第三十六話 薺の告白
傘とラブレターはなかった。
帰る時 ラブレターに気付いて 取って行ったんだろう。
それはいい。 でも 傘まで持って行く必要はあったのだろうか。
別に傘がないから困ったりしないんだけど。
盗まれたのか。 いや 可愛いものでもないし 盗む理由がわからない。
まあ いいや。落し物として 届くのを待とう。
水やりの後 歩いていたら また例の場所から声が聞こえた。
近いのか なんとなく声が聞き取れる。 盗み聞きをするようで気が引けるが 今通れば見つかるのは確実だ。
見つかったら困るということではないのだが 会話が聞こえると 聞きたくもなる。
大義名分として 通れないということにするのだ。
声の主は またもや紫香くんとピィナだ。
だが ピィナは苛々しているようだ。
さっきから 私の話をしている。 そんな話題になるような事した覚えはない。
「そうではなくて。 貴方にははっきりして欲しいだけなの。」
はっきり とはなんだろう。 ピィナが語気を荒げたせいで しっかり聞き取れた。
紫香くんは ぼそぼそと話しているせいで なんと言っているかよく分からない。
もう少しハキハキ話せばいいのに。
「あの子は薺のように 貴方を想っているの。 貴方に全てを捧げます って意味よ。 だからはっきりして。」
凄い。 ピィナ この前 花言葉の勉強してるって言ってたけど本当だったんだ。
「知らないよ。 あんな子。 もう時間だから もう帰るから。」
なんでだろう。 紫香くんの声が唯一はっきり聞こえた。
立ち尽くしていたら 不審に思われるからと 歩き出した。 気づかれてもいい。
★貴方に全てを捧げます




