性関係なく贈られてるねぇ」

「ラッブレター!」


 イラナイヨ!


「...燃やすか」

「いやいや! ダメだよ!? ちゃんと返事しないと!」

「そうそう。学校の風習だから」

「ご主人様? 火種のご用意はいつでも」

「ダメだって! フェリスちゃん!」

「せめて読んでからに――『アンドルフ、愛の詩集200選』プークスクス!!」

「ちょっと! 笑っちゃ――『魅力的で清らかな髪。ああ、私の心に流れる愛の濁流が』ウ ケ ル !!」


 うわぁ...文才無いなぁ...

 そしてキモイ。

 本当にファンクラブとか碌な事しないねぇ。


「よっし、防具は回収っと、フェリス? ソレ、そこに戻しておいて。あとでキティ先生に対応させるから」

「畏まりました」


 無かった事にして、さっさと移動。

 どうやらボクは同性愛系は苦手みたいだ。

 御用商のあの2人もそうだし...って、あのラメル商会が政商になるの!?

 うわぁ...それならセシリアのお父さんに任せたいなぁ...


 そんな悩みを抱えながら、校舎を抜けて裏の訓練場へ。

 中々の活気と防具姿で大回りに駆ける若人(わこうど)達は、元気ハツラツで大変結構!

 もう...本当に老けた気分なんじゃよ...


「キティ先生!」

「ひゃ、ひゃい!?」


 よく噛む人だ。


「ど、ど、どどちら様でしょうか!? わ、私何かしましたか!? どちらかの貴族家の方でしゅよね!? く、首でしゅか!? 首なんでしゅね!?」


 え...何このうろたえよう。

 これはアレかな?

 メイドと護衛2人にボクという存在が相乗効果で相まって、クレームを言いに来た貴族的な?

 クレーマーじゃないよ?


「キティ先生、落ち着いて下さい。ボクです。香月カオルです。中身は」

「ひゃー!?」

「いえ、『ひゃー』じゃなくて、本人ですから」

「まぁねぇ...信じられないよねぇ...」

「普通はねぇ...私達も"あの現場"に居なかったらわからないもんねぇ...」

「私は最初からわかって――ハフン!」


 嘘吐きは尻叩きの刑だ!

 ご褒美にしかならないみたいだけどね!


「さて、深呼吸しましょうね~?」

「スーハースーハー」

「そうそう。で、本題なんですが――」

「ろ.....」


 ん? なんか来た?


「ロ リ 巨 乳 キ タ ー ー ー !!!!」


 暴言を吐いて駆けて来た猫人族の青年。

 もちろん知ってるが、けして友人ではない!

 なので、格闘術が奥義<六禍閃(ろっかせん)>を発動させて、打ちのめした。


「ババババ....」

「ちょー!?」

「うっそ!? 拳打の6連撃...奥義やん....」


 いや、ローゼから習ってたから。

 名前が無かっただけで。

 使いどころも無かったし。


「かみ――ご主人様ならば当然です」

「フェリス? 何度言い間違えるつもりかな?」

「い、いえ...違うのです....(口癖です)」

「尚悪いよ?」

「ハッ!? アレックス君大丈夫ですか!?」


 無事に現世へ帰還したキティ先生。

 "そのバカ"の心配はしなくても大丈夫なので、ボクと早く話して帰りましょう?

 じゃないと、ここに長居するとマズイんです!!

 本当にマズイんですよ!


「えっと...もしかして、カオル?」

「セシリー? なに言ってるの? カオルがこんな巨乳な訳無いじゃん?」

「ん~...でも顔付きが似てるのは確か、かな?」

「撃滅、ですか?」


 アレだけ騒げば来るよねぇ。

 そしてセシリアは鋭いなぁ。

 大正解だけど、どうしよう?

 ララノア学長の二の舞だけはご勘弁下さい。


「すみません、うちの兄が。怪我はありませんでしたか?」

「すまん」


 はぁ...本当にバートとバリーは真面目なのに、アレックスはなんであんなにお調子者へ育ったか。

 普通は末っ子が――ってどうでもいいか。


「大丈夫だよ? バートとバリーは心配性だね? それと、セシリアはよくわかったね? ボクがカオルだって」

「カオルさん!?」

「っ!?」

「やっぱり!?」

「うそ!?」

「えっ? えっ?」

「...撃滅されました」


 もういいよ。何度同じやりとりしなきゃいけないのさ。

 帰りたい...早く、帰りたい....


「とにかく! ボクはカオル! 色々あってこんな格好をしてるけど本人! それで、しばらくの間休学するからそれを伝えに来たの!

 ララノア学長に挨拶も済ませてあるから心配しないで! たまに顔も出すし、休学するだけだから! 今日はそれを伝えに寄ったの! 以上!」


 言うだけ言って颯爽と立ち去る。

 長居は無用なのじゃよ。

 せめて本体じゃないとまた何を口走るかわからないし、セシリアに手を出したら本当にマズイから!


 ポカーンと呆れるキティ先生達を置き去りに、エーファとイーナ、フェリスを伴い訓練場を出て行く。

 後ろでアレックスが何か言ってたけど、無視!

 何が『揺れる乳は神の宝玉』なのか意味がわかんないよ!










 で、学校の校門付近でまた"アイツ"が何故か居て、『まさか白薔薇の君が存在していたなんて..これは神の思し召――』とかくだらない事言ってたから、元剣騎シブリアン・ル・ロワルド直伝? 遠当ての一種、<徒手空拳(としゅくうけん)>で見えない拳圧で殴っておいた。

 触りたくもないしね!


「...あのさ? カオルって...もしかして武術の達人?」

「ん? ああ、師匠が教えてくれたよ? "技名"は教わってないけど」


 『残念美人』だからね~。


「まった! じゃぁさ、じゃぁさ! 槍術も使える...の?」

「使えるよ? でも、威力はイーナの方が強いはず。だって、身長も体格も体重も違うし」

「体重を言わないで!」

「エッ...剣術もいけるの!?」

「いけるねぇ...むしろソッチが一番得意かな? だけど、刀術の方が今は得意」

「ウッソ!?」

「ホント」


 "ちゃんとした師匠"の下で修練を積めば、ある程度は強くなると思うよ。

 直感的に教える人より、エーファと、イーナの師匠の方が教え方は上手いだろうし。

 帰ったらエリーの指導はボクがしないと...

 いや、"あの子達"に任せるか。

 人手が足りないし。


 そうして途中でルチアとルーチェを拾ってメリッサのお店へ。

 【エルヴィント帝国】が【カムーン王国】の王都の一画に設けたお屋敷。

 帝国の権力の象徴とも言える、なんとも豪華な代物だけど、なぜボクはここに泊まれなかったのだろうか?

 ボク、一応伯爵なんだけど....

 なんて思っていたら、良く考えれば偽名で通ってたんだから無理だよね。

 そして、ヴェストリ外務卿には会わなかった。説明が面倒だし!


「こんにちはー!」


 チリリンと来訪を告げる鈴が鳴り、いつも店番している時はだーれも居ないはずのメリッサのお店。

 そのはずなのに今日は賑わっていた。


「おかえりなさいませ、カオル様」

「戻られましたか! しゅく――カオル様」

「カオル様! 見て下さい! メリッサ殿は凄いのですよ!」


 千影も後で説教ね?

 フェリスとローゼと一緒に!

 あと、メリッサが凄いのはボクも知ってるから。

 だからうちに来て欲しいって誘ってるんだし。


「おやまぁ...コレがカオルさね? 本物の女の子になっちまって...まぁ...」

「いや、なぜメリッサがボクの胸を揉んでるのかわからないんだけど? あと、痛いよ!」

「偽乳かもしれないじゃないさね?」


 いや、この見え方で偽物なはずはないんだけど...

 美容整形なんて無いんだから。


「本当ね。カオル様のお胸はとても柔らかいです♪ それに、こんなに可愛く着飾られて...」

「姫様いけません! そんな...カオル...さま...の...私より大きい...」

「千影姉様? 大丈夫ですよ? 私と同じ大きさです」

「天音はまだ15歳でしょう!? 希望があるじゃない...」

「アッハッハッハ! 女の良し悪しは、胸の大きで決まるもんじゃないさね!」


 うん。これが女性の会話だと思う。

 あんな武技談議に華を咲かせるのはおかしいんだよ。

 あと、生徒の過去を(えぐ)るのはいけないよ...ララノア学長。


「それで、メリッサ。ボクの書いた書簡も読んだと思うんだけど、うちに来て鍛冶の腕を振るってくれないかな?」

「そうさねぇ...」

「鍛冶ギルドに話しは通しておくし、お店も"このまま持って行ける"よ。あと"エリーシャ"の了解は得てる」

「"このまま持って行ける"?」

「うん。魔法でね? それと――」


 エーファとイーナをチラリと覗く。

 2人はメリッサを引き抜くなんて知らないから驚いていた。


「"今までメリッサが武具の手入れをしていた人達"も、多少お金はかかるけど"今まで通り"メリッサに会いに行けるようにする。もっとも――女性限定だけどね♪」


 なにせボクの新たな事業は画期的な"流通方法"だから。

 物資も人も飛躍的に運搬が可能だ。


「....そんな事ができるのかね?」

「うん。香月カオルの名において誓うよ」


 じっくりと黙考するメリッサ。


 ボクも黙って答えを待った。

 できれば――じゃなくて、来て欲しい。

 だってメリッサが居ないと武器の調達が困難だから。

 ボクは弱虫だから、シルさんと同じ惨劇に遭えば....壊れてしまう。

 そうなればボクの計画は全て無に帰す。

 ノワールがボクを排除し、共に消えて無くなるだろう。

 それはそれで"ヤツ"の思惑から外れる事になるんだけど...

 ボクはそうしたくはない..よ?


「....仕方がないさね。そこまで言われたんじゃ、わたしゃ断れないさね」

「ホント!!」

「必要なんだろう? 鍛冶師の腕が」

「うん! 嬉しいよ! メリッサ! ありがとう!」

「よ、よしとくれよ! わたしゃ、そんな偉いもんじゃないさね」


 嬉しくて思わず飛び付いたボクを、照れ臭そうに受け止めるメリッサ。

 光希達も「よかったですね♪」なんて祝福してくれて、本当によかった!


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