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第七十八話 傍若無人な風竜 その四

翌朝、カルアの元気な声で起こされる。


「ヴァルカン!朝ですよ!起きて下さい!」


カルアはそう言うと、私の肩を力強く揺さぶった。


「うぅ・・・わかった!もう起きた!」


私はそう叫び、眠い目を擦りながら身体を起こす。


昨夜は、風竜のあんな姿を見てしまい、あまり眠ることが出来なかった。


カルアに催促(さいそく)されて、いそいそと騎士服に袖を通す。


換えの騎士服を持ってくるべきだったか・・・


風竜に()かされて屋敷を出たものだから、着替えを持ってきていなかった。


カルアも同じだったようで、昨日と同じ服を着ている。


用意された洗面器で顔を洗うと、カルアに案内されて部屋を出る。


2階のテラス部分では、いつの間にかテーブルと椅子が用意されていて、既に風竜が待っていた。


「おはよう!」


風竜が嬉しそうにそう言う。


私とかカルアも「「おはようございます」」と挨拶を返すと、椅子へ座るよう(うなが)される。


どうでもいいが、ドラゴンである風竜が「おはよう」と挨拶するのは、どこか変だと思わないのだろうか?


そんなことを考えながら、2人揃って椅子に座ると、風竜はアイテム箱から食料を取り出した。


ローストビーフに丸い白パン。


オニオンのスープに温野菜のサラダ。


どれも、以前カオルが作っていた食事だ。


作ってアイテム箱に保存しておいたのだろう。


グローリエル達と向かったダンジョンでも、同じ食事を出してくれたことがある。


3人で揃って食事をいただく。


アイテム箱内は時間が進まないため、どれも出来たての様に温かかった。


食事をしていると「なんだ、2人共昨日の服のままか?」と風竜が聞いてくる。


誰のせいで、2日も連続で同じ服を着るはめになったのか・・・


ムッとした気持ちで「誰かさんが、ろくに準備もさせないまま連れてきたからな」と嫌味(いやみ)を言う。


すると風竜は「ははは!それはすまなかったな」と笑い、左手を掲げて私とカルアに『浄化』の魔法を唱えた。


昨夜、寝る前にブラシをかけたとはいえ、どこか埃っぽかった騎士服が、風竜の『浄化』により洗濯し立てのような綺麗な服になる。


まったく・・・・


こんなことしたって許さないからな。


私は、内心そう思いながら風竜を見詰めていると、風竜の左手が光った。


何事かと思い、その光る物体へ目を向ける。


それは、左手の薬指にはめられた白銀の指輪だった。


私は思わず「ぶっ!」と口からスープを吹き出した。


それを見たカルアが「ヴァルカン!食事中に汚いですよ!」と注意をする。


私はあたふたしながら風竜が付けている指輪を指摘した。


「か、風竜!なんでそんな指輪をしているんだ!!」


それを聞いた風竜は「いいだろう?私からカオルへの贈り物だ」と自慢気に話した。


贈り物とかどうでもいい!


問題は、そのはめている指だ!


そこは、結婚した男女が贈り合った指輪をはめる場所だぞ!


私がそのことを注意すると「そうなのか?だが、この指以外だとサイズが合わんのだ」と(ずうずう)々しくもそう話す。


よくもぬけぬけとそんな事を言うもんだ!


私が顔を真っ赤にして怒ると、それを聞いたカルアも「風竜!いけませんよ!そこは、私がカオルちゃんに贈った指輪をはめてもらう場所です!」と怒り出し、はめていた指輪を抜いて右手の薬指へと移した。


いや、場所を移したのはいいんだが「カオルの左手の薬指に指輪をはめるのは私の役目だからな?」


私はそう言い、カルアと対峙した。


それを見た風竜は大笑いし、私とカルアを褒め称えた。


なんだこの自由人は!


褒められたってちっとも嬉しくないぞ!


私とカルアはからかわれたと思い、風竜に抗議した。


風竜は「すまないな。2人は本当にカオルが好きなのだな」と話す。


それを聞いて、昨夜の風竜の姿と重なる。


1人寂しく天井を見詰め、カオルに謝っていた姿と。


私が抗議するのを止めると、カルアも同じように止めた。


静かに席に座り、食事を再開する。


普段なら、ここまでヒートアップする事は無いのだが・・・・


もしかしたら、浮かれていたのかもしれない。


意識こそ戻ってはいないが、傍にカオルの姿があるのだから。


私は自分を戒めながら、食事を続けた。


食事が終わると、風竜は「やる事がある」と言い、紅茶のセットを置いて1人1階の部屋へと消えて行った。


残された私とカルアは、特にする事も無いので他愛(たあい)もない会話をして過ごした。


こんなにゆっくりとした時間を過ごしたのは久しぶりだ。


カルアも同じだったようで、嬉しそうに椅子に座りのんびりとしていた。


やがて、紅茶も無くなりくつろいでいると、風竜が慌しく戻ってくる。


私達の前で止まり「見てくれ!」と言い、その場で魔法を唱え始めた。


「『魔装【舞武(まいぶ)】』」


風竜がそう唱えると、一瞬のうちに風竜の着ていた服が移り変わる。


桜色の腰までの長さの短着(たんぎ)に、短く紅いスカート状の(はかま)姿。


首後ろと袖の部分には黒丸が5つ等間隔に並べられ、まるで何かの家紋の様だ。


何より目を引くのは、艶かしい足。


ニーソックスよりも長い、黒いオーバーニーソックスが、短い袴との間にある地肌をいやらしく見せた。


私とカルアは「ちょ!?」「まぁ♪」と声を上げ、その姿に釘付(くぎづ)けとなった。


風竜はその場で1回転のターンをすると、満足そうに胸を反らせる。


「どうだ!?」と自身満々に言う風竜に、私は「どうだじゃないだろう!?なんだその服は!?」と声を荒げた。


風竜は「だめか?前に女狐から貰った服を改造したんだが・・・・」と残念そうに肩を落とす。


いや!


だめじゃないんだ!


だが、そんな可愛らしい姿を晒したら、私は狼に変身してしまうぞ!?


鼻息荒い私の隣でカルアが「素敵です♪さすがはカオルちゃん♪」と大喜びをしていた。


それを聞いた風竜は「そうだろうそうだろう!幼子のカオルは何を着ても似合うからな!」と言い、カルアと手を取って喜び合った。


なんというか・・・・


カオルは風竜の親的な立場になったのか?


私はカオルきゅんと結婚する時に、風竜に「娘さんをください!」なんて言いたくないんだが・・・・


私の心配を余所に、盛り上がる2人。


その様子を見て、頭を抱えてしまった。










一頻り楽しんだのか、風竜が椅子に座ると私とカルアも椅子に戻る。


新しく紅茶を淹れ直し、それを(すす)る風竜に声をかけた。


「それで、風竜はそんな服を作っていたのか?」


私がそう聞くと「うむ!戦う為の服は、いくつあっても困らないからな!」と答えた。


どうやら、これが昨日言っていた『我にはこんなことしかしてやれぬ』ということなのだろうか?


まぁ、カオルなら喜んで着そうではあるが・・・・


それにしても、この服で戦闘を行うのか?


布切れ一枚にしか見えないんだが・・・・


私が不審そうに風竜の服を見詰めていると「む?もしかして、ただの服だと思っているのではないか?」と風竜が聞いてくる。


だって、どこからどう見てもアーシェラがカオルに贈った、長着(ながぎ)の和服に見えるんだが・・・


私の視線が(しゃく)(さわ)ったのか、風竜が説明を始める。


「この服は裏地部分に白銀の糸を織り込んである。大変だったんだぞ?カオルの知識があったとはいえ、1本1本丁寧に縫い込んだんだ・・・・」


ホントに大変だったようで、風竜は声のトーンが段々と小さくなっていった。


しかし、白銀の糸か・・・


私が以前カオルにプレゼントした外套にも同じ物が使われていたが、織り直しただけでえらい額の金額がしたな。


苦笑いを浮かべつつ、風竜の(ろう)をねぎらった。


カルアも交えて3人でアレコレ品評する。


カオルは何を着ても可愛いが、やはり私一押しはその太股だろう。


私は太股について熱く語った。


「この少し見える太股が最高だろう!」


私がそう言うと「ええそうですね♪」とカルアも同意する。


おお仲間(とも)よ!


カルアと固い握手を交わすと「ふむ・・・だが、ヴァルカンは事あるごとにカオルの太股を触っていただろう?カオルがいつも迷惑そうにしていたぞ?」と風竜が冷や水をかけた。


私とカルアの動きが止まる。


カルアは「ゴゴゴゴゴ!!」と音を鳴らして怒り出す。


「どういうことですか!?ヴァルカン!!私がいない間に、あなたはカオルちゃんにそんなセクハラをしていたってことですか!?」


やばい!バレタ!?


私は、慌てて握手していた手を引っ込めると、言い訳を始める。


「ち、違うんだ!カオルは馬に乗れないから、私と一緒に馬に跨ったんだ!初心者は危ないから、熟練者の前に乗せるだろう?その時、つい手が当たってしまってな!」


そう言うと風竜が「いや、完全に揉んでいただろう。カオルが嫌がっていたぞ?」とツッコミを入れる。


ひぃ!?


カルアはそれを聞くと「・・ヴァ~ル~カ~ン」と聞いた事無いような低い声で言い、私を追い掛け回す。


私は脱兎(だっと)(ごと)く、その場から逃げ出した。


風竜は追い掛け回される私とカルアを見て、楽しそうに大声で笑った。


ご意見・ご想などいただけると嬉しいです。

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