第百十四話 信念
金属音が止んだ事で、戦闘が終了したと判断したファルフは、カオルの下へと降り立った。
「カオル様!!」
ルーチェが慌てて飛び降りると、カオルへ抱き付いた。
「る、ルーチェ!?」
カオルは抱き付くルーチェを慌てて引き剥がすと、ルーチェは自分が行った行為に気が付き、耳まで赤くして俯いた。
(び、びっくりした....)
突然抱き付かれて驚くカオル。
ルーチェは恥ずかしながらも、チラチラとカオルを見やった。
そこへ、レイチェルがおずおすとお礼を述べる。
「あの....助けていただいて、ありがとうございます」
カオルは、突然抱き付いたルーチェのせいで、完全に忘れていた2人を思い出した。
「い、いえ。無事で良かったです」
レイチェルに向き直り、会釈をするとルーチェが驚いた。
「あれ!?剣騎レイチェル様!?それに剣騎セスト様まで!?」
慌てた様子で名前を叫ぶ。
剣騎と呼ばれた2人も驚いていた。
(ほぇ...この2人も剣騎なんだ....どうりで強いと思ったんだよね)
カオルは、2人が持つ巨大な武器を見て感心していた。
「あ...初めまして、香月カオルと言います」
名乗るのを忘れていたカオルが、ペコっと頭を下げて挨拶をすると、剣騎の2人はより一層驚いた。
「香月カオルって、じぃさんが言ってたヤツじゃねぇか!?」
セストが驚きそう叫ぶと、レイチェルはセストの頭を思い切り叩いた。
「ヤツなんて言い方するんじゃないわよ!」
セストは、叩かれた頭を擦りながら涙を流す。
「初めまして、剣騎のレイチェルと言います。こちらは同じく剣騎のセスト。お会い出来て光栄です」
レイチェルの凛々しい答礼に、カオルは緊張した。
(すっごい丁寧な挨拶だなぁ....それにしても、頭大丈夫かな?ものすごい音がしたけど)
未だ頭を擦るセストに、同情にも似た感情を抱く。
「カオル様、いつまでもここに居るのは....」
ルーチェにそう促され、カオル達はその場を移動した。
剣騎の2人とルーチェをファルフに乗せて、カオルは『飛翔術』で追随する。
(ファルフと並んで飛ぶなんて、初めてだなぁ...)
隣を気持ち良さそうに飛ぶファルフに、カオルは笑みを零した。
「なぁレイチェル」
ファルフの背中でセストは小さく呟く。
「なによ...」
「カオルって、じぃさんが言っていた通り、めちゃんこ可愛いんだな」
セストの物言いに、半ば呆れつつ同意する。
「そうね....貴族連中が熱を上げるのもわかるわ」
「しかもなんだよあの強さ。反則だろ」
セストの言い分は正しい。
カオルの見た目は言うに及ばず、その戦闘力も人外の強さを有している。
(たしかに....私達があれだけ苦戦していた魔物を、魔法を使ったとはいえ、一瞬で倒すなんて....)
レイチェルは、空を飛ぶカオルを横目に、ふと気付く。
(魔法.....そうよ魔法よ!あの子、魔術師なのに剣も使ってなかった!?)
「セスト、あの子の剣の強さ、どう思う?」
レイチェルの質問に、セストは首を傾げる。
「剣の強さ?ん~どうだろ。ものすげぇ綺麗だったとしか覚えてねぇや」
求めていたものとは違う答えに、レイチェルは呆れた。
(はぁ...そうだった。こいつはこういうヤツだった)
そんな会話が成されていたとは露とも知らず、カオルはファルフの足にぶら下がり遊んでいたのだった。
カオルが剣騎の2人を連れて陣へと戻って来ると、苦虫を噛み潰したような顔をしたヴァルカン達が待ち構えていた。
「カオル、ちょっとそこへ座りなさい」
いつもの、男らしいヴァルカンではない声色に、カオルは困惑した。
(あれ...なんか師匠がいつもと違うんだけど....何かあったのかな?)
ヴァルカンに指定された場所へ座ると、隣に居たエリーが話し始める。
「カオル。あのね.....ごめんなさい!」
潔く謝るエリーに、何の事だか忘れているカオルは首を傾げる。
(何についての謝罪なんだろう....何かあったっけ?)
不思議そうな顔をしているカオルに、エリーは畳み掛ける様に話す。
「今朝ね。カオルを起こしに行ったら、寝惚けてたカオルが下着1枚の姿で居たの。しかも私に抱き付くし、良い匂いだったしそれで私、突然の事だったから不機嫌になって....朝、あんな態度を...」
エリーの言葉を聞き、顔を真っ赤にしてカオルが慌てる。
「ちょ、ちょっと待って!!それ以上言わないで!!!恥ずかしいから!!!お願いだから!!!」
アワアワ慌てるカオルの姿に、ヴァルカンはクスリと笑みを零す。
「それで、カオル。エリーと仲直りをするなら、カオルも謝罪した方がいいんじゃないか?そもそも、カオルが寝惚けてさえいなければ、喧嘩なんて起きなかったんだからな」
ヴァルカンのもっともな意見に、カオルはすぐさま従った。
「エリー。ボクの方こそ、ごめん。寝惚けていて本当に覚えていないんだ。まさかそんな事があったなんて....ごめんね」
カオルが深く頭を下げると、ヴァルカンは満足そうに頷く。
「よし、これでいいな。まったく、カオルは普段、喧嘩なんてしないから、私達は慌てたんだぞ」
心の底から安堵するヴァルカン。
(ああ、だから師匠の雰囲気がおかしかったのか....あれ?ボクが寝惚けてた時、師匠はまだ眠っていたよね)
カオルはその事に気付き、ヴァルカンを問い詰める。
「師匠。ボクが寝惚けていた時、寝てましたよね?助けてくれても良かったんじゃありませんか?」
軽蔑するようなカオルの瞳に、ヴァルカンはタジタジになる。
「いや、待てカオル。カオルが寝惚けていたのが問題なんだろう?そんな、私が悪いみたいな言い方をするな」
そこへ、エリーが参戦する。
「そうよね。カオルが寝坊するなんて事、中々無いもの。師匠として、ヴァルカンが普段からしっかりしていれば、こんな事にはならなかったんじゃない?」
弟子の2人に裏切られ、ヴァルカンは窮地に追い込まれる。
(やばいぞ....いつの間にか、私が悪いみたいな空気だ)
どうしたら良いものかと頭を抱えたところで、後からやって来たグローリエルが話し始めた。
「まぁ、カオルとエリーが喧嘩したおかげで、このバカ2人が無事だったんだけどな」
グローリエルはそう告げると、セストとレイチェルの首元を持ち上げる。
「グローリエルの姐御!そんな言い方しなくたっていいじゃねぇか!!」
「お姉様、私は悪くありません。全て、この方向音痴のセストのせいです!!」
「なんだよ!裏切るつもりか!!」
「裏切るって何よ!!全部あんたが悪いんでしょ!!」
「なんだと!?やろうってのか!!」
「ええいいわよ!!あんたの喧嘩なら、いくらでも買ってやろうじゃないのよ!!!」
まるで夫婦漫才のようなやり取りに、グローリエルは頭痛を覚えた。
「いいかげんにしろ!お前達は剣騎なんだぞ!!兵士や騎士達の見本となる者が、そんな情けない姿でどうする!!あと、姉扱いするな!!!」
グローリエルが一喝すると、ルチアとレイチェルは濡れ鼠の様におとなしくなった。
(グローリエル...ものすごくカッコイイけど、普段のグローリエルは、ものすごくだらしないよ)
突然繰り広げられた寸劇に、呆気に取られていたカオルだが『残念美人』のグローリエルを知っているだけに、そこまで感銘を受ける事はなかった。
「まったく...カオル。危ないところを助けてくれたんだってね?ルーチェから聞いたよ。2人に代わって感謝するよ!ありがとう」
感謝を述べて、ニコッと笑うグローリエルに、不覚にもカオルはドキリとしてしまった。
(....ちょっと師匠に似てたかも)
グローリエルの中に、最愛の師匠であるヴァルカンの面影を見たカオル。
カオルが頬をほんのり赤く染めた事に気付いたヴァルカンは、嫉妬で怒り狂いそうになっていた。
(おのれぇ...グローリエルめ!カオルきゅんからコートを貰ったばかりか、一瞬でもトキメかせるとは....私は絶対許さんぞ!!!)
怒りに燃えるヴァルカンに、普段から家族を観察していたエルミアだけが気付いていた。
「それで、戻ってきたばっかりで悪いんだけど、さっそく軍議を始めたいんだ。ババル共和国軍と合同でやる事になってるから、カルアとヴァルカンの2人を連れて、先に行っててくれない?」
グローリエルはそう言うと、返事も聞かずに2匹の濡れ鼠を連れて行った。
おそらく、折檻と仕事が待っているのだろう。
がんばれセスト。
負けるなレイチェル。
2人の未来は、きっと明るいはずだ。
ヴァルカンは盛大な溜息を吐くと、カオルと連れ立って『アベール古戦場』中央に設置した、簡素な陣へと赴いた。
随行するのは、カムーン国の元剣聖ヴァルカンと聖騎士教会の治癒術師兼宣教師カルア。
(なんだか、いつの間にかボクが主要人物に数えられているのはどういう事なんだろう...本隊が来たんだよね?将軍とかいないの?)
何故かこの場に行くようグローリエルに言われ、納得のいかないカオル。
(師匠とカルアはわかるよ?肩書きがすごいし。でもボク、男爵だよ?五等爵の中で最下位だよ?軍議なんて、見た事も聞いた事もないよ?)
困惑するカオルに、ヴァルカンは優しく声を掛ける。
「カオル。何を悩んでいるのか大体わかるが、これも勉強だ。貴族らしく立ち振る舞うのも、必要な事だぞ?」
そう言いながらカオルの小さな手を握ると、指を絡める。
(師匠...言ってる事とやってる事が違いすぎませんか?)
ヴァルカンの顔を見上げると、目尻を下げて嬉しそうにしていた。
(だめだ....『残念美人』モードだ)
隣に居るカルアに助けてもらおうと、振り返る。
カルアは、何を勘違いしたのかニコリと笑うと、空いているカオルの手を握り、顔へ引き寄せた。
(え...?)
あまりにも自然な動作に、カオルは一瞬何が起きているのかわからなかった。
すると「ちゅ」と、音を立てて掌に口付けるカルア。
(えっと....あれ?)
カルアの行動に気付いたヴァルカンも、同じ様にカオルの手に口付ける。
(はい?何これ?)
目の前で両手にキスをされるカオル。
なぜこうなったのか理解も出来ず、ただ呆然と立ち尽くしていた。
そこへ....
「何をしておるのじゃ....」
突然アーシェラが現れ、ヴァルカン達を冷ややかに見詰める。
それに気付いたヴァルカンとカルアは、慌ててカオルから手を離し苦笑いを浮かべた。
「なんで陛下がここに?」
ヴァルカンが問い掛けると、アーシェラと一緒にやって来たらしい、グローリエルが答える。
「ババル共和国との正式な調印をするために、来てもらったんだよ」
グローリエルが意地悪そうにそう告げると、アーシェラが笑う。
「フハハハ!驚いたじゃろう?まぁ、わらわもカオル達には驚かされたがの。まさか、こんなにも早く停戦に持ち込むとは...いったいどんな手を使ったんじゃ?」
アーシェラの楽しそうな様子に釣られ、カルアも嬉しそうに笑みを零していた。
「なんだなんだ?ずいぶん楽しそうじゃないか」
陣を取り囲む垂れ幕を潜り、2人のヒューマンの男性がやってきた。
1人は昨日会ったババル共和国軍の副官であるユーグ。
もう1人は、赤いマントを翻した恰幅の良いまさに紳士的な男性。
(だれだろう...)
カオルは不思議そうに首を傾げると、成り行きを見守った。
「なんだもう来たのか?デュドネよ」
アーシェラはそう言うと、嫌そうな顔をした。
「まぁまぁそう言うなアーシェラよ。我とそなたの仲ではないか」
馴れ馴れしくアーシェラと話す、デュドネと言う人物。
紳士的な中に、どこか女々しさを感じる。
「おお、この者が黒巫女か!うむ!!とても可愛らしいではないか!!そうであろう?ユーグよ」
ユーグはそう質問されると、頭を垂れる。
「はい元首様。カオル様は可愛らしいだけではなく、強さと優しさも兼ね備えております。先日の戦闘では、兵士一同、大変感謝している次第です」
「うむうむ!」
満足そうに頷くデュドネ。
「なにが感謝じゃ!そもそも事の発端は、お主が元老院を纏めきれぬから起こったことなのじゃろう?その謝罪はしっかりしてもらうからの!!」
デュドネとユーグのやり取りに、アーシェラが怒り出した。
「いや、アーシェラの言う通りだな。不甲斐ない我のせいだ。このたびの事は謝罪しよう。すまなかった」
デュドネが頭を下げると、ユーグもそれに従う。
アーシェラはウンウンと頷き、テーブルを囲むように設置されていた椅子へと促した。
「改めて挨拶をしよう!我は第24代ババル共和国元首デュドネ・シ・フェルだ」
姿勢良く椅子に座り、威厳ある名乗りをした。
(元首かぁ....共和国の一番偉い人だ.....)
テーブルの片隅に、借りてきた猫状態で座るカオル達。
目の前のやり取りを、ヴァルカンに言われた通り、貴族的振る舞いを心掛けて眺めていた。
「わらわは第18代エルヴィント帝国皇帝アーシュラ・ル・ネージュじゃ」
2人が名乗り終える。
懐から3枚の羊皮紙を取り出した。
先日カオルとカルア、ジョゼフが認め調印した停戦協定書だ。
「まずはこの協定書だが、概ねこの概案通りに調印したい。この場にいない将軍ジョゼフは、今朝将軍の座を剥奪したため、今回は同席させていない。いやぁ、ヤツは元老院の肝いりでな。おかげで色々やり易くなった。ハッハッハ!」
デュドネが笑うと、ユーグが嬉しそうな顔をした。
(いや...おかげでとか言われても....)
懸命に貴族を演じていたカオルだが、デュドネの明け透けにものを言う姿に、僅かながら呆れていた。
「まったく....元首じゃったら、元老院ぐらい抑えこむ器量をみせたらどうじゃ!」
アーシェラが注意するが、デュドネの態度は変わらない。
「相変わらず物言いがキツイな、アーシェラは。昔みたいに、愛を囁く様に言ってくれてもいいんじゃないか?」
デュドネがウィンクをすると、アーシェラは体を振るわせる。
「そんな事実は無いじゃろうが!!なんじゃそのナヨナヨした態度は!!そんなんじゃから、元老院のじじい達に良いように言い包められるのじゃぞ!!!」
怒るアーシェラ。
隣に座るグローリエルは、大欠伸をしていた。
(グローリエル....さっきはあんなにカッコよかったのに....『残念美人』になってるよ)
カオルがやれやれと肩を竦めると、ヴァルカンも欠伸をしていた。
(『残念美人』どもめ....)
「それで、今回のこの戦争はアルバシュタインとババルのどちらから仕掛けた事なのじゃ?」
ようやく始まる核心的な話し。
『残念美人』の2人は、話半分に居眠りを始めていた。
「ああ、それはアルバシュタインが先に仕掛けて来たんだぞ?隣接する我が都市『コルドナ』に兵を差し向け、あっという間に乗っ取ったのだ。コルドナの民達は無残にも惨殺され、非業の死を遂げたらしい」
デュドナは悲痛な面持ちで話しを持ち出し、ワザとらしく拳を振り上げテーブルへ叩き付けた。
(ものすごく演技臭いんだけど....)
カオルは、デュドナの態度をいぶかしげに見ていた。
「そうじゃったのか...じゃが、アルバシュタインとババルは、不可侵条約を結んでいたのじゃろう?そのおかげで、ここ何十年も戦らしい戦は無かったはずじゃ。どうやら、アルバシュタインが魔族の手に落ちたとういうのは、本当の事のようじゃの」
アーシェラが眉を顰めると、デュドナは捲くし立てる。
「そうらしいな。既に、隣接する他の都市や村々には軍を差し向けてある。このままアルバシュタイン城へ乗り込もうかと思っているのだが、良ければアーシェラにも共闘してほしい」
突然の提案に、アーシェラは即座に断った。
「それは出来ぬな。エルヴィントは自国の防衛はするが侵略はせぬ。カオルとの約束もあるしの」
アーシェラがカオルに向き直りそう告げる。
(え?なんでボク?あれかな?リアに言った話かな?でもあれは、ボク達は侵略の手助けはしないって意味だったんだけど....)
注目されて困惑するカオル。
そこへカルアが割って入った。
「その通りです。優しいカオルちゃんが『侵攻はしない』と言いました。だからこそ、ヴァルカンと私達はこの場に来たのです」
カルアが堂々と話すと、デュドナはカオルを見詰める。
「う~む....そうなのか。しかし、黒巫女はホントに美しい。どうだろうか、我がババル共和国に腰を据える気はないか?」
場違いな勧誘に、アーシェラがまたも怒り出す。
「突然何を言っておるのじゃ!!カオルはエルヴィントの貴族じゃぞ!!指一本でも触れれば外交問題にしてくれる!!!」
庇う様に叫ぶアーシェラ。
(ちょっとカッコイイな)などと思ってしまったカオルは、乙女なんじゃないだろうか?
「残念だ。実に残念だ。それにしても、相手は魔族。しかも『吸血鬼』と聞いておる。『マーショヴァル王国』の二の舞にならねばよいのだが....」
そこで持ち出される『吸血鬼』と『マーショヴァル王国』という2つの言葉。
たった1人の魔族の力で、1国が滅びた事を知るアーシェラは悩んだ。
「うぅむ....しかし.....」
エルヴィント帝国の長たるアーシェラに、軽率な判断は出来ない。
そして、カオルもまた悩んでいた。
(どうするんだろう?助けたい気持ちもあるけど、家族の皆を危険に晒したく無いしなぁ....)
本音を言えば行きたい。
人間を魔物に変えて苦しませるなんて、カオルにとっては耐えがたい事だ。
だが、カオルは1人ではない。
思い出されるヴァルカンの言葉。
「カオル。私達の事を心配したんだろうが、同じように私達もカオルを心配しているんだぞ」
この言葉は、カオルの心に深く突き刺さった。
(師匠...みんな....ボク、どうしたらいいの?)
答えの出せないカオル。
歯痒さからか、膝の上で強く拳を握ると、不意に温もりを感じる。
驚いて顔を見上げると、ヴァルカンとカルアが、そっと手に触れていた。
「カオル。我慢しなくていいんだぞ?」
「カオルちゃん。おねぇちゃんはわかってるから。だから、自分の心に正直になりなさい」
2人の優しさに、カオルは触れた。
「....ありがとう」
小さくお礼を呟く。
家族から勇気を得て、カオルはその場に立ち上がる。
「アーシェラ様。ボク達がアルバシュタイン城へ行きます。どうか、力を貸してください」
凛然としたカオルの態度に、アーシェラも、いや、この場に居た全ての者が驚き、感銘を受けた。
鋭く、確固たる信念を秘めたカオルの瞳。
アーシェラは身震いをした。
(身体が...震えてる。私、感動しているのね.....リア。貴女の想い人は、とってもステキな人よ)
アーシェラは口端に笑みを浮かべると、カオルの提案を受け入れた。
「うむ!ならば、全面的にエルヴィント帝国はカオルを支援する!これならば、ババル共和国と同盟を結ぶ必要も無いからの!!侵攻ではなく、危機を未然に防ぐ為。いわゆる防衛じゃ!!」
満面の笑みを浮かべ、誇らしげに胸を反らせるアーシェラ。
こじつけではあるが、カオルが言っていた本来の防衛という意味を、広い意味で捉えたのだろう。
「う~ん....利発的で賢く決断力もある。その上、我が1000人の軍を、たった6人で防ぎ切る力もあるのか....これは益々欲しくなるな」
デュドナがいやらしく笑うと、カオルの背筋に悪寒が走った。
(気持ち悪い....いや、キモイ)
カオルが気味悪そうにした事により、デュドナは増長した。
「ハハハ...良い顔だ。黒巫女よ。ホントに我が国来るつもりはないか?」
再びの勧誘に、アーシェラはついに憤慨した。
「デュドナよ。此度の戦の賠償金は、たっぷりいただくからの.....国が傾かんよう、祈っておくのじゃな」
アーシェラの言葉に、デュドナは慌てる。
「ちょっとまて!!別に負けた訳では無いだろう!?」
「ほう....戦闘を放棄したのはそちらの方じゃ。しかも、特使も送らんかったし名乗りもしなかったと聞いておる。非があるのはどちらか....明白ではないかの?」
アーシェラが切った2つのカードにより、ぐうの音も出ないデュドナは、顔面蒼白になりその場にうな垂れた。
(すごいな...さすが師匠が女狐と呼ぶだけはあるね)
策士らしく場を収めて、アーシェラは満足気に微笑んだ。
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