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第百四十七話 キス魔

キス描写あり。

というか、それしかありません....


「カオルの様子はどうだ?」


「今は、アイナとエルミアが側に着いてるわ。でも...ちょっと思い詰めてるみたい...」


 屋敷へと戻ってきたカオル一行。

 エルヴィント城を出てからというもの、カオルは一言も話さないでいた。


「決闘。か...」


 エルヴィント帝国には『決闘』という制度がある。

 主に、自治領が隣接する貴族同士のいざこざや、同格同士の爵位を持つ貴族が、言い合いで決着が着かない時に行われるものだ。


 だが、例外もある。


 上級貴族が、下位の貴族に対して申し込むのだ。

 自身の寄り子である下級貴族に横暴を働く、他の貴族が少なからず居るからだ。


「しかし、よくカオルはこの制度を知っていたな」


「これを読んだのでしょう」


 カルアが取り出したのは1冊の冊子だった。

 カオルが男爵を拝命した際に、アーシェラが渡した貴族の手引きとも言える冊子。

 貴族としての立ち居振る舞いから、予備知識。

 寄り親、寄り子についても親切丁寧に記載されている。


「アイナをバカにされて、相当頭にきたのだろうな」


「ええ。でも、カオルちゃんのことだから、アイナじゃなくても怒ったと思うわ」


 重々しい空気が、ヴァルカン達に圧し掛かる。

 カオルがあれほど激昂(げきこう)するのは、吸血鬼(アスワン)に続いて二度目だ。


(カオル...)


 馬車の中で、思い詰めた様子で一言も話さなかったカオル。

 おそらく、自分が仕出かしてしまった事で、ヴァルカン達に迷惑がかかると思っているのだろう。


「今夜は(みな)で共に寝よう。カオルを1人にするのはまずい」


「そうね。でも...不謹慎だけど、あの時のカオルちゃんは、とってもカッコよかったわ♪」


 張り詰めた空気を和ませようと、カルアはわざとおどけてみせる。

 家族の中では、ムードメーカー的な立ち位置にいるのだ。


「確かにな。とても凛々しくて素敵だった」


「ええ♪」


 カオルが居るであろう私室の方角を見詰めて、ヴァルカンとカルアはお互いに笑い合った。











 一方、当のカオルは自身の私室でベットに横になり、天井を見詰めていた。

 エルミアがカオルに膝枕をし、アイナがカオルに寄り添う様に横になっている。


(ボクは....)


 カオルは少し後悔をしていた。

 アイナを奴隷と言い、バカしたヘルマン。

 思わず『決闘』と口にしてしまった事で、家族に迷惑が掛かると思っていたからだ。


(ボクは、本当に浅慮で浅はかな人間だ)


 静かに目を閉じてあの時の光景を思い出す。

 ヴァルカンと楽しく踊っていたはずの自分が、気が付いたら身知らぬ男にアイナをバカにされていた。

 大人へと姿を変えたカオルは、断片的に記憶が飛んでいる事にようやく気付き始めていた。


(前に、お酒を飲んだ時もこうだった。気が付いたら朝になってて、師匠達がどこか他人行儀になってたんだ)


 オナイユの街でも、ここ帝都でも、カオルがお酒を口にすると記憶が飛んでしまう。

 その間、まさか自分が淫靡な野獣へと姿を変えているなんて、今のカオルは知りえない。


(たぶん、この丸薬には副作用があるんだ。ボクがお酒を飲んだ時みたいな...)


「ねぇ、エルミア」


 慈しむようにカオルの頭を撫でていたエルミアに、カオルは声をかけた。


「なんでしょうか?カオル様」


「ボク、お酒を飲むとどうなるの?」


「え...?」


 突然カオルから投げられた質問に、エルミアはなんと答えて良いかわからなかった。

 まさかカオルが酔うと淫らになるなど、到底言えたものではない。


「か、カオル様がお酒を飲むと...素敵になります」


「素敵になるの?」


「は、はい」


「どういう風に?」


「えっと...」


 お茶を濁そうとしたエルミアだが、執拗(しつよう)に聞いてくるカオルに、益々なんと答えて良いのかわからない。


(どうしましょう...酔うとエッチになります。なんて私の口から言えないですし...)


 エルミアが困り顔をしていると、アイナが助けに入る。


「ご主人。さけのむ?」


「うぅん。飲まないよ。ボクはまだ子供だから」


「そう」


 いくらノンアルコールとはいえ、子供がお酒を口にするのはいけない事だ。

 怒りに任せて、何度も飲んでしまっているカオルには、言えた義理はないと思うのだが...


「それで、エルミア。ボクはどう素敵になるの?」


 カオルは諦めなかった。

 お酒と『蜃気楼(シムラクルム)の丸薬』には、間違い無く繋がりがある。

 記憶が飛んだ事からそう確信していた。


「か、カオル様がお酒を口にすると....き、キス魔になります」


「え?」


 エルミアがなんとか捻り出した答えは、『キス魔』だった。

 確かにこれならば、あまり問題は無いのかもしれない。


「それって、誰にでもキスしちゃうの?」


「い、いえ。私達だけです」


「そうなんだ....じゃぁ、さっきは踊りながら師匠にキスしたの?」


「とんでもない!」


「それっておかしくない?ボク、あのヘルマンとかいう人と言い合う前の記憶が、あまり無いんだけど...」


「それは...その....き、キスの手前まではしそうでした」


「そうなんだ....でも、ボクはみんなにキスした事あるよね?」


「は、はい」


「じゃぁ、特に問題無いよね?家族同士のキスって、普通するし」


「え?」


 カオルが答えた言葉に、エルミアは絶句する。

 いくら家族同士でも、10歳を超えた身で唇を重ねる事などありはしないはず。


「あ、あの...」


「ご主人。きす」


「ん?アイナもしたいの?」


「うん」


「じゃぁ...」


 鼻同士を擦り付け合う『スメルキス』。

 カオルは、2~3回ほどアイナの鼻に自身の鼻を擦り付けると、頭を優しく撫でて笑顔を作る。

 アイナは満足したのか、カオルの横で目を瞑ると、瞬く間に寝息を立て始めた。


(可愛いなぁ...こんな妹が欲しかったんだよね)


 クスリと笑みを零すカオル。

 そこへ、エルミアの聞き迫る声が。


「か、カオル様!私もしたいです!!」


 目の前で交わされた、愛くるしい2人の口付けに、エルミアまでもが名乗りを上げた。


「いいよ。おいで、エルミア」


 カオルは右手をエルミアの首に回し、顔を近づける。

 間近に迫る2人の顔が重なると、触れ合う唇が微かに奮えた。


(え!?これ...くち..びる...)


 瞼を閉じるカオル。

 アイナと同じ様に、鼻を擦り合わせるのかと思っていたエルミアは、予想外の出来事に、涙を浮かべてそっと瞳を閉じた。


「んっ...んん...ん...」


 『プレッシャーキス』という口を閉じたまま押し付け合うキスから、徐々に口を開き、舌を絡ませる『フレンチキス』へ。

 いやらしくねっとりとしたお互いの舌が、離れたくないと言葉を告げる。


(これ...蕩けちゃいます....)


 上気する頬に、唇の隙間から漏れ出る熱い吐息。

 側にアイナが居るはずなのに、カオルは既に壊れていた。


「んっ...にゅちゅ...はぁ....エルミア。もっとしよう....いいだろう?エルミア...」


 何度もエルミアの名前を呼び、艶かしくも両手を首に回す。

 逃げられないエルミアは、脳を蕩けさせてカオルとの情事に身を任せる。

 再び重なるお互いの唇。

 エルミアとカオルは口を開き、隙間ができない状態で、舌を吸い合い絡ませ噛み合った。


『カクテルキス』


 お互いを求め合う2人は、甘い空間を作り出す。

 やがてエルミアが身体を痙攣させると、クタっとベットに崩れ落ちた。


 そこへ...


「ね、ねぇカオル。だいじょう...な、ななな、何してるのっ!?」


 カオルを心配してやってきたエリー。

 ベットの上で横になるエルミアとアイナを見つけて、驚愕の表情を浮かべた。


「やぁ、エリー。こっちへおいで...」


 艶かしく身体をしならせるカオルが、エリーをベットへ(さそ)う。

 普段とはまったく違うカオルにうろたえたエリーは、立ち竦んで言葉も出ない。


「怯えているのかい?それなら...」


 カオルは身体に風を纏い、一瞬のうちにエリーの背後を取ると、エリーの身体を抱き上げベットへと(いざな)った。


(えっ!?うそ!?なんで私いつの間にベットに!?)


 あまりの早業にエリーが驚くが、淫獣と化したカオルは容赦なくエリーの唇を貪る。

 有無を言わさず触れ合う唇。

 口腔内へと差し入れられたカオルの舌が、エリーの舌を探り当てる。


「ん!?....んんん!?んっ!」


 逃れられない程の激しいカオルの舌使いに、エリーはとうとう観念した。


(だめ...これ...はげしっ....)


 とめどなく送られるカオルの唾液。

 呼吸のできないエリーには、それを飲み込む事を強制される。


「ゴクッ...ン....」


 やがて、カオルがエリーの唇を開放すると、2人の唇から唾液がアーチを描きだす。

 酸素を求めたエリーが、全身を上下させて荒く呼吸を始めると、カオルはニヤリと口端を吊り上げた。


「エリー。今度はエリーのを飲ませて....」


「えっ!?」


 容赦なく重ねられた2人の唇。

 カオルはエリーの舌を絡めると、唾液を自身の口へと運ぶ。


(うそっ!?)


 驚くエリーを置き去りに、カオルはコクンとエリーの唾液を飲み込んだ。

 そして、再び荒々しくエリーの舌を絡ませると、ザラリとした舌肌を楽しむかの様に執拗に責める。


(だめ..これ....もう...だ....め....)


 エルミアと同じ様に身体を痙攣させ、エリーはカオルに屈伏(くっぷ)した。


「可愛いよ。3人共....」


 ベットの上で屍を晒すエリー・エルミア・アイナの3人。

 カオルは3人の頭をひと撫ですると、次の獲物(イケニエ)を求めて、私室の扉から屋敷の廊下へと向かって行った。












 翌朝。

 いつもの時間に目を覚ましたカオルは、屋敷の異変に気が付いた。


(あれ?みんなまだ寝てるのかな?)


 昨夜、アイナと『スメルキス』をしたカオルは、そこから先の記憶が無かった。

 そして、なぜか居間のソファで眠っていた。

 下着であるスリップの上に、白い長めのワイシャツを羽織っている様から、今は本来の子供の姿をしている。

 『蜃気楼(シムラクルム)の丸薬』の効果は切れたのだろう。


(えっと....)


 居間から食堂を覗きこむが、食堂はおろか、併設されたキッチンにも人影はない。

 ヴァルカン達ならまだわかるが、メイドのフランチェスカとアイナまでもが、まだ起きていない事実に、不安を覚えた。


(やっぱり...副作用があるんだ。エルミアはキス魔とか言ってたけど、それ以外にも何か....)


 心配になったカオルは、すぐ近くにあるフランチェスカの私室へと向かった。


「フラン?朝だけど...起きてる?」


 扉を何度も叩くが、中から返事は無い。

 少し迷ったカオルだが、そっと扉を開き中を覗きこんだ。

 そこには、普段のフランチェスカならばありえない、メイド服のまま涎を垂らして寝入っているフランチェスカの姿があった。


(よかった。寝てるだけみたいだ)


 ゆっくりとフランチェスカに近づくカオル。

 ベットのシーツを掛けてやり、ハンカチを取り出して涎を拭い取った。


(幸せそうに寝て...フランも可愛いなぁ)


 無防備に眠る女性の姿を眺めるなど、万死に値する行為なのだが、あまりの可愛さにひと時ほど見入ってしまう。

 やがて、物音を立てない様に気を付けながら、カオルは部屋を後にした。


 次に向かったのは隣の部屋。

 おそらくアイナが眠っているであろう場所。

 同じく扉をノックするが、返事は無かった。


(居ないのかな...?昨夜はボクの部屋に居たし....)


 不躾(ぶしつけ)ながらもそっと中を覗くと、案の定アイナの姿は無かった。


(やっぱり...それじゃぁ、ボクの部屋に行ってみようかな)


 アイナの部屋の扉を閉めて、カオルは自分の私室へと向かう。

 自分の部屋なのだから遠慮する事なく中へ踏み居ると、何故かフランチェスカを除く全員が、カオルのベットの上で折り重なるように眠っていた。


(なんで、ボクの部屋で寝てるんだろう....まぁ、大きいからみんなで寝れるし問題無いんだけど....)


 幸せそうに寝息を立てる家族達。

 エリーの尻尾が自由奔放に動き回り、隣で眠るカルアの足を撫でていた。


(これはもしや、チャンスでは...)


 イタズラ心に火が付いたカオルは、こっそりヴァルカンに近づき膝枕をする。

 どんな夢を見ているか知らないが、にやけた表情のヴァルカンは、寝返りを打ちカオルの太股へと顔を埋めた。


(そういえば、師匠のドレス姿はとっても綺麗だったなぁ...)


 先日見たヴァルカンのドレス姿は、カオルにとって衝撃的なものだった。

 普段は、赤い騎士服や麻のチェニックやズボンといった、あまり女性的な姿ではないので、余計に美しく見えたのかもしれない。

 ヴァルカンの美しい金色の髪を手で梳きながら、カオルはその姿を思い浮かべる。


「ん..んん?」


 カオルの柔らかい太股の感触に気が付いたヴァルカンは、ようやく目を覚ました。

 そして、寝起きで見た光景は、あまりにも甘美(かんび)なものだった。


(なんだこれは...)


 ワイシャツを羽織ったカオルは、その下に下着しか身に着けていない。

 白のスリップから伸びる足が、ヴァルカンの目の前にあったのだ。


(これはまさか!?)


 恐る恐る寝返りを打ち、顔を見上げる。

 そこには嬉しそうに目を細める、カオルの顔があった。


「か、カオル!?」


「おはようございます。師匠」


 驚くヴァルカンの頭を、カオルは何往復も優しく撫でる。

 大切な物に触れる様に。

 何度も、何度も撫でていた。


「....そろそろ、みんなを起こしましょうか?朝食の用意もしないと」


 カオルはヴァルカンにそう告げて、そっと頭をベットへ下ろす。


「みんなを起こして下さいね」とだけヴァルカンにお願いして、カオルはキッチンへと向かって行くのだった。


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