第百五話 枝葉末節な話 その弐
以前にも登場したサブタイトルですが、読み方は枝葉末節と読みます。
意味は、主要でない部分。些細な部分。本質からはずれた些末なこと。
一応、わざわざ辞書を引くの面倒なので、記載させていただきました。
ここはエルヴィント帝国、帝都南西にある、魔境近くの森の中。
甲高い金属音を打ち鳴らし、2つの影が重なり合っていた。
「はぁはぁはぁ...」
樹木が鬱蒼と生い茂る中、1人の駆け出し冒険者である人間の青年が、猪のような頭で全身青い毛むくじゃらで2足歩行の魔物『オーク』と対峙している。
「グゥォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
オークが声高々に叫ぶと、呼応するかのように木々が葉を揺らしてざわめく。
風切り音と共に、振り下ろされる鉄製の両手斧。
青年は防御しようと盾を身構えるが、あまりにも強烈な一撃に盾ごと吹き飛ばされた。
「グハッ!!」
オークの渾身の一撃を喰らい、変形した盾。
青年はオークの攻撃をまともに喰らい、巨大な木へと打ちつけられた。
(このままじゃ...殺られる)
横たわる青年に、己の憎悪をぶつけようと、ゆっくりと歩み寄るオーク。
やがて自身の間合いまで近づくと、必殺の一撃を繰り出そうと、オークが両手斧を振り上げる。
(これまでか....)
青年が覚悟をした瞬間に、閃光が走った。
白と黒の鮮やかな光。
青年が背にしていた巨木の後ろから、一直線にオークの首元へと引かれる死線。
頭と胴体を割断され、ズシンと音を立てて崩れるオーク。
その傍には、刀を手にした1人の少女が佇んでいた。
艶やかな長い黒髪に、黒水晶を思わせる瞳。
白い騎士服に、白銀の鎧を纏った姿。
(美しい....)
表現力の乏しい青年には、それ以上の言葉は思いつかなかった。
少女は刀を鞘に納めると、青年に歩み寄った。
「だいじょうぶですか?」
そう言い、青年に手を差し伸べる。
痛む身体など無視して、青年は差し出された手を握った。
白い...まるで絹のような肌に、とても小さな手。
青年は少女に引き起こされ、微笑み掛けられる。
ボンッ!!と音が出るほど顔を高揚させ、鼓動が速く鳴るのを感じた。
(や、やばい....俺、恋したかも....)
少女は青年の傷を見つけると両手を掲げて魔法を唱えた。
みるみるうちに傷口が塞がり、細かい擦り傷なども綺麗に塞がった。
(え!?治癒術師!?)
驚愕の表情を浮かべ、絶句している青年などお構い無しに少女は告げる。
「ここは魔境近くですから、あまり無理をしないでくださいね」
少女はそう言い、その場を立ち去った。
青年は1人取り残され、自責の念にかられる。
(なんでお礼を言わなかったんだ!!なんで名前くらい聞かなかったんだ!!!俺のバカバカバカ!!!!!)
地面に寝転がり、のた打ち回っていると「グォォオオオオオオオオ!!」と魔物の叫び声が聞こえた。
青年は慌てて飛び起き、転がっている自身の武具を掴むと、一目散にその場から逃げ出した。
「うおおおおおおおおおお!!!!!名前聞くんだったああああああああ!!!!!!」
帝都南西の森に、青年の叫びが木霊した。
青年の名前はロベール。
後に恩人の少女と再会し、ボーイズラブ(新たな道)を行くことになる。
「カオル様?何をしていらしたのですか?」
青年を助けた後、共に食料を狩りに来ていたエルミアと合流したカオル。
1人別行動をしていた事を、言葉の節々に嫌味を込めてエルミアに問い詰められていた。
「えっと...懐かしくて、ちょっと見学してたんだ」
苦笑いを浮かべてそう話すと、エルミアは意味もわからず首を傾げた。
「エリーと出会った時、魔物に襲われていたんだけどね。さっきそこで『いかにも駆け出しの冒険者!』って感じの男の人がいてね。懐かしくて覗いてたんだ」
カオルの説明に納得すると「そうですか」とエルミアは素っ気無い態度で答える。
おそらく、今は2人きりなのだから、他の家族の事など考えては欲しくなかったのだろう。
「いきましょうか」
さっさと話題を変えたいエルミアは、カオルを急かして森を進む。
「待ってよー」
幼いカオルには、エルミアの乙女心など理解出来なかった。
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