剣騎と元剣騎
キャラクター紹介的な物です。
ここは、エヴィント帝国北西にある貴族街。
既に太陽が昇り、遠くにある朝市からは活気のある声が聞こえてくる。
綺麗に掃除をされた石畳の通りを、2人のヒューマンの男性と犬耳族の女性が並んで歩いていた。
朝飯を買おうと、普段着に着替えて通りを歩く。
隣には、悪友で俺の相棒こと剣騎レイチェルがいる。
俺達の付き合いは長い。
2人共、遠い農村の出なのだが、家が隣同士ということもあって、ガキの頃からイタズラばっかりしてきた。
畑に忍び込んじゃぁ、野菜を盗んで内緒で喰ってたくらいだ。
親父達も、三男坊の俺なんて眼中になかったからな。
そりゃぁもう遊び呆けたさ。
4姉妹の次女だったレイチェルもいたしな。
畑は荒らすは、山に行っちゃぁ兎狩りをするは、ホントやりたい放題だったな!
まぁガキの頃の話しだ。
そんな時、1人の冒険者のじぃさんが俺達の村へ来たんだ。
俺とレイチェルを見るなり「この2人を冒険者として育てたい」なんて、親父達に言うんだぜ?
バカじゃねぇかと思ったよ。
でもよ、このまま村にいたって三男坊の俺は農地を継げる訳じゃねぇ。
どっかの知らねぇヤツのもとで『雇われ農家』になんてなりたくねぇしな。
顎でこき使われるのだけは、勘弁だぜ。
同じ様な境遇のレイチェルも、二つ返事で頷いたさ。
親父達も『いい口減らしが出来た』とでも思ったんじゃねぇかな。
生んでくれた恩はあるけど、育ててくれた恩は・・・・あんまねぇな。
まぁそのじぃさんのおかげで、俺とレイチェルはこの帝都に連れてこられて、冒険者の教育を受けられたんだ。
凄かったぜ~。
そのじぃさん、ただのしょぼくれたじぃさんじゃなかったんだ。
なんと、元剣騎のシブリアン・ル・ロワルドだったんだ。
まぁ詳しい事はわかんねぇけどな。
貴族だっていう事と、めちゃめちゃつえぇって事はわかった。
なんでも、自分には子供がいないから、後継者を探してたらしい。
そこで、たまたま立ち寄ったあの村で、俺達を見かけてスカウトしたんだってよ。
さすが俺だぜ。
光輝く俺の才能は、剣騎を惹き付けたんだな!
ハハハ!
照れるぜ!!
まぁ修行はきつかったが、レイチェルのおかげでこうやって俺も剣騎になれたんだ。
さすが俺・・・だろ?
そこで、隣を歩くレイチェルが気味悪そうにセストを見詰める。
「・・・あんた、ものすごくキモイ顔してるわよ。それ以上近寄らないでね!」
レイチェルはそう言うと、手を払って「しっし!」と言った。
「な、なんだよぉ・・・そんな邪険にする事無いだろぉ・・・・・」
レイチェルに蔑まれ、泣きそうな顔をしていじけるセスト。
完全に主従関係が、はっきりとしているようだ。
綺麗に整理された石畳を歩いていると、大きな屋敷の入り口に人だかりを見つける。
「あれなんだ?」
セストがそうレイチェルに問い掛けるが「しらないわよ」と、明確な答えは返ってこない。
首を傾げて向かって行くと2人のメイドが平謝りをしていた。
「すみませんすみません、申し訳ございません」
「・・・すみません」
何度も謝っているのは猫耳族の若い女性。
その隣で、ペコっと頭を下げているのは、可愛らしい兎耳族の少女。
どうやら、この屋敷で何かあったらしく、その事に付いて謝罪をしているようだ。
「いや、謝罪をしてほしいわけじゃないんだ。ただ、昨夜からカンカン音が聞こえてきてな。カオル殿に何かあったんじゃないかと、父様が心配しているんだ。無事かどうかだけでも、教えてくれないか」
メイドの2人を取り囲む1人がそう話している。
カオル殿?だれだ?
セストがレイチェルを見やるが、肩を竦めて「さぁ?」と返事をした。
詰め寄る他の人々も、口々に同じ様な事をメイドに聞く。
「どうか頼む!無事かどうかだけでもいいんだ!!このまま手ぶらで帰ったら、父様に怒られる」
「できれば一目会いたい!!!」
「いや・・・むしろ結婚したい!!!」
「お、俺もだ!!!」
「俺だって!!!」
「ワシもじゃ!!!」
そこで、ふと人垣の中に見知った人物を見つけた。
こげ茶色の着流しを身に着け、杖を突いている老人だ。
「おい・・・じぃさん、こんなところで何してるんだ」
セストがそう話し掛けると、じぃさんと呼ばれた老人が振り返る。
老人はセストを見上げると、「しまった!」という表情を浮かべた。
そこへ、セストの隣にいたレイチェルが詰め寄る。
「リアン先生・・・・何を・・・なさって・・・・いるんですか!!!」
怒気の篭った叫び声と共に「ドゴーーン!」という音が響き渡るような錯覚に見舞われる。
リアンこと、元剣騎シブリアン・ル・ロワルド。
目の前にいるこの老人は、セストとレイチェルの先生で、2人を剣騎にまで育て上げた人物だ。
周囲にいた人達が驚いてこちらを振り向く。
リアンは「あわわわわ・・・」と全身を振るわせて怯える。
2人はそんな、自らの師とも親とも言える先生の首根っこを掴むと、そそくさとその場を退散した。
帝都西にある、喫茶店2階のオープンテラスへとやってきた3人は、先生であるリアンをセストとレイチェルが取り囲むように座っていた。
ぶすっと脹れ、あきらかに不満な表情を浮かべた2人に、リアンは苦笑いを浮かべた。
「それで・・・・じぃさんは、なんであんなところにいたんだ?俺達が家を出た時、まだ寝ていたはずだろ?」
仏頂面でそう聞くセスト。
リアンは観念したのか「実はの・・・」と話し始めた。
「あの屋敷はの、香月カオルという、もうめちゃんこカワイイおんにゃの子の屋敷なんじゃ。ワシは、あの子がこの帝都に来た時に、謁見の間で見かけたんじゃがな、皇帝陛下の御前でも、堂々としておった。ありゃぁ良い所の子じゃな」
そう言うと、お茶をズズッと啜った。
セストはそれを聞くと首を傾げ、レイチェルに至っては頭を抱えた。
「先生、言葉遣いが適当すぎて、何をおっしゃっているのかわかりかねます。要は、どういうことなのですか?」
静かな怒りを込めて、レイチェルがそう聞くと「んっと、あれじゃよあれ。要は、会いに行ったんじゃよ」と、にこやかな笑顔で答えた。
さきほどの説明はなんだったのか・・・・ようやく辿り着いた答えに、レイチェルは呆れながらも安堵した。
そんな中、セストがリアンに擦り寄り小声で話す。
「じぃさん、そんなにカワイイのか?」
「うむ!まだ幼い少女ながら、可愛らしさは言うに及ばず、凛然とした立ち居振る舞いの中に、ちょっぴりエロスを感じたのじゃ」
その姿を思い出すように目を瞑ると、ウンウンと頷きながら話すリアン。
セストが羨ましそうにその様子を見ていた時、2人の頭に拳骨が落ちてきた。
「ゴンッ!!」
コソコソ話す2人に、鉄拳制裁を加えたのはもちろんレイチェルだ。
そのまま、爪先から2階の踏み板を突き破り、地面にめり込むんじゃないだろうかという衝撃を受けた2人は、頭をフラフラとさせてなんとか起き上がる。
殴られた頭は隆起し、完全にタンコブが出来上がっていた。
「フン!!!」
鼻を鳴らして完全に激怒しているレイチェルに、セストとリアンはただ平謝りを繰り返した。
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