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第八十五話 思い立ったが吉日

◆は調理過程です。

面倒でしたら飛ばして下さい。

翌朝、食堂で朝食を取っているとアーシェラが尋ねて来た。


アーシェラの為に椅子を用意して、座るように(うなが)す。


アーシェラが座ると、カルアがアーシェラの分の食事を用意した。


顔色が悪いから、気を利かせたのかな?


「アーシェラ様、色々とありがとうございました」


ボクがそう切り出すと「うむ。まぁ、元々はこちらが迷惑を掛けた側じゃ。こちらこそ、すまなかった」そう言うと頭を下げた。


ボクは苦笑いを浮かべ「いえ、()()ける力がボクになかっただけです。風竜はそのことを教えてくれました」と返す。


そうだ。


ボクがもっとしっかりしていれば、風竜をあんな目に合わせる必要はなかったのだ。


ボクは自分を(いまし)め、どんな事が起きようとも負けないよう努力する事を誓った。


風竜と、ボクを愛してくれる家族の為に。


そう決意をしていると「そう・・か・・・・」とアーシェラが言い「それでの、言いにくい事なのじゃが、カオルよ。そなたリアの事をどう思おておる?」と聞いて来た。


リアの事?


なんだろう?


師匠達からは、特にリアの事については聞かされていない。


不思議に思ったが本心を告げた。


「リアの事は、とても仲の良い友達だと思っています。同年代、特に同じ歳の友人は今までいませんでしたから」


そう告げるとアーシェラは残念そうな顔をした。


ボク、変な事言ったかな?


アーシェラの態度を首をかしげて見ていると「陛下。これでわかったでしょう。カオルは私達を選んだんです」と、なぜか師匠が誇らしげに胸を反らせる。


ボクが師匠達を選んだ?


いったいなんの話しだろう?


益々訳がわからず混乱する。


「ええいまだじゃ!カオルはまだ12歳!実際に婚姻が結ばれるまで、わらわは諦めぬぞ!」


アーシェラはそう言い、出された食事を一気に平らげて、いそいそと屋敷を出て行った。


なんだったのだろうか・・・


というか、ボクの婚姻って何の話?


嵐のように去って行ったアーシェラ。


ボクはただ、出て行った扉を見詰めていた。


食後、さきほどのアーシェラが言っていた内容についてみんなに聞いてみたが、言葉を濁して教えてはくれなかった。


むぅ・・・


疎外感(そがいかん)を感じるよ?


頬を膨らませていじけていると「カオルちゃん、お散歩にでも行きましょう♪」とカルアが提案してきた。


納得がいかなかったが、渋々それに従った。


屋敷の庭へと出る、ボクとカルアとエルミア。


師匠とエリーは「訓練をしてくる」と言い、近衛騎士団の訓練場があるお城へと向かって行った。


庭はとても広大で、大きいと思っていた屋敷が、もう3つも4つも建設出来るほどの広さを有していた。


庭の中央にポツンと置かれた、石造りのオープンテラスとも言うべきテーブルと椅子へとやってくる。


ボクが椅子に座ると、カルアとエルミアも同じ様に座った。


アイテム箱から紅茶のセットを取り出して、お気に入りのヌワラエリヤの葉で紅茶を淹れて2人に振舞った。


アイテム箱の中身が増えていたのは風竜の仕業か。


あとは、お気に入りのこの紅茶を飲んだのも。


ボクはおかしくなりクスリと笑う。


カルアとエルミアが、そんなボクを見て不思議そうにしていた。


温かい紅茶を飲みながら、ボーっと庭を見詰める。


まだ3月だというのに、日が出ている為かぽかぽかと暖かい陽気だ。


ふとそこで思い立つ。


この屋敷って「好きに使うといい」ってアーシェラが言っていたんだよね?


と言うことは・・・・ここにボクの必要な施設を作れば、わざわざ師匠やエリーが訓練場に行く必要もないし、鍛冶をするためにわざわざレギン親方がいる、オナイユに行く事も無くなるのではないのだろうか?


そう思い立ち行動する。


そこからはとてつもない速度で事が進んだ。


まず、魔術学院へ向かい、宮廷魔術師筆頭という肩書きを持つアゥストリに相談する。


なにせ、筆頭と言うくらいだからコネクションは沢山持っているはずだ。


こんなことでわざわざ、皇帝であるアーシェラに迷惑は掛けられないしね。


相変わらず髪が心許無(こころもとな)いアゥストリは、突然の訪問に驚きそして二つ返事で協力を約束してくれた。


必要な物は訓練施設と鍛冶場。


もちろん、師匠の家の様に踏鞴(たたら)()も欲しい。


風竜が刀をくれたからね。


鍛錬するのには必要だ。


アゥストリに教えて貰った石材屋へと(おもむ)く。


カルアとエルミアは、楽しそうにボクに着いて来てくれた。


石材屋の店主であるドワーフのおじさんは、突然やって来たボクを不審そうに見ていた。


そこで、アゥストリから貰った紹介状を見せると、納得したのか商談に乗ってくれた。


しかし、ボクが2つの建設を提案をすると「いやぁ・・・そんなにでっけぇ仕事だと、材料集めるだけでも時間かかるぞぉ?」と難色(なんしょく)を示した。


そうか・・・建具を揃えるだけでも時間が掛かるか・・・・


それならばと、ボクが石材を運ぶ事を告げる。


ドワーフのおじさんは、いぶかしげにボクを見詰め「やるだけやってみな」と(しぶしぶ)承諾(しょうだく)してくれた。


よし!


教えて貰った採石場(さいせきじょう)へと『魔鳥(まちょう)』姿のファルフで向かう。


カルアとエルミアは、最初のうちこそおっかなびっくりしていたが、大空を自由に駆けるファルフに楽しそうに乗っていた。


ボクはその様子が可笑しくて、にやけて見ていた。


採石場のある山まで辿り着くと、作業をしていた人達が突然の訪問者であるボク達を不思議そうに見詰めてきた。


ボクはなるべく穏和(おんわ)に努めて、不信感(ふしんかん)を抱かせない様に話した。


やがて、この採石場の管理者だろうか?


ヒュームのおにぃさんが「いいだろう。持っていけるだけ持って行くといい」と快諾(かいだく)してくれた。


やったね♪


管理者のおにぃさんの一言で、こちらを見ていた作業員の人達が一斉に作業を開始する。


大きなのこぎりで石山を切り取り、次々に石材を並べだした。


ボクはアイテム箱を出して、並べられた石材をポンポン入れていく。


その様子を見たおにぃさんや作業員が、驚いて目を丸くする。


ボクがニコッと笑うと「・・・ふ・・・ハハハハハハ!!」と一斉に笑い「すげぇな!おい!!」とボクを褒め出した。


ボクは、風竜から貰ったアイテム箱を褒められたと思い、嬉しくなって笑い返した。


採石場の作業員のおかげで、無事に石材を確保すると、お礼を述べてその場を後にする。


「良いもん見せてもらった!」と言い、笑いながら見送ってくれた。


ファルフを大急ぎで飛ばして、石材屋のおじさんのもとへ。


3時間程で戻ってきたボク達を見て、おじさんが驚いていた。


「も、もう行って来たってぇのか!?」


そう驚くおじさんに「はい!これで建設に協力していただけますよね?」とお願いする。


「こりゃぁ・・・やらないわけにはいかねぇな!」と言い、見たことがあるガハハ笑いをしてくれた。


ドワーフって、みんなこう笑うのかね?


不思議に思いながらも、屋敷へと案内する。


門番をしていた兵士さんに挨拶をして屋敷の庭へと行くと、アイテム箱から石材を取り出した。


あきらかにおかしいその収容力(しゅうようりょく)に、おじさんは驚嘆(きょうたん)とし、最後には呆れて笑い出した。


「ガハハハ!ホントに、どうなってんだこりゃぁ!!笑うしかねぇな!」


そう言いボクの背中をバンバン叩いた。


ああ・・・ニールの気持ちがわかる。


レギン親方にこうやって叩かれていたもんね。


これはかなり痛いよ。


オナイユにいるニールの気持ちがボクにはわかった。


「木材と職人の手配をする」と言い、屋敷を出て行く石材屋のおじさん。


早ければ明日から建設に入れると答えてくれた。


ずっと着いて来てくれていたカルアとエルミアに目を向ける。


ボクが見ていると気付いた2人は、優しく微笑んでくれた。


無理矢理付き合せちゃったからね。


そこへ、アゥストリがやってきて声を掛ける。


「カオル殿!無事に、建設まで()()けたようですな」


アゥストリにそう言われ「はい。ご協力ありがとうございました」とお礼を返した。


アゥストリは照れくさそうに頭を掻くと「いやいや。カオル殿には、失礼な事をしてしまいましたからな。お返しが出来て何よりです」と話した。


ああ、そういえば・・・・初めて出会った時に、アーシェラの前で勝負させられたんだっけ。


ボクはそれ思い出して苦笑いを浮かべた。


「ところでカオル殿。屋敷の周りの貴族家へ、もう挨拶はされましたか?」


アゥストリが突然そんなことを聞いてくる。


挨拶?


引越しの挨拶みたいなものだろうか?


よくわからなかったので、カルアとエルミアに聞いてみる。


「挨拶っていうのは・・・したの?」


ボクがそう聞くと「いえ・・・していないと思います」とカルアが答えた。


ふむ・・・・


「やらないと不味(まず)かったりしますか?」


アゥストリにそう聞くと「それはもう!貴族は、体裁(たいさい)をとても気にしますからね。それに礼節(れいせつ)を重んじます。吉事(きちじ)凶事(きょうじ)には必ず挨拶をし、贈り物などもしますからな」と教えてくれた。


うわぁ・・・面倒(めんど)くさい。


なんて言えないのか。


ボクも一応、貴族の男爵だもんね。


それに、よくしてくれているアーシェラの顔を潰す様な真似は出来ないし。


それにしても挨拶かぁ・・・・


アゥストリが言っていた通り、何か贈り物をした方がいいのかな?


「ねぇアゥストリ、お土産的な物って何がいいのかな・・・・」


ボクがそう聞くと「そうですな・・・ここ何年も、市井(しせい)の者から貴族になった方がおりませんでしたので・・・・」と話すと、悩み出した。


やがて「ここは、カオル殿にゆかりある物がいいかと」と答えた。


ボクにゆかりある物?


なにかあったっけ・・・


首をかしげて悩むが、特に何も浮かばなかった。


そこでカルアに聞く。


「何かあるかな?」


するとカルアではなく、エルミアが答えた。


「カオル様は料理がとてもお上手です。食べ物などいかがでしょうか?」


ふむふむ・・・食べ物ね。


それを聞いたカルアが「それならお菓子がいいです♪オナイユの街では、くれーぷが評判でしたものね♪それに、カオルちゃんのお菓子は絶品ですから♪」とニコニコ話した。


お菓子かぁ・・・・そんな物でいいのかな?


アゥストリに聞いてみると「よろしいのではないでしょうか。カオル殿はまだ子供ですし、喜ばれると思いますよ」と答えてくれた。


それならばと、キッチンへ行き調理を始める。


キッチンにはドラゴンを倒した褒美として貰った、豪華な4口のコンロが付いたオーブンがある。


天板の御影石(みかげいし)がボクはかなり気に入っている。


さっそくとばかりに材料を物色する。


うん、小麦粉も膨らまし粉も砂糖も・・・一通り揃っている。


果物もあるし何を作ろうかなぁ~。


とりあえずと、カルアにお願いしてアゥストリやエルミアへ紅茶を淹れてもらう。


さすがにお客様のアゥストリに何も出さないのは失礼だ。


アゥストリとエルミアが食堂の椅子に座って見守る中、ボクは調理を開始した。


◆紅茶のクッキー


バターをボウルに移して常温で溶かす。


そこに砂糖を加えてクリーム状になるまでよく練り、卵黄を加えて混ぜ合わせる。


クセの少ないニルギリの葉を加えてさらに混ぜ合わせる。


小麦粉を加えて、粉っぽさが無くなるまで掻き混ぜたら細長く一塊に纏める。


しばらくそのまま生地を休めたら、オーブンに火を入れ、2層式の上部の鉄板を取り出し薄くバターを塗る。


生地を1cm大に切り揃えて鉄板に並べる。


十分温まったオーブンに入れて焼き上がれば完成。


金平糖(こんぺいとう)


グラニュー糖またはキャスターシュガーを使う。


日本では上白糖が一般的だが、海外ではこちらの方が普通の砂糖と認識されている国もある。


鍋に水を入れてお湯を作る。


そこにグラニュー糖を加えてよくかき混ぜ糖蜜を作る。


フライパンを弱火にかけ、グラニュー糖を入れる。


温まったところに糖蜜を少しかけ、ふつふつと沸いて粘り気が出たら、火からおろして複数の木の棒で一気にかき混ぜる。


小さい玉が出来たら、フライパンを冷まし何度も同じ工程を繰り返す。


玉が大きくなってきたら、絶えずフライパンを振りながら糖蜜を何度もかける。


かけては転がし、乾いたらまたかける。


それを繰り返して完成だ。


食紅でもあれば色鮮やかになるんだけども・・・・


アレって一部の原材料が虫なのでちょっと・・・・今は使いたくない。


作業は面倒なので、途中からカルアにお願いしました。


◆マドレーヌ


ボウルに砂糖と卵を入れてよくかき混ぜる。


小麦粉と膨らまし粉を加えてさらに混ぜる。


バターをフランパンに入れて、色が変わるまで加熱してボウルに加える。


鉄製の型に流しいれ、オーブンで焼き上げれば完成。






出来上がったお菓子をみんなに試食してもらう。


「お、美味しい・・・」


「んーー♪さすがカオルちゃん♪」


「カオル様、私はいつでも準備ができておりますので・・・」


アゥストリは驚いた様子でボクのお菓子を口に頬張った。


カルアはいつも通りだけど、エルミア?


準備ってなんの準備ですか・・・?


いぶかしげにボクが見詰めるが、エルミアは頬を赤く染めてモジモジしただけだった。


はぁ・・・・エルミアの進化は止まらない・・・というところですか。


師匠みたいに『残念美人』にならなければいいなぁ・・・


出来上がったお菓子を手に近隣の貴族を訪ねる。


アゥストリが一緒だったからか、とても好意的な対応をしてくれた。


一番驚いたのは、ボクの両隣が公爵(こうしゃく)侯爵(こうしゃく)という、とても高い階位(かいい)の方々だった事だ。


なんで?


家の向かいの家も伯爵(はくしゃく)だし。


ボク、成り立ての最下位の男爵なんだけど・・・


対応してくれた高階位(こうかいい)の貴族の皆様は、お年を召したおじぃ様で子供のボクにも優しく接してくれた。


「孫をぜひ婿に!」なんて言っていた人もいたけど、やんわり断った。


ボクは男なんですよ?


はぁ・・・


うな垂れていると「カオル殿、実はこのお屋敷は陛下が特別に用意された物なんですよ?本来この場所は、男爵など住む事ができないのです」とアゥストリが教えてくれた。


ああ、なるほど・・・・・


ボクのために広い屋敷を用意してくれたのか。


感謝はするけど、さすがに近隣にこれだけの貴族様が集まっていると、気後(きおく)れしてしまいますよ。


無事に挨拶も済ませ屋敷へと向かう。


アゥストリは「それではカオル殿、また参ります」と、別れの挨拶をして帰って行った。


初めは決闘したり、魔術学院で講師にされそうになったりしたけど、付き合ってみると面倒見がよくて善い人だよね。


空が茜色に染まる中、そんな事を思いながら、カルアとエルミアに手を引かれて屋敷へと帰った。


ご意見・ご想などいただけると嬉しいです。

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