第二百五十一話 第六幕
最悪の夜が明ける。
【イシュタル王国】の首都アクバラナは、建国以来初の大厄災に見舞われた。
貴族家凡そ3千。人数にして3万を越える。
そして商人や各種ギルドの職員等、兵役に借り出された者達を合わせて25万人のうち、今現在生存しているのはぎりぎり20万人。
暴君ドゥシャンの愚行さえなければ、大元は40万人近い人口を有していたはずなのに。
「....おかえり。目的は果たせた?」
《常闇触手》を解き、ボクはこの子達を待っていた。
近くにオダンさんや、光希達も居る。
だけどボクは近づかず、ただ待っていたんだ。
ボクの魔法《這い擦る死者》で自分の仇を終えたこの子達を。
「ごめんね? ボクがもっと強ければ、君達を救えたかもしれないのに」
目的を果たした屍の前でボクは語る。
自分の非力さと傲慢さを。
ボクが早く気付ければ、力があればこの子達は死ななくて済んだかもしれないのに。
「そっか。それは心配だね」
ボクには聞こえる。
この子達の声にできない心の叫びが。
残した家族が心配だと。
愛する人がまだ生きてるって。
だから助けて欲しい。
自分達にはもうできないから。
せめて幸せになってほしい。
そして、どうかこの国を救ってくれって。
「うん、わかった。香月カオルの名において、誓うよ。君達の無念と願いは必ず叶えるって。でも、半分はオダンさんにも受け継いで欲しい」
ボクの傍へやってきたオダンさん。
寡黙な人で多くを語らない。
でもボクは知ってる。
誰よりも優しい人だって事を。
だから――死者を前に同じく誓い頷いてくれた。
「だけど...この地に留まり続けたいって願いだけは叶えてあげられない。だって、このまま君達がこの地に括られてしまえば、間違い無く魔物に成ってしまうから。
君達が残したのは、未練であって怨念じゃない。だからそれだけはだめだよ?」
もう肉体は無いんだ。
滅び行く肉体に、いつまでも魂を留めて置けない。
ボクが使った《這い擦る死者》は、死霊魔法で死者を従える物。
だから、来世で幸せになって欲しい。
「...わかったよ。一月だけ残してあげる。その間だけ、家族と、愛しい者達の傍で見守ってあげて。それが最大限の譲歩だ」
ボクの予測ではそれがギリギリ。
憎悪に呑み込まれ、自我を保てる限界。
できることなら全ての願いを叶えてあげたいけれど、この子達は輪廻転生しなければいけないから。
「それじゃ、またね?」
グズリと崩れる脆い身体。
腐乱人の肉も、死骨人の骨も砂と化し、死霊は黒い粒子状に消え去った。
だけど、この子達の魂はまだこの地にある。
誰にも見えない。でもボクにはわかるよ。
「....復讐はまだ終わっていない。まずは愚か者に永遠の苦しみを与える」
そう。この子達の復讐はまだ終わってないんだ。
殺し、弄り、弄んだ愚か者に、次世なんて救いを与えるものか。
「生ける事を拒絶する。因果の輪廻は許されぬ。永遠の刻を闇に抱かれ恐怖せよ。《魂の投獄》」
発動させた暗黒魔法。
あの不死者ですら逃れる術は無かった。
だからゴミはゴミらしく、永遠にもがき苦しみ続けろ。
地面を覆う黒い影。
そこから黒い鎖が飛び出して、ゆらりと揺れる汚らわしい魂を繋ぎ留める。
そしてゴミ達の魂だけを吸い上げて喰らい、影の中へ姿を消した。
絶望と後悔。何も知覚できずにただ蝕まれる魂。
それがゴミ達に与える報い。
「行きましょうオダンさん。この国の惨状を終わらせ、新たなる国を築く為に」
「....わかったヮゥ」
宮殿へ続く長い道。
数多くの建物が破壊され、生ある物は息を潜め姿を隠す。
各所で聞こえる呻き声は、全てボクが起こした魔法の結果。
「....そこの5人。引き続き光希達の護衛は任せる」
死角から死角へ、音も無く駆ける5人の人影。
オダンさんと再会してから気付いていた。
殺気こそ感じないものの、この人物は【カムーン王国】所属の暗部――ヘザーと同じ気配を宿している。
「御意」
素早く姿を見せ、跪いて答えた人物。
黒装束の下に鎖帷子を着て、背中に直刀を帯刀していた。
「忍者...か」
「お察しの通りでございます。ご慧眼感服いたしました」
声色から女性だろう。
それにたぶんヘザーよりも手練れ。
ただ――なんだろう....奇妙な気配を感じる。
いや、気配というか雰囲気というか...只者では無い感じ。
「まぁいいか。"それなりに"使えそうだ。それと...居るんだろう? ルチア! ルーチェ!」
「「...っ!?」」
ボクに居場所を見抜かれ、すごすごと姿を現した犬人族の双子。
【エルヴィント帝国】で皇帝アーシェラ様の私兵として雇われ、ボクと【アルバシュタイン公国】へ出兵した斥候。
「まさか...本当にカオル様なのですか?」
「ですがお姿が...」
「その腕輪と短刀を贈ったのが誰かわからないなんて事言わないよね?」
ボクの指摘に目を見開き、慌てて傅く2人の兄妹。
瓜二つの顔だけど、戦友のボクが見間違うはずもなく。
「まったく...しばらく見ないと思ったら、【イシュタル王国】の内偵をしてたんだね」
「は、はい!」
「ふ~ん...アーシェラ様の指示かな?」
「エッ!? いえ、あの...その....」
「兄様? カオル様を欺くなんて、私達には不可能ですよ!」
「る、ルーチェ!? き、汚いぞ! 自分だけ素直になってカオル様の覚えをよくしようだなんて!」
「何を言っているんですか!? 兄様こそ、さっきからカオル様の胸を凝視しているじゃないですか!!」
「バッ!? ち、ちがうぞ!」
う~ん....胸ねぇ....
エリーとサラも固執してたけど、胸が大きいなんて重いだけだし肩も凝って面倒だと思うんだけど。
それに、この身体はノワールの物で、ボクの物じゃないし。
まぁ、こんな状況下で騒げる2人のおかげでボクも平常心を保てたからいいか。
「はいはい。2人が仲の良い兄妹なのはわかったから、これからボクがする事を邪魔しないでね?」
「ち、違うんです!! けしてカオル様の柔らかそうな胸を見ていた訳じゃ!!」
「兄様...自重して下さい...」
「はぅ!?」
本当に、面白い私兵を雇ってるものだよ。アーシェラ様は。
ボクの《常闇触手》から逃げ果せたんだから実力は確かなんだろう。
元々そんな心配はしてないけど。
だって、一時とは言え共に戦ったんだからね。
「ま、自己紹介は簡単にしておこうか。この2人はルチアとルーチェ。【エルヴィント帝国】の皇帝アーシェラ様の私兵で、ボクの戦友。
それで、こっちがオダンさん。【イシュタル王国】の第1級冒険者で、これから暴君ドゥシャンを倒し"新たなる王"として即位する予定。
そんでもって、こっちの和服美人が鳳光希。【ヤマヌイ国】のお姫様。それと、護衛の2人が泉千影と妹の天音。あとは――」
「風牙衆くノ一、朱花の薊」
「同じく、香澄」
「同じく、小夏」
「同じく、早苗」
「同じく、柚」
「だってさ」
手早く自己紹介をさせ、自分達の所属と立場を明確にする。
ルチアとルーチェはオダンさんを国王にする事を知り、驚いた表情をしていた。
そして光希は...何を照れてやんやんしているのか理解ができない。
「ふ~ん...くノ一...ね」
「ハッ!」
女性だけの部隊か。
全身黒ずくめで頭巾を被っているからわからないけど、なんかおかしい。
なんかこう、胸騒ぎというか不快感というか....
あー!! イライラする!!
「ちょっと触るね?」
「はい!?」
するっと近づき薊の身体に触れる。
そしてボクが感じた嫌な胸騒ぎの正体は、あっけなくわかってしまった。
「なるほどね..."そういうこと"か...」
手探りでもすぐわかる。彼女達の身体に刻まれた傷痕。
胸を削ぎ落とし、毒薬か何かを何度も飲んだか打たれたか。
身体中の血管が膨張して、変な歪みが起きている。
理由はたぶん彼女達の職業。
運動するのに肉体の邪魔な物を取り、血流を良くして運動能力を向上させる。
おまけに耐毒の免疫でも着けさせたのだろう。
理解すれば余計に腹が立つ。
ボクが嫌う行いだから。
「はぁ...で? これは風牙衆とか言う一族の生業なのかな?」
「...左様でございます」
オーケー。やる事がもうひとつ増えた。
もうこの際だから、なんでもしてやろうじゃないか。
「薊だったね」
「ハッ!」
「ボクは、"そういうこと"をする大人が嫌いだ。そもそも"そんなこと"をしなくても人は強く成れる。
現に、ボクもオダンさんも"そんなこと"をしていないのに君達よりずっと強い。だから、この件が終わったら償いをさせる。
君達に――いや、他にも沢山居るんだよね? その子達全員の為にも、バカなヤツに責任を取らせるから」
そう言って薊の首を撫で、香澄達4人を一瞥する。
"ボクの世界"でこれ以上好き勝手なんてさせてやるものか。
これからはボクの描く理想を押し付けてやる。
「あの...主君? いったい何を――」
「千影。その主君って言うのやめろ。光希も旦那様とか呼ぶな。ボクはカオルだ。これ以上怒らせるなよ」
怒気と殺気を込めて言い包める。
せっかくルチアとルーチェのおかげで正気を保てたのに、余計に引き摺られてしまった。
ボクの中の憎悪の感情に。
そしてようやく宮殿へ辿り着いたボクの前で、愚王とアレが待ち構えていた。
「クハハハハハ!! 余の王国で散々好き勝手してくれたものよ!! じゃが、それもここまでよの!! アスワンより献上されたコレがある限り、何人も余を止める事などできぬのだからな!!」
何がそんなに可笑しいのか。
愚鈍でゴミ以下のドゥシャンは、やはり使えないヤツだった。
「フンッ!! 女狐と【ヤマヌイ国】の者か....まったく、どこまでも余の邪魔をしてくれる!!」
愚か者はどこまでいっても愚か者だ。
敵を前に何を呑気に叫んでいるんだか。
ボクはオダンさんへ目配せし、光希達に指示して囚われた人達の救助に向かわせる。
もちろんルチアとルーチェも同行させて、これから始まる戦闘を邪魔させない。
「クハハハ!! 贄を喰らい動け"魔導甲冑"よ!!」
「イヤッ!! たすけ――」
ドウシャンが1人の女性を足蹴にする。
悲鳴を上げた彼女は、為す術も無く棺に落ちた。
その棺は、"禁断の魔導具"。
またの名を魔導甲冑と呼び、己が魔力を吸い上げられて生命力まで抜き取られる。
「グォォォォォォォォォォ!!」
轟音撒き散らす咆哮。
宮殿の2階のバルコニーから飛び降りた魔導甲冑は、ズシンと地響きその巨体を現す。
黒い鋼鉄に赤い単眼。
全長10mを越え、アスワンの知識では重さ20t弱。
古代魔法文明末期に建造されて、猛威を振るった魔導具。
"生贄が死なない限り"動き続け、敵も味方も見境無く、何もかもを破壊する欠陥品。
「オダンさんはドゥシャンを。おそらく魔種の発芽が近いです。気を付けて!」
「わかったヮゥ。カオルも気を付けるヮゥ」
「もちろん!」
オダンさんが《飛翔術》で飛び、ドゥシャンの下へ急ぎ向かう。
魔導甲冑が目聡くオダンさん目掛け拳を振り上げるも、ボクはそれを許さない。
「グォォォ!!」
「アハハ!! 愚王だからグォォって? 洒落てるね!!」
禍々しい黒球を次々ぶつけ、動きを阻害し軸足を狙う。
使っているのは暗黒魔法の《重力球》。
無詠唱で燃費も良いし、何より質量の重い巨体に更なる重力は辛いだろう。
「っと、そうはさせない!!」
単眼が明滅し、光線を放とうとする。
雷属性の魔法《雷光線》よりも熱量を有し、市街地へ向けて放たれれば、せっかく生き残った人達も蒸発して消えてしまう。
「いっ....たい...なぁ!!」
右手で単眼を殴り付け、射線を逸らし空へ向けて光線が放たれる。
雲を霧散させた赤い閃光は、同時にボクの右腕を吹き飛ばす。
だけど、不死者のボクをその程度でどうにかできる訳が無い。
魔導甲冑の足を蹴り払い転ばせ超速再生した右手で殴る。
幾度か《重力球》を打ち当ててみるも、黒い鋼鉄はビクともしない。
硬度と靭性...おそらく、白銀と黒曜石鋼並。
同程度の魔鉄製の魔剣はあるけど――はっきり言って斬れるかどうか微妙。
風竜から贈られた"聖武器達"なら確実に斬れるはず。
なんだけど、"今の身体"じゃ絶対に心を開かないだろうし....困ったなぁ。
「だから、ソレは使わせないって!!」
再び光線を放つ魔導甲冑。
《闇の障壁》を張りつつ体当たりで転ばせ射線を逸らせた。
打つ手が無い訳じゃないけど、それは最終手段。
中の彼女はまだ生きているし、今の力でコレを使うと制御が難しくてどうなるかわからない。
でも、いつまでも膠着状態なのは不味い...どうしよう?
自問自答を繰り返し、戦闘は続く。
気付けばかなり時間が経っていて、遠くで見守るルチア達の姿も見えた。
そして――オダンさんも戦っている。
魔種が発芽し半身植物の魔物。
宮殿の壁を貫き、幾重もの枝がオダンさんを襲う。
だけど、さすが第1級冒険者。
白銀製の両刀に宿した《火の魔法剣》で、難なく斬り裂き駆け回り、ドゥシャンを翻弄する。
というか、ボクと決闘した時より強いんじゃないかな?
あれから修練でもしてたのかも....
もしかして、負けず嫌い?
「ソレを使うなって!!」
バカのひとつ覚えで光線を多用する魔導甲冑。
もちろん市街地に放たせるはずもなく、ボクの一撃で不発に終わる。
そうして何度目かの交戦を続け、待ち望んだその時が来た。
全身に漲る神の力。
無事にノワールは天羽々斬を取り込めたらしい。
魂で繋がるボクとノワールは、同格の力を有する。
だからボクの本体が強くなればノワールも強くなるし、その逆も同じ。
まだ意識の同期は無理みたいだから、身体に馴染むまでもう少し時間がかかるかな。
だけど――うん。待ってたよ。ありがとうノワール!!
「さて、いい加減飽きてきたし終わらせてあげるよ」
オダンさんと一瞬視線が交わる。
向こうもボクの意図を察し、合わせてくれるみたい。
だったら派手に行こう。
新王の門出を祝う為にも。
「潰れろ! 壊れろ! 砕けてしまえ!《圧壊死》」
そうして禁呪は紡がれる。
等身大の5つの黒渦が渦を巻き、魔導甲冑の頭・両腕・両足を呑み込む。
小型のブラックホールを前に、どんな物質だろうと意味を為さない。
空間が歪み軋みが生まれる。
やがて魔導甲冑は動きを止めて、胴体部のみを残した。
使ってわかる凶悪さ。
そしてノワールが『呑まれないように注意しなさい』と忠告した本当の意味を理解する。
この力はヤバイ。
ここへ来る途中で何度も開放されそうになったし、自分が自分じゃないみたいに感じた。
嗤い声も止まらなくなって、戦う事が楽しくて仕方がない。
どんな『戦闘狂』だよ! って、ツッコミたくなる。
って、今はそんな事どうでもいいか。
本体に戻っても、変な思考が魂に刻まれてないといいなぁ....
魔導甲冑の背部にある昇降口を抉じ開け、全身を鉄棘で刺されたエルフの彼女を助け出す。
忘れていた訳でも油断して生贄にさせた訳でもなく、ただ必要だったから。
隠れてこちらを見ている民衆に、オダンさんを認めさせるために。
「...ああ、治癒術師か」
見覚えのある衣服。
カルアが着てた白地に青を基調とした、【聖騎士教会】の法衣。
突然の政変で逃げ遅れたから捕まってしまったのだろう。
こちらへ駆けて来るルチアの周りにも、見覚えのあるギルドの服を着ている人も居るし。
「ンッ」
《魔法箱》から秘蔵のハイポーションを取り出し、彼女へ飲ませる。
もちろん瀕死の状態だから普通に飲めるはずもなく、救命行為の口移しで。
今思ったけど、女性が女性に口付けするのって...いや、深く考えるのは止めておこう。
ノワールに知られたらなんか言われそうだし。
「カオルヮゥ」
「ああ、オダンさんも終わりましたか」
納刀しながらやりきった顔のオダンさん。
視線を移せば、炎に焼かれたドゥシャンが断末魔を叫びのた打ち回る。
やがて動く事もできなくなり炭化して崩れた。
暴君の最後に相応しい死に様。
「仕上げに入ります」
「任せるゎぅ」
口下手なオダンさん。
ここはボクの出番だと思う。
だから宣言した。
新生【イシュタル王国】の誕生を。
「聴け!! 虐げられし【イシュタル王国】の民達よ!!
我が名は香月カオル。遠く【エルヴィント帝国】より、盟友オダンに乞われ彼の地へやって来た。
言うまでもなく理解しているだろう。この国で何が起きていたのかを。
全て暴君ドゥシャン・エ・イシュタルが犯した罪である。
人間至上主義を掲げ、多くの民を虐げ続けた。
そして、吸血鬼のアスワンに唆され、20万もの王国民を惨殺したのだ。
だが、それも今日で終わる。
暴君は死に、同胞達の復讐も為された。
これから先――我が盟友オダンが新国王として即位し、【イシュタル王国】は生まれ変わる!!
人間至上主義を撤廃し、永年敵対してきた【カムーン王国】と和平を望み、悲しみを背負うのではなく、幸せを願い生きていく。
それが、新生【イシュタル王国】の未来である。
そして、死した者達から託された事でもある。
彼の者達は言った。
『残した家族が心配だと。愛する人がまだ生きてると。だから助けて欲しいと。自分達にはもうできないからと。せめて幸せになってほしいと。どうかこの国を救ってくれと』
故に、我はオダンに手を貸す。
偉大なるドラゴンの契約者にして、【聖騎士教会】に所属する高位の治癒術師。
【エルヴィント帝国】の伯爵にして、【カムーン王国】の名誉男爵。
"この世界"で英雄と謳われた、我、香月カオルが新生【イシュタル王国】の復興に力を貸そう!!」
疎らに姿を見せる王国民へ、ボクは高々と宣言する。
さらに演出は続き、従順なる僕を呼び出した。
「「グガァァァァァァァァ!!!!」」
黒き闇より尚深く、深淵の更に奥。
竜核を用い、ノワールの血を与えて産まれた2頭のドラゴン。
300余年前の故国【マーショヴァル王国】で試作し失敗した産物。
理由は単純明快で、遺伝子情報なんて存在を知らなかったから。
だけどボクは知ってる。そして持っている。
風竜と土竜の力を並列軌道させて、竜の因子を呼び覚ませた竜血を。
そして、竜核はアスワンの根城から鹵獲してきた。
【マーショヴァル王国】の地下深くに巣食った地下迷宮から。
「【イシュタル王国】の民達よ! 皆に問おう! 暴君を討ち、王国を救った第1級冒険者のオダンは、新たなる王の器であるかどうか!」
ボクは煽る。
民衆の選択に余地などない。
オダンを国王にしなければ、ボクと敵対する事になるから。
それはすなわち滅亡を意味する。
砂漠の真ん中でどこの国も力を貸す事なく、待つのは干上がるだけ。
そうして、案の定民衆はボクの思惑通りに乗せられた。
「「「「「オオオオオオオオオ!!!!」」」」」
中空に浮かぶ体躯20mの赤と黒の幼竜に挟まれ、盛大な喝采がオダンへ贈られる。
もう敬称はいらない。
だって、オダンはボクの戦友で盟友。
これからは対等な立場で接しよう。
ボクも――国を興すのだから。




