第九十九話 そんなオチかよ!?
更新(投稿)遅くなりすみませんでした。
年末はやはり忙しいものなのですね・・・・
あ、書き方を変えました。
読み辛ければ、言っていただけると嬉しいです。
(カオルが帰って来ない)
居間でヴァルカン達とくつろいでいると「すみません、少し出掛けて来ます!」と言い、大急ぎで出て行ったカオル。
しかし、夕食の時間を過ぎても帰って来なかったのだ。
ヴァルカン達は慌てて探しに行った。
迎賓館や、衣料品店や、冒険者ギルドや、魔工技師の居るお店にまで探し回った。
だが、どこにも居なかったのだ。
(カオル....君の『少し』ってどのくらいの時間なんだい?また砂糖を探しに行った時の様に、何日も帰って来ないつもりかい?)
ヴァルカン達は、重苦しい空気の中、居間のソファにただ座っていた。
既に、空は宵闇に包まれ、月明かりが幻想的に辺りを照らし出す。
そこへ、玄関の鈴の音が「チリン」と鳴り来客を告げる。
ヴァルカン達はカオルかと思い、大急ぎで玄関へと向かった。
だが、そんな淡い期待も裏切られ、やって来たのは宮廷魔術師筆頭のアゥストリだった。
ガクッとうな垂れるヴァルカン達に、アゥストリは驚いて目を丸くした。
「立ち話もなんですし....」
カルアに促されて、玄関から居間へ移動する。
メイドのフランチェスカが淹れた紅茶をアゥストリへ勧めると、美味しそうに紅茶を啜る音だけが、部屋に響いた。
(いったい、こんな時に何しに来たのだろうか?)
ヴァルカン達の気まずい雰囲気に、まったく気が付いていないアゥストリ。
不躾ながらも、代表してヴァルカンが話しかけた。
「それで、今日はいったい何の用だ?」
そう問い掛けると、先程まで美味しそうに紅茶を啜っていた笑顔を一変させて、アゥストリは顔を曇らせた。
俯き、伏せ目がちにヴァルカンを見詰める。
「....カオル殿は....ご在宅ですか?」
思い詰めた様子で、質問には答えずにそう問い掛ける。
(もしかして...何か知っているのか?)
ヴァルカンと同じ事を思い至ったのか、その場に居た4人が顔を見合わせる。
頷き合い、ヴァルカンが目で合図を送ると、エリーとカルアとエルミアの3人はヴァルカンに委ねた。
静かに目を閉じて、一度考えを巡らせてから、返答した。
「何か...知っているのだな?」
努めて低い声を出し、アゥストリを威嚇するように尋ねる。
アゥストリは一瞬ビクっと身体を跳ねさせると、おずおずと話し始めた。
「...いないのですね。そうですか....おそらく、カオル殿は皇女フロリア様の所にいるはずです」
(なぜカオルがフロリア様の下に!?)
俯いたまま、顔を上げる事なく話していたアゥストリが「ただ....」と、言葉を続けて濁した。
ヴァルカンは、今すぐにでも飛び出したい気持ちを抑えて、黙ってアゥストリの言葉を待つ。
アゥストリは紅茶を一口啜り、意を決して顔を上げる。
「....フロリア様を、どうか助けていただけませんか?一向に進展しない婚儀の話しに、フロリア様は強硬手段に出たのだと思うのです!」
ソファから立ち上がり、鬼気迫るアゥストリの物言いに、ヴァルカン達がたじろぐ。
(婚期の話し?カオルは、はっきりとアーシェラに伝えたはずだぞ?)
「リアの事は、とても仲の良い友達だと思っています」そう言っていたじゃないか。
(どういうことだ?)
ヴァルカンは、もう一度思考を巡らせた。
(カオルの事を好いているフロリアに、母親であるアーシェラがもしその事を言い出せないのでいたら、そして、業を煮やしたフロリアがカオルを拉致したのだとしたら...辻褄が合うんじゃないか?だが、一国の皇女だぞ?いくらなんでも拉致だなんて、浅はかな真似ができるのか?)
そして、思い当たる。
いや、そう考えるのが自然であるように、ヴァルカンはそう推理した。
(直接聞きに行くしかあるまい)
「わかった。私が今から会いに行こう」
ヴァルカンがそう告げると、一斉に立ち上がる。
さすがにこの人数で押し掛けるのは、相手を威嚇し更なる強硬手段に出るかもしれない。
フロリアはまだ12歳の子供だ。
追い詰められれば何をするかわからない。
「すまないが、私1人で行く。あまり刺激するのはよくない」
そう告げて窘めると、嫌々ながらも納得させてヴァルカンが1人で登城した。
辺りはすっかり暗くなっており、人通りも疎らだ。
街灯の淡い明かりを頼りに、お城まで赴く。
城門前の門番の騎士に、皇帝陛下であるアーシェラへの取り次ぎをお願いする。
「剣聖のヴァルカンだ。こんな夜更けにすまないが、皇帝陛下へ取り次ぎを頼む」
騎士がいぶかしげにヴァルカンを見てきたが、睨みつけると慌てて取り次ぎに向かった。
(悪いが、今はお前達に時間を割いている暇は無い)
しばらくして、大急ぎで戻ってきた騎士に案内され、アーシェラの私室へと辿り着いた。
扉をノックし、返答後に室内へと入る。
ヴァルカンが入ると、アーシェラは戸惑いの表情を浮かべたが、鋭い目付きに気付いたのか、真剣な表情に変わった。
騎士が帰り、2人きりになる。
ヴァルカンは1歩前へ出ると話し始めた。
「皇帝陛下。私がなぜここへ来たか、おわかりですね?」
アーシェラは目を瞑り、一度深呼吸をする。
「...うむ。おそらく...ではあるがの」
(やはりか....)
ヴァルカンは天を仰いだ。
予想は的中したのだ。
これでフロリアの暴走は確定した。
(だがどうやって?たとえ、強固に引き留められたとしても、私の弟子として訓練を続けているカオルを、止める事が出来るのだろうか?では説得か....だが、何よりも家族を大事にするカオルが、一切の連絡もしないままでいられるのか?それはありえない。だとすると.......色気か?カオルに迫って、フロリアのその肉体で....ありえない。まだ子供の誘惑に、カオルが負けるなんて事ありえるわけがないな。私達ならともかく、あんな子供に....もしやロリか!?カオルは小さい子が好きだったのか!?いやいやまてまて。「友達だと思っています」と言っていたじゃないか。慌てすぎだな私は)
アーシェラに目を落とし、いざ話し始めようとすると、扉を叩かれ邪魔をされる。
(誰だこんな時に....)
自分勝手にそんな事を思うと、アーシェラが「だれだ」と声を掛け、扉の向こうから「近衛騎士団長のレオンハルトです」と声が返って来た。
(あいつ...騎士団長になったのか。出世したな)
「入れ」と許可をする。
「失礼します」と返答があり、おずおずと扉を開き入ってくるレオンハルト。
目が合った。
(こいつ...やつれていないか?騎士団長は激務なのだろうな)
視線を戻し、アーシェラに向けると「どうした?なにようじゃ」と、来訪の理由を聞かれていた。
すると「ご報告したき議があります」と答えた。
(なんだこいつ...カオルの前で、あんな情けない姿を何度も見せたくせに、ちゃんとした答礼が出来るんじゃないか)
チラリと視線を移し眺めてから戻す。
「それで、報告とはなんじゃ」
「いえ、剣聖殿の前でする話ではないかと....」
(めんどくさいやつだな)
「よい!ヴァルカンならば問題ない。申せ!!」
(まぁ、どんな報告か知らないが、今は一刻を争う事態なんだ。話すならさっさと話せ)
「実は、帝都内のさる商家の不正を暴きました。その商家は薬品を扱っているのですが、横領から価格操作、中には禁止薬物まで扱っているようです。それと、その家の者が皇女様の侍女をしています」
私はそれを聞き、目を丸くした。
(禁止薬物だと!?しかもフロリアの侍女がその身内!?カオルが帰らない...いや、帰れない理由はそれか!!カオルは今動けない状態にいる。それも何かとてつもない薬物のせいで!)
アーシェラと目を見合わせると「繋がった...かの」と、そう零した。
「ええ...残念ながら」
それ以上の応答の必要性も無く、すぐさまフロリアの下へと向かう。
扉を開き廊下を進む。
人気は無く、等間隔に置かれたロウソクの明かりが辺りを照らし出している。
(カオル...どうか無事でいてくれ.....)
心の中でそう願い、廊下を歩くと1つの扉の前で立ち止まった。
(フロリアの私室...おそらく、中にはフロリアとカオルが居るはずだ)
顔を見合わせて頷き合うと、ノックもせずに中へ入った。
室内は暗かった。
光源は一切無く、窓から漏れる月明かりが部屋を照らしていた。
慎重に窓際のベットへ近づく。
そこには寝息を立てて横たわる2人の小さな人影が....
1人は仰向けに寝かされ、白い騎士服に白銀の鎧を纏った綺麗な長い黒髪の少女。
もう1人は、薄手の白いドレスを纏い、黄色い髪に同色の狐耳を生やした少女。
カオルと、フロリアだ。
2人は、ヴァルカンやアーシェラの心配などまったく知らずに、仲良く寄り添うように眠っていた。
子供らしいあどけない表情を見ると、先程までの怒りは一瞬で消え失せた。
「カオル...」
ヴァルカンはそう呟き、カオルの髪を撫でる。
(よかった...無事だった....)
安堵と共に、愛おしさが込み上げて来る。
そんな様子を、黙って見詰めていたアーシェラが溜息を吐きながら我が子を見やる。
親の心配など、子供のフロリアには知る由も無い。
そっとフロリアに近づくと、力いっぱい抱き締めた。
突然体が浮き、驚いてフロリアが起きる。
「な、なにごとですか!?」
フロリアの叫びを余所に、アーシェラは黙って抱き締め続けた。
やがて、アーシェラが身体を離すと静かに問い掛ける。
「リア、貴女はカオルに何をしたかわかっていますか?」
唐突に投げかけられた言葉に、フロリアは目を丸くする。
既にカオルは、ヴァルカンが抱きかかえてフロリアから遠ざけていた。
ジッと母親に見据えられ、あたふたとしていたフロリアが、やっと状況を認識すると、おずおずと話し始める。
「あの...私、カオル様がお疲れだと思いまして....催眠効果のある栄養剤をベルに用意させて....」
フロリアの発言に、アーシェラとヴァルカンは驚く。
「「はっ!?」」
普段、皇帝や剣聖が口にするべきではない驚きの声に、フロリアは身を固くした。
(どういう....ことだ!?禁止薬物とは栄養剤の事か!?なんだ!?状況が理解できないぞ!?)
ヴァルカンの思考が纏まらない。
そこへ、状況を理解したアーシェラが答える。
「...リア?貴女は、カオルの身体を気遣って、栄養剤を飲ませたという事ですか?」
「は、はい。そうですお母様」
ヴァルカンに目を向けるアーシェラ。
驚いていたヴァルカンも、アーシェラの無言の問い掛けに頷くしかなかった。
「....わかりました。ですが、誰にも相談しなかったのは、リアに責任があります。それと侍女であるベルにも」
アーシェラの責めに、フロリアは俯き、黙って従った。
後の事はアーシェラに任せ、ヴァルカンはカオルを抱いて城から立ち去る。
『飛翔術』を使い、帝都上空まで来ると、眠るカオルの頬に口付けた。
「まったく....心配したんだぞ?」
すやすやと眠るカオルに、その言葉は届かなかった....
ご意見・ご想などいただけると嬉しいです。




