第2回 そのへんで拾った男の子を「執事として」雇うべきか
この『小説家になろう』に掲載されているファンタジー小説にはいくつかのテンプレートな展開がありますが、そのひとつが、ヨーロッパ風の異世界に、異世界トリップをした主人公が冒険や商売などで、功成り名遂げて、その挙句お金が余って仕方がないから屋敷を手に入れ、そこにちょうどよく身寄りのない子供がいて、仕方がないから使用人として雇うというパターンです。
『小説家になろう』でそのような、あるいは類似の展開を何度か見たことがあります。
それは、それでよろしいのですが、問題は、そのへんの道端とかで、男の子を拾った場合、その男の子を「執事として」雇うというパターンなのです。
例を挙げれば以下のようなものですね。
◆
ワタクシの名前は御列詠子。よくいる異世界トリッパーよ。
ワタクシの場合は、そう……そうね、ある日の朝、お母さんが、
「このハンバーグ五日前のだけど多分大丈夫よね♪」
と呟きながらそのハンバーグを弁当箱に詰め込んだのを目撃したの。それがすべての始まりね。
そして昼休みになったので、ほんとに大丈夫かよ? と思ったけれど、残すのももったいないからその弁当を学校で貪り食ったわ。そうしたら五限目の授業中に案の定猛烈に腹が痛み出したのね。もうキリキリゴロゴロと恐ろしいほどだったわ。
ワタクシは恥ずかしかったし、授業中だったから、脂汗を垂らしながらずっと我慢していたの。けれど、ついに限界が来て手を挙げてトイレに行かせてもらったわ。お尻を押さえながら教室を飛び出した時はもういわゆる、メーデー、メーデー!! というくらいの状態で非常に危機的な状況だったのね。
でもここで問題があったのよ。
ワタクシの通っている高校は、元が女子高だったせいで、トイレが内部で男女別に分かれていないのね。それで仕方ないから、トイレを男女で階ごとに分けて使用しているわ。我が校では一階と三階が女子で、二階と四階が男子ね。
でも残念なことにワタクシの教室は二階にあったのよ。
下痢を限界まで我慢した経験のある方はご存じかもしれないけれど、そういう風な状況で本当に危機的な段階までになった場合、少し動くことさえ猛烈な便意が襲ってくるので大変だわ。
それなのに果てしなく長く思える廊下を端まで行って階段を降り、そしてまた果てしなく長く思える廊下をつたって、この内なる堤防を決壊させず女子トイレにたどり着くのは、とても無理なことだとワタクシは瞬時に判断したわ。判断が速いのがワタクシの長所よ。
だからすぐ手近にある男子トイレを使わせていただくことにしたの。
もちろんワタクシだって思春期真っ盛りの女子高生。男子トイレに侵入するのは若干の躊躇を覚えたものよ。でもね、花の女子高生が脱糞、しかも下痢を脱糞すればそれは、この、場合によってはどこまでも陰湿になり得る閉鎖された学校という場所において、完全な社会的死を意味するの。それに今は授業中! ということはつまり誰もトイレに入ってこない可能性が高いし、よしんば誰かが入ってきても、個室で上手くやり過ごせばいいだけのこと! それに躊躇しているようなヒマは無いわ。
だからワタクシは躊躇を振り切って男子トイレに飛び込み、個室の扉を開けて、その洋式便器に腰かけようとしたわ。それはまさしく解放の刻!
でもねワタクシはそこで致命的なミスを犯したわ。解放の刻に気を取られすぎて、注意力が散漫になっていたのね。
つまり、殿方はその体の構造上立ったまま排尿をなさるということなの。ワタクシが便座に座らんと腰を下ろしたときに、ワタクシは自分の下半身が冷たい陶器にすっぽりと嵌まりこむのを感じたわ。
憎き五日前のハンバーグが体から抜けて出ていくのを感じながら、ワタクシは
「みぎゃーーーーー!!」
と絶叫してしまったものよ。つまり便座が降りてなかったのね。
叫んだらその瞬間、目の前が暗転して気が付いたらワタクシは異世界にトリップしていたわ。
そこから先は聞くも涙語るも涙の苦労があったのよ。
言葉はなぜか通じたから良かったようなものの、着の身着のままで異世界に放り出されたわけで、お金もないし、だから宿にも泊まれないし、食べ物も買えないしで、結局行き倒れたの。
それで、行き倒れているところを人買いのおっさんに、攫われそうになったんだけど、間一髪のところで、宿屋を経営している親切なおばさんが助けてくれたわ。
その人はワタクシに食事をくれて、お風呂にも入らせてくれたわ。
それで、ワタクシは無一文なので労働でしかお返しができないわ。お金がないことはないけど、これはよその国のお金だし……。そう言ってワタクシは財布のなかをおばさんに見せたの。だって、お金を持っているのに、支払いもせずにただ世話になっているとか思われるのは嫌ですもの。
そうしたら、宿のおばさんは「きれいな銀貨や銅貨があるじゃないの」とそういったわ。つまり500円玉とか10円玉とかのことね。
ワタクシは、いやこれはニッケルという金属であって銀ではないのよ、と言ったわ。そしたらおばさんは「まあ駄目もとで両替屋に頼んでみたらいいじゃないさ」と言ってくれて両替屋さんに連れて行ってくれたわ。
そうしたら硬貨類も財布に何枚か入っていた千円札もお金になったの。
つまりね、500円とか100円とかそういうお金って普段は何も思わず使っているけれど、あれって実は凄い細かい精度で図案が入っているのよね。もう異世界のお金なんかめじゃないほどよ。
だから両替屋のおじさんは、どこの国のお金か分からないから換金はできないけれど、そういうコインとか珍しいものを集めているコレクターの人がいるからその人を紹介してあげると言ってそのコレクターの方の家に連れて行ってくれたの。
そしたらその人が日本のお金は全部買い取ってくれたわ。
それが結構なお金になったの。
宿のおばさんのすすめもあったから、ワタクシはそのお金でちょっとしたナイフとかそういうこまごましたものを買って、冒険者ギルドという労働者派遣業者とハローワークを兼ねたような施設に行って冒険者というものになったわ。
それからワタクシはおばさんの宿を拠点にして、冒険者として暮らし始めたのよ。
仕事はいろいろあったけれど、最初のうちは、モンスター退治とかそういうのは怖かったからやめておいて、雑用とか薬草採取とかそういうのばかりやっていたの。でもね、ある日薬草採取の仕事で外に出ていたら、いつの間にか自分の周囲をRPGゲームとかで見るようなゴブリンの群れに囲まれていたのよ。
ああ、これは死んだなと思ったけれど、ただで食べられてなんかやるもんですかと思って半分パニックになりながら滅茶苦茶に手足を振り回したわ。そうして気が付いたら周りには血の海ができていたわ。つまり何故か勝っちゃったのね。
そのゴブリンの左耳が討伐証明になると聞いていたから、あっちこっちにすっころがってるゴブリンの残骸を集めて左耳を切り取ったわ。ちょっと気持ちが悪かったけれど、お金になると思えば吐き気も引っ込むものね。
それで、なぜか自分が強くなっていることに気が付いたから、それ以降は積極的にモンスター討伐の依頼も受けるようになったわ。そしてモンスターを倒せば倒すほど、どんどん自分が強くなっていくのがわかったわ。よくわからないけれどゲームとかでよくあるみたいにレベルアップでもしているのかしらと思うわ。
だから、このへんで苦労話は終わり。
これから先は、まあただの作業みたいなものね。襲ってくるモンスターをひたすら虐殺して、刈り尽くしたら、もっと強いモンスターのいるところに行って、また虐殺して、その繰り返しよ。そしたらどんどん強くなれるし、モンスターを解体して得られる素材もどんどん良いものが手に入るし、討伐賞金もうなぎ上りだし、お金がたっぷりあれば良い装備品も買えるし、装備品が良くなればもっと強くなるし。スパイラルよ。
そうするうちにパーティーを組む仲間も見つけて、お金になるモンスターをどんどん狩ってギルドに持ち込んで『血塗れのエーコ』とか二つ名がついて、ブイブイいわしてたの。
ワタクシにとってはほとんどゲームのレベル上げをしているみたいな感覚で、単純作業の繰り返しにしか思えないんだけれど、それがいつの間にか伝説になっちゃってたのね。
そしたら、ある日に冒険者ギルドのギルド長から呼び出しを受けたわ。
「オメーはカネを貯め込みすぎだ! 金貨が街から消えちまってるじゃねーか!」
ギルド長にそう怒鳴られたのよ。
使うあてがなかったから、たいして使いもせずに報酬を貰った端から貯めこんでたのが良くなかったみたいね。あんまり簡単にお金が入るものだから、手提げのお金箱もすぐいっぱいになって、仕方がないから貰った端から麻袋に詰め込んで宿の部屋の隅っこに積み上げて放置してたわ。それが重すぎるせいか、最近宿の部屋を歩くと床がギシギシいって、床が抜けたらヤバいなーとは思ってたんだけど。
ギルド長には、なんだか難しいことを言われたので、どうしてそうなるのかイマイチ理解できなかったけれど、流通するお金の量そのものが減ると不景気になって皆が困るんだそうよ。
「オメーいくら貯めこんでるんだ」
と聞かれて分からない位沢山あると答えると、ギルド長が宿の部屋にじきじきに査察にきたの。
ギルド長はワタクシの部屋に積み上げてある麻袋の山をみるなり、
「なんじゃこりゃああああああああ!?」
と叫んだわ。叫び声を聞きつけて、宿のおばさんもやってきて、麻袋の中が全部お金だと知ると「勘弁しておくれよ!? こんなのがあったら強盗が入るじゃないかい!」と怒られたの。もうワタクシしょんぼりだわ。
「なんでもいいから使え。使いまくれ! これは命令だ!!」
ギルド長にそう言われたけど、別に欲しいものなんてないもの、と答えたら、じゃあ家を買えと言われて、すぐに不動産屋がやってきて、街で一番でっかい豪邸を強制的に買わされたわ。それから家具屋さんや雑貨屋さんがやってきて、家の中の家具とかベッドのシーツとか食器とかを買わされたわ。それから街の一番高いレストランで食事をさせられて、そのあとブティックでドレスや靴や帽子や鞄をお店が開けるほど買わされて、最後に宿の皆に奢らされて、ようやくギルド長は、残ったお金を銀行に預けてくれて、
「いいか、明日からくれぐれもゴージャスに暮らすんだぞ」
とワタクシにクギをさして帰っていったわ。
家を買わされたから、仕方なく宿を引き払って、その屋敷に行ってみて、屋敷の書斎にあった椅子に座ってボケーッとしてみたわ。そのうちに陽が暮れてきてお腹がすいたんだけど、そういえばここでは待っててもご飯が出てこないのに気がついて、宿に舞い戻ったの。
宿でおばさんにご飯をつくってもらって、がつがつ食べながら、自分の家だと自分で御飯をつくらなきゃいけないし、風呂も自分で焚かなくちゃいけないし、洗濯も自分でしなくちゃいけないし、ベッドのシーツも自分で交換しなきゃいけないからから面倒だわといったら、
「そんなもんは誰かにやらせるんだよ。あんたお金持ちになったんだからそれらしくおしよ。使用人を雇うんだよ。ピエールからもなるべく贅沢しろっていわれたんだろ」
ってまた宿のおばさんに怒られたわ。あ、ピエールっていうのはギルド長の名前ね。
それで、晩御飯がすんで、まあギルド長からも贅沢しろって言われたから、ワタクシは久々にお酒を飲みに行ったわ。
お酒を飲んで帰る道々で
(使用人ってつまり執事とかメイドのことよねー、どうすれば雇えるのかしら)
とか考えながらスラム街を横切っていたわ。
お酒を飲むところっていうのは、街の繁華街というか歓楽街みたいなところにあるのね。そしてこの街ではそういう地区の隣にはスラム街があるの。
普通の人が通行するには少し治安が悪いから危ないけれど、冒険者ギルドランクSSSの(冒険者ギルドのランク表を初めて目にしたとき、なんで異世界なのに英語とかのアルファベットがあるんだって思ったわ)このワタクシに少しの傷だってつけられる存在はなかなかいないわ。それで、ワタクシはスラム街を近道に利用してたのね。
そうしたら、道の隅っこでボロ布を体に巻きつけてへたり込んでる男の子がいたわ。十二、三歳くらいの男の子かしらね。わりとよく見かける子よ。確か名前はセバスチャンとか言ってたわね。
いつもだったらポケットのお金を適当に渡して通り過ぎるのよ。まあ偽善だなんだと言う人もいるけれど、今日のご飯がなければ何も始まらないし、偽善だろうとなんだろうとお金はお金なんだから無いよりマシだろうと思っていつもそうしてきたわ。
でもね、そのときワタクシは閃いたわ。この子を執事として雇えばいいんじゃないだろうかって。
それでいつものようにポケットを探って、小銀貨と銅貨を何枚かとってセバスチャンの懐に押し込んだわ。ちなみにこういうとき金貨とかは渡しちゃだめよ。トラブルのもとになったりして使いにくいからね。小銭をたくさん渡すのがスマートなやりかたよ。
「ぁ……ありがとう。姐さん」
「あのね、仕事があるの」
お礼を言ってくれるセバスチャンの前にしゃがんでワタクシはそう言ったら、
「……姐さん『血塗れのエーコ』だろう?」
セバスチャンは、きれいなブルーの瞳でこっちを怯えたように見ながら聞いてきたわ。髪も薄汚れて汚らしく固まってはいたけれど、それでも金髪だったわ。
「『血塗れの』っていう二つ名は気に入らないけど、確かにワタクシはエーコよ。オレツ・エーコ。こっちの言い方だとエーコ・オレツになるかしらね」
「俺、荒っぽいことなんてできないよ。喧嘩も弱いし……」
仕事の話をしただけで『血塗れの』『荒っぽい』『喧嘩』なんてワードがでてくるあたり、元の世界じゃ、かよわい美少女系女子高生だったはずなのにいったい何をどこでどう間違ったんだろうか。とか考えながら、
「別に荒っぽいことさせようってんじゃないわ。ワタクシね、新しく家を買ったんだけど、使用人が足りないのよ」
そう言うとセバスチャンは目を輝かせて「雇ってくれるの!?」っていったわ。そうよ、とワタクシが答えると、セバスチャンはためらいがちに「仕事にもうひとりくらい空きがあるかい?」と聞いてきたわ。
明日をも知れない身の上でも、友達のことまで考えるなんて、本当にいい子だと思ったから「ええ、あるわよ」と答えたの。そうしたらセバスチャンは、路地裏へふらふらと入っていって、男の子を二人と女の子を五人も連れて戻ってきて、このなかから一人選んでくれと言ったわ。
多いなーと思ったけど、誰か一人だけ選ぶのも殺生な話だと思ったし、お金は床が抜けるほどあるし、もういいやと思ったので全員を執事とメイドにして雇うことにしたの。
とりあえず全員を屋敷に連れて行って、風呂の焚き方を教えるがてらに、お風呂に入れて、その間にワタクシは適当な子供の服をみつくろって帰ってきたら、風呂から上がったみんなに着せて、それからご飯を食べさせに連れて行って……と何だか余計に仕事が増えた気がしないでもないけれど、それでも何日かして今度は大人のコックを雇ったら、なんとか形になったわ。
みんな普段は掃除をしてて、コックが食事の支度をする手伝いをして、夜になったらお風呂を焚いてくれるわね。もちろんベッドのシーツも替えてくれるし、洗濯もしてくれるわ。朝も起こしにきてくれるのよ。
それからブティックに発注して子供用の執事とメイドの制服をつくらせたの。
そしたら、その日の夜に屋敷に帰ったら玄関を入ったところのホールにみんなでずらりと並んでお仕着せを着て「お帰りなさいませ」ってご挨拶をしてくれたときなんか、かわいいったらありゃしなくて、一気に報われた気がしたわね。
それで、この感動を分かち合おうと、モンスターの討伐依頼があってパーティーの仲間と顔をあわせたときに話をしたの。
「ねえ、聞いて聞いて。ワタクシね、この前に家を買ったから執事とメイドを雇ったの。それも八人も」
「八人! そりゃすごい。お金も結構いるだろ……まあでも、エーコは稼いでるしな」
「うんにゃ。そんなにお金はかからないよ。だってみんな子供だもん。給金もそれなりよ」
「ん? 子供って、執事も雇ったんだろ」
「うん、男の子を雇ったわよ?」
「男の子? ボーイかい?」
「だから執事だってば。男の子の執事!」
「そりゃ変だって! その子普段何してるの?」
「そりゃ掃除とかコックの手伝いとかよ。変って何よ。男の子なんだから執事に決まってるじゃない! まさか女装させてメイドにでもしろっていうの。そりゃ倒錯よ。アブノーマリストよ。うわー、マシューってそんな趣味があったんだ」
「そんな趣味は無い!! ……掃除と、コックの手伝いをする執事って……いやまあ君のお金で雇ったんだから、使用人を君が何と呼ぼうといいんだけどね」
「奥歯にものが挟まったみたいな言い方ね。まあいいわ。それでね、それでね。こないだ執事の服とメイド服のお仕着せが届いたのよ。それで夜に家に帰ったら、玄関のところのホールで、左側に執事が三人、右側にメイドが五人ならんで、お仕着せを着て、お帰りなさいませって言ってくれたの。もうかわいくってかわいくって。でへへへへ」
「執事が三人!?」
「そう、そうなのよ。金髪に碧眼の王子様ルックのセバスチャンに、黒髪黒目のクールな印象のシドと、赤毛でちょっとワガママっぽいビッテンよ、もうタイプ別に揃っててイイわあ。うへへ」
「いやいやいや、執事ばっかり三人ってその設定、無理あるよ」
「設定ってなによ。三人ちゃんといるんだってば」
「いや、だから……」
◆
ちょっと例文が長くなりすぎましたが、今回問題にするのは、この例文の最後のところで、主人公のオレツ・エーコがパーティーメンバーのマシューと交わしている会話の食い違いです。
この食い違いの原因は何かといいますと、エーコが、『男性使用人=執事』というふうに思い込んでいることが原因です。
小説のストーリー展開として、そのへんで拾ってきた男の子を雇うのは構わないのですが、その子を『執事』にするという描写があると、ちょっとわたしとしては違和感を覚えてしまうのです。
いわゆる家事使用人としての『執事』という日本語には、身分の高い人の家で家政や事務を主人のかわりにおこなう使用人というような意味があります。
また執事といえば、黒い燕尾服を身に着けた老紳士というイメージも一般化しておりますが、このようなイメージはヨーロッパの執事が元になっています。
そのヨーロッパの、例えばイギリスの執事などは、時代により違いはあるのですが、部下を何人も使いながら、お酒の管理や給仕や銀器の管理などを行い、さらに家内の使用人の人事権や監督権を持ち、経理業務も行なう屋敷内の総責任者ともいうべきポジションなのです。
そしてそのような事実のために、『執事』という言葉にはやはり使用人を統括する総責任者というようなイメージが付着しています。ですからやはり小説中で、そのへんで拾ってきた少年を「執事として」雇うという描写はすべきではないのではないかと思われます。
さらに大身の貴族など、とても大きな家では執事の上にさらに『家令』という上級職が設置される場合があります。しかしそのような特殊な事例を除けば、執事は使用人たちの総責任者となります。ですから執事が複数いるという描写も避けた方がよろしいように思われます。
総責任者が複数いるということになり、おかしいからですね。
もちろん、異世界からトリップしてきた当の主人公が、そのへんで拾ってきた子を執事にしたり、複数人を執事にしたりしても、それは主人公の知識がそのようなものだったというだけのことで、それは問題が無いのですが、ヨーロッパ風異世界の現地住民が、そのような状況を違和感なく受け入れているとちょっとアレっと思います。
では、そのへんの道端で拾った孤児の少年をどのようなポジションで雇うべきか?
ウィキペディア先生などに聞いたり、あるいは家事使用人について扱った、村上リコさんという方が書いた【英国執事】という本や、久我真樹さんという方が書いた【英国メイドの世界】という本を読んだりすると分かりますが、イギリスなどでは、男性使用人のキャリアは少年の頃に始まり、
『ボーイ』
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『フットマン』(第三フットマンから第一フットマンまでランク付けがあったりする)
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『副執事』『従者』『客室係』などをお好みで経験。
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『執事』
となるのが一般的のようです。
ということはつまり、道端で拾ってきた少年であれば、それは『ボーイ』として雇うのがよろしいということになります。
しかし『ボーイ』と小説中に書くと、レストランのボーイさんを思い浮かべてしまう方もいるかもしれません。ボーイは一般的に『小姓』と訳されることが多いようですが、小姓というと織田信長に仕えた森蘭丸みたいのが浮かんでしまい、どうもヨーロピアンな異世界の雰囲気を壊す恐れがありますから、悩ましいところですが、しかし、やはり、とりあえずは『小姓』と書くのが最適解であるように思われます。
ちなみにメイドは、雑用や皿洗いをおこなう下っ端のメイドでも、メイドはメイドですから、そのへんで拾ってきた女の子を『メイド』として雇うという描写は問題ありません。
ということで結論!!
そのへんで拾ってきた女の子は『メイド』として雇ってよいが、そのへんで拾ってきた男の子は『執事』としてではなく『小姓』として雇おう!……ということになります。
次回予告!!
トリップした先の異世界で使われていた言語はなんと日本語だった! ……というのは実際にはどういうことか?
乞うご期待!!




