プロローグ
「みんな、今日の練習はハードだからね。」
「えー。」
「帰りにどっかよっていかない?」
「いいねいいね! カラオケとか?」
「俺もついて行っていいかな?」
高校の青春、なんて羨ましいことだろう。私も何か部活動やればよかったかな…。運動は体のことを考えるとダメ、文化部も面白そうに見えたけど生徒の雰囲気が全然合わなかった。仲間同士とうまくやっていける気がしない。…なんでこうなっているんだろう。私にもう少し勇気があれば、体がよければ…。でも何か一つ、やりたいことがほしい。それも私が「やりたい」と本当に思えるもの、ほかの人たちに止められたり左右されない何かを…。
帰宅ラッシュの電車は人が多くて大変、特に駅と駅が遠いと歩くから余計に大変になってくる。最近つらい思いしかしてないかもしれない。
ラーラーララー……
なんだろう、野外ステージからいきなり歌が始まった。ステージには四人の女の子がいる。アイドルグループのような衣装を着ている。
「みんな、いくよ!!」
……なんであんなに輝いているのだろう。心の底から歌ったり踊ったりしていること、アイドルを楽しんでいる。私にはあの輝きを持ったことがない。自然と立ち止まっている
。こんな人を引き付けるような力があるなんて。この人はすごい、夢を持たせてくれるような姿をしている。いままで私は音楽や踊り、見た目など気にしたことなんてない。私の心の中で何かが揺れ動いている気がする。でも…。
「ありがとー!!」
歌が終わると立ち止まっていた人たちが拍手をする。私もおくれながら拍手をした。この人たちの音楽はすごい…でもそれよりも私もあの舞台にたっていたらどれだけ楽しいことだろうか…。…………。想像してみるとすごく楽しそうだった。でも体の弱い私は果たしてできるのだろうか。もし変われるなら…。
「これから私たちのCDを販売します! 気に入ってくださったらぜひ買っていってください!」
そういって四人が手を振り、ステージから消えていった。あの人たちのCD、買いたいかもしれない。それよりも…私にもこんなことできるのか聞いてみたい!
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
前の三人はすぐに購入していた。この人たちはいずれ人気になっていくのだろう…。
「わあ! 女の子だ! ありがとうございます!」
「あ、と、とてもすごかったです…。」
「本当に!? ありがとう!」
彼女は笑顔のままCDをとってくれた。私は財布からお金を出してCDをもらった。…こんなこと聞いても良いのだろうか。でも…今聞かなきゃ…!
「あ、あのっ!」
「なんですか?」
「私、高校生なんですけどまだ部活とか何もやってなくて…そのっ、私このライブみてアイドル…やってみたいと思いました。」
「アイドル…。」
彼女たちは少々ぽかんとした顔になった。でも私はその様子に気づかずにまだしゃべっていく。
「体弱いし、上手くいくかどうかもわかりませんが…始めてやりたいことが見つかったっていうか…。私にもアイドルなれるでしょうか…。」
「うん、きっとなれるよ!」
一人の女性がすぐさま答えた。私は顔をあげてみた。そこには目を輝かせている女の子たちがいた。
「あきらめないという気持ちと強い意志があれば上手くいくよ。応援しているよ! あ、そうだそうだ!」
そういって彼女はすぐにバッグに手を突っ込んだ。こんなこと言われたのは初めて…。
「これ、私の名刺。帰ってからでもいいから連絡して! いろいろと教えてあげるから!!」
そういって彼女はニッコリと笑って名刺を渡してくれた。私は受け取ろうとするともう片方の手で支えられた。
「がんばって。」
「……はい!」
私、アイドルになりたい…。皆に笑顔を届けたい! よし、がんばらないと!!
「あ、………しまった! 今日早めに帰ってくるように言われてた!」
私はカバンをもってすこし早歩きで去っていった。