第九十五話 壊れた武具
師匠とカルアの説教をエルミアに託し、エリーの部屋へと向かう。
途中、食堂の前を通ると、フランとアイナがキッチンで仲良さそうに夕食の準備をしていた。
なんだか姉妹みた・・・・・何人姉妹になるのさ。
そんな事を考え、笑みがこぼれる。
あの2人が屋敷に来てくれてよかったな。
2階にあるエリーの部屋の前まで、ボクはにやけた笑いを続けていた。
扉をノックすると「だれ?」と、エリーの返事が聞こえる。
「カオルだけど、入ってもいい?」
そう告げると、中からなにやらドタドタと騒がしい音がして「・・・ど、どうぞ」と促された。
扉を開けて「おじゃまします」と言い、1歩を踏み出す。
以前カルアとリアの部屋へは入った事があるが、これで女性の部屋に入るのは3度目だ。
師匠は、たまに中身がおっさんになるのでカウントしません!
だいたい、酒瓶がゴロゴロ転がってる部屋なんて、女性の部屋じゃないよ。
緊張しながら顔を上げると、ぬいぐるみがいっぱいあったリアの部屋とは対照的な平凡とした光景が目に映る。
・・・・・ボクの部屋とかわらなくない?
女性らしい物は一切無く、というか、脱いだ服くらい片付けようよ・・・・
辺りに散乱する服を踏まないように気をつけながら、ベットに腰掛けるエリーの傍へ行く。
エリーは、脱衣所で見た白い下着のスリップに、灰色のカーディガンを羽織っていた。
えっちく感じないのは、可愛い系のエリーだからだろうか?
エリーの隣に腰掛、目を見詰める。
もしかして、泣いていたのだろうか・・・
どことなく目が赤い。
「ねぇ、エリー・・・泣いていたの?」
そう問い掛けると「な、泣くわけないでしょ!バカじゃないの!!」と、強がりを見せた。
ウソだってわかるよ。
エリーが嘘を吐く時は、尻尾を見ればすぐわかるし。
ベットの上で、元気なく伸びている尻尾を見やる。
ボクはわざと笑顔を作り「それじゃぁ、エリーの元気が無いのはなんで?」と努めて明るく話した。
エリーは言いにくそうに「・・・たからよ」と、聞き取れないほど小さな声で答えた。
なんて言ったんだろう?
「もう一度言って?」
そうお願いすると「カオルから貰った大切な鎧が壊れちゃったからよ!!」と、大声で叫んだ。
聞き取れるように顔を近づけていた為、あまりの大声に耳が痛い。
唾を飲み込んで鼓膜の調整をすると「そう・・・・見せて?」と、エリーにお願いした。
おずおずとベットの下から防具を取り出す。
それを受け取り見詰めた。
鉄製の腰当と腕当て・グリーブは所々が削れて、元の強度を保てない程痛んでいた。
そして・・・・胸当て。
留め具の革のバンドは千切れ、急所を守る部分は、何か鋭利な物で刮ぎ取られた様に抉れていた。
もし生身だったらと思うと、ゾッとする。
俯くエリーの頬にそっと触れて笑顔を見せる。
「よかった・・・エリーが無事で」
そう笑い掛けると、エリーは大粒の涙を流した。
「ごめっ・・・ごめんね!」
嗚咽を漏らすように、泣くエリーを優しく抱き締めた。
「いいんだよ。この鎧は、約束通りエリーを守ってくれたんだから・・・・だから、エリーは泣かないでいいんだよ」
耳元でそう言い、背中を擦る。
エリーは、なかなか泣き止まなかった。
一頻り泣いた後、どうしようかと悩む。
とりあえず、新しい防具が必要だよね・・・・
でもこの腕当ては、エリーの幼馴染のカイとメルとお揃いで作った物だ。
これだけはずっと使い続けて欲しい。
何とか直せるかなぁ・・・・
腕当てを持ち上げて様々な角度から確認する。
ん~・・・鉄を付け足せばなんとかなるかな?
やってみないとわかんないか。
ひとまず鉄の腕当てだけ預かる事に。
なんとか頑張ってみよう。
そこでふと、だいじな事を思い出す。
ボクのファルシオン!!!!
慌てて立ち上がり「エリー!防具はなんとかするから!!!」そう告げてエリーの部屋を出ると、大急ぎで師匠を探す。
エリーは返事も出来ずに口を開けて呆然としていた。
師匠に会いに居間へと向かう。
しかし、居間にはカルアとエルミアしかいない。
どこへ行ったのか!?
食堂を覗くが、さきほどと同じ様にフランとアイナが料理をしているだけだった。
う~ん、本当に仲が良いな・・・
じゃなくて!!
どこ!?
2階へ戻り、お風呂場も師匠の部屋も訪ねたが返事は無い。
本当にどこにいるのさ!!!
ふと自分の部屋の前で立ち止まる。
・・・まさかね?
そーっと扉を開いて中を覗くと・・・・・いました。
ボクのベットに寝転がり「クンカクンカ」と言いながら、ボクの枕の臭いを嗅いでいる師匠が。
やばいどうしよう・・・・
通報するべきかな・・・・
当局と言う名のエルミア達に。
末期の症状に至った『残念美人』に、嫌々ながらも話し掛ける。
「師匠・・・・何やってるんですか?」
そう問い掛けると「カチーン」と音を立てて師匠が固まり「ギギギギ」と、壊れたブリキの玩具の様に枕から顔を上げる。
ボクと目が合うと、驚いて目を丸くした。
いや、驚いたのはボクの方なんですけどね?
固まるというよりも、凍り付いた師匠に近づき頭を撫でる。
こんなに症状が悪化するまで、放っておいてごめんなさい。
そう思いながら頭を撫でていると、氷が溶けた師匠が動き出す。
「カオル・・・これはだな・・・・その・・・・違うんだ・・・・・」
言い訳を始めた師匠。
ボクは黙って頭を撫で続けた。
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