第四話 第六部 デビューとマイマイク
「ふぅ…食べ過ぎないようにするのが良いのかな。」
「かといって何も食べないのもいけないわよ。だから効率よく食べられるものを選ばないとね。」
「そうなんだね。うたっている時とかは常温の飲み物がベストだと聞くよ。喉を刺激させるような飲み物は禁物だね!」
私たちは食事中にもアイドルに関してずっと語っていた。これほど真剣に語れるのはこの三人だからこそだろう。しかも周りから見れば固いような会話に見えるかもしれないけど、私たちにとってみればものすごく楽しい。二人も楽しんで会話しているだろう。二人に出会えて本当によかった。
「御馳走様でした。」
「それじゃあ行きましょうか。」
「スタジオにレッツゴー!!」
私と恭花さんにとっては初めてのスタジオ。楓はわくわくしながら歩いていく。家の中では歌ったりしたけどなかなか時間の都合上短い時間しかできなかった。だから皆の前で歌を披露するのはちょっぴり恥ずかしい。だけどもう二週間しか時間がない。弱音を吐いている時間なんてこれっぽっちもない。だから最後までやらなければ!
「ねえねえ、マイクは持ってきた?」
「私は買ったからあるけど…恭花さんは無いよね。」
「そうね、無いね。」
「そのために…じゃーん! 私のお古だけどあげる!!」
楓がバッグの中から綺麗に手入れされたマイクを出して恭花さんに渡す。ちょっとまって、これってこの前私がマイク買ったときに置いてあったもの…。
「今千代乃が持っているのより一昔前のタイプだけど音質は保障できるよ。貰って行っていいよ。しっかりと手入れはしておいてね。」
「本当にいいの? これって高いやつでしょ?」
「いいのいいの。もう使っていないし、私のやつだって今はこれだから。」
「あ、私と一緒のやつ。」
「だからこれ使っていていいよ。」
「ありがとう。大切に使わせていただくね。」
恭花さんはもらい物のマイクだとしても初めてのマイマイク。目をキラキラさせながら眺めていた。その気持ち、私もわかる気がする。