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第二百三十七話 殺す決意


 ヘザーさんの垂れ耳を蹂躙した後、エリーシャ女王様達に罵詈雑言――ではなく身から出た錆びで散々叱責されて、ボクは意気消沈してしまった。

 これからベイリー・オズ・ボリーとついでにバークレイ商会の代表をとっちめに行かなきゃいけないのに....

 自分が悪いから何も文句は言えないのだけど。


 エリーシャ女王様達に見送られ、ボクはブレンダさんの案内で目的地であるバークレイ商会へと向かった。

 ボクがふざけている間にも、兵士さん達は捕縛の準備をしっかりしていてくれたようだ。

 それにしても....人数が多すぎじゃないだろうか?

 軽く50人くらい居るんだけど。

 いったい、ベイリーはどれだけ傭兵団を率いているんだか。

 相手が人であるのなら、ボク1人で倒せるのにね。


 ブレンダさんに連れて来られたのは、城下町である貴族街の東部側。

 白い外壁の家々が建ち並ぶ中、端の端に佇む1軒の商家だった。

 周囲が住宅などの屋敷であるにも関わらず、そこは大きな間口の開口部を有した商店とも言える家。

 門前には、ゴロツキと表現するようなみすぼらしい服で着飾った、筋骨隆々の男性が4人も配置されている。

 明らかに周囲を警戒していて、異質な場所であり「何か隠していますよ」と言わんばかりだ。

 バカなんじゃないだろうか?


「ふむ...では手はず通りにの」


「ハッ!!」


 連れてきた兵士さんと作戦を練って来たのか、ブレンダさんの指示に従い20名ほどの兵士が裏門へと移動を開始した。

 そして同数の兵士さんが手分けして近隣の屋敷に出向き、家主に事細かに事情を説明していく。


 ボクはというと、ブレンダさんと共に近くの屋敷の屋上を借りてそこから周囲を警戒していた。

 そこで、ブレンダさんに内緒でこっそりノワールを潜りこませてバークレイ商会の内部を探索していたりする。

 視覚や聴覚を同期(リンク)させて、影から影へと移動を繰り返す。

 使い魔の本領発揮といったところだけど、まさに隠密。

 ボクの半身であるが故に高度な戦闘能力も有しているし、何より高度な閻魔宝石を融合させて作り出した『魔核』を用いているからボクの使えない魔法を使えたりする。


 それは――闇属性の暗黒魔法。

 

 この世界では禁呪に相当する代物だから、使い魔の文化が廃れた理由も察してわかるだろう。

 本来闇属性の魔法は、魔族が使う代物だ。

 忌々しい吸血鬼(アスワン)が使った《魔物召喚》などは、まさにこれを利用したもの。

 今のボクならノワールを介して使えるだろうけど....召喚したとして魔族ではないボクの言う事を聞くとは思えない。

 そもそも、ボクの呼び声に答える魔物がいるはずもないしね。

 後は試してみたい魔法も色々あるけど...今はそんなことはどうでもいいか。


 さて、バークレイ商会に侵入したノワールだけど....

 見たくないものが沢山あった。

 地下には壁に鎖で繋がれた人々。

 息をしている者は皆無と言っていい。

 激しい拷問を受けたであろう、痛々しい傷跡。

 元は美しい女性も、手をもがれ残虐の限りを尽くされた事を瞬時に理解した。

 性欲の捌け口にされた事も....わかるよ....

 無念....だっただろうね....

 ボクがもう少し早く――なんて今更言っても仕方がない。

 ボクには、全ての人を救う事なんてできないんだから。

 ボクができる事は、ボクの目に留まった人を助ける事だけ。

 だから....ごめんね。


「....ブレンダさん」


「うむ。行くとするかの」


 お互いに頷き合い、屋敷を取り囲む兵士達に視線を送る。

 開始の合図を受け取った兵士達が即座に行動を起こし、裏門から突入を開始した。


「な、なんだ!?何が起こってる!?」


「て、てめぇら何者だ!!」


 向かいの屋敷の屋上から、《飛翔術》で悠然と姿を現したボクとブレンダさん。

 裏門は兵士20名に任せ、周囲を取り囲むのは残りの兵士さん達。

 ボクとブレンダさんは正面突破で注意を惹き付ける役目を担っていて、バークレイ商会の内部には人質となり得る人がいない事はノワールによって確認済みという訳だ。

 ブレンダさんには、潜入していたノワールの事は内緒だけどね。

 自分の手札は隠しておいた方が良い。

 「魔法で中を見る」とは言っておいたけど、ブレンダさんは気付いているだろうね。


「だまれ」


 門前を守る4人の男達に、魔力の帯を伸ばして体内に雷を発生させる。

 全身を痙攣させて崩れ落ちた男達は、意識を失い呻き声も上げる事無く戦線離脱した。

 この程度で死ぬとは思わないけど、運が悪ければ.....そんな事はどうでもいい。

 ボクは、人を殺す力を得るためにも【カムーン王国(ここ)】へ来ているのだから。

 目は濁っていないとしても、悪事に手を染めたなら悪人(ゴミ)だ。

 ゴミに人権は無い。人ではないから。


「ふむ....魔法じゃな....」


 崩れ落ちた男達を見てブレンダさんがそう告げた。

 おそらく、魔力の流れを読み取ったのだろう。

 さすがは剣聖といったところかな。


「行きましょう」


 兵士達に縄を掛けられ拘束される男達。

 生死は定かじゃないけど、未だに痙攣してるし生きてるのか。

 いや、死んでいても死後直後なら痙攣もするか。

 微弱な雷といっても電気信号には変わりないんだし。

 生き残っても臓器不全で死ぬよりも苦しい思いをすればいいんだ。

 それだけの事をしてきたんだから。


 まぁもっとも。


 後で死刑になるか終身刑で犯罪奴隷となり鉱山行きだろう。

 死ねなかった事を後悔するんだね。

 因果応報だ。


 ブレンダさんと2人で建物内部へゆっくりとした足取りで歩み入る。

 侵入者であるボク達に雄叫びを上げて斬り掛かる傭兵団達を魔法で蹴散らしながら2階へと上がって行った。

 裏手の方から剣撃音が聞こえて来るのは、別働隊の兵士さんと傭兵団の戦闘音だろう。

 相手の人数はノワールの偵察で40人ほどだったから、数の上では問題ない。

 それよりも、さっきからボクの心が悲鳴を上げてる。

 頭ではゴミと理解してても、心が止めろと叫んでるんだろう。


 だけど、ボクは止めない。

 

 こいつらは、直接ではないとしても人を殺したんだ。

 地下に繋がれたあの人達は、お前達ゴミがボロ雑巾の様に扱い命を奪った。

 今更どう取り繕ったとしてもあの人達は生き返りはしないのだから。


「....ワシの出番はないの」


 階段を上がった所で攻撃してきたゴミを屠り、ブレンダさんが退屈そうにそう言った。

 ブレンダさんに着いて来てもらったのは、ボクの為だ。

 ボクの心が壊れ万が一暴走したらボクを止めてもらう。

 最悪――ボクを殺して欲しいと頼んである。

 

「いいんですよそれで。ブレンダさんの手を汚すような者ではありません。

 それに――万が一の時にはお願いしますね」


「....うむ。わかっておるの」


 約束した時、ブレンダさんはどこか寂しそうにしていた。

 嫌だったんだろう。

 ボクの発言も、頼み事も。

 だけど....わかっていて約束してくれた。

 本当に、善い人だ。


「ここが最後です」


「うむ」


 2階の一際豪華な扉の前で、お互いに確認して頷き合う。

 影に潜むノワールにより、室内の状況は丸見えの状態だ。

 応接セットの豪奢なテーブルにソファ。

 奥の庶務机をひっくり返し、バリケードを作って2人の人物がその影に隠れている。

 そして――入ってすぐの柱の影に4人と、本棚の影に3人。

 計9人が室内に潜んでいる。


「「「「...グッ!?」」」」


 扉を開ける事無く魔力の帯を伸ばし柱の影に潜む4人を倒す。

 断末魔を上げたという事は、それなりの耐久力があったのか。

 残りの5人が驚愕の表情を浮かべ、何が起きたのかまったく理解できていないようだ。

 


 ドンッ!!



 扉を蹴破り室内へ。

 庶務机を挟んで対峙する2人は――目的のベイリーとバークレイだろう。

 片眼鏡(モノクル)を右目に着けて、豪華な金や銀の糸で刺繍された衣服を身に纏っているのがバークレイ。

 ボクと同じように全身真っ黒な騎士服を着て、抜き身の長剣(ブロードソード)を手に持っているのがベイリー。

 そして――慌てて本棚の影に身を隠した3人は傭兵団の部下か。

 

「な、なんだてめぇは!!い、いったい何しやがったんだ!!」


「ひ、ヒィイイイ!!!」 


 うろたえてる、か。

 当然だろう。

 何が起きたのかわからないんだから。

 それにしてもこいつら....『濁った目』をしているな。

 他のゴミが濁ってないって事は、地下の人達を殺したのはこいつらか。

 自分の快楽の為に何の罪も無い女性達を....

 それなら――


「黙れ」


 伸ばしていた魔力の帯で、本棚の影の3人を倒す。

 そして目的のベイリーは、詠唱なしの雷撃で内側から....


「....」

 

 なんで.....殺せないんだろう....

 こいつは、罪も無い人を殺した悪人なのに....

 生きる価値なんて無いはずなのに....

 それなのに....

 ボクはなんで....

 彼女達の仇も取れないんだろう....

 

「ぐっ....」


 あまりにも不甲斐ない自分が情けない。

 ベイリーは崩れ落ちて倒れた。

 だけど...生きてる。

 バークレイは恐怖で失神したんだろう。

 

 ボクはなんでこんなに弱い。

 彼女達の.....彼女達の仇もとってあげる事ができない。

 あれだけ息巻いておいて、いざその時が来たらこんなに臆病だ。

 魔物を殺す事ができるくせに、なんだこの体たらくは。

 こんなんじゃ、師匠に呆れられてしまう。

 これがボク?

 風竜と土竜と契約して強大な魔力を得ても、ボクの心はこんなにも弱いままなの?

 何が大切な人を守るだ。

 何が風竜を迎えに行くだ。

 こんな弱いままで、何ができるって言うんだ。

 力を得て驕っていただけじゃないか。











 

 静まり返る部屋の中、ボクは拳を握り情けなく涙を流した。

 悔しくて、悔しくて、悔しくて。

 不甲斐ない自分が情けなくて、強がっていた自分がどうしようもなく嫌いで。


 だけど、1つだけわかった。

 

 それは、心と身体がバラバラだという事。

 ボクには力がある。

 何者にも負けない力が。

 大切な家族から授かった魔法と言う名の強大な力が。

 だけど、ボクの心は未熟だ。

 もっと強くならなきゃいけない。

 ボクにとっての正義を守る為に、自身で悪と定めたものを屠る強さを。

 絶対に挫けず折れない心の強さを。

 その為に進歩しよう。

 心に嘘を吐かず、1歩1歩着実に前へ歩こう。


「....大丈夫かの?カオル」


 1人虚空を見詰め黙り続けていたボクに、心配してくれたブレンダさんが手を握った。

 今のボクの姿では、本当に小さなその手。

 強く握ったら折れてしまいそうな手なのに、とても頼れる温かい手。


「....大丈夫です。心配掛けてすみません。ベイリーもバークレイも殺せませんでした」


 上手く笑えただろうか?


 流れた涙を拭い、視線をブレンダさんに落とす。

 ブレンダさんは優しい顔をボクに向けて、微笑み返してくれた。


「うむ。後の事は兵士達に任せるとするかの。カオルよ、少し付き合え」


「....はい」


 裏門から突入した兵士さん達も無事なようで、ボクとブレンダさんが階段を降りる頃に2階へやって来た。

 激戦だったからか汗を掻き、皆少し疲れた顔で返り血を浴びている。

 おそらく、数の暴力の前で傭兵団は勝機を見失ったはずだ。

 ブレンダさんが「全て終わった」と告げ、10名程の兵士さん達が敬礼をしてから部屋へと向かって行った。


 計画通りの事....なのだろう。

 

 ベイリーもバークレイも捕らえられ尋問をされる。

 今までの悪逆非道な行いを洗いざらい追求されて、あとは処刑される。

 後で聞かされた事だけど、死者は1人も居なかったそうだ。

 勘当しているとは言え、肉親のバートン・オズ・ボリー騎士爵から書状が送られて来たけど、その時のボクには開ける気にどうしてもなれなかった。

 たぶん、謝罪の言葉が綴られているんだと思う。

 本当にどうでもいい。

 全てをやり終えた実感よりも、セシリアの身が無事だった事の方がボクに大きい事だから。





















 そして、ブレンダさんがボクを気遣って連れて来てくれた場所は.....


「ほれほれ!!カオルも飲むと良いのじゃ!!ここはワシの奢りじゃぞ!!」


 大はしゃぎのブレンダさん。

 まさか、こんなところに連れてくるなんて思いもしなかった。


 豪華の一言で片付けられる、高級なお店。

 凝りに凝った造形の天井や壁にテーブルの品々。

 腰掛けるソファーはバカみたいなクッション性を有していて、このまま背中を倒せばベットに早変わりしそうなほど。

 なにより個室で、外界――ではなく店内との仕切りは厚手のカーテン1枚だけ。

 その空間には、大はしゃぎしてボクの膝の上に乗るブレンダさんとボクの2人。

 注文を取るのは薄着で着飾った女性で、ここはようするに――ペアシートのある如何わしい飲み屋だ!!


「どうしたのじゃ~?ワシの酒が飲めんと言うのかの~?」


「いや、ボク未成年ですし」


「何を言っておるのじゃ!!こんないやらしい成りをしておいて!!」


 ボクのどこがいやらしいのさ!?

 今は『蜃気楼(シムラクルム)の丸薬』で大人の姿をしているだけで、元は12歳の子供だよ?

 それに『世界樹の雫』を飲んでから、どんなにお酒を飲んでもボクは酔わない体質になったんだからね?

 それは副次効果で、本当はどんな毒も効かなくなったんだけど。

 そもそも、僕はお酒なんて飲みたいだなんて思わないし。

 趣味で日本酒を作ってるのは、腐敗と発酵を試して味醂とか味噌とか醤油を自分で作ってみたいだけであって....


 ガックリとうな垂れるボクを余所に、段々とお酒に酔って来たのか、ブレンダさんが大胆になってきた。

 ホビットの小さな身体をボクに寄せて、安心しきった顔でボクの胸にのの字を描いている。

 まるで――恋人とイチャイチャする様に。


「良いのぉ...かおるぅ....ヴァルにはもったいない男前じゃわい.....」


 この態度はつまり――そういうこと?

 もしかして、ブレンダさんは異性としてボクを見ているという事?

 「年甲斐もなく高揚した」って言ってたけど、そういう意味?

 ボクの本当の姿を知ってるはずなのに、ブレンダさんって.....


「あの、ブレンダさん?質問があるんですけ」


「ん~?なんじゃ~?今なら何でも教えるの~

 スリーサイズかの?それとも性感帯かの?ぬふふ....ワシはこう見えても耳の後ろが弱くてのぉ....秘密じゃぞ?」


 へ、変態だ.....

 いや、自分の事を棚に上げて言うのもなんだけど、ブレンダさんはやっぱりボクの事をそういう目で見ているのか。

 確かに今のボクは男性的で元の面影は薄いけど、それにしたって....ねぇ?

 首後ろで結んだ髪を解いて女性服を着れば、男になんて見えなく――バカナ....

 まさか女装を受け入れているという事か!?

 このボクが!?

 おのれ師匠め....

 ボクをこんなにした責任をとってもらわねば.....


「秘密、ですか。どれどれ....」


「ん?あっ....ま、待つのじゃカオル....そこは本当に....んんっ!!ダメ....よわい....の....じゃ....」


 右手で耳後ろを擽りながら、もう片方の手で耳たぶを(もてあそ)ぶ。

 ブレンダさんは宣言通り耳後ろが弱点みたいで、面白いくらいに表情を変えて身悶えた。

 上気した頬。

 朱に染まる耳。

 熱い吐息に悦楽の声が混じり、ブレンダさんの瞳が潤みを増して行く。

 子供然としたその姿がボクの思い通りに艶かしく蠢き、嗜虐心(へんたい)が顔を覗かせる。

 

 ボクは本当にどうしようもない――ドSだ。


「フフフ....ずいぶんとしおらしいじゃないか?ブレンダ」


「はぅ...こ、これ以上はダメなのじゃ....ゆ、許して欲しいのじゃ....」


「ダメだよ。まだまだ、これから」


「うぅ....か、かおるぅ....ワシは、ワシはもう.....」


 瞳を潤ませてボクに縋り付くブレンダさん。

 顔を見上げて続きを懇願しているようだけど....

 もうお終いだね。

 だって、カーテン越しにこちらを覗き込んでる店員さん達が居るし、なによりボクには大事な師匠達が居るから。

 だから――


「....はい。お終いですよ?ブレンダさん。帰りましょう」


「ず、ずるいのじゃ!!カオルのバカ者!!」


 プイっと顔を背けて頬を膨らませる。

 あのブレンダさんがなんとも子供らしい仕草をするものだ。

 それにしても、可愛いな。

 年齢だってボクの倍以上のくせに。

 もしかして、ブレンダさんがこんなに可愛い事をみんな知らないんじゃないだろうか?

 だから未だに独り身なの?

 

 会計を終えてお店を出ても、ブレンダさんはプンスカ怒って口を利いてはくれなかった。

 店員さんの生暖かい視線を感じながら、王城までの道のりをなんとなく手を繋いで歩く。

 それだけで機嫌を直すブレンダさんもどうかと思うけど、もしかしてお酒が入っているから?

 お酒を飲むと甘えたがりにでもなるのだろうか。

 本当に、ギャップに驚くばかりだよ。





















 王城に着いても駄々っ子の様に駄々を捏ねて手を離さないブレンダさんを、迎えてくれたフェイさんがなんとか宥めてくれた。

 ブレンダさんを連れて去り際に何か言いたそうな顔をフェイさんがしていたけど、それは敢て見なかった事にしよう。

 たぶん、ブレンダさんはボクに気を使ってくれたんだと思う。

 ベイリーを殺すと宣言しておいて、そうできなかったボクの事を....

 

 ベイリーとバークレイを捕らえた兵士さん達も既に戻っていて、捕らえた傭兵団は全て地下牢に繋いだと説明を受けた。

 ボクの事はエリーシャ女王様が雇った私兵とお達しを受けているから、兵士さん達も不審に思っていなかったみたいだ。

 なにより、剣聖のブレンダさんと行動を共にしていたからね。

 今回は、色々な人の活躍で怪我人も出さず、速やかに事を成す事ができたと思う。

 もちろん、一番の功労者はノワールだろう。

 ノワールは、偵察の後ずっとボクの影に入って大人しくしている。

 エメ王女がお菓子を大量に与えたから、夕飯はいらないみたいだ。

 人工生命体であるノワールは、ファルフや土竜・シルフ達『エーテル体』と違って食物が必要だからね。

 明日にでも思考を同期(リンク)して、好きな食べ物でも調べよう。



 そんなことより――



 今日のボクには、まだやらなきゃいけない事が残っている。

 それはもちろん、ボクの事を「神様」なんて呼んだフェリスをオシオキする事。

 ボクのどこが神様に見えるのか理解に苦しむけど、なんだってそんな名前でボクの事を呼んだのやら...


 歩き慣れた道を辿り、城内で宛がわれた客室へと向かう。

 道中で数人のメイドさん達とすれ違い、なにやら熱い眼差しを向けられたけど、ボクの顔に何か付いているのだろうか?

 お酒は味見程度しかしていないんだけどなぁ....


 部屋の前に辿り着き室内へ入ると、買い物帰りのフェリスが待っていて、ボクを見るなり目を白黒させて驚いていた。

 

「おかえりフェリス。それじゃ、さっそくオシオキを始めようか」


 フェリスの姿を見つけるな否や、ボクはさっそく実行に移した。

 大人の姿を初めて見るフェリスは、ボクの事を誰かわかっていないのだろう。

 「え!?えっ!?」と困惑気味に呟きながら、強制的に四つん這いにされてボクを見上げる。

 そこで、ボクの正体を明かしフェリスの背中に腰掛けた。


「ほ、本当に神様なのですか!?」


 まだ神様と言うのか!!

 このダメイドは!!


「フェリス。何度も言うけど、ボクは神様じゃない」 


 そう言いながらフェリスの臀部を撫で回す。

 フェリスは驚きながら悦楽の声を上げ妖艶に身を捩らせた。

 

 そして――



 パシンッ!!



「ひゃぅ!?」


 思いきり張り倒す。

 所謂尻叩きだ。

 オシオキはやっぱりこうじゃなきゃね。


「痛いでしょ?フェリス」


「うぅ~....」


「これに懲りたら二度と神様なんて呼ぶんじゃないよ?」


 これでわか――


「か、神様....」


「まだ言うかこの子は!!」



 パシンッ!!



「アンッ!!」


「は?」


 いったいどういう事だろうか?

 なぜ歓喜の叫びを上げたのか。

 もしかして、フェリスは.....ドMか!?


「ハァハァハァ」


 熱い吐息を吐き出して、フェリスの呼吸が乱れていく。

 試しに何度か叩いて見ると、フェリスの表情は苦痛に歪む事なく快楽のそれを見せ始めた。


 間違い無くフェリスはドMだ。

 これじゃオシオキにならないじゃないか....


 どうしようかと迷った後で、不意にある事を閃いた。

 それは――


「フェリス?」


「あはん....ふぇ!?な、なんでしょうか!?」


「.....次に神様なんて呼んだら、二度とご褒美あげないからね?」


 最終手段がこれである。

 お尻を叩かれて喜ぶならば、駆け引きの材料にするしかない。

 一度覚えた快楽を二度と味わえなくなるということならば、さすがのフェリスもボクに従うだろう。

 そして、それは案の定ボクの思惑通りに事が運んだ。


「い、いやです!!わ、わかりました!!もう二度と神様とは呼びません!!!」


 うんうん、良い子だ。

 ボクの欲求も満たせるし万々歳だね♪


 おまけにもう一度ご褒美をあげたら、フェリスは甲高い雄叫びをあげて崩れ落ちた。

 心配になって顔を近づけてみると、なにやら言ってはいけない事をゴニョゴニョ言い始めている。

 女性の尊厳として詳しくは言えないけど、将来フェリスと添い遂げる人は相当苦労するだろうなぁ。


 そのまま放置する訳にもいかず、とりあえずボクのベットへフェリスを運ぶ。

 蕩けた表情のフェリスは、なんと言うか美人の面影すらまったく見えない。

 犯人はボクだしこれ以上考えないでおこう。

 ノワールを影から呼び出しフェリスの警護を任せ、隣の浴室へ。

 今日は情けない自分に呆れもしたけど、心善い人達のおかげでなんとか平静を取り戻せた。

 少し熱めの湯に浸かり、嫌な事を全て忘れて家族の姿を思い浮かべる。

 ボクを愛してくれる大切な人。

 何があっても傍に居てくれると、そう言ってくれた。

 ボクは感謝をし続ける。

 師匠や、カルアや、エリーや、エルミア。

 それにフランやアイナやリアにディアーヌ。

 愛人になるなんて健気な事を言ってくれたアーニャにも。

 帰ったら、「ありがとう」って言おう。

 みんなが居てくれるから、ボクはボクであり続けられるんだから。


更新をサボっていてすみませんでした_(._.)_

なかなこの後の話しが思い付かず、別の小説『生まれ変わりはドラゴンで』でうさばらしをしていましてorz

リアル都合でネット環境が無くなるまで、どちらも頑張って更新したいと思います。

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