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第九十一話 二振りの刀

翌朝、エルミアとアイナと3人で眠っていると「トンテンカン」と木槌の心地良い音と共に目が覚める。


どうやら、建設作業は滞りなく進んでいるようだ。


眠い目を擦りながらベットから出ると、洗面所へ行き冷たい水で顔を洗う。


凍るように冷たい水で、ぼやけていた頭はすっかり目覚めた。


柔らかいフワフワのタオルで顔を拭い、いそいそとキッチンへ向かう。


食料庫を覗き、朝食のメニューを決めるとアイテム箱からダマスカスの包丁を取り出し、テキパキと作り始めた。


と、いっても定番のパンと目玉焼きにサラダ。


後はオニオンスープとハムでも切ろうかな。


ああ、せっかくだからパンは止めてスコーンにしよう。


手早く生地を()ねると、丸く薄い鉄器へ並べる。


熱したオーブンへ投入し、しばらくすればふっくらとしたスコーンの完成だ。


出来上がった料理をテーブルへ並べていると、ようやく起きたエルミアとアイナが食堂へとやってきた。


「おはよう」


そう挨拶をすると「「おはようございます」」と、揃って挨拶を返される。


なんというか・・・姉妹みたい?


う~ん・・・エリーとエルミアのコンビも姉妹みたいに見えるんだけどなぁ・・・・


カルアも含めると4姉妹ですか?


師匠はなんというかお父さんっぽいし。


じゃぁお母さんはだれ?


・・・・まぁそんなことはどうでもいいか。


苦笑いを浮かべて、2人を椅子へ座るように促す。


紅茶を淹れて食事を始めた。


アイナはまたも食べようとしなかったので「この屋敷ではメイド・・・というか、使用人も主人と一緒に食事をするように!わかった?」と言い包めて、食事をさせた。


ちょっと言い方がキツいけど、こうでもしないと言う事を聞いてくれないんだもの。


地面に座ろうとしたりするしね?


奴隷だって言うのはわかるけど、ボクの前では・・・いや、この屋敷では止めて欲しい。


自己満足だっていうのも、自分で自分を蔑んでるのもわかるけど・・・・ボクはやっぱり奴隷は嫌いだ。


もちろん、師匠が前に言っていたように罪を犯した人が償いをする為に奴隷になるのはわかる。


でも、彼女のように生まれながらに親の自分勝手で奴隷に身を落とすのは納得できない。


彼女だって同じ人間だ。


家畜じゃない。


突き詰めれば家畜だって同じ命ある者だけど、人は殺生しないと生きてはいけない。


だから、その命に謝罪と感謝をして、ボク達は生きているのだと思う。


こんな話しは二度としないけど、だけど、ボクはそう思っている。


・・・また話しが逸れたね。


ボクは椅子に座り直し、食事を続けた。


うつむいていたアイナも、ボクに促されて食事を始めていた。


食後庭へ出ると、石材屋のおじさんが張り切って作業を指揮していた。


ボクがやってきた事に気付くと「おう!順調に進んでるぞ!!」と笑顔で話してくる。


笑顔を返して「ありがとうございます」とお礼を言った。


お願いしていた2棟の建物。


訓練施設と鍛冶場は、既に骨組みが建て終わり、屋根を()いている最中だ。


その速さに、手際がいいのか人数が多い為なのかわからないが、ボクは感心した。


作業をしてくれている人達に、感謝と激励(げきれい)の言葉を伝え屋敷へと戻る。


アゥストリが訪ねてくるはずなので、出掛けずに時間を潰そうと、居間で紅茶を飲みつつ好きな事をした。


エルミアはアイナに読み書きを教え、ボクはアイテム箱の整理をした。


どうやら、アイナがカタコトの言葉を話すのは、きちんとした教育を受けていなかった為のようだ。


あの2人の『濁った目』をした人物に、イラッとしたのは言うまでもない。


アイテム箱を整理していると、ボロボロの防具を見つける。


それは、ボクが初めて作ったミスリルの防具。


精霊が手伝ってくれた、大切な防具だ。


所々が血で汚れ、赤銅色(せきどういろ)のサラマンダーの革は使い物にならないほど切り裂かれていた。


なんで・・・・なんて言うまでも無い。


ボクはあの本に囚われた時に、この防具を纏っていたのだから・・・・


そして師匠達が助けてくれた時には、一糸纏わぬ姿だったと聞かされた。


ということは、あの本の中で『濁った目』をした家族が、ボクを・・・切り刻み・・・・・


ボクの・・・首を・・・・・


「ハッ!?」


慌てて意識を戻す。


危なかった・・・・ダメだ・・・・思い出しちゃいけない・・・・・


突然声を上げたボクに、エルミアが驚く。


「どうかなさいましたか?」


エルミアへ目を向け「だ、だいじょうぶ」と言い、空元気を見せた。


深呼吸をして落ち着こう。


心配かけちゃいけない。


深呼吸を繰り返す。


なんとか平常心を取り戻し、傷ついた防具を取り出してアイテム箱を消す。


まじまじと防具を見詰めるが、やはりこの革はもう再利用は出来なさそうだ。


金貨1枚もしたのに・・・・


ここで突然、ナレーター「風竜から大金を受け取っているのに、カオルは本当にケチである」そして去る!


ん?今だれかケチとか言わなかった?


周囲を見回すがエルミアとアイナ以外に姿は無い。


おかしいな・・・・


首を傾げて改めて防具に目を落とす。


「はぁ・・・」と溜息をひとつして、ミスリルの鎧や小札板(こざねいた)をサラマンダーの革を丁寧に外していく。


後に残った白銀の鎧に「『浄化』」の魔法を掛けて綺麗にすると、どうしようかと悩む。


他の服と合わせて装備すればいいか・・・


アイテム箱を出して覗き込むが、いまいちピンと閃く物がない。


ドレスに合わせるわけにはいかないもんね・・・・


そう言えば、風竜は新しい防具も贈ってくれたんだよね。


白銀の鎧を一塊にして(くくる)と、アイテム箱へとしまう。


エルミアに断って自室へと戻ると、姿見の前で魔法を唱える。


「『魔装【舞武(まいぶ)】』」


そう唱えると、桜色の短着に紅いスカート状の袴姿へと変身した。


えっと・・・・


これってアレだよね?


アーシェラがくれた着物に、ボクがとっておいた赤い反物(たんもの)だよね・・・・


風竜ってば、こんな服を作ったのか・・・・


というか、なんで袴がこんなに短いのさ・・・・


完全に師匠の趣味じゃないか!!


とりあえず、風竜がくれた好意には感謝しつつ、もう1着に願いを込める。


「『魔装【信頼(フィデス)】』」


魔法が発動すると、メイド服にレースの付いたカチューシャを着けた姿へと変身した。


なぜか右側のスカートが切られ、切れ込みから白い太股がチラリと見える。


「はぁ・・・・」


もう溜息しか出なかった。


おかしいと思うよ?


さっきの着物も大概(たいがい)だけど、メンド服で戦えってどういうことさ!!


しかも、スカートこんなに切っちゃって!


これだと修復して縫っても、縫い目が目立っておかしくなっちゃうじゃないか!!


うぅ・・・師匠がくれた、大切な服だったのに・・・・


涙こそ流さなかったが、あまりの酷い仕打ちに目が潤んだ。


風竜を尊敬も感謝もしているけれど、これは酷いよ・・・・


いつか再会した時に、文句を言おうと決心したのだった。


一通りメイド服を確認すると、アイテム箱から服を出して着替える。


昨日エルミアが選んでくれた桜色のアンダードレスに黒タイツ、白のポンチョコートを羽織った姿だ。


実はかなり気に入っている。


だって可愛いんだもの・・・・


っと、そうだ。


ついでに武器の確認もしておこう。


どういう訳か、ボクのファルシオンは師匠が持っているらしいし。


アイテム箱を覗き込み、ガサゴソと武器を漁る。


ゴテゴテした大剣や、槍・両手斧等が入っていた。


というか、デカイ。


今のボクには振り回し続ける事は出来ない大きさだ。


これで一撃必殺でもしろというのだろうか?


試しに大剣を取り出してみる。


黒い刀身に、所狭しと金の細工が施された高価そうな大剣だ。


エリーに作った大剣に似ているな・・・なんて思ったが、重さがまったく違う。


とにかく重い。


一度振り抜いたら戻す事は出来なさそうだ。


良い物なんだろうけど・・・今のボクには使いこなせないよ・・・・


そっとしまって他の武器を探す。


白銀の盾と片手剣が一対になった、とても美しい武器を見つけるが、やはり重くて使いこなせない。


こんな物しかないのか!?


いや、良い物なのはわかるんだけどね!


やがて、二振りの刀を見つける。


風竜の手紙に書いてあった品物だろう。


鞘と柄が赤く、金の細工を施され小さな桜の紋が刻まれている、打刀『桜花(おうか)』。


鞘と柄が白く、銀の細工を施され、ボクの体には不釣合いな長さの太刀『(あめの)(はば)(きり)』。


(あめの)(はば)(きり)ってアレだよね・・・・・


日本神話の、スサノオノミコトがヤマタノオロチを倒した時に使った(つるぎ)だよね。


本物なのだろうか・・・・


というか、本物が存在するのだろうか?


アレってただの神話で、作り話なんじゃないの?


不審に思い、(あめの)(はば)(きり)を手に取る。


大きな太刀は以外にも、ボクが持ち上げると軽く感じた。


なんか・・・手に吸い付くとでも言うのだろうか?


師匠がボクの為に作ってくれた武器と似た感覚だ。


左手で鞘を握ると、後方へずらしながら慎重に引き抜く。


すると真っ白な刀身が現れる。


曇りなど一つも無く、純白な刀身。


金属なのかと疑いたくなるその刀身は、なぜか濡れているように感じた。


「すごい・・・・」


思わず感嘆(かんたん)の声が漏れる。


本当にその言葉以外浮かばない。


これが(あめの)(はば)(きり)だと言われたならば、ニセモノだろうと信じてしまうだろう。


白い刀身に惹き込まれたボクは、時間も忘れて魅入ってしまった。


やがて、鞘へと引き戻してアイテム箱へしまう。


あのまま見ていたら動けなくなってしまうところだった。


気を取り直して『桜花(おうか)』を手に取る。


同じ様に鞘から引き抜き刀身を現すと、刃紋(はもん)が波打つ形をしていた。


乱れ刃って言うんだよね。


波打つ刃紋(はもん)がとても美しい。


だが、さきほどの白い刀に比べてしまえば、そこまですごいとは感じない。


やはりあの刀は本物の(あめの)(はば)(きり)なのだろうか?


確かめる術を持たないボクには信じるしかないのだが・・・・


それにしても打刀と太刀かぁ・・・


また訓練しないとなぁ・・・


『桜花』をしまうと、そんな事を考えながらエルミア達のもとへ向かった。


ご意見・ご想などいただけると嬉しいです。

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