表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/349

第二話 狭間

2016.5.28、加筆・修正いたしました。

 カオルが『白い手の少女』に殺され、次に目覚めたのは何も無い、真っ白な空間だった。

 前も後ろもわからず、息が詰まるような部屋だったが、息苦しいわけではない。

 思い出されるのは、抵抗虚しくベットの上で何者かに首を締められた事。


 殺された事は間違いない。


 なぜなら、ここはカオルの部屋ではないのだから。

 ただ白いだけの空間は、立ち上がろうとしたカオルのバランス感覚を狂わせた。

 なんとか現状把握に努めようと思案を始める。


(...ここはどこ? あの時....ボクは....死んだんだよね....)


 死ぬ間際に見たあの光景を思い浮かべ、恐怖から心臓が鼓動を速める。

 首に絡みつく白い手。

 自身を見て嗤う唇。

 そして――なんとも言えぬ輝きを見せた紅い瞳。

 現実なのか虚像なのか....その答えは――


「ここがどこだかわからず、とまどっているのね?」


 不意に響いた声色に、カオルは思わず身体を震わせた。

 どこから聞こえた声なのか。

 そう思い周囲に目を配ると、摩訶不思議な黒い霧が渦を巻いて現れる。

 それは白い空間の中でコントラストを際立たせ、あっという間にカオルの眼前で人の姿を象った。

 

 子供のカオルよりは長身で、なだらかな曲線を描くそのシルエットは、人間で言う女性のそれ。

 普通に考えれば恐ろしいはずの人影なのだが、なぜかカオルに嫌悪感や恐怖といった類の感情は沸きあがらない。

 むしろ、見た事があるような――見慣れた――そんな既視感を覚えた。


「...あなたは....誰ですか?」


 精一杯の勇気を振り絞り、カオルはそう告げる。

 現在進行形で対人恐怖症を悪化させているカオルにしては、かなり頑張った。

 むしろ、この状況下で声を出せた事を誇れる程。


「私の事はどうでもよいのです。それよりも、ここがどこだか気になりませんか?」


 カオルの問いには答えず、人影はゆっくりと近づきカオルの顔を覗きこんだ。

 もちろん、表情などはわからない。

 なにせ、全身真っ黒なシルエット姿なのだから。


「あの....」


 どうしていいかわからず、カオルは硬直した。

 両親の死後、永い間他人と接するような機会は極力避けてきたのだ。

 

「フフフ♪ ここは狭間。アナタの悲しい現世は終わりを告げて、新しい世界へと旅立つのよ♪」


 楽しそうに声を弾ませ、人影はそっとカオルの頬を撫でる。

 それは...カオルを愛してくれたあの人と同じ仕草で。

 

(なん....で....? この感じ....お母様....?)


 1年半前に突如として別れる事となった大切な人。

 人影がとった行動は、まさに亡き母親とまったく同じであった。


「さぁ! 旅立ちの時です! アナタは選ばれたのです!」


 カオルの感情など意にも介さず、人影は楽しそうに話しを続ける。


「楽しい世界! ステキでしょう? ワクワクするでしょう?」


 嬉しそうに語る人影は、一喜(いっき)一憂(いちゆう)しながらクルクルと回り出す。

 まるで、踊りながら歌っている様に。

 突然こんなところへ連れてこられたカオルには、理解できないことばかり。


「い、いったい何を言っているんですか? ボクは死んだのですか?」


 慌てふためくカオルを微笑ましげに見詰めながら、新しいおもちゃを手に入れた子供のように語り出す。


「死んでいる? ええ、そうね。ある意味死んでいるのでしょうね? アナタは選ばれたのですよ....この私に」


(...選ばれた? だめだ、まったく意味がわからないよ)


「ボクは、誰にも選ばれてなんかいません」


 頭を左右に振り、はっきりと否定の意思を告げる。


「アナタに拒否権はありません。私が選んだ、楽しい世界へと旅立つことは、もう決定なのですから♪」

(どういうこと!? この人は、いったい何を言っているの!?)


 その後も、わけのわからない話を一方的にしゃべり続けるが、混乱したカオルの頭では、まるで理解できなかった。


「理解できなくて当然です。理解する必要もありません。さぁ!! 楽しい世界で生きてください、私の愛しいカオルちゃん...」


 人影が最後にそう告げると、再びカオルの意識は闇へ落ちる。

 薄れてゆくカオルの身体を、黒い人影が嬉しそう眺めていた。





















「.....行かせてよかったのか?」


 カオルの姿が消えた後。

 いつのまにか、黒い人影は2つに増えていた。

 1つは女性のシルエット。

 もう1つは男性のシルエット。


「ええ、カオルちゃんには....あの子には、家族が必要ですから.....」


 女性はそう言うと、無いはずの目から涙を溢す。

 先ほどまでの楽しげな雰囲気など、まったく感じさせない。

 『愛しい人を見送った』

 そんな眼差しをしている違いない。


「....そうか」


 寄り添う様に重なる2つの影。

 まるで、長年連れ添った夫婦が肩を重ねているようだ。


「悪いな、付き合わせて」

「さっきから、否定的な意見が多いですよ....あなた」


 女性にそう言われ、男性は頭を掻いた。


「そうだな...カオルなら...きっと.....」

「ええ♪ 私達の大切な子ですから♪」


 より一層近づく2つの影。


「ところで、なんであんなに演技臭かったんだ?」


 姿形は一先ず置いておき、かなり良い雰囲気だったのだが.....男性のその一言で、空間に亀裂が走る。

 (なぜこうも空気が読めないのか)と。

 案の定、女性はワナワナと震え出し、やがて....


「....遺言は....ありますか?」


 目に見える恐怖に、男性はうろたえる。

 それもそのはず、女性の周囲には禍々しい波動(オーラ)が沸きあがっていて...


「い、いや! あのな? へ、平和的に話し合おうじゃない、か...?」


 (虎の尾を踏んでしまった)と、その時ようやく気付いた男性は、大慌てで取り繕い、謝罪を繰り返した。

 だが、時既に遅く――女性は左手を大きく振りかぶり、そのまま平手で男性の頬を――


「ゆるしま....せんっ!」


 パーンという破裂音と共に、空間が歪む。

 あまりにも強い衝撃に崩れ落ちた男性。

 頭から地面――空白の空間に地面という概念が通用するのかはわからないが――に着地し、錐揉(きりも)み3回転後にパタリと倒れた。

 それを見て満足気に頷く女性は....送り出したカオルの事を少し心配していた。


ご意見・ご感想などいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ