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第百四十二話 ヴァルカンの刀と副作用


 カオルは工房を出ると、あまりの眩しさに目を細めた。

 朝日はすっかり昇り、もしかしたらメイドのアイナとフランチェスカは起きているかもしれない。


(せっかくだし、このまま行っちゃおう)


 『飛翔術』を発動させ、2階のテラスに舞い降りる。

 周囲からは特に物音は聞こえない。

 もしかしたら、まだ誰も起きていないのかもしれない。

 そっとヴァルカンの部屋の扉を開けると、案の定まだ眠っていた。


 横たわるヴァルカン。

 くびれた腰から上向きに引き締まったお尻。

 金色の髪に朝日が当たり、いつも以上に煌びやかに見える。


(やっぱり、師匠は綺麗だなぁ.....)


 あまりの美しさに目を奪われ、カオルは一瞬呆けてしまう。

 慌てて頭を振り、邪な気持ちを吹き飛ばすと、抱えていた二刀をテーブルの上の(イグニス)の横へ置き、ヴァルカンへと顔を近づけた。


「師匠。朝ですよ。起きて下さい」


 ヴァルカンの頬に手を添えて、優しく声を掛ける。

 「んん...ん..」と身じろぐヴァルカンだが、仰向けになりまた寝息を立てた。


「師匠。起きないと....オシオキしますよ?」


 カオルが耳元で囁くが、ヴァルカンに起きる気配は無い。

 寝ている顔を見詰めていると、なぜかしっとりと濡れたやわらかそうな唇に魅入られる。


(.......おいしそう)


 カオルは、吸い込まれる様に、その禁断の果実を口にした。

 優しく、触れるだけの口付(キス)けから、舌と舌を絡め合わせる濃厚な口付(ディープキス)けへと....

 ヴァルカンの舌を絡め取り、そのまま激しく口内を犯す。


「ん....んちゅ、じゅぷ.....んん....」


 卑猥な音が室内に響き渡り、カオルの興奮をさらに掻き立てる。

 ドキン、ドキンと、心臓が声高に悲鳴を上げ、もう後には戻れないとばかりに唾液の交換を始めた。

 徐々に熱くなる吐息。

 ようやくヴァルカンも起き出して、カオルの舌と執拗に絡め合わせた。

 劣情の赴くままに、ヴァルカンからも舌を積極的に(うご)かし、カオルの口内を貪る様に舌が這い回る。

 やがて、カオルがいやらしく涎を糸引きながら離れると、ヴァルカンに向かってニヤリと笑った。


「起きたか」

 

 その声色は、普段のカオルのモノではなかった。

 淫靡で、とてもいやらしい情夫(じょうふ)の様な声。

 ヴァルカンは快楽からか、(トロ)けた目を開くと、眼前にあるカオルの顔を見詰めた。


「な.....」


 そこで、ヴァルカンは慌てて飛び起きた。

 朝から濃厚な情事を繰り広げたからではない。

 カオルが見た事も無い姿になっていたからだ。


「か...カオル!?」


 頭のてっぺんから爪先まで見回して、ヴァルカンはカオルに問い掛ける。

 カオルは首を傾げて自分を見やると、そこで気付いた。

 自身が『蜃気楼(シムラクルム)の丸薬』で成長した姿である事に。

 

「ああ、カオルだ?ヴァルカン...いやヴァル。さぁ続きをしよう」


 驚くヴァルカンの頬に指を這わせ、カオルはもう一度と言わんばかりに唇を重ねた。

 先ほどの口付(キス)けで、濡れそぼったヴァルカンの唇は、甘美と言えるほどに甘いものだった。


「んっ...んん....ちゅ....んちゅっ.....れろ」


 再び繰り広げられる、淫猥で淫らな2人の行為。

 普段とはまったく違う、カオルの情熱的な舌使いに、ヴァルカンは何度もその身体を震わせた。


(か...かおる......激しい.....)


 口腔内で合わさる2人の唾液が、口端へと溢れ出る程に、お互いに求め合う。

 1つになろうと。

 もう離さないと言うように。

 やがて、酸素を求めて2人の顔が僅かに離れると、カオルは妖艶に笑った。


「ヴァル。愛しているよ....さぁ...服を脱い.....」


 いざ行為に及ぼうとした時、『ポン!』と破裂音が響いた。

 驚いて目を見開くヴァルカン。

 破裂音と共にカオルの周囲から白い煙が立ち上り、カオルの身体は元の姿へと戻っていた。


「ケホッケホッ」


 煙に咳き込み涙目になるカオル。

 あまりにも突然の事に、ヴァルカンは啞然としていた。


「あれ...ボクは何を.....」


 驚いたのはカオルも同じだった。

 ヴァルカンを起こそうと、声を掛けてからの記憶がまったく無かったのだ。


「か、カオル....」


 呆然とカオルを見詰めるヴァルカンに、カオルは「あ、師匠。起きたんですね。おはようございます」と平然として微笑んだ。


(あの情事はいったいなんだったのか.....この火照った身体をどうしろというんだ....)


 ヴァルカンは、姿を変えたカオルの事よりも、先ほどの続きは無いのかと言いたそうだ。


「えっと...ちょっと待って下さいね」


 カオルはそう言うと、アイテム箱から小瓶を取り出し丸薬を口に放り込んだ。

 ほどなくして、カオルの身体が緑色の光に包まれ、先ほどの大人の姿へと変化する。

 ヴァルカンは何も言えず、ただ黙ってその光景を見ていた。


「どうですか?大人版のボクは。ちょっとはカッコ良くなりましたか?」


 自慢気にその場でクルリとターンを決めてみせるカオル。

 おまけとばかりにヴァルカンに向かってウィンクをした。


 腰まで届く艶やかな長い黒髪はそのままだが、キリッとした眉に整った顔立ち。

 スラリとした身体付きに、長い手足。

 元々中性的なカオルだが、今はどちらかというと男性的に見える。

 先ほどまで逢瀬(おうせ)を重ねていた、魅力的なカオルの姿に、ヴァルカンは胸をときめかせた。


(な、なんという...美青年...これがカオルの成長した姿なのか....やばい...カオルきゅんマジイケメン)


 シーツを捲くりガバッとカオル抱き付くと、そのままベットに押し倒す。


「カオルきゅん....もう離さないゾ!」


 ヴァルカンの理想に、今のカオルの姿はぴったりはまった。

 突然組み敷かれて慌てたものの、いつもの様にヴァルカンの胸に顔を埋める。


(はぁ...相変わらず良い匂い....バラの匂い袋は、どこに隠しているんですか?)


 鼻息荒く意識をどこかへ飛ばしてしまったヴァルカンを無視して、カオルはゴソゴソとヴァルカンの身体を(まさぐ)った。

 しかし、やはりどこにも匂い袋など存在しない。


(これは師匠の体臭なのかなぁ....でも、汗の匂いもちゃんとするんだけどな....)


 何度もクンクンと匂いを嗅いでいると、部屋の扉を叩いて、フランチェスカが声を掛けた。

 

「ヴァルカン様。もうすぐ朝食の用意ができますので、下りてきてくださいね」


 フランチェスカはそれだけ告げて、返事も聞かずに立ち去った。

 どうせこれだけでは起きないと知っているのだ。

 朝食が出来たら、後で誰かが呼びに来るだろう。

 それがいつもの『残念美人(ヴァルカン)』なのだ。


「師匠。ちょっと話があるので、どいてくれませんか?」


 カオルの上で、その身をくねらせるヴァルカン。

 目にはしっかりハートが描かれていた。


「はぁ...師匠...持ち上げますね」


 いつまでも退かないヴァルカンに、怒ったカオルはヒョイと持ち上げた。

 ヴァルカンと同じ身長となったカオルには、簡単に持ち上げられるだけの(ちから)さがある。

 ベットの上にヴァルカンを乗せ、そこへ座らせる。


「師匠。渡したい物があります」


 そう告げると、テーブルの上から二振りの刀を持ち出す。

 1本は、白銀雲(はくぎんうん)塗鞘に、漆黒の大乱刃(おおみだれば)二重(ふたえ)刃紋(はもん)の打刀。

 柄巻(つかまき)は鞘に合わせて白で(あつら)え、(かしら)(つば)(こじり)には銀の地金(じがね)で細工を施した。

 そしてもう1本は、紅漆(あかうるし)打刀(うちがたな)(こしら)えの(さや)に、白銀(ミスリル)直刃(すぐは)二重(ふたえ)刃紋(はもん)の打刀。

 柄巻や柄糸も赤で統一され、一見すると、ヴァルカンの愛刀(イグニス)見紛(みまご)うだろう。


「これ....は....」


 カオルから手渡された二刀をしげしげと眺め、ヴァルカンは顔を上げた。


「黒刀『ディメント』と白刀『フラマ』です。ボクの全てをその刀に込めました。受け取ってくれますか?」


 突然のカオルからの贈り物に、ヴァルカンは涙を零した。

 愛刀『イグニス』を失い、打ちひしがれていた自分に、カオルはこんな素敵な物を用意してくれたのだから。


「ありがとう...本当に....ありがとう」


 すすり泣くヴァルカンを、カオルはそっと抱き締める。


「ずっと...傍に居て下さい。師匠。大好きです」


 師弟2人が熱く抱擁を交わしていると、突然部屋の扉が開かれた。

 やってきたのはカルア。

 見知らぬ男性とヴァルカンが抱き合っているのを見つけると、大声で叫んだ。


「ヴぁ、ヴァルカン!?あなた、カオルちゃんという者が居ながら、部屋に男を連れ込むなんて!!」


 憤慨(ふんがい)するカルアの叫びが屋敷中に響き渡る。

 あまりにも大声だった為、騒ぎを聞きつけたエリーやエルミア、メイドの2人も「なんだなんだ」とやってきた。

 

「ちょっと!いったい何事よ!!」


「ヴァルカン!?なんてことを....」


「ヴァルカン様ひどい...」


「浮気」


 口々にヴァルカンを非難する家族達。

 カオルはゆっくりヴァルカンを離すと、カルア達に向き直った。


「ヴァルは浮気なんてしていない。ね、カルア。ボクが誰か、わからないかい?」


 そう言うと、カルアに近づき頬を撫でる。

 端整な顔立ちの美青年に見詰められ、カルアは頬を赤く染めた。


「え...ボクって.....その黒髪と黒目....カオルちゃんなの....?」


 驚いたカルアがカオルを見上げる。

 カオルはクスリと笑うと、カルアの耳元へ顔を近づけた。


「そうだよ。カルア。ボクはカオルだ。君はいつも美しいね」


 カルアの耳をアマガミし、そっと離れる。

 光悦とした表情を浮かべてカルアがその場へへたり込むと、カオルは次の獲物に獲りかかった。


「エリーならわかるだろう?ボクはカオルだ」


 抱き締めて身体をまさぐり、やがて猫耳を弄るカオル。

 エリーはそれだけで「はにゃぁ」と腰を砕けさせた。


「エルミア。君の髪はとても素晴らしいね。本当に綺麗だ」


 次はとばかりにエルミアに近づき、いやらしく銀髪を指に絡める。

 エルミアは顔を綻ばせながらカオルの胸に抱き付いた。


「ああ...カオル様....なんて、なんて素敵なお姿に.....」


「そうかい?エルミアも素敵だよ。それに、こんなに美味しい」


 耳をペロリとカオルが舐める。

 エルミアは体を痙攣させて崩れ落ちた。


 残りは2人。


 カオルの目が怪しく光る。

 あっという間にカルア達が倒れた事で、驚愕としたフランチェスカは、アイナを守るように立ちはだかった。


「ほ、本当にご主人様なのですか!?み、見た目が違いすぎます!!ご主人様はもっと可愛らしいお方です!!」


 カオルの事を尊敬しているフランチェスカ。

 カルア達にいやらしい事をした今のカオルを、信用できてはいなかった。


「フラン。ボクはカオルだ。この目を見ればわかるだろう?ほら、よ~く見てごらん....」


 フランチェスカの目を自身へと向けさせ、全てを見透かす様にジッと見詰める。

 カオルの黒水晶の瞳に射抜かれ、フランチェスカが動けないでいると、カオルは1歩前へ近づいた。


「怯えなくていいんだ。フラン。君はボクの物なんだから」


 魅力的なカオルの命令に、完全に落ちたフランチェスカは「ひゃい」と答えた。

 やはりドMか。


 最後に残ったアイナ。

 トロ顔を見せるフランチェスカの後ろから歩み出ると、カオルと対峙した。


「ご主人。ごはん」


 そう言うと、カオルの袖を掴んで引っ張る。

 お腹が空いたから早く朝食を食べたいようだ。


「アイナ.....あれ?アイナ?ボクはいったい.....」


 アイナの一言でなぜか正気に戻ったカオル。

 アイナは尚もこう言った。


「ご主人。ごはん」


 いったい何が起きたのか理解出来ないカオルは、とりあえずアイナに着いて行く事にした。


「あ、うん。ご飯食べようか。って、そんなに引っ張らなくても大丈夫だよ。ほ、ほら。走ると危ないよ!」


 アイナは、カオルを引っ張り廊下へと連れ出す。

 「はやく。はやく」とカオルを急かし、2人は1階の食堂へと向かう。

 死屍(シシル)(イルイ)々となった家族達を残して。











 カオルとアイナが和気藹々と朝食を始めた頃、ヴァルカン達はやっと1階の食堂へとやってきた。

 全員が全員、頬を赤く染めて。


「あ、みんな遅かったね。フラン。このスコーン美味しいよ。クルミを入れたんだね」


 何事も無かったように食事をしているカオル。

 その隣で、アイナが「おいしい」とニコニコ笑顔になっていた。


「な、なぁカオル。今はなんともないの...か?」


 恐る恐るカオルに問い掛ける。

 先ほどのカオルは幻だったのだろうか。


「師匠。なんともないって、どういうことですか?よく覚えてないんですけど」


 カオルには、痴態を繰り広げていた記憶がまったく無い。

 それもそのはず、『蜃気楼(シムラクルム)の丸薬』にはある副作用がある。

 微々たるものではあるが、服用する事により体内の一部、主に肝臓の働きが活発になり、あたかも『酔った』状態になるのだ。

 一時的とはいえ、お酒の免疫の無いカオルには、これは身体に大きく負担がかかる。


「そ、そうか...それならいんだ。忘れてくれ」


 カオルが首を傾げつつも、アイナと楽しく食事を再開すると、ヴァルカン達は声を潜めて話し合った。


「これは....カオルが飲んだ変な薬のせいだと思うんだが、どうだ?」


「そうね。間違い無さそう」


「おねぇちゃんもそう思います」


「はい。間違い無さそうです」


「そ、そうなのですか。でも、あの時のご主人様は、本当に素敵でした...」


「ああ、それは異論は無いな。今のカオルはとても魅力的だ」


「う、うん。ちょっと私もドキドキしたし...」


「カオルちゃんって、将来あんな美青年になるのねぇ」


「いえ、その事で、話さなければならない事があるのですが」


「どうしたエルミア。畏まって」


「実は、カオル様に霊薬『エリクシール』を飲ませた時に、風竜様はこう仰いませんでしたか?『その霊薬に血を与え幼子(カオル)に呑ませるのだ』と。これは伝承として伝えられている話なのですが、エリクシールにエルフの血を混ぜ合わせる事で、エルフの力を分け与える事が出来るそうです」


 神妙に語るエルミア。

 ヴァルカンは一度呻り、驚いて顔を上げた。


「エルフの力とは....まさか!?」


「精霊の加護。ですね?」


「はい。カルア姉様」


「しかし、カオルは元々精霊の姿を見ることが出来たのだぞ!?それなのに、なぜ加護などを....」


「推測ではありますが、もしかして、エリクシールを飲んでから、カオル様の力は強くなっておりませんか?『レクイエム』や『歓喜の歌』カオル様は、精霊に愛され過ぎていると思うのです」


「なるほど....しかし『歓喜の歌』とはなんだ?私は知らないのだが...」


「おねぇちゃんも知りません」


 以前、カオルがエリーとエルミアの為に白銀(ミスリル)で防具を作った事がある。

 その時エルミアが見たのが、『歓喜の歌』だ。


「私とエリーの防具を作った時に、カオル様の前で精霊達は歌いました。それが『歓喜の歌』です」


「そんなことが.....」


 エルミアの説明に、驚愕とする一同。

 何の話をしているのか、フランチェスカにはわからなかったが、なんとなくすごい事を話しているのはわかった。


「それで、今のカオルの姿と、精霊の加護がどう通じるのかわからんのだが....」


「わからないのですか?ヴァルカン。精霊を見ることだけが、精霊の加護ではないでしょう?」


 ヴァルカンの問いにカルアが答える。

 精霊の加護とはつまり....


「そうか!成長が止まるということか!!」


「正解です。おそらくカオル様は、あの可愛らしい姿から、成長する事はないのです」


 エルミアがそう説明すると、カルア.エリー.ヴァルカンの顔を一巡見回す。

 フランチェスカもやっとどういう事か理解したようで、驚いて目を見開いていた。


「そ、それはどうなんだ....カオルは背が高くなりたくて、毎晩こっそり牛乳を飲んでいるんだぞ」


「あ、私も見た。お風呂上りに、腰に手を当ててゴクゴク飲んでたわ」


「そうですね。カオル様は必ず牛乳をご所望されます」

 

 口々にカオルの懸命な努力を暴露する一同。

 カオルがこの世界に来て1年以上。

 まったく伸びない身長に、せめてもの悪あがきをしていたのだ。


「それで、そうする?この事をカオルに伝えるのか?私は無理だぞ?カオルが可哀想すぎる」


「おねぇちゃんも出来ません。カオルちゃんの悲しい顔なんて、見たくないもの」


「え?私!?ムリムリ!!カオルに嫌われたくないし....」


「もちろん私にも出来ません。傷心のカオル様をそっと優しく...とも考えましたが、嫌われたくはありませんので」


 家族が無理と判断すると、フランチェスカに視線が集まる。


「ひゃ!?わ、私ですか!?」


「うむ。従者だろう。主人を(たしな)めるのも、仕事のうちではないか?」


 あきらかな責任転換。

 嫌われ役をメイドに押し付けた。


「だ、大丈夫じゃないでしょうか...ああして素敵な大人の姿に成れるんですから、無理に成長しなくても.....」


 アイナと楽しく食事するカオルを指差し、フランチェスカは妥協案を提示した。

 問題を先延ばしにしただけの様に思えるのだが。


「そ、そうだな!無理に言う必要はないな!!」


「おねぇちゃんもそう思います」


「そうよ!いざとなったら風竜に押し付ければいいわ!!」


「確かにそうですね。カオル様にそうするように言ったのは、風竜様でした」


 なんとか難を逃れたフランチェスカは、ホッと胸を撫で下ろした。


「アイナ。口にスープが付いてるよ」


「ご主人。とって」


「はいはい」


 仲睦まじくアイナの口元からカオルはナプキンを使いスープを拭い取る。

 その姿は兄弟の様に見える。


「おねぇちゃん。なんかあの2人。仲良すぎじゃない?」


「エリーちゃん。私も今そう思っていたの」


「はい。ちょっと距離が近すぎるように思います」


「あ、アイナはまだ子供ですし...」


 目を吊り上げ鬼の形相を見せるエリー.カルア.エルミアの3人。

 フランチェスカはアイナの心配をしていた。


 そこへ....


「カオル!!くっつき過ぎだぞ!!!」


 ヴァルカンが吠えた。

 我慢できなかったようだ。

 キョトンとするカオルとアイナ。

 ヴァルカンは一足飛びに近づくと、カオルの隣の席を陣取った。

 

「さぁカオル!あーんをするんだ!!」


 自分もイチャイチャする事を選んだヴァルカン。

 (『残念美人』め....)とカオルが思うのも仕方がない。


「ずるいわ!カオルちゃん、おねぇちゃんにもあ~んして!!」


「私も私も!!」


「カオル様。口移しでもいいです」


「じゃぁ...その...私もお願いします。ご主人様....」


 慌しくなる朝の食事。

 カオルは(しょうがないなぁ...)と思いつつも、家族達を楽しい時間を過ごした。


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