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第二百三十四話 セシリアの家

 日が落ちて、そろそろ夕焼け空になろうとする頃。

 【ソーレトルーナの街】では、各所で仕事に励むカオルの婚約者達が、奇妙な感覚に囚われていた。


「む!?」


 第二城壁内で、ルイーゼ達警護団に修練を付けていたヴァルカン。


「あら~?」


 聖堂内でファノメネル枢機卿から司祭の勉強を教わっていたカルア。


「な、何!?」


 ヘルナ達警護団の見回りに同行していたエリー。


「....急に寒気が」


 オレリーとアナスタシアと共に、アリエル達に家事一般の教育をしていたエルミア。


「あ、アイナ?」

「お姉ちゃん?」


 カオルに良く似た自動人形達と、夕食の仕込みをしていたフランチェスカとアイナの2人。

 彼女達は一様に言い表せぬ予感めいたものを感じて身震いをし、カオルが居るであろう南西【カムーン王国】へと視線を送る。


「「「「「「なんだか、嫌な予感がする」」」」」」







 















 そんな事とは露知らず、ヴァルカン達の愛しい人は、にやけたメリッサに見送られ王城へと帰って来ていた。


「それでぇ~♪ その子がそうなのねぇ~?」

「はい。彼女が新しくボクの使用人となったフェリスです」


 未だカムーン王国では住居が無い為、ボクは王城で一室を借りて厄介になっている。

 当然、勝手に王城を出入りする人間を増やす訳にはいかないので、エリーシャ女王様に相談して、フェリスの滞在許可を貰いにきたのだ。


「綺麗な子ねぇ~♪」

「い、いえ!! わ、私はそんな....」


 ニコニコ笑顔のエリーシャ女王様の雰囲気に、フェリスは完全に飲まれてしまいペースが乱れっぱなしだ。

 まぁ当然の事なんだとは思う。

 なにせ、相手は一国を統べる女王なんだもんね。


「フェリスは、アルバシュタイン公国の出自です。奇縁でボクと出会う事になりましたが、ボクに忠誠を誓いその身を捧げるとまで言ってくれました。

 えっと....住む場所が無いので、しばらくの間ボクの部屋に住まわせたいのですけど....」


 メイドという使用人として雇ったからね。

 主人であるボクの身の回りの世話をして貰う予定だ。

 離宮の修繕が終われば、食事やら掃除やら家事全般を行ってくれる人は必要になるし、人形君達を作り出して、フェリスはメイド長にでもなってもらおう。


「ん~....わかったわぁ~♪ フェリスちゃ~ん?カオルちゃんの事をよろしくねぇ~♪」

「は、はい!! この命に代えましても、カオル様の身はお守りします!!」

「....フェリス? べつに戦う訳じゃないんだからね? フェリスは、ボクの身の回りのお世話をしてくれればいいんだからね?」

「は、はい!! きょ、恐縮でしゅ!!」


 あ、噛んだ。

 というか、フェリスは緊張しぃなんだね?

 まぁ、仰々しい物言いをしなくなっただけ良いのかな?

 必要以上に(へりくだ)られるのは好きじゃないんだよ。


 エリーシャ女王様に許可も得て、ボクは学校へ行かなければいけないから王城に宛がわれた客室へフェリスを案内した。

 廊下でティル王女に出会い、ボクの傍に控えるフェリスを睨み付けて足早にどこかへ走って行く。


 どうしたんだろうね?

 フェリスの事紹介したかったのに....

 まぁ、いいか。

 そのうちで。


 客室にフェリスを案内し、部屋に控えていたメイドにフェリスを紹介する。

 この人はたまにエリーシャ女王様と一緒に居る人で、この部屋に滞在中は色々とボクのお世話をしてくれていた人だ。


「この度、香月伯爵様の下へ奉公する事になりましたフェリスと申します。若輩者ですが、どうぞよろしくお願いします」

「あら♪ ご丁寧にどうも♪ 女王陛下より香月伯爵のお世話を任されています、エイネよ♪ エイネちゃん♪ って呼んでね♪」


 えっと....

 こんな人だったの!?

 いつもは『畏まりました』とかしか言わないくせに、なにこの態度!?

 相手が同じメイドだからって、随分気安いんじゃないですか!?


 むぅ....


 これがこの人の地だったのか。

 全然気付かなかったよ。


「い、いえ!! エイネさんの方が年上ですし、そんな『ちゃん』だなんて....」

「もぉ~♪ 気にしなくていいのよぉ~♪」


 エイネさんはなんだかエリーシャ女王様と同質の人みたいだ。

 気が合うんだろうね。

 そうじゃなきゃ、あのエリーシャ女王様の傍付きなんてやっていけないという事なんだろうか。


 その後、エイネさんにフェリスの事を託し、ボクは王城を出て行った。

 日も傾き夕焼け空の中、急いで騎士学校へと向かうべく、《飛翔術(ウォラーレ)》を使い空を飛び行く。

 城門を守る衛兵さん達がびっくりしていたけど、また寄り道なんてしてフェリスみたいな子に出会ったら、色々と....ね。

 道行く人がたまに空飛ぶボクに気付き指を差していたけど気にしない。

 今はそれよりセシリアの事だ。

 まだ学校に居るといいけど....










 疎らにいる下校する生徒達。

 校舎の前――所謂校庭と呼べる代物に着地し、注目を集めてしまった。


「キャッ!?」

「お、おい!! アレって....」

「ま、間違いないだろ!?」

「香月伯爵様だ!!」


 ボクの存在に気付き、遠巻きに友人達と内緒話しを始める生徒達。

 当然の結果だけど、今はそんな事に構っている暇はない。

 できるだけ颯爽とした足取りで、玄関を抜けて校舎の2階へ向かう。

 廊下でも生徒達とすれ違いコソコソ何か言われるが、いちいち気にしていられない。


 開いていた扉からボクの教室へ。


 そこには、カーラとエイミートリオ。

 それに....よかった。セシリアもまだ居てくれた。


「セシリア!!」


 机に突っ伏すセシリアをエイミー達が取り囲んでいた。


 エイミー達はボクの登場に驚き、慌てて振り返る。

 今日は色々あって休んでしまったから、ボクが来るなんて思っていなかったのだろう。

 本当に今日は――色々あったんだ。

 『真実の鏡』にフェリスの事。

 半日もしないうちに濃厚な時間を過ごしたと思う。

 この上さらにセシリアの家庭問題にまで首を突っ込もうとしているんだから、自分に呆れてくるよ。


「えっ!? カオル!?」

「きょ、今日はお休みだったんじゃないの!?」

「ど、どうして!?」

「....撃滅されに来たんですか?」

「あたしは信じてたよ!! カオルがセシリアの事を裏切るなんて思ってなかったからね!!」


 まぁ...そうなるよね....

 ボクの方からセシリアの家にお邪魔したいって言っておいて、学校を休んだんだもん。

 エイミー達が幻滅するのも当然だ。

 

 はぁ....


 他でもない自分のせいなんだから、みんなのお怒りは甘んじて受けよう。


「ごめん。今日は色々あってね。急遽学校を休む事になったんだ。セシリア? 不安な思いをさせて、本当にごめんね」


 深々と頭を下げて謝罪をした。

 貴族は簡単に頭を下げるべきではない。なんていうけど、ボクはそうは思わない。

 謝るべき時には謝るべきだ。

 それも自分が悪いんだから尚更だろう。


 ボクが頭を下げた事が意外だったのか、エイミー達は驚いた顔をしていた。

 セシリアも突っ伏した頭を上げて、潤んだ瞳でこちらを覗き見てくる。

 同時に頭を上げたものだから、セシリアの泣き顔を直視してしまい、なんとも言えない雰囲気に包まれる。

 そんな中、最初に口を開いたのはセシリアだった。


「カオル....来てくれたのね....」


 か細く弱々しい声色。

 ボクが約束をすっぽかすとでも思っていたのだろう。

 

「うん。大切な友達に、不誠実な真似はできないからね。それに、こっちから言い出した事だし....」

「そっか....ありがとう....」


 涙を拭いながらはにかんで笑うセシリア。

 不覚にも可愛いなんて思ってしまったボクは、本当に浮気性なのかもしれない。


「それで...ね? どうだった?」

「...お父様がね。『是非お会いしたい』って言ってたわ。それで、今日の夕食にカオルを招待したいのだけど...」

「よかった。それじゃぁ....」


 それから、セシリアに許して貰えたボクは、作戦を練った。

 エイミー達にも謝罪を受け入れてもらい、今度何かで感謝を伝える事にする。

 そうだなぁ...服飾関係がいいかな?

 当家は、そっち方向で進めているし。


 日が完全に落ちてからセシリアのお宅へ向かう事にして、ボクはセシリアを連れて帰るエイミー達を見送った。

 大げさだけど、良い伯爵というものを演出しよう。

 何事も、最初が肝心って言うしね。


 セシリアの家は、平民街でも高級な部類に分けられる邸宅と呼べる代物だ。

 大通りに点在する噴水から一直線に伸びた豪邸。

 さすがは大商と呼ばれるセシリアの家だろうか。


 日も完全に落ちた頃。

 学校で時間を潰したボクは、魔獣"鷲獅子(グリフォン)"姿のファルフを召喚して校庭から飛び立った。

 時間潰しに協力してくれたララノア学長とキティ先生は、ファルフの姿に目を丸くして驚き、何度も瞬きを繰り返す。

 ファルフが「クワァ!!」と元気良く(いなな)き、ボクがファルフの背に飛び乗ると、2人は歓喜の声を上げて喜んでいた。

 「可愛い!!」なんて手を取り合って言っていたけど、今度乗せて上げる事にしよう。


 王都上空をファルフと一緒に飛行する。

 

 色とりどりの家々が連なる中、目的地であるセシリアの家へ。

 貴族街に建つ建物と同じ白い壁に赤い屋根。

 商家が集まる場所だからか、平民街の中でもかなり目立つ建物郡だ。


 上空から滑空する形で滑り込む様に舞い降りる。

 セシリアは示し合わせた通り、家族3人とメイド1人という人数で門前でボクを迎えてくれた。


「な、な、ななな!!!!」

「あらあら♪」

「これは....すごい.....」

「フフン♪」


 ファルフが地面へ着地し、ボクもそれから降りる。

 セシリアのお父さんは、口をあんぐり開いて驚愕の表情を浮かべ、お母さんとメイドはセシリアから聞いていたのか驚きながらも喜んでいた。

 

 どうでもいいけど、なんでセシリアはそんな勝ち誇った顔をしているのだろうか?

 フフンなんて、どこぞの悪役みたいだよ?


「驚かせてしまいましたね。この子はファルフ。ボクの大切な友人です」

「さ、左様ですか....」


 掴みはばっちりみたいだ。

 セシリアに視線を送り、お互い目で頷き合う。

 どうやら仕込みも――大丈夫みたいだね。


「ファルフ? みんなに挨拶をしてあげてくれる?」

「クワァ!!」


 翼を羽ばたかせ、ファルフは鳴いた。

 突風が上空に巻き起こり、王都の防壁に沿う様に植えられた街路樹がざわめく。

 周囲でボク達を覗き見ていた人達が突風に巻き込まれ、慌てて走って姿を消した。


「こ、これはなんとも....」

「可愛いわねぇ♪」

「まったくですね。奥様」

「フフ~ン♪」


 だから、なんでセシリアはそんな態度なの?

 ファルフはボクのものだからね!?

 あげないからね!!


 ファルフの首をひと撫でし、腕輪の魔宝石へと戻ってもらう。

 改めてセシリア達家族と対面して、ボクは名前を名乗った。


「初めまして。香月カオルと申します。この度は、ボクの我が侭を利いていただきありがとうございます」

「ハッ!? こ、こちらこそ初めまして!! セシリアの父のオルブライトです!!」

「母のマリリンです」

「使用人を勤めています、ヒルダと申します。香月伯爵様」


 ふむふむ...

 オルブライトさんにマリリンさんか。

 ヒルダさんは熟練のメイドさんみたいだ。

 ホビットだから、ちっこいけど。


「お父様? いつまでカオルと立ち話をする気ですか?」

「えっ? あっ!! こ、これは失礼しました。ささ、どうぞ!! せ、狭いところですが!!」

「いえ、とても良いお宅ですね。オルブライトさんは大商と聞いています。門構えもしっかりしていますし、何よりこのお宅からは温かさを感じます。

 きっと、住む方が心善い人達なのでしょう」


 社交辞令のつもりはまったくない。

 本当に、この家からは温か味を感じる。

 きっと、セシリアはこの家で両親から深く愛されて育てられたのだろう。

 ボクにも、そんな家があったから....


 過去を懐かしむ遠い目をしながら、ボクがぼんやりと家を眺めていたからか、オルブライトさんは嬉しそうに笑っていた。


 そして、家の主であるオルブライトさんに案内されて家の中へ。

 室内は中々豪華だった。

 フローリングの床に、各種調度品も嫌味を感じない造りをしている。

 なにより、案内された食堂というか食事場には、この家には似つかわしくない大きなテーブルが設置されていた。

 

 セシリアは家族3人で、メイドのヒルダさんを入れても4人。

 それなのに、このテーブルは10人くらい座れるような....

 家が大きいからわざわざこんな大きいテーブルを用意しているのかな?


 って、そうか。


 オルブライトさんは大商なんだから、来客とかもあるよね。

 それなら当然大きなテーブルは必要だ。

 なんだ。

 そうかそうか。


「それにしても...香月伯爵様は、とても上品なお召し物をされていらっしゃいますね?」


 椅子に腰掛けるボクを、オルブライトさんがチラリと服装を一瞥してそう告げる。


 今のボクの格好は、アーニャが作ってくれた3代目の白い騎士服に、帝国でいただいた雪花勲章と蒼始竜(そうしりゅう)勲章。

 それに、先日王国から贈られた紅花勲章が胸に付けられている。

 公式な場ではたまに付けていたけど、今日は色々と演じなければいけないから、見栄えの為にそうしているのだ。

 

「これは、ボクの領地にある学校の教師が作ったものです。彼女の作る作品は、全てとても素晴らしい物で、無理を言ってボクの領地へ来てもらいました」

「領地にある学校....ですか?」

「はい。まだ造ったばかりで生徒数も多くはありませんが、3階建ての校舎に、寮には100人が同時に入れる大きなお風呂を完備しています」

「ひゃ、100人が同時に入れるお風呂ですか!?」

「そうです。その学校には女性しかおりませんので」

「女性だけ....失礼ですが、その学校ではいったい何を教えているのでしょうか?」


 よしよし、食いついてきたな。

 ここまでは順調順調。


「ボクの学校では、掃除、洗濯、炊事はもちろんの事、算術に交渉術。果ては、簡単な農業に縫製術を教えています」

「な、なんですと!? なぜそのような事を!?」

「それは、立派な淑女を育成するためです。彼女達はボクの学校で学び、いずれは【エルヴィント帝国】皇帝アーシェラ様が選んだ男性と婚姻を結んでもらう予定です。

 正し、一方的な婚姻はけしてさせません。

 彼女達が望み、恋をして、愛を育んだ相手とだけ将来結婚します。

 それがボクの希望であり、彼女達もそれを受け入れてくれました」


 これがボクが描いた作戦だ。

 ボクの学校に存在する理念を、オルブライトさんに伝える。

 それは、世の女性達が望むものであり、セシリアやエイミー達も大いに共感したものだった。


 ボクの話しに眉を顰めたオルブライトさん。

 

 来訪の意味は伝えていないはずだけど、ボクがなぜセシリアの家へ来たのかこれでわかっただろう。

 さて、オルブライトさんはどう出るか....

 これでもセシリアの顔合わせを断行するのであれば、最終手段を講じる訳になるけど....


「....香月伯爵様」


 先ほどまで興味津々だったオルブライトさんは、声色を顰めて静かに話す。

 オルブライトさんの傍に座っているマリリンさんとセシリアも、ボク達の話しを黙って聞いていた。


「なんでしょうか?」


 エイネさんの淹れてくれた紅茶を啜り、わざと時間を掛ける。

 そうする事で時間を与えて話しやすくするのだ。


「セシリーから....聞いたのですね?」


 愛称呼びに変わった。

 動揺しているのだろう。


「はい。セシリアは、『ボクの愛人になる』とまで言い、オルブライトさんの探してきた相手とは顔合わせを拒否していました」

「あ、愛人!? そう...ですか.....」


 沈黙が訪れる。


 話しの行方を見守るセシリアとマリリンさんは、お互いに手を繋いでボクとオルブライトさんに視線を送る。

 キッチンで夕食の仕上げをしているであろう、ヒルダさんの包丁の音が止まり、おそらく聞き耳を立てている事は容易に想像できた。


 しばらくして――


「聞いて下さい~~~~~~~~!!!!!!」


 突然の大絶叫。


 先ほどまでの威厳ある態度のオルブライトさんが、まるで子供の様にウォンウォン泣き出し、セシリアとマリリンさんは目を大きく見開く。

 ボクも予想していたなかった出来事に驚き、思わず呆気に取られてしまった。


「うぅ....じ、実はですね――」 


 落ち着きを取り戻したマリリンさんに慰められながら、オルブライトさんが語り出した。

 その内容は本当にまさかの展開だった。


 なんでも、セシリアが恋をしたとマリリンさんから聞いたオルブライトさんは、最愛の娘を見ず知らずの誰かに取られるくらいならと所属する商業ギルドで友人達に体の良い婚約者を仕立て上げる事にした。

 友人達も『他ならぬオルブライトさんの為なら』と一緒になって悩んでくれたのだが、そこで不幸が起きる。

 どこかでその事を聞き付けたバークレイ商会代表のバークレイが、「それなら丁度良い人物が居る」とある人を強引に紹介されたそうだ。

 それがエトムント・ロ・ボーデ騎士爵の次男で、ドラ息子と悪評高いベイリーであった。

 オルブライトさんも『高貴な貴族の騎士爵家ならば』と軽い気持ちでその提案に乗ったのだが、さぁ大変。

 ベイリーの悪評をまったく知らなかったオルブライトさんは、後になってその事を聞いて戦々恐々とした。

 だが時既に遅く、当のベイリーにまでその話しが伝わってしまい、なぜか乗り気になったベイリーが、『早くセシリアに会わせろ』の一点張りだとか。

 さすがに大商とはいえただの平民が、貴族家の人間に物申す事などできるわけもなく....


「要するに、オルブライトさんもこの顔合わせは望んでいないということですね?」

「そうです....」

「では、なぜそれをセシリアに言わないんですか? セシリアは、ずっとオルブライトさんの独断だと思っていたんですよ?」

「それは....その.....」

「あなたは、『父親の威厳が』とでも考えていたのでしょう?」

「ウッ....」

「お父様のバカ!! 信じられない!!」

「そ、そう言わないでくれよ....セシリー.....」


 泣きながらマリリンさんとセシリアに縋り付くオルブライトさん。

 既に威厳もへったくれもないんだけど....


 羨ましいと思った。


 こんなにも子供の事を想ってくれる親が居て、セシリアは幸せだろうな。

 ボクにも居たんだ。

 愛してくれるお父様とお母様が。

 ボクの事を見守ってくれていた大切な存在が。


「ちょ、ちょっと!? カオル!? なんで泣いてるの!?」


 いつの間にか....ボクは泣いていたみたいだ。


 頬を伝う雫を、慌てて拭い笑顔を作る。

 上手く笑えていないと思う。

 情けない姿を見せて、セシリア達家族に水を差してしまった。

 

「ごめんね。なんでもないんだ。ちょっと、お父様とお母様の事を思い出しただけだから。大丈夫だよ。本当に、なんでもないから。だから、大丈夫だから」


 だめだ。

 涙が次から次に溢れてきて、止まる気配が全然ない。

 何度も、何度も拭うけど、ボクの身体はいう事を利いてくれなかった。

 

「カオル...」


「「.....」」


 呆れて――いるよね。

 急に泣き出したんだもん。

 当然だ。

 でも、ごめん。

 少しだけ待って。


 








 しばらくして、ようやく涙も落ち着き、再びセシリアの話しを始めた。

 オルブライトさんやマリリンさんは何か言いたげにボクを見詰めいていたけど、ボクの両親について触れる事はなかった。

 気を使わせてしまったんだろう。

 でも、今はそれより大事な話しをしなければいけない。

 セシリアの事は、親である2人にとって最重要な事だしね。


「では、まずはこれを見て下さい」


 懐から、丸められた羊皮紙を取り出す。

 それはエリーシャ女王様が認め、わざわざフェイさんが魔鳥に乗ってボリー騎士爵領まで足を運んでくれた物。

 中に書かれているのは当然――


「こ、これは!?」

「読んでおわかりの通り、エリーシャ女王様とバートン騎士爵との間で交わした代物です。

 簡単に説明しますと、ベイリー・オズ・ボリーは、既にバートン騎士爵家から除籍された事になります。

 加えて、ベイリーの生殺与奪も、ボクの一存で決める事ができます」


 あの時エリーシャ女王様に相談してから、物凄い速さでこれは断行された。

 エリーシャ女王様が『ベイリーちゃんの事は、カオルちゃんの好きにしていいわよぉ~♪』と言ったのはこの事だ。

 でも、さすがに生殺与奪なんて.....

 まぁ『濁った目』のゴミなら命は無いけど。


「じょ、女王陛下直筆....」

「あら~♪ すごいわ~♪」

「カオルって、やっぱり女王陛下と懇意だったのね」

「そうだね。エリーシャ女王様は本当に良くしてくれてるよ。離宮もくれたしね」

「り、離宮と言うと、王城の庭園にある"あの"離宮の事ですか!?」


 おや? オルブライトさんは知っているのかな?


「そうですけど....オルブライトさんはご存知なのですか?」

「それはもちろんです!! 王城の庭園で開かれる園遊会では、何度も食事を提供していますから!!」


 なるほど。

 園遊会かぁ....

 確かにあの庭園は物凄く立派だし、手入れも行き届いてる。

 多くの人に見せるためなら、それも当然だよね。


「で、ですが!! あの離宮は何十年も――何百年も立ち入り禁止になっていると聞いています!!」

「ああ、そうみたいですね。もしかして....オルブライトさんはその理由を知っていたりしますか?」


 まさかとは思うけど、リッチの存在を知っているのだろうか?

 王城の中でも極一部の人間しか知らないはずだ。

 王家に連なる者や、側近に重鎮。

 それ以外がもし知っているとなると....エリーシャ女王様に教えなきゃいけなくなる。

 なにせ、事が事なだけにね。


「い、いえ.....理由まではさすがに.....」

「そうですか」


 知らなくてよかった。

 さすがに、これ以上厄介事は勘弁してほしい。

 ボクの身は1つしかないんだからね。


「ね、ねぇカオル!! 今度遊びに行ってもいい!?」

「あー....エリーシャ女王様に聞いて許可が出たらいいよ?」

「ホント!? やったぁ♪」


 離宮は王城の一角だしね。

 ボクの一存で決める訳にはいかないよ。

 ついでだからエイミー達も誘うといいかな?

 みんな喜ぶだろうなぁ。


「でも、許可が出てもすぐにって訳にはいかないからね? まだ改修中だし」

「わかった♪ 楽しみにしてるね♪」

「う、うん」


 なんだか、セシリアは物凄く嬉しそうだなぁ。

 もう来る事が決定しているみたいだ。

 

「そうだ。オルブライトさんとマリリンさんもどうですか?」

「よ、よろしいのですか!?」

「まぁ♪ それは楽しみだわ♪」

「ええ。1人も2人も変わらないでしょう。エリーシャ女王様が良いと言えばですけど。それと――」


 魔力の帯を伸ばして食堂とキッチンの間の扉へ。

 音も無く扉が開けば、そこにはもちろん彼女が居た。


「ヒルダさんもご一緒に。ね?」


「「「エッ!?」」」


 セシリア達がキッチンへと振り向く。

 扉に耳を近づける形で、ヒルダさんが聞き耳を立てて佇んでいた。


「あ、あら? こ、これはその....」

「あはは♪ ずっと聞いていた事はわかっていますから、問題無いですよ。それで、どうですか? もし来れるようでしたら、ヒルダさんも是非に」

「は、はい。機会があれば....」


 大慌てのヒルダさん。

 悪戯が見付かった子供の様に慌てて答え、いそいそとキッチンへと戻って行った。

 それを見たセシリア達3人も、苦笑いを浮かべて紅茶を啜り、その後は簡単にこの後の事を話し合った。


 とは言っても、後は簡単だ。


 時間を掛けたくないので、明日の土曜日に時間を見つけてベイリーが居るであろうバークレイ商会へ乗り込むだけ。

 エリーシャ女王様に協力してもらい、数人の憲兵さんなり兵士さんなりを連れて行き捕らえれば良いだけだ。

 もっとも、もし抵抗するなら容赦する気なんてないけど。

 聞けば、ベイリーとバークレイは濃密な関係で、王都で色々悪さをしているらしい。

 王都の治安を守る内務大臣曰く「表に出ない様に細工をしているようだが、バークレイ商会に搾取されている商家はかなり多いのではないだろうか?」との事。

 その辺はバークレイを締め上げれば吐くだろう。

 ボクは、あくまでベイリーに用があるのであって、バークレイはもののついでだ。


 ベイリーの罪状は多岐にわたる。


 絶対許せないのは強姦。

 どうやら、父親であるバートン騎士爵領ではかなり仕出かしていたらしく、止まない陳情の数々に匙を投げたのはこのためらしい。

 他にも強盗やら暴力沙汰もかなり多く、王都に来てからは傭兵団を結成してバークレイの手足として使っていたみたい。

 短期間にこれだけの情報を集めてくれた、フェイさんと赤鉄騎士団長のクラークさんには、改めてお礼を言わなきゃいけないかもね。


「あ、これ美味しいですね」


 鴨肉の香草焼きを食べながら、ボク達はそんな事を話した。

 ボクの話しを聞いていたセシリア達は、話しがベイリーの悪行に及ぶと、顔を伏せて食事の手をたびたび止めていた。


 まぁ、食事時に話す内容ではなかったよね。

 ちょっと反省。


「私の可愛いセシリーが、もしそんな男の下へ嫁いでいたらと考えると.....」

「あなた? これからは、何でも相談してくださいね? お仕事の事はわからないけど、それ以外でしたら....私達は家族なんですからね?」

「ああ....そうだな.....」


 本当に仲の良い家族だと思う。

 メイドのヒルダさんも、食事の世話を焼きながらセシリア達に優しい微笑みを送っているし。

 

「香月伯爵様。この度は私のせいでご迷惑をお掛けしてしまい、誠に申し訳ございません」

「私からも言わせてください。セシリーの為に骨を折っていただいて、ありがとうございます」

「か、カオル? その....本当にありがとう.....」

「いえ、お礼はまだ早いです。ボクはまだ何もしていません。それは全てが丸く治まってから聞く事にします。

 ところで――この美味しい料理の数々は、全てヒルダさんがお作りになられたのですか?」


 テーブルの上に並ぶ品々。

 干した葡萄を入れたパンに、スライスされたパプリカやピッコラのサラダ。

 バジルとニンニクの利いたペペロンチーノに、鴨肉の香草焼きと温野菜のスープ。

 デザートはプティングの様で、小さな陶器のカップが木製のカートに乗せられて準備されている。


「左様でございます。ですが、今香月伯爵様が召し上がられている鴨肉の香草焼きは、奥様が手ずからお作りになられました」

「香月伯爵様は、セシリーの大切なお客様ですものね♪」

「お、お母様!? そ、そんな大切だなんて....」

「あら~? 違ったのかしら~? あんなに嬉しそうに話していたのにねぇ~♪」

「も、もう!! 知らない!!」


 とても微笑ましいやり取りに、オルブライトさんは口を挟もうとして諦める。

 ボクはなんだか居心地の悪さを感じて、食事を続ける事で話から逃げる事にした。

 

 まったく...

 好意は嬉しいけど、ボクには婚約者が居るんだからね!!

 セシリアには、セシリアを愛する人がそのうち現れるはずだから、ボクなんかに現を抜かすのはやめてほしいよ。


 食後のデザートであるプティングをいただいて、ボクは失礼にも顔を歪めた。

 はっきり言って美味しくない。

 まずいとは言わないけど、なんというか、食事があんなに美味しかったから余計に残念に感じてしまう。

 もったいないとは、まさにこういう事だろう。


「カオル、どう?」

「いや、なんていうかその.....」


 作ってくれた人の前で、さすがに美味しくないとは言えるはずもなく....


「わかっているのです。試行錯誤をしていますが、どうもこの国のデザートやお菓子は美味しくない事など」


 ボクの表情で言いたい事を察したのか、ヒルダさんがうな垂れた。

 確かに昨日屋台でも思ったけど、カムーン王国のお菓子は美味しくない。

 砂糖の産出国ではないから当然なのかもしれないけど....

 それにしたって、ねぇ?


「今日の帰りにね? 昨日カオルがパウンドケーキの作り方を教えた屋台に、物凄い行列ができていたの。

 本当にすごい人でね?屋台のおじさんに声も掛けられないくらいだったんだから」

「え? あんな簡単なパウンドケーキで?」

「カオルは簡単って言うけど、あのお菓子は物凄い衝撃的だったんだからね?

 お菓子に塩を使うなんて、誰も思い付かないわよ」


 そうだろうか?

 昔からお菓子に塩を使うのなんて、ボクにとっては当たり前だったんだけどな....


「それに、バナナをケーキに入れて焼くだなんて....あれは野菜なのよ?」


 いやいや。確かに分類上は野菜だけど、ボクにとってバナナは曖昧な果物だし。

 それに、乾燥バナナとか普通にお菓子として使われているよ? クッキーとかさ。


 どうも【カムーン王国】は独自の文化が発達していて、ボクの感覚と違うんだよね。

 当たり前が当たり前じゃないというか....


「セシリー。そこのところもっと詳しく教えてくれ。塩を何に使うんだ? バナナをケーキに混ぜるとは、潰すのか?」


 む?オルブライトさんの目の色が変わったぞ?

 大商らしい商人の目というヤツですか?


「えっと....」


 セシリアはボクに視線を送り困った表情を浮かべた。

 『言っていいのかわからない』といった感じだろうか?


 ああ、そういう事か。


 ボクが発案者というかアイデアを出したから、オルブライトさんに明かしていいのか迷ってるのか。

 別に、本当にボクがアイデアを出した訳じゃないから気にしなくて良いのに。

 大体、料理なんてすぐに誰かが真似するものなんだからね。


「昨日作ったパウンドケーキには、オーブンで焼く前に塩を表面に振っておいたんです。

 そうする事で、甘さが引き締まるというか、口当たりがあっさりします。

 もちろん、パウンドケーキ自体も油分を少なめに、香付けに果物のリキュールなんかもあるとより美味しくなります。

 あとはバナナですが、すり潰して牛乳を加え、小麦粉やベーキングパウダー。それと卵と一緒に混ぜ合わせるとより美味しいです。

 焼く前の生地に、スライスしたバナナの塊を入れるのもいいですね」


 ボクが説明を始めると、オルブライトさんは眼光鋭く一字一句逃がさぬ様に集中して聞き入った。

 マリリンさんとセシリアは微笑みを浮かべ、ヒルダさんはこっそりメモを取っている。

 

「それは.....美味しそうですね.....」

「本当に♪」

「でしょでしょ♪」

「早速作ってみたいと思います」

「ああ、それならボクが作りましょう。っとその前に、みなさんに食事のお礼をさせてください」


 そう言いアイテム箱から簡素な皮に包まれた包みを4つ取り出す。

 ここへ来る前に学校で作った代物だけど、見ていたララノア学長とキティ先生は目を丸くしていたっけ。


 「お礼なんてそんな...」と恐縮していたセシリア達。

 おずおずと包みを開き、歓喜の雄叫びを上げた。


「なにこれーーー!?」

「すごい綺麗な生地だわぁ♪」

「こんな高価な物を....」

「わ、私にまで....」 


 よしよし、喜んでくれたみたいだ。


「それはベルベットのストールです。特殊な縫製で縫い上げた物で、夏でも十分お使いいただけます。片面が起毛しているのが、特殊な縫製の特徴ですね。

 膝掛けにしても良いですし、外出時に羽織っていただいても良いかと思います。女性には馴染み深い物ですが、男性もこうすれば....」


 さっそくオルブライトさんに渡した赤いストールを首に巻き、ネジネジ捻ってジャケットの中へ。

 黒を基調としたシックな装いのオルブライトさんに、アクセントの赤を入れてかなりお洒落に仕上がった。


「赤は、カムーン王国の国色(ナショナルカラー)ですしね。シックな服装の中に取り入れると、より映えるでしょう

 オルブライトさんもとてもよくお似合いです。少々若々しく見えますね♪」

「本当ねぇ~♪ あなた?素敵ですよ♪」

「本当....お父様が若く見える....」

「そ、そうか? なんだか照れるな....」


 ボクの口車に――ではなく、本当にそうなのだ。

 年齢はわからないけど、今のオルブライトさんは幾分若く見える。

 赤は強いイメージがあるけど、コーディネイトをしっかりすれば誰だって似合う物だ。


「マリリンさんとヒルダさん。それとセシリアは女性だからと安易にピンクにしてしまいましたが、いかがでしょうか?

 ピンクでしたらほとんどの服に合うと思うのですけど....」

「とっても可愛らしくて、なんだか使うのがもったいないわぁ♪」

「奥様の言う通りです。それに、私までこんな上等な物をいただいてしまい....ありがとうございます」

「ねぇねぇカオル? どう? 似合うかしら?」


 喜んでくれた2人に、さっそくピンクのストールを羽織ってクルクル回るセシリア。

 背中を通して二の腕部分でたわむストールが、セシリアの動きに合わせて宙を舞っていた。


「うん。とても良く似合うね♪ 贈ってよかったよ♪」


 ストールは大変人気を博したようで、どこで買えるのか何度も聞かれた。

 「当家の領内で生産した物です」と告げたら妙な納得をされた。

 

 キッチンで――だとみんな入れないから、アイテム箱から携帯用魔導オーブンを食堂のテーブルに取り出し、調理器具も用意した。

 初めて見る魔導具だったからか、みんな興味津々に見てきて、なんとも調理しずらい状況の中、本日もパウンドケーキを作り出す。

 食材はヒルダさんが持ってきてくれ、ボクは道具だけを準備する形だ。


 面倒なのでバナナのパウンドケーキはボクが自ら作り、塩パウンドケーキは中空で魔法の帯を使って作り上げた。

 それを見たオルブライトさんのうろたえ様が....面白いのなんのって....

 セシリアは見た事があるから驚かなかったけど、ふんぞり返って「フフン!!」って....

 ボクの事なのに、なんでセシリアが自慢げなのだろうか?


 ややあって無事に2種類のパウンドケーキが完成し、みんなで試食。

 夕食を食べたばかりだというのに、みんなかなり美味しかったからかあっという間に完食してしまった。

 『お菓子は別腹』なんて、どこかのネコが言っていたけど、まさにそうなのかもしれない。


「香月伯爵様!!」 


 難しい顔でパウンドケーキを食べていたオルブライトさん。

 大声を張り上げおもむろに立ち上がり、頭を下げた。


「このお菓子を、当商会に扱わせてはいただけないでしょうか!?」


 なるほど、そういう事か。


 商人としてのオルブライトさんが、これは売れる――利益になると考えたのだろう。

 確かに昨日の屋台が大盛況という事であれば、容易に想像できることではあるよね。

 だけど、既にこのパウンドケーキは屋台のおじさんにあげたレシピだからなぁ...

 何か違うお菓子の作り方でも教えようか。


「良いですよ。ですが、このパウンドケーキは屋台の店主さんにあげたものですから、違うレシピをお教えしましょう。

 というよりも、どうでしょうか? 当香月伯爵家と業務提携しませんか?

 こちらは新しいお菓子のレシピを。オルブライトさんはボクの教えたお菓子で得るであろう利益のうち――2割もいただければ十分でしょう。

 ついでに、従業員の制服もこちらでご用意してもいいですよ?なにせ、香月伯爵家は服飾関係を生業としていますからね」


 商売魂には商売魂を。

 ということで、ボクも業務提携を持ち掛けてみた。

 オルブライトさんにとってもけして悪い話じゃないだろうし、何よりボクにも利益になる話しだ。

 幸いにして、セシリアから聞いた情報によれば、オルブライトさんはどこかのお抱え商人って訳ではないみたいだし。

 ボクはカムーン王国での足ががりを――というか、既に大成しているオルブライトさんとの強いつながりを手に入れられるのは強みだろうね。


「....よろしいのでしょうか? 当家は大商とは言われていますが、実際は細々と商っている商家です。

 香月伯爵ほどの方でしたら、もっと....豪商と呼ばれるミリアム商会などがあるにも関わらず....」


「ボクはそのミリアム商会というものを知りませんけど、個人として言わせていただければオルブライトさん。

 そして、奥様のマリリンさん。ご息女であるセシリア。もちろんヒルダさんも。

 まだお会いして間もないですが、人となりは十分見させていただいたつもりです。

 そこで決めました。いかがですか?」


 4人共、心善い人達だからね。

 オルブライトさんの雇っている人達には会った事はないけど、きっと同じ様な人だろう。


「あなた?」

「お父様?」

「旦那様?」


 急かす3人。

 早く答えないと、ボクの気が変わるとでも思っているのだろうか?

 そんな事まったくないけどね。


「....是非お受けさせて下さい。当商会は王都に6つの食堂を開いています。料理人及び給仕者の育成に力を入れていて、王城に料理を献上する事もあります。

 この願ってもないチャンスに感謝いたします」

「そうですか。それはよかった」

「ですが――業務提携は本来商人同士で交わされるもの。御用商の1人として名を連ねる事になりますが、よろしいでしょうか?」


 あちゃー。

 失敗した。

 物凄く恥ずかしい....


「そ、そうですよね。すみません商人気取りでした」

「いえいえ。しかし、香月伯爵様も不思議な方ですね。見た目は子供だというのに、なんというか....」

「カオルは時々、中に大人が入っているみたいに感じる事があるわね」

「そうなの? ボクは正真正銘12歳の子供なんだけどな...」


 う~ん....みんなからはそう見えるのかな?

 ボクがこんな風に考える事ができるのは、全部お父様から教育を受けたからなんだけど...

 別に、帝王学を学んだ訳でもないのになぁ。


 詳しい事はまた後日という事で締めくくり、ボクはセシリアの家を後にした。

 御用商人についてはラメル商会の代表ジャンニさんにも相談しなきゃだけど、国も違えば仕事内容もまったく違うし問題無いと思う。


 それよりも明日の事だ。

 

 明日は試したい事があるから、その後でベイリーとバークレイをとっちめないとだね。

 カムーン王国へ来てまだ1週間も経っていないのに、本当に色々な事が起きて忙しい毎日だなぁ。


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