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第百七話 2匹のヘビと小さな獲物

一部エロ描写があります。

不快な方は最下段を読まないようご注意下さい。


 それからの2日間は慌しく過ぎた。

 事前に皇帝アーシェラの命にて、商業ギルドはアルバシュタイン公国とババル共和国の渡航を停止していて、それほどの騒ぎにはならなかった。

 問題は冒険者ギルドだ。

 エルヴィント帝国から『緊急クエスト』が発令され、帝都中が慌しくなった。

 本来であれば、冒険者のエリーはそれに従わなければならないのだが、状況が状況なだけに、アーシェラから手を回して『特別任務』を与えて貰った。

 帝都は、普段の活気を一回り大きくした騒ぎになり、多くの冒険者達がその身を振るわせた。

 一攫千金を夢見る者。

 恐怖に怯える者。

 そして、戦場となるであろう、故郷の家族や友人を心配する者。

 大勢の思惑の中、カオル達は戦闘の準備を行っていた。


「ご主人様、料理はこれで最後です」


 メイドのフランチェスカはそう言い、器に盛られた料理をカオルに差し出した。


「ありがとう、フラン」


 カオルはお礼を言い、アイテム箱に料理を仕舞っていく。

 隣では、天蓋(てんがい)や毛布、カンテラなどの宿泊用品を、ヴァルカンとカルアが手分けして確認していた。

 そこへアイナがやって来て、オレンジを差し出す。


「ご主人、これ」


 カオルはそれを受け取ると「ありがとう、アイナ。大事に食べるね」と、優しく微笑み掛けてお礼を述べた。

 はにかんで笑うアイナと、心配そうに見詰めるフランに、カオルは1枚の羊皮紙を手渡す。


「ボク達がいない間に何か困ったことがあれば、それを魔術学院に居るアゥストリに渡して。そうすれば手を貸してくれるから」


 2人にそう告げると、手渡されたフランチェスカが涙を溢す。


「わ、わかりました。どうか...どうか!ご無事で!」


 泣き出すフランチェスカとアイナを抱き寄せて、カオルは頭を撫でる。


「大丈夫だよ。師匠やカルアやエリーやエルミアも一緒だから。すぐに帰ってくるよ。そうだ!帰ってきたら、また果物のタルトを一緒に作ろうね♪」


 カオルはそう告げて2人をなだめると、それを見ていたヴァルカン達も、優しい笑みを浮かべた。

 3人のアイテム箱に、全ての荷物を仕舞い準備を終えると、タイミング良くグローリエルが迎えに来た。


「準備は出来てるかい?それじゃ行こうか」


 グローリエルに案内されて、お城へと向かう。

 屋敷の門まで見送りに来ていたフランチェスカが「お屋敷は私とアイナが守りますからご心配なく!!」と大声で叫んでいた。


(まったくフランは...兵士さんがいるから大丈夫なのに)


 カオルは、遠ざかって小さくなる2人のメイドを見詰めながら、クスリと笑顔を見せていた。

 石畳の大通りを抜けて、帝都中央に(そび)える城までやってくると、城門前にアーシェラとフロリア、アゥストリに近衛騎士団員達がカオルを待っていた。

 まさかの出来事に、カオル達は驚いた。

 アーシェラがカオルとヴァルカンの前までやってくると、粛々と壮行会(そうこうかい)は開始される。


「カオル、ヴァルカン、そして、共に戦う(みな)よ。ありがとう。第18代エルヴィント帝国皇帝アーシュラ.ル.ネージュ、ここに集う(みな)に感謝する」


 アーシェラがそう告げ、(こうべ)を垂れると、その場にいた近衛兵やフロリア、アゥストリが同じ様に頭を下げた。


(なんか...すごいことになってますよ師匠....)


 隣のヴァルカンを見上げると、感慨(かんがい)深そうに頷く。

 アーシェラが下がり、近衛騎士団長のレオンハルトが前へ出る。


「黒巫女様。俺様も後から行きますから待っていてください。それと!ベルとは別れたので、戻ってきたら一緒に食事で...あべし!?」


 話の途中でヴァルカンの放った水平チョップに、レオンハルトは首を刈られて崩れ落ちた。

 (うずくま)ってピクピクと身悶えるレオンハルトをだれも助けようとはせずに、今度は宮廷魔術師筆頭のアゥストリが前へ出てきた。


「カオル殿。この前は大変ご迷惑をお掛けしました。今回は共に戦えませんが、何かあればいつでも頼ってください。このアゥストリ。カオル殿のためならば、どんなことにも力を貸しますぞ!」


 力説するアゥストリに、カオルは笑みを零す。


「ありがとう。屋敷にメイドが2人居るんだ。もし何かあれば、手を貸してくれると嬉しい」


「わかりました!このアゥストリに、おまかせあ...」


 またしても話しの途中で割って入られる。

 皇女のフロリアだ。


「アゥストリ!話しが長いですよ!!カオル様。必ず...必ず帰って来て下さいね?お約束ですよ?」


 カオルが贈ったハンカチで、涙を拭う。

 わざわざ見せ付ける様にハンカチを持ち出したのは、どこぞの皇帝の差し金だろう。


「リア。きっと帰って来るから、そしたらみんなでタルトでも食べようね。メイドの2人とも約束してるんだ♪」


 カオルが笑うと、フロリアが一瞬眉をひそめた。


『メイドの2人』に反応したのだろうか?


 挨拶も済み、ヴァルカンが纏めると、騎乗したグローリエルを先頭にカオル達は向かった。

 エルヴィント帝国北部にある、アルバシュタイン公国とババル共和国の国境へと....











 帝都から3時間程の、草木の多い街道を進んでいた。

 皆それぞれ近衛騎士が用意していた馬に跨り、特に会話もなかった。

 2人を除いて。


「ねぇ師匠?」


 馬に乗れないカオルは、いつもの様に師匠であるヴァルカンの前に座っていた。


「なんだ?」


 ヴァルカンは器用に右手でたずなを握ると、馬を操っている。

 

太股(ふともも)触ってますよね?」


 カオルの問い掛けに、ヴァルカンは(とぼ)けた。


「いや、たまたま触ってしまったんだろう。すまないな、カオル」


 ヴァルカンはそう言い、明後日の方向を向いた。

 カオルは自分の脚へと目を落とす。

 あきらかにヴァルカンの左手は、カオルの太股に触れていた。

 というよりも、揉んでいる。


(師匠のウソツキ....)


 ここで、これ以上注意すれば、慌てたヴァルカンに驚いて、馬が暴れるかもしれない。

 そうなれば、乗っている事しかできないカオルは危険に晒される。


(絶対わかっててやってるよね...この『残念美人』め....)


 呪詛(じゅそ)を込めた目で見つめて、不快感を伝えるが、当のヴァルカンは口笛を吹いて気にも留めていない。

 溜息をひとつすると、カオルは現実逃避を選びファルフを呼び出した。


「『ファルフ』」


 カオルに呼び出されたファルフは小鳥の姿で現れると、馬の頭やカオルの手を行ったり来たりと飛び回った。


(やっぱり可愛いなぁ...)


 ファルフの可愛らしい仕草に、カオルは口端を緩める。

 ボーっと眺めて癒されていると、不意にファルフが飛び立ち、カオル達の前を進むエリーの猫耳の間に止まって寛ぎ始めた。


(あれ....戻って来ない?)


 ファルフに手を振り、名前を呼ぶが帰って来ない。


(と...とられた!?)


 唯一の癒しをエリーに取られ、打ちひしがれるカオル。

 エリーは、突然やってきた小鳥に、咥えていたパンを千切って与えていた。

 ファルフが戻らなかったのは、エサに釣られただけなのは言うまでもない。

 ガックリと肩を落とすカオル。

 ヴァルカンは、相変わらずカオルの太股を揉みしだいていた。











 そこから数時間後、カオル達は以前宿泊した、魔境近くにある村の宿屋へ来ていた。

 グローリエルとヴァルカンに続いてカオルが扉を潜ると、宿屋の店主は怯え始めた。


「こここここれは、よよよよよようこそおいでくださいまままました」


 アワアワ慌てる主人にカオルがクスリと笑うと、店主は気を失って倒れた。


(あれま...どうしよう)


 そこへ、カウンターの奥から奥さんらしき女性がやってきて、店主の介抱をする。


「ちょっとアンタ!何こんなところで寝てるのよ!!お客様が来たんでしょ!?」


 ビシバシ頬を叩かれるが、店主はまったく目を覚まさない。


「まったく...役立たずなんだから」


 奥さんは、横たわる店主を放置すると、カオル達を部屋へと案内してくれた。

 以前とまったく同じ部屋。

 違うのは、ベットが1つ増えて、カオルとヴァルカンとカルアが同室になったくらいだろう。

 羽織っていた外套を脱いで、1階にある食堂へと向かう。

 夕食もそこそこに、これからの作戦を話しあった。


「それでは、まず聞きたい事がある」


 ヴァルカンが発言し、皆は静かに話しを聞く。


「グローリエル、2人の剣騎はいつ合流するんだ?」


 ヴァルカンに問い掛けられたグローリエルは、咥えていた骨付き肉を器に戻す。


「ああ、セストとレイチェルは昨日出発して、海沿いからここへ合流する予定だよ。近衛騎士団と冒険者達と同じ、明後日には到着するんじゃないかね」


(ふむ....ということは、明日1日は私達だけというわけか)


「偵察に出ている蒼犬(そうけん)から、既に敵が進入したという報告は来ていないな?」


「ああ。元々この戦争は、アルバシュタイン公国とババル共和国の(いさか)いだからね。帝国としては、降り掛かる火の粉は~って感じさ」


 グローリエルはそこまで話すと、器から骨付き肉を掴み取り再び咥えた。


(まぁそうだな...)


 ヴァルカンは懐からこの辺りの周辺地図を取り出すと、テーブルに広げる。


「わかった。では地図を見てくれ」


 その地図には3つの国が描かれていた。

 エルヴィント帝国は大陸の西側。

 アルバシュタイン公国は大陸北側。

 ババル共和国は大陸北西側。

 それぞれの国境は、巨大な山々が聳え立ち、袂は断崖とも呼べる程の絶壁となっている。

 ヴァルカンはその合流点を指差す。

 

「おそらく、戦場となるのはここだろう」


 そこは『アベール古戦場』

 数十年以上前に、隣接する多数の国々が戦争を行っていた場所。


「侵攻してくるとすれば、かなりの大人数になるはずだ。通れる道はここしかない」


 ヴァルカンがそう説明すると、グローリエルも頷く。

 というよりも、本来はこの説明もエルヴィント帝国の剣騎であるグローリエルがしなければならないのだが、ヴァルカン以上に自由奔放な彼女に、こんなことをさせるのは酷な話しだろう。


「山を越えてくるって事はないの?」


 エリーの質問に、グローリエルが答えた。


「無理ってわけじゃないけどね。あの辺は、小型竜種『ワイバーン』の住処だからね。少人数なら気付かれずに抜けるだろうけど」


 カオルは『ワイバーン』の言葉に、心躍らせた。

 

(小型竜種って、風竜の小さい版みたいな感じかな?背中乗れたりしないかな♪ああ、見に行きたいな♪)


 どこかの剣聖に『長時間セクハラを受けて』落ち込んでいたカオルが、突然元気になった。

 そして、この中で一番長くカオルと接していた犯人...ではなく、家族はその理由に即座に気付いた。


「カオル。ワイバーンは獰猛(どうもう)な上に、群れで襲ってくるぞ。のんびり背中に乗るなんて余裕は無いと思うんだが...」


 カオルはそれを聞くと、ガックリ肩を落とした。


(うぅ....ファルフもフサフサで良いんだけど、男の子としては、やっぱりドラゴンに跨るのに憧れるもので....)


 落ち込むカオルを、カルアとエルミアが優しく慰める。

 あきらかに、赤子をあやす様なやり方は、賛成出来ないものがあるが....


「ゴホン!話しを戻すが、援軍が到着するのは今日から2日後だ。今晩はここへ泊まるから、実質1日『アベール古戦場』を確保すればいい」


 ヴァルカンが纏め、その場に居た全員が頷いた。

 夕食もそこそこに、復活していた店主へ「明日は日の出と共に出発する」とヴァルカンが伝えて、各自割り当てられた部屋へと戻った。

 カオルは湯船にお湯を溜めて、1人で入浴をしていた。


(はぁ...温かくて気持ち良い)


 手足を伸ばして寛いでいると、ガタゴトと音を立てて何かをしている音が聞こえてくる。


(師匠とカルアは何をしているんだろう?)


 浴室と脱衣所の隣。

 ベットの置いてある部屋から聞こえる音に、カオルは嫌な予感を感じていた。

 身体を拭いて、寝間着にしている白のスリップに着替えると、長い髪をタオルで拭いながら脱衣所を出る。

 目に入ってきた光景に、カオルは言葉もでない。

 カオルの予感は的中していたのだ。

 増設されたベットが、備え付けのベットに寄り添う形に場所を移していた。


(....絶対3人で一緒に寝る気だ)


 先程の大きな音は、ベットの移動している音だったようだ。

 溜息を吐きつつ椅子に座ると、アイテム箱から櫛を取り出す。

 ヴァルカンとカルアは、いそいそと脱衣所へと消えて行った。


(まぁ、一緒に寝るのはいいんだけど....師匠とカルアのセットって、嫌な思い出しかないんだよね)


 それはオナイユの街で起きたこと。

 『濁った目』の男2人に絡まれ、落ち込むカオルをカルアが自宅に泊めた時の話し。

 朝、朝食を作り2人を起こしに寝室へと入ると、寝たふりをしたヴァルカンとカルアに、顔を舐めまわされ、さらに身体中を(まさぐ)られたのだ。


(あの時は貞操の危機を感じましたよ....)


 2人が入って行った脱衣所の扉を見詰め、カオルはもう一度溜息を吐いた。











 翌朝。

 朝と言うにはかなり早い時間に、カオルは目を覚ました。


(く、苦しい....)


 小さなカオルの身体を、4つの膨らみが両側から挟みこんでいたのだ。


(結局こうなるんですね)


 カオルは、なんとか抜け出そうと試みるが、今回の2人は以前よりも策士だった。

 並べられた2つのベットは、片側を壁に密着させ、唯一の出口には力の強いヴァルカンが立ち塞がる。


(抜け出せない!?)


 身を(よじ)り、抜け出そうとすればするほど、2人の力は強くなっていく。

 まるで、ヘビに絡まれた獲物のように....


(どうしよう)


 1人途方に暮れるカオルに、ヴァルカンとカルアはゆっくりと顔を近づけた。

 

 そして....


 両側からカオルの耳を舐め回す。


「ひゃっ!?」


 突然耳に侵入した異物に、カオルは可愛く悲鳴を上げる。

 それを開始の合図とばかりに、2匹のヘビは小さな獲物を蹂躙(じゅうりん)し始めた。

 耳朶(みみたぶ)をアマガミし、耳から頬まで舐め回すと、足を絡めて固定して、両脇から2本づつ触手と化した腕を伸ばした。


「し、師匠!?カルア!?起きてるんでしょ!?!?」


 寝間着にしているスリップの隙間から、4本の触手が侵入し、獲物の身体を蹂躙する事しか考えられない2匹のヘビには、カオルの言葉は届かない。

 やがて胸の突起に辿り着くと、触手の指先はねっとりと、じっくりと、(ねぶ)りだす。


(あっ!?これ...だ...め....)


 心臓は鼓動を速め、口から漏れる吐息には、妖艶な声が含まれる。


「はぁっ...あっ...んんっ.....ひゃっ...」


 頬を上気させてカオルが身悶えると、ヴァルカンとカルアの熱気が上がる。


(この...ままじゃ...ボク.....)


 乱れた呼吸のまま、カオルは起死回生(きしかいせい)の魔法を唱えた。

 それは『風の障壁』

 自身の中心を範囲とした、見えない壁。

 カオルの身体から急激に膨れ上がった風の壁に、カルアは壁に激突し、ヴァルカンは床へ転げ落ちた。

 

「はぁ...はぁ...はぁ...はぁ....」


 肩を大きく揺すって息をする。

 カオルは大急ぎでベットから抜け出した。


「....師匠とカルアの....バカーーーー!!!!」


 カオルは、枕を抱き締めながら部屋を出て行った。

 壁に額を打ち付けたカルアは、おでこを押さえながら立ち上がる。

 ヴァルカンも、同じ様に額を打ち付けたのだろう。

 おでこを赤く染めていた。


「やりすぎた....な」


「ええ。後でカオルちゃんに謝らないと....」


 2人はそう話し合い、カオルが泣きながら出て行った扉を見詰めていた。


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