間話 師匠回想 その九
エロ描写につきご注意を・・・
(あぶなかった.....)
カオルとの剣劇が終わり、夕食を食べながらヴァルカンは戦闘を思い出していた。
(あそこで剣が折れなかったら、負けていたんじゃないだろうか...)
弟子の目を見張るような成長に、師匠のヴァルカンは驚いていた。
以前風竜がリッチとの戦闘で『本来のカオルの力』を見せてくれていなければ勝つ事は出来なかったかもしれない。
(魔法や鍛冶の腕はとっくに抜かれているんだ。この上さらに剣まで抜かれたら...カオルは師匠なんて呼んでくれないんじゃないだろうか...)
焦るヴァルカンに、一抹の不安が過ぎる。
(まてよ....剣で負けたら、カオルきゅんに婿入りして、私は安泰なんじゃないだろうか?)
戦闘の熱も冷め『残念美人』モードのヴァルカンに、師匠としての思考は持ち合わせていない。
(だが、そうなるとカルア達が邪魔だな....)
同盟を結んだはずのカルア達も『残念美人』モードでは、邪魔者扱いなのだろうか?
そして、当のカルア達は、カオルに不満を言っていた。
「カオルちゃん。おねぇちゃんは悲しいです!なんで演武の事を、教えてくれなかったんですか!!おねぇちゃんは、ずっと治療所に居たから見てないの!!」
プンスカ怒りながら不満をぶつけるカルアに、カオルは苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。
「カルア姉様。先程から言っているように、カオル様は、急遽出るようにアーシェラ様から言われたのです。あまりカオル様を攻めないでください」
エルミアがカオルを擁護するが、カルアの怒りは収まらない。
「そんな事はわかってるけど!!それでも、おねぇちゃんだってカオルちゃんの勇姿を見たかったの!!」
そこへ、エリーが割って入る。
「おねぇちゃんいい加減にして。カオルは悪くないってわかってるんなら、許しなさいよね。まったく...いくつだと思ってるのよ」
エリーの言葉に、カルアの時間が止まった。
家族の中で、27歳という最高齢のカルアに、年齢の話しは禁忌なのだ。
「バキッ」という音が辺りに響く。
驚いて目を向けると、カルアが持っていた木のスプーンが2つに割れていた。
「エリーちゃ~ん....『いくつ』って、どういう意味かなぁ~.....」
カルアの鬼の形相に、カオルは怯え、エリーは尻尾を逆立てた。
「ち、ちがうのよ!つい口が滑ったの!!」
失言を弁明しようと口を開き、エリーはドツボに嵌る。
「『口が』『滑った』って、どういうことかしら~?それってつまり、前からそう思っていたってことよねぇ~?」
カルアの怒りは限界を越えた。
「ゴゴゴゴゴ...」と、まるで、火山が噴火する前触れのような音を鳴らし、カルアが立ち上がると、エリーは脱兎のごとく素早さでその場から逃げ出した。
「まちなさーーーい!!!今日と言う今日は、絶対に許しませんからねーーー!!!!!」
逃げ回るエリーを、追い掛け回す鬼神カルア。
掴まるのも時間の問題だろう。
(か、カルアが怒るとあんなに怖いんだ....)
普段温厚なカルアの、あまりの豹変振りに、小刻みに身体を振るわせるカオル。
ヴァルカンとエルミアが両側から優しく抱き締めて慰めた。
(ああ...カルアナイスだ。カオルきゅんの匂いクンカクンカ)
(ペロペロ...カオル様の髪、ホント美味しいです)
混乱に乗じて、さりげなく自分の欲求を満たす2人が居た事を、カルアは知らない。
カルアに掴まり、自分の天蓋へと連れて行かれたエリーを見ながら(がんばれ)とヴァルカンは心の中で応援する。
「心配なので見てきます」
エルミアはそう言い、2人が入って行った天蓋へと向かった。
急に人数が減り、焚き木の前にはカオルとヴァルカンの2人だけになると、カオルが話し掛けてきた。
「師匠、ちょっと着いて来てくれますか?」
願っても無いカオルからのお誘いに、ヴァルカンは大喜びで飛び付いた。
「おお、なんだカオル?どこへでも着いて行くぞ?」
「では...」と前置きをしてから、カオルはヴァルカンの手を引いて歩き始める。
(な、なんだ、カオル....いつになく積極的じゃないか.....)
「ドクンドクン」と鼓動が高鳴り、期待と興奮から鼻血が出そうになる。
そして、辿り着いたのは、カオルとヴァルカンの天蓋だった。
(ま、まさか!!初夜か!!初夜なのか!?)
既に鼻先まで鼻血が出掛かっているヴァルカン。
「ズズズッ」と鼻を啜り、なんとか堪えていた。
「師匠、ここへ座って目を瞑って下さい」
地面に敷かれた、革製の敷物へ座るようカオルが促す。
ヴァルカンは限界寸前だった。
(これは間違いない!!!つ、ついにカオルきゅんと......初夜を!!!!!!!)
ドキドキしながら、その場に座ると、目を瞑ってジッと待つ。
(い、いつでも.....来い!!!!)
ヴァルカンが覚悟を決めたその瞬間、頭を優しく撫でられた。
(あれ?カオルきゅん.....焦らしプレイか?まさか、そんな高等技術を....)
薄く目を開けると、カオルは嬉しそうにヴァルカンの頭を撫でている。
(待ってくれ。カオルきゅんよ、なぜそんなに嬉しそうなんだ?あれか?これから始まる事を期待して、そんなに笑顔になっているのかい?)
しかし、カオルは頭を撫でる以外、まったく進展する気配はない。
あれから1時間ほど、カオルは未だヴァルカンの頭を撫でていた。
(へ、ヘビの生殺しとは、こんなにも酷い仕打ちなのだな.....)
カオルとの初夜を期待し、興奮を続けていたヴァルカン。
あまりの焦らしっぷりに、とうとう音を上げた。
「...カオル。これは....いったいなんだ?」
憔悴しきったヴァルカンに、艶やかな肌をしたカオルが答える。
「これはオシオキですよ?師匠、ボクに演武を押し付けましたよね?」
カオルから発せられた信じられないような言葉に、ヴァルカンはガックリとうな垂れた。
(お、オシオキだとぉぉぉぉ!!!初夜は!?ねぇ初夜じゃないの!?)
初心なヴァルカンには、自分の口から『初夜』という単語は出せない。
まして、こんなに嬉しそうに頭を撫でているカオルに「やめろ」などと言う事も出来なかった。
(うぅ....期待した私がバカだった......)
落ち込むヴァルカンを、カオルは見逃さなかった。
(ちょっとやりすぎちゃったかな?)
オシオキをし過ぎたと勘違いしたカオル。
(しょうがないなぁ)と思いつつ、ヴァルカンの耳元へ顔を近づけると、優しく耳をアマガミし、舐め回した。
「...ハムッ....ぴちゃ...じゅる.....」
突然襲われる快感に、ヴァルカンは目を見開く。
(カオルきゅんに舐められてる!?)
逃げられない様に両手をヴァルカンの首に回すと、優しく包み込むように抱き締める。
やがて、耳から首筋へ、そして口へと場所を移し、カオルの舌がヴァルカンの口内へと辿り着いた。
「んっ....」
カオルの執拗な攻めに、ヴァルカンは心を躍らせる。
(ああ...カオルきゅん....気持ちいいよ.....)
絡み合う舌と舌。
カオルの求めるような舌使いに、ヴァルカンの脳は蕩けて行く。
(カオルきゅ~ん....はにゃぁ...)
名残惜しそうに口を離すと、カオルは優しく微笑んだ。
「師匠....大好き」
顔を真っ赤に染めて、呼吸を整える事すら忘れ、カオルは何度目かの告白をする。
だが、既に脳が蕩けて、トロ顔を晒しているヴァルカンには、その言葉は届かなかった。
崩れるように革製の敷物へ倒れこみ、そのまま寝息を立てる。
(可愛い人だなぁ...)
カオルは、ヴァルカンの隣に座り、頭を膝の上へと誘うと、子供をあやす様に撫で始める。
(師匠、ずっと一緒ですよ)
可愛らしいヴァルカンの姿に、カオルは満足そうに笑みを零した。
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