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第百二話 時が動き出す


「うふふふふふ.....」


 窓から月明かりが漏れる中、アルバシュタイン公国の玉座に1人の女性が腰掛けていた。

 煌びやかで長い白髪に赤い瞳。

 身に纏う衣服は、黒く薄い布地1枚だけ。

 背中にはコウモリのような羽が生え、細く長い尻尾はヘビのように蠢いていた。

 あきらかに人ではないその姿。

 人々からは恐れられ、魔物からは崇められる。


『魔族』


 以前、オナイユの街から遠征軍を出した時に、カオル達を苦しめたあの魔族の少女だ。

 おもむろに少女が立ち上がると、無言で平伏(ひれふ)していた者達が同じ様に立ち上がる。

 全身を鋼鉄の鎧で纏い、少女と同じ赤い瞳を宿した者達が。


「行きなさい」


 少女の号令に従い、整列していた者達が次々に部屋を出て行く。

 その様子を見詰め、少女は楽しそうに笑った。


「あはははははは!!!!!」


 誰も居なくなった室内に、少女の高笑いが大きく響き渡った。











 時を同じくして、大陸北部にあるアルバシュタイン公国と大陸西部にあるエルヴィント帝国の国境を、1組の男女が馬を走らせていた。

 真っ青な薄い布地に、鉄製の軽装鎧を纏う犬耳族の男女。

 エルヴィント帝国、皇帝アーシェラの命にて、アルバシュタイン公国とババル共和国の内偵をしていた、兄ルチアと妹ルーチェの蒼犬(そうけん)の2人だ。

 2人は、必死な顔で馬に鞭打ち、一路エルヴィント帝国の帝都へと向かっていた。

 

兄様(にぃさま)!!このままでは追い付かれます!」


 ルーチェが必死の形相で後方を見やると、ものすごい速度で馬を走らせる集団が2人を追い掛けていた。


(やばいな....この距離では、後1刻もすれば追い付かれる)


 ルチアは焦っていた。

 今のこの状況もそうだが、アルバシュタイン公国で得た、あまりにも荒唐(こうとう)無稽(むけい)な情報に。


(どうする.....どうする.....)


 普段は冷静に、いや冷徹に職務をこなしていたルチアだが、あまりに切迫した状況に正しい判断が出来ないでいた。

 そしてそれは、無常にも突然起きた。

 ルチアの乗る馬が、街道(かいどう)(ふち)を踏み抜いて体勢を崩したのだ。


「兄様!!!!」


 隣を走っていたルーチェが、いち早く異常に気付いた。

 ルチアを乗せた馬は、体勢を崩してそのまま真横から崖下へ転げ落ちたのだ。


「ヒヒーーーン!」


 馬を(いなな)かせて止める。

 慌てて馬を飛び降りて、最愛の兄の姿を探す。

 (どうか無事に)と願いを込めて、最愛の兄が消えた崖下を見やると...

 ルチアはなんとか落下することなく、街道下の樹木にその身体を絡ませていた。


(兄様...よかった....)


 だが、安心するの暇は無かった。

 2人を追っていた集団は、目前の距離まで移動していたのだ。


 そこへ....


「『エクスハティオ!!』」


 突然の叫び声と共に、大爆発が起こる。

 騎乗し、2人を追走していた集団は、突然の闖入者(ちんにゅうしゃ)の手によって、跡形もなく殲滅させられた。

 あまりにも一瞬の出来事に、呆気に取られるルーチェ。

 そんなルーチェへ、優しく声を掛けられた。


「大丈夫かい?迎えに来たよ!」


 声の主は、金の長い髪に赤い双眸(そうぼう)

 露出過多な赤いゴスロリ服を纏い、左手にステッキを持っていた。


『剣騎グローリエル』


 蒼犬(そうけん)の帰りが遅く、心配になったアーシェラが寄越した援軍だ。

 呆然としていたルーチェだが、状況を理解すると大粒の涙を流して感謝した。


「あ...ありがとうございます!ありがとうございます!!」


 グローリエルは、はにかんで笑うと、崖下にいるルチアに手を差し伸べた。


「おい、生きてるんだろ?さっさと登っておいで」


 グローリエルはルチアの手を掴むと、一気に街道まで引き上げる。


「よし、無事だね。それじゃ、急いで戻るよ!!」


 有無を言わさぬグローリエルに圧倒され、ルチアとルーチェは同じ馬に跨がる。

 3人と2馬は帝都へ向かった。

 至上、最大で最悪な報告を告げに.....


ご意見・ご感想などいただけると嬉しいです。

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