第1回 巨大なドラゴンが翼の力だけでは空を飛べない理由
有名ジュニア小説家の久美沙織さんが、ドラゴンファームという作品のあとがきで、大きなドラゴンが魔法とかのファンタジー補正なしで飛べるのかという話題であとがきを書いておられるのを見ました。
久美沙織さんは旦那様に説明をしてもらったけれども、いまいちよくわかんなかった。というようなことを言っておられたと思います。(記憶が曖昧)
それで、まあ今回のような文章も需要がないこともないのかなと思いましたので投稿します。
ドラゴンライダー、竜騎士。
実にすばらしい響きですね。プリミティブな万能感をビンビン刺激してくれます。
騎獣たるドラゴンの、各種ブレスは敵を圧倒しますし、固い鱗はほとんどの攻撃を跳ね返します。さらには力強い翼を羽ばたかせれば、遠距離からの奇襲をかけることも、上空から地上戦力を蹂躙することも、状況が悪くなれば素早く退却することも思いのままです。まさに、攻撃力・防御力・機動力の三要素を兼ね備えた最強の騎獣です。
それだけでも凄いのに、そのうえに乗り手たる騎士の戦闘力が加わります。
遠距離砲撃型の後衛タイプの騎士で、ブレスと併せ移動砲台として火力アップを図るもよし。
ファンタジー補正のかかった超筋力型の乗り手に長柄槍などを持たせて近接格闘能力アップを目指すのもよし。
あるいは戦場の近くまできたら竜と騎士が二手に分かれ、竜が上空からブレスで援護する直下を、騎士は地上から一騎当千の歩兵として突撃をかけるというのもアリかもしれません。
まさしく最強。最強の戦闘ユニットと言えるでしょう。
ファンタジー小説を書くのであれば、ぜひとも登場させたい要素のひとつでしょう。
つまり萌えじゃなくて燃えなのです。投稿作品のキーワードに『ドラゴン』とか『竜騎士』とか付けるとアクセスの伸びも多少違うかもしれません。実にすばらしいですね。
しかし、実際に人が乗れるほどの大きさのドラゴンが、もし実際にいたとして、その生物が何のファンタジー補正も使わずに、純粋に羽ばたきの力だけで飛ぼうとしたとしても、それは不可能です。
理由を端的に言えばそれは、重すぎるからですね。
読者の皆様も、例えばネットゲームのPVなどで、結構巨大なドラゴンがバサバサ羽ばたいて空を飛ぶ動画を見て、そこはかとない不自然さを感じたことがあるかもしれません。
『巨大なドラゴンは重すぎるから羽ばたきの力だけでは飛べない』
結論はそれでよろしいのですが、以下では、それを感覚で察するだけでなく、もう少し詳しく述べてみましょう。
◆
ドラゴンと言いますと、読者の皆様それぞれにイメージが違うでしょうから、話がややこしくなります。ですからここはドラゴンの代用として、現実に空を飛んでいるトンビで考えます。
Q:トンビがそのまま形を変えずに体長が10倍になったら空を飛べますか。
A:体重が重すぎて飛べません。
なぜなんでしょうか。
それは、トンビがそのまま形を変えずに体長が10倍になったとしたら、トンビの翼の面積は100倍になり、体重は1,000倍になるからなのです。
つまり、飛行のための揚力は翼の翼面積に比例しますが、その増加率の10倍くらい体重が増えてしまうんですね。これでは飛ぶのは不可能です。
形が全く変わらないという前提を置いたうえで、
【体長の増加率の2乗=翼面積の増加率】
【体長の増加率の3乗=体重の増加率】という公式が成り立ちます。
この公式はどこから来たかといいますと、小学校で習う『面積の求め方』と『体積の求め方』から来ています。
【面積=縦×横】
【体積=縦×横×高さ】でしたね。
話を簡単にするため鳥を単純化したモデルを作ります。
この鳥の胴体はひとつの辺が10cmの正六面体です。つまりサイコロです。
このサイコロ型の胴体にこれまた10cm四方の正方形の翼を左右にひとつずつ付けます。
頭とか脚とか尾翼は面倒なので付けません。
この鳥の翼の面積と体重=体積を計算してみましょう。
体重も簡単に体積1立方cmあたり体重1gとし、翼自体の重量は考慮しません。
【翼の面積=10cm×10cm×左右ふたつ=200平方cm】
【体重=体積=10cm×10cm×10cm=1,000立方cm=1,000g】
翼200平方cmに対して1,000g 翼1平方cmあたり5gですね。
これが形を変えずに体長が10倍になったとしたら、どうなるでしょうか。
普通に考えて、形を変えずに体長が10倍ということは、
翼の前後の長さが10倍
翼の左右の幅も10倍
翼の上下の厚みも10倍 です。
翼の前後の長さと左右の幅が10倍ずつになれば、10倍の10倍で100倍になります。
そこまではいいのですが、翼の上下の厚みが10倍になったからといって、飛ぶ力は向上しません。飛ぶ力はおおむね、翼の面積に依存しているからですね。
しかし、体重というのは飛ぶ力と違って厚みが増加した分もしっかり増えます。
すなわち10倍の10倍の10倍で1,000倍です。
つまりこれが巨大なドラゴンは純粋な翼の力だけでは空を飛べない理由なのです。
計算しますと
【翼の面積=100cm×100cm×左右ふたつ=20,000平方cm】
【体重=体積=100cm×100cm×100cm=1,000,000立方cm=1,000,000g】
翼20,000平方cmに対して1,000,000g 翼1平方cmあたり50gですね。
体長が2倍なら、翼面積4倍で、体重8倍。
体長が3倍なら、翼面積9倍で、体重27倍。
体長が4倍なら、翼面積16倍で、体重64倍。
体長が5倍なら、翼面積25倍で、体重125倍。
まさしく、大きくなればなるほど飛ぶのがツラくなります。
とは言ってもやっぱドラゴンはデカい方がカッコいいですから、そのデカいドラゴンを飛行させたい場合は、例えば、翼に噴気孔が付いていて、そこからジェット推進力を得られるとか、反重力を発生させる器官を体内に持っているとか、そういうギミックを付けましょう。というのが結論になります。
そしてもうひとつオマケに言いますと、この【面積は縦横が増えた分しか増加しないのに、体重は上下の厚みが増えた分も加算される】の法則は、脚の太さ(=断面積)と体重の関係にも当てはまります。
象の脚と虫のアリの脚を比べますと、象の脚の方が体の大きさに比べてはるかに太いです。そして象の脚が体と比較して太いのは、それだけの体重があるのでそれだけの太さが必要だからなんですね。
ですから、モンスターとしての大蜘蛛とか、キャラクターとしてアラクネのお姉さまを小説中に登場させるときは、そういうことを少し頭の隅に置いておくと良いかもしれません。
次回予告!!
「冒険者ギルドSSSランクのワタクシはスラム街で孤児の可愛い男の子を拾ったわ。よし、金にあかせて建てたワタシの大豪邸の執事にしちゃいましょう」
「え、いきなり執事?」
乞うご期待!!