表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
220/349

第百七十七話 予期せぬお客様


 皇女フロリアの私室を辞したカオル。

 朝日の眩しい中、『飛翔術』を使い自身の屋敷へと降り立った。


(はぁ....ボクって....優柔不断だったんだ....)


 カオルは、フロリアへの想いがわからないでいた。

 ヴァルカン達家族とは違う感情。

 フロリアの事を考えると、胸がモヤモヤする。

 その感情は恋から来るものなのか。

 または、自由の無いフロリアに対する哀れみなのか。

 今はまだわからない。

 でも、いつかわかる時が来る。

 カオルは、そう感じていた。


「ただいまっと」


 2階のテラスへ降り立ったカオル。

 誰が居るわけでもないのだが、習慣からかつい口にした。


 そこへ....


「ご主人!!」


 トタトタと駆け寄って来たのはメイドのアイナ。

 どうやらカオルが出掛けていた事を知り、待っていたようだ。


「待っててくれたの?」


「ん!」


 カオルにギュッと抱き付いて、アイナはスンスンと臭いを嗅いだ。

 どこぞの新婚夫婦の様に。


「ご主人。浮気?」


 カオルから嗅ぎなれない臭いを感じたのか、アイナはジッとカオルを見上げた。

 さすがは兎耳族。

 恐ろしい嗅覚だろう。


「えっと、用事があってリアのところに行ってきたんだけど....誰にそんな言葉を教えてもらったの?」


「お姉ちゃん」


 カオルは落ち込んだ。

 なぜフランチェスカはそんな言葉をアイナに教えたのか。

 こんな10歳の子供に教えるべき言葉ではないだろう。

 しかも、見計らったように出迎えて....


「...浮気なんてしてないよ。ボクには大切な婚約者がいるんだから。そうでしょ?婚約者のアイナさん?」


 カオルはわざとおどけてみせた。

 アイナをギュッと抱き締めて。

 浮気がばれて言い訳する亭主の様に。


「ん!!!」


 きつく抱き締め返すアイナ。

 それで許すようでは、良い女になれないぞ?


 カオルは、アイナを連れて1階の食堂へと向かった。

 そこでは、ヴァルカン達がジッとテーブルを囲んで座っていた。

 奥のキッチンでは、フランチェスカが忙しそうに調理をしていたが。


「....カオル。ちょっとそこへ座れ」


 カオルが食堂に入るや否や、ヴァルカンはそう告げた。

 テーブルをリズミカルに叩き、苛立ちを見せている。

 その隣で、カルアとエリーとエルミアも、プクっと頬を膨らませている。

 間違い無く、カオルが無断で出掛けて怒っている。


「はい....」


 借りてきた猫状態のカオル。

 これから行われるであろう尋問に、戦々恐々としている。

 

 だが、そうはならなかった。

 カオルがフロリアの私室を辞した後、すぐにアーシェラはヴァルカンに連絡していたのだ。

 通信用魔導具を使い。

 だからこそ、タイミングよくアイナがカオルを出迎えられた。

 そして、ヴァルカンはカオルに聞いた。

 「私達をどう思っているのか」と。


「....ボクは、みんなが好きです。いいえ....愛しています。他の誰にも渡したくないほど。師匠も、カルアも、エリーも、エルミアも、フランも、アイナも、ボクは愛しています」


 王子カオルが降臨した。

 いつぞやの様に、両手を大きく広げて大げさに話す。

 すると、ヴァルカン達は満足そうに頷き、それで許した。

 

「そうか。わかった。私もカオルを愛している」


「おねぇちゃんも、カオルちゃんを愛してるわ♪」


「わ、私もよ!!」


「私もです。カオル様」


「あ、あの...わ、私も....」


「ご主人。アイナも」


 カオルは涙ぐんだ。

 嬉しくて。

 幸せで。

 みんなに会えてよかったと。

 そう思った。


「さぁ、食事にするぞ。今日は私とエリーもカオルに同行する。いいな?」


 ヴァルカンとエリーは、親善大使の仕事が休みだった。

 正確には先ほど休みにされた。

 気を利かせたアーシェラによって。

 

「本当ですか!?」


「ええそうよ!!だから、今日一日ずっと一緒よ!!嬉しいでしょ!!」


 カオルは喜んだ。

 今日はずっとみんなと一緒だ。

 ツンデレエリーさんは放っておいて、カオルは考えた。


(せっかくみんな一緒なんだから、普段出来無い事をしよう....そうだ!!家族でやるといったらアレしかない!!


「それじゃ、お昼はバーベキューにしましょう!!ボクは、カルアとアイナの2人を連れて先に行って下拵えしておきますので、師匠はエリーとエルミアとフランを連れて後から来て下さい。あ、ついでに馬車を買ってきてもらえますか?これお金です。うちの御用商人のお店はエルミアが知ってますから、そこで聞いてみて下さい。フランは何か野菜を買ってね。それじゃ行くよ、カルア、アイナ!!」


 よほど嬉しかったのか、言葉早にカオルは話した。

 朝食も食べずにすぐに向かおうとするカオルを、ヴァルカン達は慌てて止めた。


「まてまてカオル。急ぎすぎだ。とりあえず聞きたい事もあるが、朝食にするぞ」


「あ...そ、そうですね。それでは、いただきます」


 いつもの様にカオルが挨拶をし、朝食が始められた。

 カオルはとても浮かれていた。

 ひさびさにヴァルカンとエリーと一緒だ。

 それにメイドの2人も一緒に出掛けられる。

 むしろ、このまま引っ越してしまおうかとさえ考えている。 


「モグモグ....御用商人とは、昨日言っていたラメル商会とかいうところか?」


「ゴクン。そうです。代表さんはジャンニという方です。あ、買い物する時に、これを見せてください。ボクの紋章(きしょう)です」


 慌しくも、食事中にカオルが取り出したのは1枚の布であった。

 エルヴィント帝国の国色(ナショナルカラー)である真っ青な布地に、白銀(ミスリル)の糸で小さな花がいくつも刺繍されている。

 丁寧な縫製で、花の中央には金糸で花弁が縫われていた。


「これは、指輪と同じ.....」


「はい。(エーデル)(ワイス)です。アーシェラ様がボクにくださった、雪花勲章と同じ花です。せっかくなので、ボクの紋章にしようと思ったので♪」


「そうか....それで、指輪にこの花を刻んだのか」


「そうですよ?ボクのものだって証です......手放しませんからね?」


 満面の笑みでカオルは告げた。 

 ヴァルカン達は自分のものだと。

 指輪を着けているかぎり手放さないと....


 それを聞いて赤面する家族達。

 すっかりカオルの虜である。


「....ご、ごほん!そ、それにしても、もう家具や調度品を買ったのか。少し気が早くないか?」


「きっとカオルの事だから、小屋でも建てたんでしょ?」


「エリー。小屋と言っても大変なんだぞ?私が以前住んでいたところは、離れの薪小屋を造るだけで1週間もかかったんだ」


 ヴァルカンとエリーは知らない。

 カオルが土魔法で小屋どころか、宮殿を建てた事を。

 

「「.....」」


 全てを知るカルアとエルミアは黙っていた。

 どうせ行けばわかる事。

 そのとき驚けばいい。

 そう思っている。


「小屋かぁ....小屋も必要だよね?あとで造らなきゃ♪」


「ん!」


 カオルはアイナと話していた。

 もちろん、アイナとフランチェスカもカオルが宮殿を建てた事を知らない。

 

 朝食を終えたカオル達。

 カオルは、カルアとアイナを連れて先に自治領へと向かっていた。

 「四頭引きの馬車を買って下さい」とカオルが告げると、「そんな大きい物をどこに置くんだ?」とヴァルカンが不思議そうにしていた。

 カオルは「大丈夫ですよ♪」と押し通していた。


「アイナ。怖くない?大丈夫?」


「ん!」


 ファルフの背に乗るカオルとカルアとアイナの3人。

 カオルはアイナの心配をしていた。


「おねぇちゃんと一緒に、カオルちゃんに掴まりましょうね♪」


「ん!」


 カオルの両手をそれぞれ独占した2人。

 そこで、カルアが何かを見つける。


「カオルちゃん。あれ何かしら?」


 カルアが見つけたのは、数個の岩の塊。

 それは、先日カオルが作り出したゴーレムだった。


「ゴーレムが何かを捕まえてるのかな?ちょっと先に見てくるから、ファルフ!!2人をお願いね?」


「クワァ!!」


 カオルは『飛翔術』で風を纏い、ファルフより先にゴーレムに向かった。

 徐々に大きくなるゴーレムの姿。

 やがて、ゴーレム達が捕まえている物がはっきり見えた。

 それは、真っ青な薄い布地の服を着た2人の犬耳族だった。


「....ルチアとルーチェ?」


 眼前へ着地したカオル。

 ゴーレムに押さえ付けられている2人に話し掛けた。


「かお.....る....さま?」


「うぅ.....たす....け....て....」


 2人は疲労困憊(ひろうこんぱい)としていた。 

 丸々一晩中ゴーレムに押さえ付けられていたのだから当然だろう。


「あわわ!!ゴーレム!!2人を離して!!」


「イエス。マイロード」


 カオルがゴーレム達に命令すると、ルチアとルーチェからその身を離した。

 長時間上に乗られていたのであろう。

 地面が少し陥没し、ゴーレムの跡が残っている。


「と、とりあえずこれを飲んで!!」


 カオルは、大急ぎでアイテム箱からポーションを取り出し、2人の口に流し込んだ。

 すると、なんとか動けるようになった2人は起き上がり、地面に座りこんだ。


「あ、ありがとうございます。カオル様」


「た、助かりました....」


 2人はお礼を述べるが、限界だった。

 怪我をしている訳ではない。

 ただ、体力が無いのとお腹が空いているのだ。


「無事でよかったね.....ところで、なんで2人はこんなところに居るの?」


「と、突然そのゴーレムに襲われて....」


「いや、そういう事を聞いてるんじゃなくて、ここはボクの領地だってわかってるよね?その上、今は立ち入り禁止にしてもらってるはずなんだけど.....もしかして、アーシェラ様に言われて偵察に来た。とか?」


((ギクッ!?))


 カオルは即座に見抜いた。

 アーシェラの私兵である蒼犬の2人が、用も無いのにこんなところに居るはずがない。

 ということは、カオルの領地開拓がどれだけ進んでいるか調べさせているのだろう。

 立ち入り禁止を申し出て、たった数日なのにもう探りを入れて来るとは、さすがは策士アーシェラ。


「...答えられないよね。うん、わかった。ちょっと待ってて」


 カオルは、懐から通信用魔導具を取り出し、アーシェラに繋いだ。

 その様子を、ルチアとルーチェは首を傾げて見上げていた。


「なんじゃカオル?」


 突然、アーシェラの声が聞こえてきた。

 ルチアとルーチェは驚いて、その場に膝を突く。


「アーシェラ様。今日一日、蒼犬の2人はボクが預かりますから」


「な、なんじゃと!?それは困るのじゃ!!」


「アーシェラ様。まさかとは思いますが、ルチアとルーチェにボクの領地の偵察なんてさせてないですよね?」


「そ、そんなことをする訳がなかろう!?」


「本当ですか?」


「ほ、本当じゃ...」


「では、なぜ立ち入り禁止にしているはずのボクの領地に、ルチアとルーチェが居るんでしょうか?」


「た、たまたまではないかの?」


「はぁ....アーシェラ様。その言い訳は、ちょっと苦しいと思います」


「う、うむ。わらわもそう思う...」


「今回はこれ以上言いません。なので、今日一日ルチアとルーチェはボクが預かります。いいですね?」


「わ、わかったのじゃ....」


「アーシェラ様」


「な、なんじゃ?」


「可愛い人ですね」


「な、何を馬鹿な事を言うのじゃ!?」


「あはは。それでは、失礼します」


「う、うむ」


 通信を終えたカオル。

 跪くルチアとルーチェの前に座り、顔を上げさせた。


「というわけで、2人は今日ボクと一緒です。いいですね?」


「「は、はい!!」」


「それじゃ、行こうか?ファルフ、カルア、アイナ」


「クワァ!」


「はい♪」


「ん!」


 カオルは4人と1羽を連れて、宮殿へと向かった。


 カオルが造った宮殿。

 初のお客様は、ルチアとルーチェの2人だった。


ご意見・ご感想をいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ