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第八十三話 目覚めたカオル

「チュン・・・チュンチュン」


小鳥の声で目が覚める。


眠い目を擦りながら上半身を起こすと、脚の上に重たい物が乗っていた。


なんだろうと思いそちらに目を落とす。


脚だ。


だれの?


ボーっと目を向けて、脚の主が誰なのか確かめる。


それは半裸の師匠だった。


ボクは慌てて飛び起きる。


どうして!?


というか、ここはどこ!?


慌てて周りに目を向ける。


どこか大きな部屋なのだろう。


壁にはワードローブやチェストが備え付けられており、小さなテーブルと椅子が2脚添えられていた。


そして、かなり大きなベット。


その上には師匠・カルア・エリー・エルミアの姿が。


ボクの家族だ。


4人はまるで絡まるように横たわっていた。


なんでこんな状況に!?


慌てて思い出す。


たしか・・・


魔術学院で勉強してて、師匠達が迎えに来て、そこで・・・なんか不思議な本が光って・・・


手が伸びてきて・・・・ボクが引き込まれたんだっけ?


それで・・・そうだ。


変な笑い声が聞こえて・・・・あの・・・『濁った目』をした師匠達に・・・・


弄り殺されたんだ・・・


あれ?


なんで死んだのにボクはここにいるんだろう?


もしかして夢?


でも、ものすごく苦しかったような・・・・


それに、身体中切り刻まれたような・・・・


自分の手足や身体に目を向ける。


どこにも傷一つついていない。


夢だったのかなぁ・・・・


でも、とっても苦しかったんだ。


まるで狐につままれたような感覚に(さいな)まれていると「んっ・・・」と言い、エリーが身じろいだ。


ボクはヤバイ!?と思い、思考を止めて、本能的に逃げる事を選んだ。


気付かれないように風を纏い、音を立てずに扉を開けてその場から遁走(とんそう)する。


うわぁ・・・なんで、あんな事になっていたんだろう!?


部屋を出て通路を進むとテラスに出た。


どうやらここは2階部分で、外に見える建物から帝都だという事がわかった。


青白い壁に青い屋根をしていたからね。


階段を見つけて慎重に下へ降りる。


どうやら誰もいないようで、1階には居間とキッチンと食堂が併設されていた。


「くしゅん!」とくしゃみをひとつ。


あまりの出来事に慌てていて、まったく気がつかなかったけど、ボクは今下着1枚の姿だ。


そりゃ寒いわけだ。


アイテム箱から服を取り出す。


麻のチュニックにズボンだ。


そこで、ふとアイテム箱の中に見慣れない物が沢山入っている事に気付く。


なんだこれ・・・・


見た事も無い服や武器に装飾品。


そして、事切れた魔物の数々。


ボク以外がアイテム箱を使ったのかな?


どうやって・・・・?


首をかしげて不思議に思うが、誰もいないので答えが出るはずもない。


不審に思いながらもアイテム箱を閉じて着替えた。


それにしても・・・・ここどこだろう?


改めて辺りを見回す。


窓の外には広大な庭が見て取れる。


その向こうには不釣合いな高さの壁。


ここはかなり大きなお屋敷のようだ。


だれの?


不思議に思っても答えなどでない。


とりあえず考えるのを止めて、一息つこうとソファに座りアイテム箱から紅茶のセットを取り出した。


師匠達がいたって事は、勝手に座っても怒られないよね・・・?


そこで気づく。


む・・・・誰か勝手に紅茶飲んだな・・・・・


お気に入りのヌワラエリヤの葉がかなり減っている。


これ高かったのに・・・


シクシク泣きながら紅茶を淹れて、一口飲む。


さわやかな香りに、紅茶のしっかりとした味わいが口内へ広がる。


「はぁ・・・美味しい」


久しぶりに飲んだ紅茶は、格別(かくべつ)の味がした。


そこへ「カオ・・・ル・・・・ちゃん?」と、ボクの名を呼ぶ声が聞こえた。


声が聞こえた方へ振り向くと、壁に手を当ててカルアがこちらを見ていた。


「・・・おはよう?」


首をかしげてそう返事をすると、カルアが突然泣き出してしまった。


ボクは慌てて立ち上がり、カルアの傍まで行くと「ど、どうしたの!?」と声を掛ける。


カルアは(すが)りつくようにボクの胸に身を預けると「よかった・・・本当に・・・よかった」と言い、大粒の涙を流した。


どうしたんだろう?


久々に会ったのに・・・・


慌てるボクを余所に、カルアはボクの胸で泣き続けた。










しばらくすると、またボクの名を呼ばれる。


「かお・・る?」


胸で(むせ)び泣くカルアから目を移し、声の主を見上げると師匠だった。


ボクは変な所を見られて、ちょっと気まずい感じで「お、おはようございます。師匠」と朝の挨拶をした。


師匠は無言で涙を流すと、そのままボクに覆いかぶさる。


「えっ!?」


突然の事に声が漏れるが、師匠はお構いなしにボクをきつく抱き締めた。


カルアごと。


びっくりするぐらい力強く抱き締める師匠。


押しつぶされるカルアが心配だ。


やがて、エリーとエルミアが合流する。


「カオルだ・・・・」


「カオル様・・・・」


そう言い、2人揃って突進してくる。


「ちょ!?ムリだよ!?」


足に力を入れて踏ん張ろうとするが、ボクより身長が高い2人のタックルは防ぎきれなかった。


(もつ)れ合うようにソファの上に転がる5人。


どうやったのかわからないが、ボクが一番下で左右に師匠とカルア。


ボクの上にエリーとエルミアが半分ずつ乗っていた。


とりあえず・・・・


女性にこんなこと言うのは失礼だけど・・・・


「重い!!」


そう叫ぶが誰も離れようとはしなかった。










今はボクが簡単に朝食を作り、それを食べ終わったところだ。


食器などの片付けは、エリーとエルミアが率先(そっせん)してやってくれた。


食堂から場所を移り、居間のソファーへと腰掛ける。


すると、なぜか師匠とカルアが協力して、目の前のローテーブルを退かしてソファを持ってきた。


ボクを囲うようにそれに座る4人。


なんだか、浮気でもして針の(むしろ)にされた旦那さんの気分だ。


いや、浮気なんてしないけど。


しないよ?


うん、しない。


だって12歳だし。


恋愛すらまだだし。


あ、大好きな家族は別です。


「みんな大好き」


変な事を考えていたら、思わず声に出てしまった。


慌てて口を手で(ふさ)ぐ。


遅かった。


ボクの言葉を聞くと、師匠達が顔を赤くしていた。


ヤバイ・・・・恥ずかしい・・・・・


何か言い訳をしようと考える。


でも、何も思い浮かばなかった。


すると師匠が話し始める。


「カオルが私の事を大好きなのは知っている。とりあえず今は、私達の話しを聞いて欲しい」


そう言うと、真面目な顔をした。


久しぶりに見た、師匠の真面目な・・・真剣な顔に、ボクはときめいてしまった。


なんて凛々しくてカッコイイのだろうと。


見惚(みほ)れていると、隣に座っていたカルアに頬を(つね)られた。


「ヴァルカンばっかりずるいです。カオルちゃん、おねぇちゃんも見て下さい!」


そう言うと、ボクの頬を両手でガッチリ掴んで顔に近づける。


カルア以外を見せない気だ。


そこへエリーが助けてくれる。


「ちょっとおねぇちゃん!私のカオルを、独り占めしないでよね!」


そう告げると、カルアの手を振り払い今度はエリーがボクの顔を手で押さえる。


いったいなんなの!?


なんだかよくわからない戦いに、ボクの思考は追いつかなかった。


慌てていると、不意に髪が浮く感じがした。


なんだろう?と思い、斜め前に座るエリーに向けられていた視線を後ろに向ける。


丁度振り向く感じで見やると、エルミアがボクの髪を持ち上げ、今まさに口に入れようとしていた。


え?


どういうこと?


驚いて言葉が出なかった。


まさに絶句(ぜっく)


ボクが振り向いた事に気付いたエルミアが、ニコッと笑った。


釣られてボクも笑顔を作る。


ボクが「食べていいよ」とでも言ったと解釈したのか、エルミアが髪に噛り付こうとしたその時!師匠が止めてくれた。


「エルミア・・・カオルの髪は食べ物じゃないぞ」


そう言い、エルミアを引き剥がす。


エルミアは残念そうに肩を落とすと、物欲しそうにボクを見詰めた。


いや・・・どうしろと?


というか、過激な発言が多かったエルミアにいったいどんなことがあったの?


小一時間程問い詰めたい気持ちになった。


尚も物欲しそうに見詰めてくるので、髪を手櫛(てぐし)()く。


エルミアの手を取り、長い抜け毛を1本、左手の人差し指にグルグルと巻き付けて(むす)んだ。


「食べちゃダメだよ?」


そう言うと嬉しそうに「はい、カオル様♪」と答えて、声を弾ませた。


本当に・・・・エルミアの身に何があったんだろう?


すると「エルミアずるい!」「カオルちゃん、私にも・・・」と、エリーとカルアが文句を言い出した。


師匠はそれを聞いて「いい加減にしろ!大事な話しをするんだ!」と言い、場を(おさ)めた。


そんな師匠の気迫(きはく)に驚く。


今から何を話すんだろうか・・・・


そして、師匠は話し出す。


それはボクにとって衝撃的な内容だった。


「カオル、よく聞いて欲しい。そして、けして自分を責めてはいけない。わかったね?」


そう前置きをして、師匠は語った。


ボクが『ego(えご)黒書(こくしょ)』という魔導書(グリモア)に囚われた事。


そして、ボクを救う為にみんなが奔走(ほんそう)して、風竜のおかげでボクが今こうしていられる事を。


ボクは泣いた。


ボクの為にみんなが一生懸命協力してくれた事に。


風竜が・・・・ボクの為に命を懸けてくれた事に・・・・・


左腕にはまる銀の腕輪を右手で握る。


風竜がボクのためにくれた物だ。


胸のルーンも・・・・風竜がボクのために・・・・


ボクと契約してくれた・・・・


ごめんね・・・風竜・・・・


声を出して泣いた。


大声で叫びたかった。


「寂しいよ!」


「嫌だよ!!」


「風竜・・・・・・」


「うぅぅ・・・」


ボクが泣き叫ぶと、みんなが優しく抱き締めてくれた。


何も言わずに。


ただボクの声を。


聞いてくれた。


ご意見・ご想などいただけると嬉しいです。

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