第九十七話 まさかの展開
目が覚めたのは日が傾き、空に西日が射す頃だった。
ボクは今、柔らかいベットの上で横になっている。
目をゆっくりと開けて思い出す。
眠る前の光景を。
ただひたすらに、一心不乱に鎚を振るっていた光景を。
君に会いたくて・・・・君が傍にいて欲しくて・・・・
ボクは振るったんだ。
鎚を。
完全に頭が覚醒すると、ガバッと上半身を起こす。
目覚めたのは自分の部屋だった。
傍には誰もおらず、備え付けのテーブルの上に、君がいた。
シーツをずらしてベットから抜け出る。
身に纏う物は何も無く、素足から床の冷たい温度を感じた。
やがてテーブルへ辿り着くと、白銀の君を手に取った。
ミスリル製の肩当てとグリーブ。
爪先から膝上までを保護し、華やかなデザインが印象的なグリーブと、左肩だけを守る、厚手で洗練されたデザインの肩当て。
欠けてしまったファルシオンと、古いグリーブを掛け合わせて作られた、新しいボクの相棒。
「よろしくね」
笑顔でそう告げると、白銀が瞬いたように見えた。
早速とばかりに、アイテム箱から下着と黒のニーソックスと襟の付いた白い騎士服を取り出す。
同じ様に、ミスリルの胸当てと篭手を取り出すと、一式揃えてそれを纏った。
姿見の前で自身の姿を見詰める。
以前見た、貧相な感じはまったくしない。
威厳を持った、力強ささえ感じる。
ファルシオン・・・・形は変わってしまったけれど、これからもずっと傍にいてね。
目を瞑り、肩当てに手を添えてそう告げた。
さっそくお披露目をしようと、部屋の扉を開く。
すると、ドタドタドタと何かが崩れる様な音がして、師匠達が折り重なって転がっていた。
これは、完全に覗いていたよね?
呆れて何も言えなくなり、眼下に横たわる4人を見詰める。
4人と目が合うと、一斉に立ち上がり空笑いを浮かべた。
はぁ・・・・何をしているんだか・・・・・
とりあえず、鍛冶場からここまで運んでくれたのは師匠達のはずだから、そのお礼を言おう。
「鍛冶場から運んでくれて、ありがとうございました」
頭を下げてお礼を言うと「い、いや、そんなことはどうでもいいんだが・・・・」そう言い、ボクの全身を舐め回すように見る。
それも4人同時に。
さすがにちょっと怖い。
一頻り見やると「カオル、カッコイイぞ」と師匠が笑顔でそう告げる。
それを皮切りにみんなが感想を言ってくれた。
「カオルちゃん、とっても似合っています♪」
「さすがは私のカオルね!私と並んでも、引けを取らないんじゃない?」
「カオル様・・・・・私はもう、我慢が出来そうにありません」
そう言うと、エルミアがボクに抱き付いてきた。
ちょっ!?
カルアよりはやや小ぶりだが、エルミアの豊かな胸で包まれるボクの頭。
とても温かく甘い良い香りがした。
しかし、エルミアの行動はまずかった。
あれよあれよという間に、その場にいた全員がボクに抱き付いてきたのだ。
四方八方から伸びる手が、ボクの全身を蹂躙し、けしてまっ平らとは言わないが程好い膨らみのあるエリーの胸や、豊満なカルアの胸がグイグイと押し付けられる。
ちゃっかり後ろをとった師匠が、ボクのお尻を撫でまわしていたけど。
そこでようやく助けが来る。
掃除の途中だろうか?
モップを片手に通り掛った、フランとアイナに助けられるまで、揉みくちゃの状態は続いた。
落ち着きを取り戻したボク達・・・いやボク以外の4人は、居間のソファで紅茶を飲んでいた。
はぁ・・・・大変な目にあった。
それぞれ部屋着を着ているのだが、ボクはまだなんとなく着替える気にならなかったので、白い騎士服のままだ。
そこで、忘れていた事を思い出す。
今日は、アゥストリに言われて、リアに会いに行かなければならない日だったことを。
日時まで指定しておいて、忘れてましたじゃ話しにならない。
どうしよう・・・今からでも行くべきだよね・・・・
紅茶を飲み干して立ち上がると「すみません、少し出掛けて来ます!」と4人に言い、返事も聞かずに飛び出した。
玄関を出ると、魔法を発動させて全身に風を纏う。
『飛翔術』を使い、お城へと向かった。
今から門番に言って許可を貰っていたんじゃ、夜になって入城出来なくなってしまう。
直接リアの部屋へ行こう。
帝都北西にある屋敷から、お城まではさほど遠くない。
賊だと勘違いされないよう気をつけながら、遥か上空から一気に降下して、リアの私室のバルコニーへ舞い降りた。
「ガチャン」という、グリーブが鳴る音と共に無事に到着すると、ガラス窓を優しく叩く。
すると、音に気付いたリアが、両手を口に当てて驚いた表情を見せ、慌てて窓を開けてくれた。
「ごめんね、遅くなっちゃった・・・それと、こんな入り方してごめん」
腰を折って頭を下げる。
さすがに、会釈程度の謝罪じゃいけないだろう。
リアは目に涙を浮かべて「・・・いいんです。来て下さっただけで、リアは・・・・」と言い、今にも涙を溢してしまいそうだった。
ゆっくりと近づいて、ハンカチを差し出す。
紳士たる者、何枚もハンカチを忍ばせておかないとね?
笑顔を作り「ごめんね。なかなか遊びにこれなくて」そう優しく声を掛ける。
ハンカチを受け取ると、リアは笑ってくれた。
ベットに2人で腰掛、サイドテーブルの上で紅茶を淹れてくれた。
爽やかな香りが、ふわっと舞う。
さっそく一口啜る。
美味しい・・・・たぶん、アッサムとかだろうけど・・・何か違う味がした。
リアは、ぬいぐるみを抱きながら魔術学院の話や、お付きの侍女の話しを楽しそうにしてくれた。
相槌を打ちつつそれを聞いていると、なんだか眠くなってしまう。
思わず大きな欠伸が出てしまい「ご、ごめんね」と謝罪をすると「いいえ、カオル様は貴族になられたのですから、お忙しくて、疲れが出てしまったのかもしれませんね」と、にこやかに笑ってくれた。
頭を掻いて「そ、そうかも」と誤魔化していると、またも欠伸が出てしまう。
本当にどうしたんだろう?
昨夜、ずっと起きていたからかなぁ?
でも、さっきまで寝ていたんだよ?
おかしいなぁ・・・・・
そんな事を考えていると、完全に睡魔に襲われる。
頭がクラクラし、瞼が閉じようと下りてくる。
このままじゃ眠ってしまうと思い、リアに断って洗面所へ歩き出す。
「ごめんね」
「いいえ、きっとお疲れなのですよ」
リアに見送られ、洗面所へ向かう。
顔を洗えば、目が覚め・・・る・・・・だ・・・・ろ・・・・・
そこでボクは地面に倒れた。
洗面所へ辿り着く事なく、眠ってしまったのだ。
ベットに腰掛けるリアが「フフ」と笑った気がした。
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