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第二百十五話 変装

 園遊会の翌日のソーレトルーナの街。

 床に伏したカオルの名代でアーシェラ達と、魔鳥(まちょう)に乗ったエリーシャ達を見送ったヴァルカン達は、溜息を吐いていた。


「はぁ....みんな似合ってたわね」


「そうねぇ~♪」


 それは、カオルから贈られた服。

 エルヴィント帝国の国色(ナショラルカラー)である真っ青な布地に、豪華な金糸で刺繍されたジャケットを羽織り、アラン財務卿やヴェストリ外務卿達は、ホクホク顔で帝都へと向かって行った。

 そんな中でも、上下一式カオルが作成した服を纏っていたアーシェラやフロリア。

 ディアーヌとグローリエルの顔は、とても人に見せられない程に崩れていた。


「....ですが、そんな事よりもカオル様です」


 沈みきったエルミアの顔。

 その理由は、カオルがあと数日の後にカムーン王国の騎士学校に留学してしまうからだ。

 あの場では渋々納得したものの、やはりカオルと離れる事は実に辛い。

 愛する人がたとえ三ヶ月という短い期間であろうとも、傍に居ないのは寂しいものだ。


「私とてエルミアと気持ちは同じだ。だが、見てわかっただろう?カオルは私達の為に。そして、風竜の為に留学するなどと言い出したんだ」


「....わかってはいます。カオル様が、あの美しい髪を自ら切るほどの決意をしている事など。私はただ、納得できないだけです」


「おねぇちゃんも納得なんてできないわ~♪でも~.....あんなカオルちゃんの真剣な顔を見ちゃったら~....ねぇ~?」 


「うん.....」


 宮殿へと戻る間に、口数が減り続けるヴァルカン達。

 カオルの気持ちを大事にしたいが、それでも心配な事に変わりはない。

 なにせ、カオルはあれほど可愛いのだ。

 それに、カオルは過去に学校という物に行っていたと言う。

 そこでカオルが受けた仕打ちを、ヴァルカン達は以前カオルから聞かされていた。

 

 無視をされる。


 幼い子供に対して、なんというひどい仕打ちだろうか。

 子供が子供をいじめるのだ。

 どこの世界でもそんな事はある。

 カオルだって当然わかっている。

 それでもカオルは強くなる為に、経験と言う名の教訓を得る為に、カオルは留学する。

 想い人が、また虐げられ傷付けられたとしたら?

 ヴァルカン達に我慢なんてできるのだろうか。

 傷付くカオルが、ヴァルカン達に心配させまいとして、悲しみを抑えて笑顔なんて作ったら?

 とてもじゃないが、冷静ではいられない。

 全てをわかっていたとしても、我慢なんてできないだろう。


「....ねぇヴァルカン?」


「なんだ?」


「騎士学校って、どういう所なの?」


「そうだな....私は14歳の時に、フェイと共に入学したが、入学資格自体は10歳からある。10~16歳までの男女に入学資格があり、試験に通れば入る事ができる」


「10歳から入れるの?」


「ああそうだ。だが、10歳で入学するのは大体貴族か大商人の嫡子とかだな。入学するのに金が掛かる」


「それっていくらいくらい掛かるの?」


「一般クラスで3万シルド。特別クラスで10万シルドだ」


 入学金を聞いただけで、エリーの表情が固まった。

 なんと高額なのだろうか。

 最低でも、帝都に住まう平民の年収を支払い、さらに上はとんでもない金額だ。

 そこで、ふとヴァルカンがどうやって入学金を貯めたのかを気になった。

 エリー達は、ヴァルカンの家の話しなど聞いた事がない。

 なんとなく触れてはいけない話題なのかと思い、今まで深く突っ込んだ事がないのだ。


「ねぇ....ヴァルカン?そのお金どうしたの?」


「なんだ?私の入学金か?」


「うん....親とかに払ってもらったり....とか?」


 遠回しにヴァルカンの両親の事を聞いてみたエリー。

 カルアは何か言いたげにエリーを見詰め、エルミアは懐に仕舞ったカオルの髪を愛でていた。

 ある意味あげて正解だったのかもしれない。

 これでカオルの髪を直接舐める事を止めてくれれば、カオルの髪のキューティクルが守られる。

 唾液は髪を傷付けるのだ。

 覚えておくと良いだろう。


「私は自分で貯めたぞ?年齢が足りなくて、冒険者には成れなかったからな。狩りをして獲物を売って稼いだんだ。あの頃は大変だった」


 過去を懐かしむヴァルカン。

 その表情はどこか哀しげで、それ以上エリーが聞く事はできなかった。

 おそらく、親の話しはやはりヴァルカンにとって禁忌(タブー)なのだろう。


「それで、カオルちゃんはやっぱり特別クラスなのかしらぁ?」


 意を察してカルアが話題を変える。

 実に良くできた年長者であるカルアらしい。


「普通はそうだろうな。だが、カオルの事だから一般クラスだったりするかもしれんな」


「教えてる内容は違うのですか?」


「いや、ほとんど同じだな。ただ、特別クラスに集まる者に、野外訓練は無い。万が一野外訓練中に良家の生徒が怪我でもしたら、面倒だからな」


「ねぇ....騎士学校って剣とか槍とか座学を学ぶんでしょ?それなのに、野外訓練が無いってどうなの....」


「エリーの言いたい事はもっともだが、カムーン王国で立場のある者にとって、騎士学校は必ず卒業するものなんだ。

 何、金はあるんだ。人を雇えばいい。

 剣が使えなくても騎士としての気高い精神を学ぶ場所だと思えば問題ないだろう?」


 宮殿の階段を上りながら続けられる会話。

 自国の話しだからか饒舌に語るヴァルカンに、カルア達は関心していた。

 ヴァルカンは誉れ高き元剣聖。

 やはり実力があり、人を惹き付ける何かを持っているのだろう。


「なんか、せっかく高いお金を払って入学してるのに、もったいない感じがする」


「まぁ....その通りだな....私も、剣を振るえない騎士に存在価値は無いと思っているからな」


 苦笑いを浮かべるヴァルカン。

 エリーもおかしく思いついつい笑みを零してしまう。

 やがて、カオルの寝室へと辿り着き、扉を開けて中に入る。

 絨毯敷きの床に、各種調度品が備え付けられ、広さ20畳以上ある寝室は、豪華の一言に尽きるだろう。

 そして、部屋の窓側に設置された巨大なベットの上で、カオルとアイナとフランチェスカの3人が、和気藹々と談笑していた。


「あ、みんなお帰り♪見て見て?可愛いでしょ?」


 黒髪に合わせた三角耳をピコピコ動かし、毛長いフサフサの尻尾を左右に振る。

 人間(ヒューム)のはずのカオルなのに、実に可愛らしい犬耳族の美少女に変身を遂げていた。


「カオルきゅ~ん!!!!」


 先ほどまでは凛々しい元剣聖のはずだったヴァルカンが、超特急でカオルのベットへ飛び込む。

 あまりの早業にカルア達は目を丸くし、ヴァルカンに抱き付かれてモフモフされるカオルの悲鳴を聞き逃がした。


「クンカクンカ!!なんて良い匂いなんだカオルきゅん!!!」


「し、師匠!?や、やめてください!!」


「もう離さないぞカオルきゅ~~ん!!!」


 頭からうなじを通り胸へと手を探り入れる。

 もう片方の手は足から太股を蹂躙しつつ、お尻へ辿り着いて揉みしだいた。

 なんというおっさんだろうか。

 痴漢、ダメぜったい。


「ご主人!!」


「ヴァルカン様!!ご主人様が嫌がっています!!離してください!!!」


「カオルきゅ~~ん!!!スーハースーハー!!」


 自分を完全に見失うヴァルカン。

 師匠としての威厳もへったくれもなく、アイナとフランチェスカの手によってカオルから引き剥がされた。

 あまりのヴァルカンの力加減に、ついアイナが手に噛り付いていたが、あまり効果は無かったようだ。

 肉体を強化している人間は、本当に手に負えないバカである。


「師匠。失望しました。もう師匠なんて知りません。あっちへ行って下さい」


 乱れた服を直しながら、恨めしそうにヴァルカンを睨みつける。

 かつて、これほどカオルが激高した事があっただろうか。

 いや、あるにはあるが、余程今回は嫌だったのだろう。


 今尚呼吸の荒いヴァルカンに、カオルの言葉は届いていない。

 鼻息荒くカオルを見詰め、口からは涎を垂れ流していた。

 変態以外の何者でもない。

 『残念美人』は、カオルの知らないところで日々成長していたのだ。

 一種の呪いである。

 『世界樹の雫』をシルフから分けて貰った方が良いかもしれない。


「それにしても、カオルちゃん可愛いわぁ~♪おねぇちゃんもギュッてしていいかしら~?」


 ヴァルカンを無視してカルア達がベットに近づく。

 フランチェスカとアイナの2人は必死にヴァルカンを押さえていた。

 震える手から察するに、そろそろ限界かもしれない。


「....優しくならいいよ?師匠みたいにエッチなのはダメだよ?」


「大丈夫よ~♪おねぇちゃんは、エッチな変態さんじゃないもの~♪」


 そう言いつつもカオルに抱き付くカルア。

 こっそり髪が短くなり露にされたうなじを舐めている事に、カオルは肩を落とした。


「次は私ね!!カオル!!感謝しなさい!!」


 ツンデレ全開でカオルを抱き締めるエリー。

 奥手なエリーにしては大胆な行動にカオルがほくそ笑んでいると、次は私とばかりにエルミアが引っ付いて来た。

 そして、案の定髪を口に含み、口内で蹂躙する。

 切られた髪だけではダメだったか。

 そろそろエルミアも完全な『残念美人』へと進化するかもしれない。


「それで、カオルちゃんのそのお耳と尻尾は何に使うの~?」


「これで変装しようかと思って。似合わない?」


「とっても似合うわよ~♪食べちゃいたいわぁ~♪」


 ピコピコ動く犬耳を触りながらカルアが答える。

 エリーとエルミアの2人は忙しなく振られる尻尾を凝視し、頭を左右に振っていた。

 

 しかし問題がある。

 

 人間(ヒューム)のカオルには、耳が既にあるのだ。

 どうやって隠すつもりなのだろうか?


「髪型で耳を隠そうと思うんだけど....」


 そう言いながら姿見の前で髪を結い上げる。

 いつもの様にエルミアに手伝ってもらい首後ろでリボンで纏めてみるが、やはり上手くいかなかった。

 髪のボリュームが減ったせいだろう。

 なぜ切ったのか。

 カオルはちょっと後悔した。


「....上手くできないね」


「そうね~....」


「というか、この耳と尻尾はどうなってるのよ?」


「ああ、それは魔法で動かしてるんだよ?アゥストリに教えて貰ったアレでね」


「そうなのですか。確かにあの魔法は便利ですね。手を使わずに物に触れる事ができますし」


「うん♪いくらでも応用できる、凄い魔法だよね♪さすがはアゥストリだよ♪宮廷魔術師筆頭の名前は、伊達じゃないよね♪」


 カルア達の頭の中では、アゥストリのハゲ頭が想像された。

 頭皮が丸見えの薄い頭。

 それは、全てストレスから来る物なのだろうか。

 もしくは隔世遺伝(かくせいいでん)か。

 正直どっちもでいい。 

 カルア達は、アゥストリに興味などないのだから。


「どうしようかぁ....変装しないと面倒だよね?」


「そうね~.....カオルちゃんは有名人さんだものね~♪」


「こんな物が出回ってるくらいだからね」


 エリーはそう言いながら、懐から折り畳められた1枚の羊皮紙を取り出した。

 それは、エルヴィント帝国が発行した印刷物。

 ババル共和国とアルバシュタイン公国の戦争を収めたカオルの経歴が、似顔絵入りで描かれていた。


「.....ナニコレ?」


「あらあら♪カオルちゃんは知らなかったのねぇ~♪」


「それ、カオルが伯爵に陞爵(しょうしゃく)された時に出回ったらしいわよ。それも、各国にね」


 カオルにとって、とんでもない爆弾が投下された。

 確かに小さな『英雄』と呼ばれるくらいだから、自分の事が周囲に知られているとは思っていた。

 しかし、まさか各国にまで知れ渡っているとは思っていなかった。

 以前、ヤマヌイ国で穏便に居られた理由が鎖国状態であった為と気付いたが、別にどうでもいいだろう。

 益々変装は必要だと思った。


 そんな事よりも、この似顔絵。

 どこからどう見ても女性だ。

 少女だ。

 自分はやはり女顔なのかとカオルはベットへ倒れシーツを被った。


「カオル様?どうされたのですか?」


 急にシーツに隠れたカオルを心配になったエルミア。

 そっとシーツを捲りカオルの顔を覗き込む。

 すると、カオルはエルミアの手を掴みシーツの中へと引き摺った。

 突然の負荷に耐えられなかったエルミアは、カオルのなすがままにベットへと倒れ込みカオルにギュッと抱き付かれる。

 カオルの短い髪がエルミアの鼻先を擽り、髪の良い香りが鼻を通り肺へ充満する。

 唐突として訪れた至福の時間に、エルミアの口がだらしなく歪む。

 カオルは無遠慮にエルミアの肩へ頭を乗せると、溜息を吐いた。


「ねぇエルミア?」


「な、なんでしょうか?」


「エルミアの髪って、綺麗だよね」


 空いた右手でエルミアの銀髪を掬いながら、カオルは羨ましそうにボソリと呟いた。

 カオルの手からパラパラと零れ落ちるエルミアの髪は、シーツの中だというのに光を浴びて煌いていた。


「カオル様の髪には敵いません」


 エルミアは本音で答えた。

 カオルの黒髪は、エルミアにとって至宝とも言える物であり、崇め奉る程の一品なのだ。


「.....うん。決めた!!」


 ガバッと起き上がり、エルミアを離す。

 そのまま家族を置いて、隣接する研究室へと続く扉の中へと消えて行った。


 カオルの突然の行動に反応できなかったカルア達。

 壊れたヴァルカンは、今尚フランチェスカとアイナによって拘束されていた。











 しばらくして、研究室から戻って来たカオル。

 その姿を見たカルア達は、言葉を失っていた。


 可愛らしい顔。

 寝間着にしている白のスリップ姿。

 肩口まで伸びる髪。

 だが、おかしい。

 皆が好きな黒髪が、エルミアと同じ銀髪に変化していた。


「....カオル様?その髪は.....」


 ようやく口を開く事に成功したエルミア。

 恐る恐るカオルに問い掛ける。


「うん。思いきって染めてみたんだ。どうかな?エルミアみたいな綺麗な髪になってる?」


 髪を手で掬い光にあててみる。

 透き通るような銀色の髪は、光を浴びて神々しいまでの光を放っていた。


「いえ、綺麗なのですが.....なぜそんなことを?」


「うん?変装だけど?」


「たったそれだけの理由で、髪を変えられたのですか?」


「そうだよ?」


 ワナワナと震えるエルミアを、カルアが後ろから抱き締めた。

 エルミアにとって、崇拝する黒髪を失ったショックは計り知れない。

 カルアにはわかる。

 いや、この場に居る全員がそうだろう。

 黒髪とは珍しい物であり、カオル=黒髪という認識だ。


「.....カオル。ちょっとそこへ座れ。話がある」

 

 無事に夢の世界から帰還していたヴァルカンが、椅子に座るように促した。

 声の端々には怒りが篭っており、エリーやフランチェスカ達には落胆の色が見える。

 それほどカオルの黒髪が好きだったのだろう。

 

「なんですか?」


「.....あのな、カオル。おまえは、突然髪を切ったり、色を変えたり、いったいどういうつもりだ?」


「髪を切ったのは、ボクの意思をみんなにわかってもらう為です。髪を染めたのは変装の為です。何かいけませんでしたか?」


「当たり前だろう!?」


「なぜですか?けじめの為に髪を切った事に、師匠だって納得してくれたじゃないですか?」


「それは....そうだが.....」


「それに、髪はいつでも元に戻せます。お父様とお母様からいただいた、大切な身体です。ボクが、永遠に元の戻せないような事をするなんて、師匠だってわかっていると思いますけど?」


「....」


 カオルに言われ、ヴァルカンは何も言えなくなってしまった。


 実は、髪が戻らないのではないかと思っていた。

 この世界で、髪を染めるという行為は存在しない。

 そんな事をする文化も無ければ、技術も無い。

 身体に関する事で言うならば、ピアスやタトゥーくらいだろう。

 化粧なんて、高貴な女性の嗜みだ。

 だからヴァルカン達は驚き、カオルに説教をしようと思った。


「ねぇカオルちゃん?本当に元に戻せるの?」


「そうだよ?」


「それなら、おねぇちゃんは許可します♪」


「わ、私も別に問題無いわ!!」


「銀色の髪のご主人様も素敵です!!」


「....ご主人?アイナと一緒....ダメ?」


 カオルの行為を許すカルア達。

 アイナは自分の白髪と同じにしろとカオルに迫り「今度ね?」と約束を取り付けた。

 何度も色を染める事は、さすがに髪にダメージあるらしい。

 

 そして、カオルと同じ髪色に成ったエルミアは、ジッとカオルを見詰めていた。

 おそらく、カオルと自分の子供を想像しているのだろう。

 銀髪の可愛らしい顔をした2人の子供。

 ハーフエルフは間違い無いし、永遠に可愛さは失われない。

 エルフの里で、カオルに次いで2番目に可愛いと持て囃されるのは間違いない。


「師匠?ボク、似合っていませんか?」


 押し黙るヴァルカンに、カオルは問い掛ける。

 カオルは、どんな事でもヴァルカンに褒めてもらいたい。

 いつもみたいに「おいで」と言って両手を広げて抱き締めて欲しい。

 尊敬し、敬愛するヴァルカンは、カオルにとって特別な存在なのだから。


「....似合っているぞ」


「本当ですか?」


「ああ....」


「じゃぁ、いつものしてくれますか?」


「わかった......おいで?」


「はい♪」


 嬉しそうに笑顔でヴァルカンに飛び付くカオル。

 実に子供らしい姿にカルア達は少し嫉妬したが、微笑ましそうに2人を見た。

 安心しきった顔で、ヴァルカンの胸に顔を埋める。

 バラの良い香りに包まれて、カオルはスッと目を閉じた。


(心地良いって、こういうのを言うんだろうなぁ.....)


 何度も深呼吸するうちに、カオルはうつらうつらとし始めて、やがて静かに眠ってしまった。

 本当に無防備な姿。

 齢12歳の子供の寝顔に、ヴァルカン達の頬も緩む。











 

 カオルは、どんな事にも一生懸命だった。

 やらなくて良い事までも率先して行っていた。

 たまに心配掛けさせてハラハラさせられるが、ヴァルカン達はそれでもカオルを愛している。

 家族の為に、友人の為に、カオルは頑張っている。

 それは全て、ヴァルカン達家族が支えているから。

 カオルは、1人では何もできない。


 この世界へ来て、ヴァルカンに出会わなければいったいどうなっていたのだろうか?


 もしかしたらあの生徒達の様に、人攫いに掴まり売られ、心無い者達の手により犯され、蹂躙されていたのかもしれない。

 もしもそうだとしたら、カオルは死を選んだだろう。

 両親の後を追っていたに違いない。

 そうならなくてよかった。

 あの方達のご子息が、今こうして幸せなのは良い事だ。

 たとえこの先に破滅が待っていようとしても、カオルならば乗り越えられるだろう。

 そのためにできる事をしよう。


 眠りに付いたカオルを、ヴァルカンがそっと抱き上げてベットへ移す。

 カルア達もカオルに近づき、頬を優しく撫でた。


 幸せな家族の光景。

 

 守るべき姿。

 ゼウスの思い通りになんてさせない。

 俺は、カオルの幸せの為ならば.....












 堕天してもいい。


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