第百五十三話 世界樹の上で
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エルフの里。
神々が造りたもうた大陸の、中南部付近にそれはある。
柔らかく粉のように白っぽい朝の陽ざしが、部屋の窓から射し込んだ。
ここは、エルフ王リングウェウの屋敷。
その一室で、長い黒髪の少年は、ひたすらピアノを弾いていた。
今は亡き、両親を想い...
「ふぅ....」
何度目かの溜息。
昨夜。
王女エルミア達と別れてから、カオルは一晩中ピアノと向かい合っている。
何年ぶりかに聴くピアノの音色は、両親の姿を強く思い出させてくれた。
ピアノを弾く母親に、寄り添う様に隣へ佇む父親。
2人は時折見詰め合い、朗らかに笑っていた。
カオルの両親は、とても仲が良かった。
人目があろうとも、お構いなしに口付け合う程に...
そして、我が子であるカオルの頬に口付ける程に...
カオルは深呼吸をひとつして、ピアノを弾き始める。
奏でられる曲は、ショパンの幻想即興曲。
作品番号66番は、ポーランドの作曲家フレデリック.ショパンが1834年に作曲したピアノ曲である。
ショパンが作曲した4曲の即興曲のうち、最後に出版されたもの。
そして、遺作第1号。
ショパンは『自分の死後、この楽譜を燃やして処分して欲しい』と頼んだそうだ。
この曲は、元々『即興曲』としかタイトルが付いておらず、ショパンの死後、フォンタナが曲に手を加え『幻想即興曲』と名付けた。
一般的に奏でられる物はこちらであり、原曲はまた趣が違う。
何故、この曲をショパンが出版するなと言ったのか。
諸説あるが、明確な答えなどは出ていない。
それは本人にしか解り得ない事だろう。
ショパンは、カオルの母親が愛した作曲家である。
その中でも特に好んで聴いていたのは、この曲とバラードであった。
カオルは、何度も聴いていた。
楽しそうに母親が奏でる音楽を。
不意に、視線を感じた。
ピアノに向かうカオルの背後から、息を飲む声と共に。
そして、カオルが曲を終えると、拍手が贈られた。
「...エルミア。おはよう」
カオルは振り返らずにそう告げる。
リングウェウ王でもなく、アグラリアン王妃でも、ましてや侍女だとは思えなかったからだ。
それは見事に的中した。
「おはようございます。カオル様」
ゆっくりと歩みを進めて、カオルの隣に寄り添う様に佇む。
カオルの父親が、母親にそうした様に。
「一晩中、起きていらっしゃったのですか?」
「うん...」
エルミアの言う通り、カオルは一晩中起きていた。
亡き父親と母親を思い出しながら、ずっとピアノを弾いていた。
「お身体に、障りますよ?」
「大丈夫。師匠との訓練で、鍛えているからね。2日は寝なくても平気だよ」
師匠であるヴァルカンの訓練は独特であった。
丸2日訓練に費やし、その後1日泥の様に眠るのだ。
これは、鍛冶をしていた事から編み出した物であったが、実際に効率は良かった。
この世界へ来たばかりの頃。
引き篭もりであったカオルは、体力が無かった。
それは子供なのだから当然の事ではあるのだが、さすがに100mを全力疾走しただけで倒れるのは、ただの運動不足だろう。
そこで、ヴァルカンがカオルに課したのが、この訓練方法なのだ。
当然、一緒に暮らしているエルミアもそれは知っている。
だが、先日は大蛇との戦闘があったのだし、身体に休息は必要だ。
「...朝食の用意が出来ています。後で少し、仮眠を取られた方がいいかと...」
カオルの身体を心配するエルミアにそう告げられ、さすがに断り切れなかったのか「わかったよ」と答えた。
エルミアに案内され、廊下を並んで歩く。
白塗りの内壁伝いに食堂へ赴くと、そこには真っ白なテーブルクロスを敷かれた、細長いテーブルが食堂の中央に置いてあった。
本来であれば、来賓であるカオルは、長方形のテーブルの辺の短い方の席に、エルフ王リングウェウと向かい合う様に座るのだろうが、なぜかリングウェウのすぐ隣に席が用意されていた。
向かいに王妃アグラリアン。
カオルの隣にエルミア。
何と言うか、不思議な席順である。
「婿殿!待っていたぞ!さぁ食事にしよう!」
左頬に痛々しく、紅葉の痕を付けたリングウェウ。
おそらく、覗きの件が王妃にバレテ、折檻されたのだろう。
ご愁傷様である。
「ありがとうございます。お言葉に甘えていただきます」
出された料理は、普段のカオル達の食事に比べれば、とても質素な物であった。
粒状の穀物を押し潰して作ったであろうオートミールと、新鮮な葉野菜。
自然と共に生きるというのは、こういうことかとカオルは思った。
「リングウェウ王。先日は申し訳ございませんでした。エルフの里の文化を理解せずに、料理を出してしまって...」
カオルは、余計な事をしてしまったと悟った。
だが、リングウェウは特に気にした様子も見せず、カオルに微笑み掛けた。
「気にする必要はないぞ。婿殿は、怪我をして血を失った者に配慮をして、あの料理を作ったのだろう?確かに、見た事も無い料理の品々ではあったが、私達も肉を食べる事は間々ある。夕食では普通に出るからな」
カオルの心遣いに敬意を表したのか、リングウェウは饒舌に説明した。
言い伝えで、エルフの里は外界と距離を取り、食文化もまったく違う。
それゆえに、食事も質素にしている事を。
アグラリアンとエルミアも、頬に手を添え、嬉しそうにカオルを見やる。
「そうでしたか。それは失礼しました。ところで、ずっと気になっていたのですが、なぜボクを『婿殿』と呼ばれるのですか?」
カオルはついに核心に触れた。
初対面からずっと、リングウェウはカオルを『婿殿』と呼んでいた。
まるでカオルを義理の息子の様に。
そして、その問いに対する答えを、うろたえるリングウェウではなくエルミアが答えた。
「お、お父様は、認めた相手と言いますか...親しき男性を『婿殿』と呼ばれるのですよ」
完全に嘘である。
リングウェウがカオルを婿殿と呼ぶのは、将来カオルを息子に迎えると決めている為だ。
エルミアがカオルを好ましく思っている事も事前に手紙で知っているし、それに対してリングウェウもアグラリアンも認めている。
今回、突然の来訪であった為に歓迎の用意は出来ていなかったが、本来であればエルフの里を上げて大々的に歓迎セレモニーを行おうと思っていた。
当然、エルフの里に住まう民は全員知っているし、だからこそ、先日エルミアと一緒に現れたカオルに驚かなかったのだ。
「...本当に?」
エルミアが焦っている様に見えたカオル。
不審に思い顔を向けると「ほ、本当です」と答えながら目を逸らし、母親のアグラリアンに助けを求めた。
「カオルさん。本当ですよ。リングウェウ王は覗き魔ですが、人を見る目は確かです。それに、先日カオルさんは私達を助けてくださいました。私もカオルさんを認めています。打算の無い、良い目をしていますね」
嬉しそうに将来の義理婿を見詰める母親。
エルミアの言葉を補完するように話す。
覗き魔の一言は、間違い無く先日判明した悪行であり、許していない証拠でもある。
(...シルフ様....この怨みは、一生忘れませんぞ)
カオルに差し出された夕食を食べて、満足そうに姿を消した風の精霊王シルフ。
シルフによって、過去の悪行をバラされ、威厳を失ったリングウェウは一生恨み続けるだろう。
「わかりました。アグラリアン王妃がそう言われるなら信じます。エルミア。疑ってごめんね?」
「いえ。お父様が悪いのですから、仕方がありません」
しれっと悪役を押し付けられたリングウェウ。
もう父親としての立場すら危うい。
朝食後、カオルは1人、世界樹の上へとやってきていた。
昨日作った料理を持って、風の精霊王シルフを訪ねたのだ。
「シルフ。聞きたいことがあるんだ」
「モグモグ....うん?なんだい?」
料理を食べながら、シルフは聞いた。
カオルがエルミアに内密にしたのには理由がある。
今からシルフに聞こうとしている事は、3つの事。
『心良き神々の行方』
『風竜の救出方法』
『四竜の住処』
シルフはカオルの相談を聞くと、眉を顰めて悩む素振りを見せた。
一介の個人。
ただの人間に教えるには、あまりにも危険過ぎる内容。
もちろん、全ての質問に答えられるシルフではないが、この世界の原初より存在し、『心良き神』や『異形の者』と共闘したシルフには、知識がある。
「....カオル君は、それを聞いてどうするつもりだい?」
訝しげにカオルの顔を覗き込む。
口元に付いた唐揚げの油が、キラリと光った。
「...全部知りたい訳じゃないよ。ただ....ボクは以前、1人の神に出会ってるんだ」
シルフはうろたえた。
カオルが発言した『ボクは以前、1人の神に出会っている』という言葉に、言い様も無い不安を覚えたからだ。
「カオル君。誰に...会ったのかな?」
恐る恐るカオルに問い掛ける。
俯いた顔には影が射し、その表情を窺い知ることは出来ない。
「あれは、エルヴィント帝国の北方にある、地下迷宮。精霊文字の書かれた台座に、ボクが手をかざすと扉が開いたんだ」
虚空を見詰めながら、カオルは話し出す。
あの人物に出会った時に起きた事を、事細かに説明した。
「あの人は、ボクを『待ってた』って言ってたよ。それと、ボクには『使命がある』とも言ってた。シルフは知ってる?ボクの使命について....」
シルフは悩んだ。
カオルが言う『あの人』とは誰なのか。
大蛇のせいで、この世界樹から動く事が出来なかったシルフは、変貌してしまった現在のこの世界の地理について詳しくは無い。
エルヴィント帝国の北方にある、地下迷宮が、いったいどこの事を指しているのか、皆目見当もつかない。
だが、精霊文字の台座には心当たりがある。
なぜならば、精霊達が紡ぐ言葉を、文章に書き記した物なのだから。
「....カオル君の使命について、ボクは知らない。もう一度聞くけど、その神の名前は?」
「....ウェヌス。愛と美の女神、ウェヌスだよ」
シルフは驚愕とした。
ウェヌスについて、シルフは知っている。
むしろ、知っているなんてものではない。
数千年前に、『堕落した神々』を倒した『心良き神々』の中に、ウェヌスが居たのだから。
そして悪夢が甦り、この世界の行く末を想像し、絶望した。
(また、あの時の様な、残酷で凄惨な出来事が起きるのだ...)と。
「....そうなんだ...ウェヌス様が......」
シルフは押し黙った。
昨夜見せた、お喋りで気まぐれの精霊の姿はそこには無い。
何も話さず思案する1人と1精霊。
シルフは黙々と料理を口にした。
何かに急かされる様に....
むしろ、そうする事でしか、この雰囲気から逃れる術はなかったのかもしれない。
やがて、料理は食べ終わる。
カオルはジッと待っていた。
シルフが料理を食べ終わり、話しを有耶無耶に出来ない様に。
ジッとこの時を待っていた。
「...カオル君。全ての問いに、ボクは答えられないんだ。正確には知らない事もある。でも....それでも答えなきゃいけないかい?」
答えたくないとばかりに、シルフは告げた。
カオルの使命が何なのかは解らない。
だが、天界の1柱を担うウェヌスがカオルと接触したという事は、やはりそれなりの理由があるのだろう。
もしかしたらシルフの杞憂なのかもしれない。
でも、もし。
もし、この世界の破滅を示唆するものであるのならば、自分は全力で止めなければならない。
そのために、何千年も世界樹を守り続けてきたのだから。
「知っているなら教えて欲しい。ボクは、知らないところで家族に危険が迫るなんて、絶対に嫌だ!」
カオルは、強い口調で話した。
カオルにとって『家族』とは、この世界よりも、自分の命よりも大切なものなのだから。
(ああ....そうだね....カオル君はそんな醜い人間じゃなかったね)
シルフは思い出した。
カオルに助けられた事を。
自分の代わりに大蛇を退けてくれた事を。
(ボクはなんて失礼なんだろう....)
「いいよ。ボクの知っている事を教えよう。カオル君の大切な家族を、君の手で守るといいよ」
こうして、シルフは自らの知識をカオルに伝えた。
大蛇をずっとこの場に押し止めていたシルフには、それほど多くの知識は無かったが、カオルは有益な情報を得た。
『心良き神々』の行方についてはまったくわからなかった。
でも、夢神『モルペウス』の力が宿った『オニロの宝珠』ついて、知り得る人物を教えて貰った。
それは、四竜が1人『土竜王クエレブレ』である。
カオルは、(繋がった)と思った。
敬愛する『風竜王ヴイーヴル』に、手が届くと。
「でもね、カオル君。地図を見せて貰ったけど、そこに今でも土竜が居るとは限らないからね?ボクの情報は古いんだ。大体、土竜は直情的なバカだし、会えたとしても、話を聞いてくれるなんて思えないんだけどね」
散々説明をしてくれたシルフ。
土竜に関してだけは、口を尖らせて不満気に話しをしていた。
それを聞いたカオルは、クスリと笑みを零す。
『精霊王達』は数千年前の戦争で、『堕落した神々』や『堕天使達』を倒すべく『心良き神々』に協力をした。
そして、もう1勢力。
精霊達と同じ様に、この世界の原初より存在し『心良き神々』に協力した者が居る。
『異形の者』
そう呼ばれた彼らは、大きなトカゲの姿に、大きく広い両翼を持ち、鋭い牙を生やした者達であった。
後に彼らはこう呼ばれる。
上級竜種『四竜』と。
『心良き神々』は、精霊と四竜の協力のおかげで、この世界を守る事に成功する。
そして、僅かに残った人間を集め、肥大化した文明を一度捨てさせ、新たな種族を次々に作り出した。
あれから数千年。
ようやく世界は均衡を取り戻したかに思えた。
だがそこへ、カオルが現れた。
ウェヌスと出会い、カオルはかの神に告げられた。
「自分の使命に気付いていない」と。
カオルには、まったく身に覚えのない事であった。
「時が来ればわかること」と言われても、心配になってしまうのは仕方がないだろう。
さらに、カオルが考えたのは魔族の事である。
あの吸血鬼は、大陸北部にあるアルバシュタイン公国を滅ぼし、隣国のババル共和国だけではなく、カオルが済むエルヴィント帝国にまでも毒牙を伸ばした。
狙いすました様なタイミング。
関係ないとは思いつつも、カオルは危惧していた。
「....カオ...く.....カオル...くん.....カオル君!!」
唐突に、カオルの意識は引き戻された。
余計な事を考えていたカオルは、眼前までやって来ていたシルフに驚く。
「ご、ごめんね。ちょっと考え事してた」
申し訳無さそうに頬を掻く。
シルフは頬を膨らませて「まったく、せっかく人が話しているっていうのに!!これはアレだね!!追加の料理を所望しないとダメだね!!」と、まるでカオルの良く知る『残念美人』の様な事を言っていた。
「ふふ....(シルフがなんだか師匠みたいな事言ってる)」
ついつい可笑しくて笑ってしまったカオル。
シルフは何の事だかわからずに、両手を前で組んで眉間に皺を寄せ、怒ってますよ!というポーズを見せた。
「ああ、そうだ。ねぇシルフ。料理で思い出したんだけど、このエルフの里の料理って食べた事ある?」
カオルは、今朝出された質素な料理を思い出す。
粒状の穀物を押し潰して作ったであろうオートミールと、新鮮な葉野菜。
夕食には近場の森で取れたであろう、肉料理も出るとリングウェウは言っていた。
「うん?見ていたから当然知っているけど、それがどうしたんだい?」
「アレって、もしかしてシルフがずっと前にそうするように言ったんじゃない?この森は豊かだし、近場に魔境もある。食料に困る事は無いと思うんだけど....」
カオルに言われてシルフは思い出した。
ずっと前に、自らが言った言葉を。
「自然と共に生き、外界との接触を避けるように」と。
「ああ、うん。そんな事も言ったような....」
カオルから目を逸らしてうろたえるシルフ。
カオルは、(やっぱり)と思いながら、シルフを憎々しげに見やった。
「アレさ。無かった事にしてくれないかな?ボクの我が侭なんだけど、もう少し食事くらい好きに食べてもいいと思うんだ」
カオルは、努めて冷ややかに話した。
「食事とは、生きる糧であり、安らぎのひとときである」と。
「それを奪ったシルフは、どれだけ罪深く浅はかである」と。
まるで神の様にシルフを諭す。
「だから、やめてくれるかな?」
「わ、わかったよカオル君。だから、それ以上ボクを苛めないでくれるかな?」
「別に苛めているわけじゃないよ?ボクは、食事という物がどれほど大切か話しているだけなんだからね」
シルフは思った。
(カオルは怒らせてはいけない人間なんだ)と。
(ウェヌス様がカオルに課した使命とは、もしかしたら、大陸全土の精霊達や、国家を相手に説教をして周るものではないか)と。
(まさか....ね)
苦笑いをしつつ、カオルの意見を全て取り入れた。
文化については、素晴らしいという話し。
だけど、食事だけは好きにさせて欲しいという話し。
出来ればだけど、友好的な人間であれば、外界とも接触をして欲しいという話し。
「そんなところかな?それと、エルフの民全員が納得しないようなら、このままでもいいからね?ボクの我が侭だけど、押し付けたりはしたくないんだ」
最後にそう締め括るカオル。
完全に自己満足の域ではあるものの、言っている内容は素晴らしく、シルフにとっても頷けるものであった。
「わかったよ。それじゃぁ、カオル君が居ない間に、良く話してみようじゃないか」
満足そうにニンマリ笑うシルフ。
だが、カオルはその言い方が気になった。
「どういう事?まるで、ボクがどこかに行くような話し方だけど....エルヴィント帝国には、まだ帰らないつもりだよ?せっかくエルミアが帰ってきたんだから、もう少しここに居たいし」
「それは半分嘘だね。カオル君は今すぐにでも、風竜の話しを聞きに行きたいと思っている。それに、土竜に会うなら、カオル君1人で行かないとダメだからね。じゃないと会う事も出来ないと思う。そういうヤツなんだよ。あのバカな土竜は」
カオルは嘘を見抜かれていた。
カオルが持参した大陸地図に、シルフはある場所をマーキングした。
そこは、かつて『土竜王クエレブレ』が造り出した地下迷宮。
シルフの知らない数千年の間に、おそらく地形も変わり現在もそこに居るかどうかも解りはしないが、カオルは(今すぐにでも行きたい)と思っていた。
なぜなら、風竜に会いたいから。
自らを犠牲にして、カオルを救った風竜。
「必ず戻る」と手紙に書いて、風竜は居なくなってしまった。
カオルの前から。
カオルの中から。
「....シルフはすごいね。ボクの考えなんて、お見通しなんだ」
嫌味半分にカオルは告げた。
風竜を想い出し、瞳を潤ませて。
「行くなら、直ぐに行くといいよ。ここからなら近いし...カオル君が居ない間に、ボクはエルミア君に精霊魔法を教えてあげよう。ただし、約束してほしい。必ず帰ると」
シルフは、カオルの力量を正しく理解していた。
だからこそ、波長の合うカオルに大蛇の退治をお願いしたのだ。
それでも心配になる。
カオルはとても良い人間だ。
たった数時間話しただけだが、シルフにはわかる。
家族を何よりも大切にしているカオル。
あの『風竜王ヴイーヴル』が、唯一認めた人間。
「....うん。わかった。それじゃ、エルミア達に挨拶してくる」
カオルとシルフは向かった。
世界樹の根元にある、エルフ王の屋敷へと....
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