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閑話 セシリアの初恋

 その日は、朝から良い天気だった。


 きっと、天気も私を祝福しれくれているのね♪

 だって、昨日あんな素敵な出会いがあったんだもの♪

 

「おや?セシリー?何か良い事でもあったのかい?」


「あら~?もしかして、好きな男の子でもできたのかしら~?セシリーちゃんもお年頃だものね~♪」


「な、何言ってるの!?もう!!お父様もお母様も止めてください!!良い天気だなって思っただけです!!」


 私が、いつにも増して機嫌が良い事を、お父様とお母様に見抜かれてしまった。


 16年間も一緒に居るんだもの、私の事なんてお見通しよね。

 でも....ごめんなさい。

 まだ言えないんです。

 だって、あんなに可愛い男の子に出会ってしまったんだもの。

 それに、とっても強くて、カッコ良くて、まるで絵本の中の王子様みたいだった。


「まぁまぁ♪セシリーちゃんったら、またニコニコしちゃって♪

 あなた?もしかしたら、初孫の顔が見れるかもしれないわよ♪」


「な、ななな、なんだとぉ!?あ、お父さんは絶対に認めないぞ!!せ、せせせ、セシリーにお、おとおとこ――」


「もう♪あなたったら、本当に野暮なんだから♪」


「や、やめてよね!!もう学校行くから!!」


「も~う、そんなに急いで行かなくても良いのに♪気を付けて行くんですよ~?」


「はーい!!」


 私が急ぎ足で立ち去った後、後ろからお母様とメイドのヒルダの笑い声が聞こえた。

 お父様はどこかへ旅立ってしまったようで、声にならない叫びをしていたけど、そんなに心配しなくても大丈夫。

 

 私が抱いているのは、憧れ。

 

 あんなに可愛くてカッコイイ留学生が来たんだもの。

 髪も透き通る様な銀色で、女性の私が見ても羨ましくなるくらいの華奢な体型。

 なにより、あの可愛い顔。

 クリクリのパッチリした黒い瞳に、柔らかそうな赤い唇。

 それなのに、私を助けてくれた時の姿は凛々しくて、初めて胸の高鳴りを感じた。


 きっと、私は今『恋』をしてる。

 

 初恋があんな素敵な人とだなんて、お父様とお母様が知ったら卒倒してしまうかもしれないわ。


「セシリーおはよー」


「おはよー」


「おはようございます。セシリー」


「みんなおはよう」


 いつもの噴水前で、幼馴染のエイミーと、カレンと、ハンナと落ち合う。

 

 王立騎士学校に通い始めて2ヶ月経つけど、私達はずっと前から一緒だから、あまり新鮮味も無い。

 学校に着くまでの間、色んな事を話し合うのが日課。

 美味しいお菓子のお店を見付けたとか、流行りの服とかアクセサリーとか。

 最近は、カレンがエルヴィント帝国で人気の小説の話しばっかりしてくる。

 私も嫌いじゃないけど、今日はちょっと違った。

 

「それにしても、昨日の楓はカッコ良かったよねぇ~♪」


「うんうん!!」


「....王子様みたいだった」


「ハンナもそう思った~?」


「キラキラしてたから...」


「そうだよねぇ♪しかもすっごく強くて、高位の治癒術師だもんね♪」


「コラ!剣聖様に口止めされてるでしょ?」


「テヘヘ♪ごめんね♪」


「カレン、反省してない。帰りに奢る事」


「えええ!?お金無いってぇ~」


「もう!そんな事はいいから、今は楓の話しでしょ?」


「そうでしたそうでした」


「まったく、カレンってば調子良いんだから!!そのうちアレックスみたいになっちゃうよ?」


「うわぁ....それだけはイヤー....」


「撃滅!!撃滅!!」


「や、やめてやめて!!剣の柄を握らないでー!!」


 大通りを4人並んで、こうして他愛もないお喋りを続ける。

 

 昔からずっとそう。

 エイミー達は平民だからって萎縮しないで、私と普通に話してくれる。

 私の家が大商家でも気にしない。

 だから、私もみんなを気にしない。

 いつかどこかへ嫁ぐ事になるだろうけど、いつまでも4人仲良くしていたいな。


「あれぇ?なんか騒がしいね?」


「ホントだ....有名人でも来てるのかな?」


「有名人って....昨日剣聖様が来たばっかりでしょ?それになんだか様子がおかしいよ?」


「....誰かを待ってる?」


「う~ん....ハンナの言う通り、誰かを待ってるのかもね?みんな通路を空けてるみたいだし」


「それってもしかして.....」


 大通りに面した学校の入り口。

 

 いつもなら、生徒みんなで挨拶を交わしながら教室へ向かうのに、なぜか間を空けて立ち尽くしていた。

 私も不思議に思い首を傾げると、集団の中に同じクラスのルィンヘンとエレンウィ。

 それに、ラエルノアの3人を見付けた。

 10歳だからまだ幼いけど、エルフはみんな端整な顔立ちだからとても目立つ。


「「「「おはよー」」」」


「あ、お、おはよう」

 

「おはようですー」


「おはようございます」


「相変わらず、ルィンヘンとエレンウィは仲良しね?」


「....ちょっと羨ましいです」


「ふぇ!?」


「わ、私達、くっついてないと落ち着かないです....」


「それが仲良しって言うのよ」


「はい。私も友人として、2人の関係は羨ましく思います」


「ラエルノアは、相変わらず堅いしゃべり方ね....」


「そうでしょうか?私は、ずっとこういう話し方なので自覚がありません」


「ま、丁寧で良いんじゃない?ところで、この騒ぎはなんなの?」


「み、みなさん、楓さんを待っているみたいです」


「「「「え!?」」」」


「き、昨日の一件が、在校生の間であっという間に広まったみたいで.....」


「ファンクラブもできたみたいです!!ほらっ!!」


 エレンウィが差し出して来たのは、1枚の羊皮紙だった。


 受け取って中身を眺めて見る。

 エイミー達も一緒に覗き込んで、書いてある事に驚いた。






 

 『白銀(しろがね)(きみ)』ファンクラブ結成記念。


 来たる先日、我が王立騎士学校に疾風のごとく現れた白銀の髪の留学生。

 その正体は、聖騎士教会に所属する高位の治癒術師で、名前を『(かえで)』と言う。

 見目麗しいお姿からは想像できない程の剣の達人で、並み居る強敵をバッタバッタと倒してきた。


 そして!!


 留学初日にして、我が校の悪しき慣習である一般クラスに対する特別クラスのシゴキに異を唱え、怒涛の勢いで見事に消し去った。


 実に爽快。

 実に愉快。


 一部始終を見ていた生徒からの情報によれば、「騎士道とは」と、立派な口上を述べたそうだ。

 聞いた者は、感動して涙を流したという。

 緘口令が敷かれ、惜しくも詳細までは聞く事ができなかったものの、我が校の風通しを良くしたのは事実。


 故に、ここにファンクラブの結成を宣言する。


 遠くから眺めるもよし!

 勇気を出して話し掛けるもよし!

 想いを伝える為に文を出してもよし!

 

 我が『白銀の君』ファンクラブに会則はただ1つ!!


 『けして、楓様の迷惑にはならない事』


 入会希望の者は、特別クラス3年、生徒会長アンドルフ・エ・ロモン子爵まで!!


 皆の熱き想い、待っているぞ!!







「「「「......」」」」


 言葉が出ない。


 剣聖様が「内密に」と言った事が、デカデカと公言されてしまっている。

 しかも、よりにもよって『あの』生徒会長アンドルフ子爵にここまで気に入られてしまった。

 もう、楓に安息の日々は訪れないかもしれない。


「これって....」


「楓が可哀想....」


「誰が漏らしたのか、想像できるね.....」


「間違い無くアレックス....」


「や、やっぱりそうだよね....」


「もう、どうしようもないです」


「元々楓さんは可愛い人ですから、いつかこうなるとは思っていました」


「で、でもでも、さすがに早いんじゃないかなーなんて....」


「とりあえず、アレックスは後で撃滅です」


「そうね。キティ先生は大丈夫かしら?」


「今頃大騒ぎじゃないかと.....」


「「「「「「「はぁ....」」」」」」」


 盛大な溜息を吐く私達。


 その時周囲が騒ぎ始めた。


 どうやら、楓が登校してきたみたい。

 可哀想な楓....

 教室に行ったら、私が慰めてあげなきゃ。

 く、クラスメイトだもんね。


「お、おい!!見ろよ!!」


「ウソ!?あれって!!」


「ティル王女様!?」


「隣に居るのが『白銀の君』だろ?」


「後ろに居るのは、剣聖ブレンダ様だぞ!?」


「ど、どうなってんだ!?」


 口々に驚愕の声が聞こえて来る。

  

 私も何事かと思い視線を移すと、そこには楓の隣で嬉しそうに笑うティル王女様の姿があった。


「主様♪皆が私達の事を祝福していますよ♪」


「いや、それは無いから。ティル王女が来たから嬉しいんでしょ?それと、ボクは主様じゃないから」


「なんじゃ?ワシかもしれぬぞ?」


「ああ、そうですね。ブレンダさんも、誉れ高き剣聖ですからね」


「なんじゃ、つれないの。ワシはこれでも長年剣聖としてじゃな」


「その話し長くなりますか?もうすぐ教室なので、良ければ授業でされたらどうですか?キティ先生も生徒達も喜びますよ?」


「ほほう?それは名案じゃの。そうするとするかの」


「主様主様!!わ、私の話しも聞いてください!!」


「わかった、わかったから!!そんなにくっついて来なくても、ちゃんと聞いてるから!!」


 私達の視線なんてまったく気にも留めずに、楓はティル王女様と剣聖様と和気藹々とした姿をみせた。

 

 い、いったいどういう事なの!?

 なんでティル王女様とあんなに仲良さそうなの!?

 剣聖様は、ティル王女様の護衛なのかもしれないけど.....


 わかんない....

 わかんないよ.....

 私も....

 私も楓と仲良くしたいのに!!!


「エイミー!!カレン!!ハンナ!!」


「「「アイサー」」」


「先回りして教室に行くわよ!!」


「「「イェッサー!!」」」


 まったく理解できない状況に、私が取った手段は先に教室へ行き楓を迎える事だった。


 たとえ恋敵がティル王女様でも、私は負けないんだからね!!

 

 人垣を掻き分けながら、私はそう決意するのだった。


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