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閑話 孤児達の道


 数十年振りに使用された円形闘技場(コロセウム)

 【エルヴィント帝国】の刃である剣騎グローリエル・ラ・フェルトと英雄香月カオル伯爵の決闘は、貴重な魔術師同士という事もあり、円形闘技場(コロセウム)に詰め掛けた20万人にも及ぶ観衆達に勇気と興奮を与えるものであった。

 決闘の勝者と成ったカオルと、自由人と陰口を叩かれていたグローリエルは、決闘終了後自由気ままに魔境殲滅へと出かけてしまい、後に残された観衆達は啞然とする一幕もあったものの、普段見る事のできない高度な魔法の応酬は、見た者の脳裏に深く刻み込まれ皇帝アーシェラの思惑通り大成功を収めたと言えよう。

 

 明けて翌日。

 グローリエルと共に自領内に存在していた1つの魔境を壊滅させたカオルは、予想以上の戦果にホクホク顔で実に楽しそうにしていた。

 

「もう!!カオルちゃんったら、おねぇちゃん達を置いて1人で行っちゃうんだから!!」


「そうよ!!」


 グローリエルとの決闘を見逃してしまったカルア達。

 1日経った今も小言を漏らしている様子だが、そもそもの原因はカオルではない。

 それは――


「.....私が悪かった」


 すまなそうに肩身の狭い思いをして、家族5人が乗る馬車の御者を務めているヴァルカン。

 何故決闘を見逃してしまったのか。

 それは、こともあろうにヴァルカンが寝坊した為だ。


「いえ、グローリエルとの決闘は楽しかったですけど模擬試合(エキシビジョン)みたいなものですし、それに本番はもうすぐありますから」


「....それでも私はカオル様の勇姿を見たかったです」


 カオルを後ろから抱き締めていたエルミアが、ボソリとそう呟く。

 今日は失態を犯したヴァルカンを除いて、カルア、エリー、エルミアの3人が順番にカオルと触れ合う日と決まっていた。


 5人が向かう先は【エルヴィント帝国】の帝都。

 枢機卿のファノメネルから懇願され、帝都にある教会へ慰問するためである。


 ほどなくして、馬車に揺られていたカオル達一行は、帝都へと辿り着いた。

 教会があるのは南西部。

 エルヴィント城にある物とは違い、簡素な木製の建物は、来る者拒まずといった風合いを醸し出した柔らかい感じの建物だ。


「お待ちしておりました。香月伯爵」


 出迎えてくれたエリゼオ司教。

 普段はエルヴィント城の礼拝堂に勤めているのだが、実はこの教会もエリゼオが管理していて忙しい毎日を過ごしている。


「わざわざ出迎えてくださり、ありがとうございます。エリゼオ司教」


「いえいえ、こちらから無理を言っておりますので」


 簡単な挨拶を交わし教会の庭へ馬車を停める。

 謝罪のつもりなのか、今日のヴァルカンは誰が言うまでもなく雑用に従事していた。


 エリゼオに案内されて教会の内部へ歩みを進める。

 そこは、以前【オナイユの街】で見た教会と同じ造りをしていて、厳格(げんかく)な表情を浮かべた女性の姿をした神像を最奥で奉り、数人の信者と聖騎士教会関係者が迎えてくれた。


「ご紹介します。こちらが【聖騎士教会】に所属し、帝都に派遣されている治癒術師のコレットです」


「は、はじめまして。治癒術師のコレットです」


「こちらこそはじめまして。香月カオルと言います」


 カルアと同じ、青と白を基調とした法衣を纏ったコレット。

 エリゼオと同じ人間(ヒューム)の女性は、緊張からか大量の汗を掻いていた。


「それで、慰問という事でしたが?」


「はい。実は――」




















「うんめー!」


 教会の裏手に併設する孤児院。

 その庭で、青天の空の下勢い良く木の器とスプーンでよそられたシチューをかき込む少年。

 周りでは、歳を同じくする少年少女が同様に満面の笑みを称えて食事をしていた。


「あはは♪みんな元気があっていいですね♪」


「お恥ずかしい限りです」


 ファノメネルに頼まれた慰問というのは、この孤児院へ来る事だった。

 数十年振りの戦争に加え、【アルバシュタイン公国】は沢山の孤児を輩出した。

 だがそれだけではなく、元々孤児とはどこにでも居るものである。

 日照りや水不足に陥った農村部は、不作が続き抵抗力の弱い老人や子供がすぐに死んでしまう。

 そこで、せめて子供だけでもと一縷(いちる)の望みを託し、人の多い帝都へ送り出す場合がある。

 ここに居る子供達は例に漏れずそんな子供達で、収容数を超えた場合は.....奴隷以外に生き残る手段は残されていない。


 そんな話しを聞いたカオルは、ファノメネルからの相談を2つ返事で引き受けたという訳だ。


「ここの子供達はまだ恵まれているのです。孤児院も、あと数人ほどは余裕もありますし、先程教会に居た方々も色々と協力してくださっていますから。ただ....」


 子供達に昼食を振る舞いながら、孤児院を管理するコレットが悲痛な面持ちで語り出す。

 ヴァルカンやカルア、エリーもそのお手伝いをしながら、コレットの傍で話を聞くカオルとエルミアに視線を送っていた。


「帝都には他にも大小8つの孤児院があるのですけれど、ここに比べどこも経営難なのです。もちろん、私達【聖騎士教会】と【エルヴィント帝国】から援助もしているのですけれど、なかなか改善の見込みがなくて...」


 なぜここでカオルにその話しをしたのか。

 カオルは思案を巡らせ悩み始めた。


(ボクに援助を求めているのだろうか?だけど、ボクの領地だってまだ軌道に乗った訳じゃないし、領民だってまだ集まっていない。孤児の子供を受け入れるにしても、体制が整っていないからそんな大人数は無理だ)


「コレット。質問があります」


 カオルが悩んでいるうちに、エルミアがコレットに質問を始める。

 王女という高貴なオーラを纏ったエルミアに対して、コレットは怯えにも似た態度をみせて、おずおずと聞き返した。


「し、質問とはなんでしょうか?」


「この子供達。いえ、以前ここに居た子供達でも良いです。この子達は孤児院を卒業した後、どこへ行くのですか?」


「は、はい。成人を迎えた後は親元へ帰る者もいますけれど、ほとんどの者が帝都に残る場合が多いです」


「仕事はあるのですか?」


「それは皇帝陛下の恩情で危険ではありますけれど、兵士や憲兵などの職に斡旋していただいています」


「....女の子も、ですか?」


「は、はい。もちろん適正を見てからです。こんな言い方はどうかと思いますけれど、身体が弱い子は商人などの師弟として勤める場合もあります。数は多くありませんが....」


 エルミアの質問に対して、ありのままを話すコレット。

 だが、カオルは何か引っかかる物言いに首を傾げた。


「コレットさん。では、身体が弱く職に就けなかった子供達は、いったいどうするのですか?ずっと孤児院に居る訳にはいかないんですよね?」


 カオルの指摘にコレットが眉を顰める。

 明らかにカオルの質問へ答えるのを渋っている様子が窺えた。


「【聖騎士教会】の総本山、聖都【アスティエール】へ送り、教会の信者として奉仕する者も少なからず居ます。ですが、それはほんの一握りの者達です。身体が弱い故に働く事もできず、行き先の決まらない子供は奴隷へと身を落とす場合が....」


 子供達に聞こえないように小声で話すコレット。

 言葉の端々から苦渋ともとれる決断をしてきた事が容易に窺えた。


「そうですか.....」


 カオルにはそう答えるしかできなかった。

 あまりにも重い現実。

 頭をハンマーで叩かれたような衝撃がカオルの身体に奔り、ただ立っている事も困難になりフラリと身体がよろけてしまう。

 

「カオル様」


 慌ててエルミアがカオルを支え、大鍋にレードルを落としてしまった。

 

(また奴隷だ。どこまでいっても弱い者が虐げられる世界。なぜこの世界はこんなにも非情で人の命が軽いのだろう。ボクに出来る事は無いのだろうか?援助する?永続的には不可能だ。ボクは――ボクの手には、そんなに多くの人を救うだけの力は無い。ならばどうする?なにか、何かあるはずだ)


 押し黙るカオル。

 深い沈黙が訪れる。

 そんな中でも子供達は実に楽しげで、各所から笑い声すら聞こえて来る。

 今、目の前に居る子供達の笑顔を、カオルは守り続ける事などできるのだろうか?

 カオルを支えるエルミアも、子供達におかわりをよそうヴァルカンやカルアやエリーも、コレットの話しを聞いて現実に打ちひしがれていた。





















 満腹になった子供達。

 大騒ぎの昼食を終えれば子供ならではのお昼寝の時間。

 孤児院に宛がわれた自室へと帰って行き、皆静かに惰眠を貪っている。

 だが、コレットから聞いた子供達の将来は、あまりにも衝撃的すぎた。

 子供達を起こさないようにと教会へ場所を移し、カオル達は思い思いに思案を巡らせる。


(どうしたらいいんだろう。風竜から貰ったお金を援助する?それじゃぁ将来的には何も解決していない。お金って大事だよね。最近ポンポン使っていたから改めないと。って、そんな事より子供達だ。働けない――身体の弱い子でもできる仕事は何かないだろうか?)


 お金の大切さを再確認し、カオルは今までの散財を戒めていた。

 言われるがまま、褒められるがままに浪費を続けいていたカオル。

 ひとえに、カオルが着飾ると家族が喜ぶ顔が見たかったからなどと、けして口に出す事はできないだろう。

 

 ヴァルカン達もおのおのに悩み、カオルはある閃きを元にとある提案をした。


「みんな、聞いて欲しいんだけど...」


 それは、なんとも大規模な話しであった。

 

 働けない、身体が弱く体力の無い者達の為に、学校とまではいかないが、塾を作ってみてはどうか?という話し。

 なぜ塾を作るのか。

 それは、事務作業をさせるため。

 身体を動かす必要も無く、頭さえ良ければ役職にも就けるからだ。

 その為に必要なのは、教育。

 算術に交渉術。もちろんそれだけでは不十分であるが、カオルが作る塾の管理に各種ギルドなどの事務員として紹介する事ができれば、永続的に就職には困る事は無いだろう。

 特に居を構える商人などならば、帳簿管理など雑多な仕事は沢山ある。

 塾の場所は孤児院を利用してもいいし、どこか場所を買い上げてももちろん良いだろう。

 初期投資は必要だが、塾程度ならば莫大な予算は必要無い。

 あとは、教師役の人材と就職先の伝手だが、それは伯爵という地位に居るカオルならばどうとでもできる算段だ。


「カオルちゃん!!名案よ!!」


「さすが私のカオルね!!」


「カオル様、ぜひやりましょう」


 カルアとエリー、エルミアの了解を得て、カオルも肩の荷が下りた思いだった。

 だが、ヴァルカンだけはまだ思案顔で、ジッとカオルの瞳を見続けた。


「なぁ、カオル?」


「なんですか?師匠?」


「不公平じゃないか?」


 不意に告げられた言葉に、カオルは眉を顰めた。


「どういう意味ですか?」


「いや、な。せっかくだから身体の弱い子供だけではなく、他の子にも何か将来の道を示してあげたらどうだ?」


「なるほど....」


 ヴァルカンが気にしていたのは、他の子供達の事であった。

 コレット曰く、帝国の兵士や衛兵。商人の師弟となかなか高待遇の将来もあるようだが、やはり自分の人生は自分で選びたいものだろう。

 だからこそ、ヴァルカンは他の道を示してあげたいと、そう思ったのだ。


「では、こんなのはどうですか?」


 そこでカオルが追加で提案したのは、冒険者予備校であった。

 冒険者というのは成人していれば誰にでも門戸を開いている。

 成りたいと思ったその日に冒険者ギルドへ行けば、誰でも成れる。

 だが、なんの予備知識も無いままに魔物や魔獣に遭遇すれば、即座に命を落とすのは確実だろう。

 実際、冒険者の死亡率の高さは冒険者と成った1ヶ月が非常に高い。

 それは戦う術を身に付けていない事もあるし、自身の力を過信しているからでもある。

 だからこそ、冒険者予備校というものはその重要性を増す事であろう。

 それに、【エルヴィント帝国】はその立地からか魔境やダンジョンが数多く存在する。

 冒険者ギルド側にしても、カオルの提案は受け入れられる可能性が高いはずだ。


「それはいいな」


「危険はあるけど、冒険者は身入りが良いしね!!」


 他ならぬ冒険者のエリーの発言により、カオルは自身の提案が最善であると確信した。


 そこからは、事がスムーズに運んだ。


 【エルヴィント帝国】の皇帝であるアーシェラに嘆願し、ノリノリになったアーシェラが迅速に事を進める。

 帝都にある支部の商業ギルド、鍛冶ギルド、冒険者ギルドのトップを呼び集めカオルの提案を伝えたところ、「願ってもない!!」と各ギルド長からも懇願されて、あれよあれよという間冒険者予備校や塾の建設が始まったのである。






















「「「.....」」」


 冒険者ギルドから程近い場所の空き地。

 メインストリートからは幾分外れた場所のそこは、元々は集合住宅が建てられていたのだが、火の不始末により全焼してしまいそれからずっと空き地になっていた場所である。

 そして、そこに1軒の――とはもう言えない立派な建物が出来上がっていた。

 それは、今しがたカオルが土魔法で造り出した代物。

 冒険者ギルド長のエドアルドをはじめ、商業ギルド長のケイシー。鍛冶ギルド長のキャメロン。

 三者三様の表情をして、あまりの出来事に絶句していた。


「窓と扉はありませんので、用意しなければいけませんね。それと、机やその他も必要でしょう。訓練場は....空き地をそのまま利用すればいいですか?必要なら造りますけど?」


 あっけらかんとしたカオルの物言いに、ようやく現実に戻ったエドアルド達。

 なんと言ってよいのかわからないが、これ以上カオルの力を見せ付けられると自分の何かが失われてしまう気がしていた。


「いやいやいや!!もう、じゅ~~ぶんですよ!!」 


「さ、左様左様!!あ、あとは我々にお任せ下さい!!」


「そ、そうだな...」


 顔面蒼白のエドアルド達は、「もうこれ以上はやめてください」と言わんばかりにうろたえる。

 傍に居たヴァルカン達は、見慣れたというか既に達観しており、今更瞬時に建物が建とうが動じる事もなかった。


「そうですか?では、次は塾を建設に行きましょうか」


 冒険者予備校に加え、塾の建設予定地もアーシェラから伝えられており、カオルは商業ギルド近くの空き地へと向かう事にした。

 

 通常、皇帝としてのアーシェラにとって、降って沸いた公務であり、予算や人員の確保などにかなりの時間を要するものなのだが、他でもないカオルからの嘆願であり、孤児院の事も目の上のたんこぶ程度には気に掛ける事案であった。

 だが予算は有限であり、無理矢理にもで事を推し進めようとすれば、アラン財務卿から無用な叱責をされるのは目に見えていた。

 しかし、今回は英雄と名高く、あの街を建設したカオルが関係しているのだ。

 たった1つ魔法を唱えただけで、数ヶ月も掛かるはずの建設が即座に終わり、しかもお金もまったく掛からない。

 諸手を上げて喜んだのは言うまでもないだろう。


 塾の建設も瞬く間に終わらせたカオル。

 もう小さな塾とは呼べない代物なのだが、ケイシーは(空き部屋は倉庫にでも使おう)と、現実逃避を決め込んでいた。

 冒険者ギルドの教師役には、怪我で引退を余儀なくされた有能な元冒険者が沢山居るので問題はない。

 だが、塾で座学を教える人材には困ってしまう事になる。


 体力や老いといったものにほぼ関係無く、商人は永年続ける事が可能だ。

 もちろんヘマをやらかして借金塗れとなり奴隷落ちする者も少なくないのだが、そんな輩に教師役は務まるはずもない。


 ではどうするのか?


 しばらくの間は、商業ギルドの職員が兼務しなんとかする事に決まった。

 いずれは流れの商人でも良いので、ギルドの掲示板で募集する事になったのだが...


「募集に来てくれますかね?」


「難しいかもしれませんな」


「そうですよね....」


 難色を示すケイシー。

 利に聡い商人が、薄給で教師など応募するはずもないだろう。

 だが、教える者がいなければ、こんな建物はただの箱同然だ。

 

「フッフッフ....ようやくワシの出番じゃな!!」


 可愛らしい名前のキャメロン。

 筋骨隆々の肉体に、もっさりした口髭を蓄えたドワーフが、ワシの出番だと言わんばかりに名乗りを上げた。

 キャメロンを良く知る知人友人からは、よく酒の魚にされる名前なのだが、ここでは一先ず置いておこう。


「何か良い策があるんですか?」


「うむ!!ワシは鍛冶ギルドを預かる身ではあるが、同時に武具屋も経営する鍛冶師もしておる。ワシの師弟から数人をここへ派遣しようではないか!!ガハハ!!」


「な――っ!?き、汚いぞキャメロン!!さては、香月伯爵の覚えを良くしようと謀っているな!?」


「はて?何の事かな?ガハハ!!」


 カオルの前で繰り広げられる茶番劇。

 既に見た目にそぐわぬ可愛らしい名前に、カオルはキャメロンの事を深く印象付けていた。


「でも、鍛冶師の師弟さんが算術や交渉術など教えられるんですか?」


「ハッハッハ!!ご安心くだされ、香月伯爵!!何も、ワシ等は物を作るだけが全てではないですぞ?販売事は商業ギルドだけの十八番(おはこ)ではないですからな!!ガハハ!!」


「ぐぅ....おのれキャメロンめぇ....」


 忌々しげにキャメロンを睨み付けるケイシー。

 キャメロンはどこ吹く風と、涼しい顔をしている。

 こうして教師の当てもできたことで、カオルの提案は無事に成す事ができ、子供達にも将来の道が開かれる事となった。




















「あら?なにかしら?」 


 孤児院にカオル達が慰問した次の日の朝。

 日課となっている教会の掃除を始めたコレットは、祭壇に見慣れぬ書簡を発見した。


「誰かの忘れ物かしら?」


 赤い蜜蝋に小さな花――(エーデル)(ワイス)紋章(きしょう)が押されている。

 それは、昨夜のうちにカオルがこっそり置いて行った物。

 子供達の為に冒険者予備校や塾だけでなく、何かできないかと考えに考え抜いて、結局これしか思い付かなかった。


「あら?カードが添えられているわ....えっと――」



『コレットさんへ。


 浅はかなボクには、これしか思い付きませんでした。子供達の為に使ってください


                                   カオル』



 二つ折りの小さなカードに、そう記されていた。

 コレットは書簡の封を開けて中を取り出すと、書簡に沿ったひと並びの白金貨20枚。

 20,000,000シルドが収められていた。


「こ、香月伯爵様から!?こ、こんなにっ!?」


 あまりの大金にコレットは立ちくらみを覚える。

 そこへエリゼオが朝の挨拶をしようと訪れ、大泣きするコレットと顔を合わせた。


「いったいどうしたというのですか?コレット。そんなに嬉しかったのですか?いえね、私も年甲斐もなく香月伯爵の善行に、昨夜は思わず涙を流してしまったのですよ」


 昨日のうちに、孤児達の為に冒険者予備校や塾を建てたカオル。

 その事をアーシェラから伝えられたエリゼオは、思わずその場で神とカオルに感謝を捧げた一幕もあった。


「ち、違うんです!!こ、これを見て下さい!!」


「なんですか?」


 コレットの聞き迫る物言いに、訝しげに差し出された両手を覗き込む。

 そこには大量の白金貨と、カオルからのカードが乗せられていた。


「....カオルさん。あなたって人は」


 感激のあまり震える身体。

 清貧を重んじる【聖騎士教会】に所属しているとはいえ、お金というのは大切である。

 孤児院を運営――いや、生きるためには食べなければいけない。

 そんな事は誰にでもわかりきっている事なのだが、カオルは子供達の為にと多額の寄付をしてくれた。

 エリゼオはその事が嬉しく、カオルの器の大きさに感動していた。


「コレット。感謝を捧げましょう。私達の主神シヴ様と、心優しきカオルさんの為に」


「はい!!」


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