第一話 第五部 千代乃と勧誘
「なんだか私たち気が合いそうね! 一緒にカラオケしていた中で一番楽しいよ!」
「ほ、本当に? ありがとう…。」
「あとは…どれだけ努力してやっていけるかだね。」
私たちは会話をしながら飲み物を飲んで休憩していた。そんな中、隣から歌声が聞こえてきた。
「なんだろう…隣の歌っている曲。」
「アカペラ? 音楽は流していないみたいね。…でも良い声。」
私たちはちょっと気になって飲み物を取りにいくという名目で隣の部屋を覗くことにした。
「うわ…美人。」
「それに上手いし声もはっきりとしている…。」
そこにはスポーツバックを置いて歌っている女子4人がいた。何か運動部のオフにカラオケに来ているのだろう。にしてはこの人のレベルがすごい。体つきもしっかりしていて…まさに運動部って感じ。でも…アイドルばりの可愛さだし、ちょっぴりかっこよさもある。こんな人が入ってくれたら私たちのグループはもっと良くなるだろう。そんな考えが頭の中に浮かんできた。
「ねえ、あの人。」
「私も同じ考えだよ。」
私と楓は飲み物を入れながら互いに見合ってうなづいた。あの人をスカウトするしかない。こんなのいきなりで変な人に思われるかもしれないし、呼ぶための自信なんて無い。でも…いけるならお願いしたい。
「あの人たちと終わるのをあわせるか、私たちが最初に終わったら声かけるようにしよう。一発勝負だけどがんばろう。」
楓は右手でグーポーズをしていきごんていた。チャンスは一度きり……簡単に頼めるなんて思っていない。でももしかすると…。
「結構歌ったね。」
「うん…。そろそろかな?」
そういって私たちが扉を開けると同時に隣の扉からあの女性が出てきた。
「あ…。」
私は思わず声を漏らした。向こうの人はこっちを見て首をかしげている。私は恥ずかしくなって急いで会計の場所へと向かっていった。
「あ、ちょっと千代乃。」
私は急いで会計を済ませた。隣で楓もお金を出していた。会計が終わると一息ついて外に出た。そして目の前にあった自動販売機の前まで移動した。
「ここで待とう…ちょっと恥ずかしかったけど…。もう決めた、緊張したって何したってあの人に声かけるよ。」
「そうだね! がんばろう!」
両腕両足がプルプルと震えている。あの人にばれないように何とかしないと…。
「楽しかったね! それじゃあここで!」
あの人たち、ここで分かれるみたいだ。あの女性は一人である方向へと歩いていく。私たちの帰る方面と一緒だ。
「行こう、今しかない。」
「わ、わかった。」
後ろで楓が押している。私は走ってあの人の所へと向かった。
「あ、あのっ!」