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第百六十二話 勝利宣言


 大陸南西部にある、カムーン王国とエルヴィント帝国の国境沿い。

 背高い山が連なるこの場所で、山道に佇む1人の男性が居た。

 

「チッ....」

 

 彼の前には、息絶えた馬が1頭。

 酷使されたのであろう、蹄が割れて痩せ細っていた。

 

 彼は山を睨んだ。

 正確には山の向こうを。

 エルヴィント帝国の帝都がある方角を。


「チッ...」

 

 彼は、もう一度舌打ちをして、馬を山道から蹴り落とす。

 地面に置かれた荷物を持ち上げ、歩き出した。

 ボロボロの黒い外套を身に纏い。

 外套の裾から、毛多い尻尾が左右に揺れる。

 頭の三角耳は尖っていた。


 彼の名前はオダン。

 誰もが憧れる第1級冒険者であり、希少種族の天狼族の男性。

 オダンが向かうのは、エルヴィント帝国。

 香月カオル伯爵と決闘をする為に....











「おねぇちゃん。聞こえる?」


「聞こえるわ♪エリーちゃんの可愛い声♪」


 帝都にある、香月伯爵の屋敷の居間で、カルア達ははしゃいでいた。

 カオルから贈られた、通信用の魔導具を片手に。


「あると便利でしょ?」


「ええ♪これで、いつでもカオルちゃんの声が聞けて、おねぇちゃん嬉しい♪」


 ガバっとカオルに抱き付くカルア。

 遠くで通信を試していたエリーが、大急ぎで戻って来て、それを阻止する。


「ちょっとおねぇちゃん!!カオルが困ってるでしょ!!」


 カオルから引き剥がされたカルアは、忌々しげに義妹(エリー)を睨む。

 そんな楽しそうな3人を、思い詰めた表情でヴァルカンが見ていた。

 

「どうしたのですか?ヴァルカン」


「....エルミアか」


 家族を観察する事が多いエルミアが、ヴァルカンの異変に気付き声を掛ける。

 ヴァルカンの口は重かった。


「いや....これが.....な....」


 ヴァルカンが手にしているのは、銀版の魔導具。

 カオルから贈られた便利な物なのだが、ヴァルカンは危惧しているのだ。

 (これを軍事利用されたら)と。


「もしかして、それを悪用されたら....と考えているのですか?」

 

 エルミアはわかった。

 なぜなら、自分も同じ事を思っていたのだから。


「....そうだ」


「それでしたら、問題ありません。カオル様は、温泉に向かう時に言いました。『通信用の魔導具は、けして悪用させない。渡す人も選ぶし、もし悪用したらボクが必ず止める』と。そう言って下さいました」


 ヴァルカンは驚き、顔を伏せて涙を流した。

 (カオルは、そこまで考えていたのか)と。

 そして、(自分はカオルを信じていなかったのか)と。

 そう思い、泣いてしまった。

 

「...そうか。カオルは、そんな事を言っていたのか」


「はい」


 そこで、ヴァルカンは気付く。

 カオルとエルミアが温泉に向かった事を。


「....ん?まて、温泉だと?もしかして、カオルと一緒に入ったのか?」


 ヴァルカンは知っている。

 温泉とは、天然のお風呂だ。

 普段からエルミアは、カオル達と一緒にお風呂に入っているのだ。

 入らないはずがない。

 問題なのは、カオルと2人きりという事。

 温泉に2人きり....

 そんなうらやまけしからん事を、許せる訳が無い。


「ふふ.....」


 ヴァルカンの質問に、エルミアは笑って見せる。

 その顔は嬉しそうで、ほんのり頬が高揚している。


「うがぁああああああ!!!ずるいぞ!!エルミア!!!私だって、カオルきゅんと一緒に温泉に入りたいぞ!!!」


 憤慨するヴァルカン。

 エルミアは、してやったりとニヤケた。


「ん?師匠。温泉に入りたいんですか?」


 カルア達と魔導具で遊んでいたカオルが、ヴァルカンが叫んだ事で気が付いた。

 

「は、入りたいぞ!!カオルきゅん!!」


「ん~....あそこはちょっと遠いので......そうだ。アーシェラ様からいただいた自治領に、露天風呂を造りますよ。そしたらみんなで入りましょ?」


 カオルは提案した。

 ちょっと恥ずかしかったが、(腰にタオルを巻けばいいか)と考えていた。

 それに、アンエ村に露天風呂が無く、ちょっとガッカリしていたのだ。


「か、カオルきゅん.....よ、よし。さっそく露天風呂を造りに行くぞ!!」


 気が(はや)るヴァルカンは、今すぐ造ろうと言い出した。

 

「あはは。師匠。気持ちはわかりますけど、先にすることがあるので、ボクはこれからアーシェラ様に会いに行きますよ?」

 

 ヴァルカンの気持ちを、カオルは本当に理解はしていない。

 ヴァルカンは露天風呂で、欲望の赴くままにカオルの肢体を蹂躙しようと考えているのだ。

 一方のカオルは、みんなで入れば楽しいよね♪程度だ。

 『残念美人』のヴァルカンを、あまりなめない方がいいぞ?


「ぐぅ...そうなのか....それでは、共に登城するぞ。私も陛下に用があるからな」


「私も行くから」


「おねぇちゃんもです♪」


「私もカオル様と行きます」


 こうしてカオル達5人は、アーシェラの居るエルヴィント城へと向かった。

 メイドのフランチェスカとアイナは、魔導具をおもちゃにして遊んでいたが。


「お姉ちゃん聞こえる?」


「聞こえるよ!アイナ!」


「すごいねコレ」


「そうね!さすがご主人様ね!」


「うん。ご主人はとっても良い人」


「そ、そうね(なんで今その話題に....)」


「私は将来、ご主人の子供を産むの」


「えっ!?」


「子供は10人の予定」


「そ、そんなに!?」


「お姉ちゃんは3人くらい産むの」


「わ、私も産むんだ....」


「そう。それで、エルヴィント帝国を乗っ取るの」


「えっ!?」


「フフフ....」


 フランチェスカは、アイナが怖いと思った。

 (したた)かなアイナの子供は、もっと(したた)かだろう。

 いずれ、本当にこの国を乗っ取ってしまうかもしれない...


「冗談だよ?お姉ちゃん」


「ホッ....」











 お昼過ぎ。

 メイドの2人を屋敷に残し、エルヴィント城へと登城したカオル達。

 門番の近衛騎士に来訪を告げて、皇帝アーシェラの私室へと向かっていた。

 

「そういえばカオル」


「なんですか?」


 廊下をゾロゾロと連れ立って歩くカオル達5人。

 ヴァルカンは思い出した様に話し出した。


 それは、アゥストリから言われた話。

 カオルの屋敷には、毎日人が押し寄せている。

 皆口々に言うのは、召し抱えて欲しいという言葉。

 もちろん、英雄であるカオルの姿を、一目でいいから見たい人もいる。

 だが、新興貴族のカオルは、アーシェラから伯爵という上級爵位と、広大な領地を下賜された。 

 縁だけでも結びたいと思うのは当然だろう。


「カオルは、家臣を持とう....なんて思ったりしないか?」


 おずおずとヴァルカンは聞く。

 本音を言えば、誰もカオルに近づけたくはない。

 カオルと関わる人が増えれば、それだけカオルは自分に構ってくれなくなる。

 さらに、貴族は嫌いであった。

 沽券や面子を気にし、己の保身しか考えていないような連中。

 ヴァルカンは、そういった貴族の汚い一面を、嫌と言うほどカムーン王国で見てきている。


 しかし、聞かない訳にはいかなかった。

 なぜなら、カオルは自治領に街を造ろうとしているのだ。


 街を造ると言う事は、人が集まる。

 人が集まれば、(いさか)いが起きる事もあるだろう。

 誰かが統治しなければならない。

 それは領主のカオルしかいない。

 だが、カオルの身は1つだ。

 ヴァルカン達が手を貸したとしても、人手が足り無すぎる。

 ならば、やはり誰かを家臣にしなければ.....


 ヴァルカンの頭の中は、堂々巡りするばかり。

 すると、カオルは答えた。


「師匠。ちゃんと考えてありますから大丈夫ですよ。気にしてくれて、ありがとうございます」


 歩きながら、ニコっと笑いヴァルカンを見上げる。

 ヴァルカンは驚き、目を丸くする。

 

(カオルは....考えていたのか.....そうか.....)


 どちらとも無く手を伸ばし、キュッと繋がれた2人の手。

 カルア達もそれに気付いてはいたものの、黙っていた。

 ヴァルカンが、悩んでいた事を知っているから。


 カオルは、ヴァルカンを尊敬している。

 たまに可笑しな事を言うけれど、ヴァルカンはいつも正しい。

 カオルの事を思っているし、カオルが困っていれば、すぐに手を差し伸べる。

 誰もが知っている。

 2人は、特別な絆で結ばれている事を。

 なぜなら、カルア達が初めてカオルに出会った時から、カオルはずっとヴァルカンを見詰めているのだから。


 やがて、アーシェラの私室へ辿り着いたカオル達。

 いつもの様に扉を叩き、返答の後に室内へ歩み入る。

 そこには、変わらず執務机で公務を行うアーシェラが居た。


「おお!!カオル!!待っておったぞ!!」 


 アーシェラに促され、カオル達は長机で向かい合う。

 そこでカオルが切り出した話は、やはり新設する街の話しだった。


「アーシェラ様。ボクは街を造ろうと思います」


 侍女である、メイドが淹れた紅茶を飲みながら、カオルは話し出した。

 「しばらくの間、香月領内の立ち入りを禁止して欲しい」と。

 「新たに家臣を雇い入れるつもり」だと。

 「ただし、全て自分で行う」と、最後に告げた。


「うむぅ....わらわの手助けは、必要無いと申すのか?」


 アーシェラは呻った。

 カオルが新しい街を造る事は、誰から聞いたかわからないが知っていた。

 そして、援助するつもりだった。

 金銭的にも、人員的にも。


「はい。全てボクが行います。援助は必要ありません」


 きっぱりと、カオルは断った。

 その姿はかっこよかっただろう。

 ヴァルカンが惚れ直すほどに。


「むむむぅ....」


 アーシェラは悩んでいた。

 あのカオルが街を造ると聞いて、様々な想像をした。

 おそらく、カオルの事だから、とても大きな街を造るだろう。

 という事は、多くの利権が発生する。

 アーシェラ自身は、皇帝であるのだから今は良い。


 だが、後々を考えるとどうだろうか?


 娘であるフロリアは、皇帝になれない。

 エルヴィント帝国は、皇帝の死後、選帝侯の中から次期皇帝を任命制で選ばれる。

 連続して同じ家から皇帝が出れば、バランスが崩れ、独裁政治を行ってしまう可能性があるからだ。

 アーシェラの死後、フロリアはネージュ家の当主として領民を導かねばならない。

 フロリア...いや、孫の台までは蓄えもあるし、そのための計画も練ってある。


 だがその後は?


 今のうちに、少しでも利権を集めておいた方がいい。

 まして、相手はカオルなのだ。

 フロリアは、カオルを好いている。

 最悪フロリアをカオルに嫁がせて、自家は親族の誰かに譲ってしまってもいい。

 フロリアには、幸せになってほしい。

 家の為に、犠牲になってほしくない。

 自分の様な、悲しい思いはしてほしくない。

 

 アーシェラには、かつて愛した男が居る。

 同じ狐耳族の男性だ。

 だが、2人は結ばれてはいけない間柄だった。

 あまりにも身分が違いすぎたのだ。

 選帝侯であるネージュ公爵家。

 相手の男性は、ネージュ家に出入りする御用商人の次男だった。

 2人は一目見て恋に落ち、両親に隠れて密会を重ねた。

 アーシェラは、彼の事が心底好きだった。


 しかし、ある時不運が起こる。

 先代の皇帝が崩御(ほうぎょ)し、新たな皇帝を決める為に、選帝侯が集められた。

 当時の当主であるアーシェラの父親が、時期皇帝にもっとも近いと有力視された。

 父親は偉大であった。

 ネージュ公爵領の領民は、彼を慕っていた。

 ....慕っていたはずだった。

 だがある日、アーシェラの父親と母親は屍となって発見される。

 こともあろうに、ネージュ公爵領内で。

 疑われたのは、アーシェラが愛した人だった。

 領内視察に出ていた両親は、この日『大切な話しがございます』と彼から告げられ、行動を共にしていた。

 彼は、アーシェラとの関係を認めてもらおうと思っていたのだ。

 それを、心無い領民に利用されてしまう。

 公爵殺しの汚名を着せられた彼は、駆け付けた護衛の手で、即座に斬り殺された。

 アーシェラは、嘆き悲しんだ。

 後を追おうとさえ思った。


 お腹に、愛しい人との愛の結晶さえ居なければ。


 そして、両親の意思を継いだアーシェラは、周囲の応援もあり皇帝となった。

 嬉しくなんてなかった。

 皇帝になんて、なりたくなかった。

 ただ、生まれてきたフロリアが、とても可愛かった。

 愛しいあの人の面影を色濃く残した、愛する我が子が、とても可愛かった。


「援助は.....いらぬのか?」


 過去を想い出し、涙ぐむアーシェラ。

 カオルは、突然涙を見せたアーシェラに驚いたが、微笑んで答えた。


「大丈夫ですよ。ちゃんと、アーシェラ様の事も考えてあります。言葉では信用出来無いのでしたら、文面に起こしましょうか?」


 安心させるようにカオルは話す。

 カオルが断ったから、アーシェラが泣いている訳ではない。

 カオルにはわかった。

 アーシェラの瞳の奥に、何か悲しみが揺らいだのが見えたから。


「.....カオルの事は信用しておる。では、頼んだからの?絶対じゃぞ?絶対の絶対の絶対じゃぞ?」

 

 子供の様なアーシェラの姿。

 彼女が頼んだのは、もちろん利権ではない。

 皇女フロリアの事だ。


「はい。お任せください。アーシェラ様」


 アーシェラに笑い掛けるカオル。

 利権は任せてと言っている。

 

「うむ!ならば任せたのじゃ!!それでは、好事(こうじ)、魔、多しと言うからの!!決闘の話しをするのじゃ!!」


 肩の荷が下りホッとしたのか、元気を取り戻したアーシェラが、ヘルマン子爵との決闘の話しを始めた。

 

「まずは、日にちと場所の確認じゃの。5月末に帝都北東にある、円形闘技場(コロセウム)で執り行う予定じゃ。後で場所を見ておくと良いのじゃ。久方ぶりに使うからの。今は修繕工事中じゃが」


 自慢気にアーシェラが笑う。

 おそらく、円形闘技場(コロセウム)は、それほどまでに立派な施設なのだろう。

 

「わかりました。近いうちに見ておきます」


「うむ。次にヘルマンの話しじゃが....実はの。あやつは今、傭兵を集めておる」


 ヴァルカンは眉間に皺を寄せた。

 カオルはヘルマンと対峙した時にこう言った。

 「戦えないのならば、代理を何人でも立てればいい」と。

 確かにカオルと戦うならば、助っ人は必要だろう。

 なにせカオルは強い。

 ヴァルカンよりも。


 だが、カオルに勝てる様な強さを持つ者が、居るだろうか?

 伝説と言われるドラゴンや、オルトロスをたった1人で倒したカオルだ。

 並の冒険者や騎士を集めたとて、軽くあしらわれるのは目に見えている。

 ヘルマンは、いったいどんな傭兵を雇ったというのか。


「...陛下。傭兵とは、どれくらいの規模なのでしょうか?カオルは強い。人数を集めたからといって、カオルに勝てるとは、私は思えません」


「人数などは、せいぜい30人ほどじゃろう。ヘルマンは金が無いからの。質もそれほど良いとは言えぬ。問題は、その中に第1級冒険者がおるという点じゃ....」


 戦慄が奔った。

 

 数多に存在する冒険者が、憧れ目指す第1級冒険者。

 第1級冒険者に成るには、国家レベルの惨事(さんじ)でも救わない限り、そう易々と成れるものではない。

 ただ魔物と戦い続けるだけではダメなのだ。

 運と実力。

 そして、人格が必要だ。

 騎士の様な、誰かを守るという芯の強い意思を持った人格が。

 

「か、カオルが第1級冒険者と戦うの!?」


 エリーは驚いた。

 自身は、準2級の冒険者である。

 いつか自分は、第1級冒険者になると宣言していた。

 そうすれば、カオルと並べると思っていた。


 エルヴィント帝国、香月カオル伯爵。

 カムーン王国、元剣聖ヴァルカン。

 治癒術師・宣教師・助祭。複数の肩書きを持つカルア。

 エルフの王女エルミア。


 自分には、何も無い。 

 何も無いのだ。

 一介の冒険者である自分は、カオルのお情けで準2級に成れたと思っている。

 そうでなければおかしい。

 アルバシュタイン公国で、カオルの護衛を勤めたエリーは、何もしていない。

 ただ、カオルと共に居られるようにと、皇帝アーシェラの計らいで、『特別任務』を与えて貰った。

 カオルの護衛という任務を、エリーは果たしたのだろうか?

 無事にカオルは、エルヴィント帝国へ戻れた。


 しかし、エリーが居なくても、平気だったのではないだろうか?


 叙勲式で、エリーはエドアルドから準2級冒険者の証である、緑色のペンダントを受け取った。

 今思えば、受け取らざるを得なかった。

 衆人観衆の下、断れる雰囲気ではなかった。

 自分はまだ、このペンダントに相応しくない。 


 でも、嬉しかった。


 だから、相応しくなろうと思った。

 このペンダントよりも、もっと、もっとすごい、第1級冒険者の証である、赤色のペンダントを身に着けようと。

 自分の、燃えるように赤い髪と同じ、赤いペンダントを。


 カオルは、第1級冒険者と決闘をする。

 エリーが目指す、第1級冒険者と。


「...うむ。そういうことじゃ」


 空気が重い。 

 誰もが押し黙り、口を(つぐ)む。

 そんな中。

 当事者であるカオルは、平然としていた。


「そうですか。楽しみですね♪」


 目が点になった。

 カオルが、何を言っているのかわからない。

 ただ、カオルは何故か楽しそうに笑顔を見せていた。


「....ふ.....ハハハハハハハハ!!!!」

 

 思わずヴァルカンが笑った。

 それにつられて、全員が笑う。

 可笑しくて。

 カオルに呆れて。

 お腹を抱えて、大声で笑った。

 

「ハハハ...楽しみか!そうか!」


 ヴァルカンは思った。

 (カオルは勝つだろう。たとえ相手が、どれほど強敵だろうと。カオルは必ず勝つ)と。

 カオルは強い。

 ヴァルカンよりもずっと。


「ボク、可笑しな事言いましたか?」


 不思議がるカオル。

 頬を膨らませて、可愛らしくヴァルカン達を見詰める。

 そんなカオルが可笑しくて、ヴァルカン達は笑い続けた。

 

「ハハハ...すまないカオル。『楽しみ』なんて言うから、つい可笑しくてな」


「むぅ....だって、その第1級冒険者が、どんなに強いのかわかりませんけど、師匠より強い人なんて居ません。ボクは、師匠の弟子として、誰にも負けるつもりはありませんからね!!」


 カオルは不快感を露にする。

 プイっと顔を背けて紅茶を飲んだ。

 その姿が可愛くて、ヴァルカンはついカオルを抱き締めてしまう。


「カオル。私は嬉しいぞ。そうだな。カオルは私の弟子だ。だから、けして負けてはいけないな。陛下。ご安心ください。カオルは勝ちます。その第1級冒険者が誰であろうと、必ず勝ってくれます」


「うむ。わらわもそう信じておる。カオル。ケチョンケチョンにしてやるのじゃぞ!!」


 嬉しそうにアーシェラは言った。

 子供の様な顔で、瞳を輝かせて。


「えっと....お任せ下さい。必ず勝ちます」


 カオルは勝利を約束した。

 ヴァルカン達が居る前で。

 『必ず勝つ』と宣言して。


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