プロローグ
リーカーシャ王国 王都『リーフェリア』
「すまないがもう一度言ってくれるかい? アレン君」
「信じられないものよくわかります。ですので、何度でも言いますねローワン支部長」
冒険者ギルド・リーフェリア支部
リーカーシャ王国の冒険者たちの中枢であるこの場所で、支部長ローワン・アイニールは、今回緊急クエストにあたって急遽結成された臨時複合パーティのリーダー、『優者』アレン・ルクランシェから報告を受けていた。
「オレたちはダンジョン到着後、すぐに探索を開始。探索の最中にサーフェルの冒険者たちの遺体を発見、その場で冒険者の流儀に沿って葬送しさらに探索を続けました。
最深部にて『不死の王』と思われるモンスターと接敵、その場で戦闘に突入。一時全滅の危機に陥りますが、深月さんの使い魔である『ベヒーモス』レーヴァイアさんにより撃退。その後深月さんは『不死の王』のテイムに成功。
そして宝物庫と思わしき隠し部屋を発見し調査、帰還しました」
アレンからのクエスト報告を聞いて、まずは机の上においてあったティーカップを一口飲む。
カップの中には外国からわざわざ取り寄せた自分好みの紅茶が入っている。
華やかでさっぱりとした後切れのよい余韻を楽しむ。
「ふーs……」
一つ大きく息を吐き、もう一口。
カチャリとティーカップを置くと、支部長室に沈黙が訪れる。
そしてローワンは何でもないことのように穏やかに話を切り出す。
「なぁアレン君」
「なんでしょうか?」
「聞かなかったことにはできるかい?」
「無理でしょうね」
「そうか……」
再びしばし沈黙が訪れる。
「……確かに僕は今回の緊急クエストは非常に危険度の高いものになるだろうと言った。何が起こるか予測できないとも言った。だがしかしだ……、Xランクの『不死の王』が出現し、さらにその伝説とも云えるXランクを神獣である『ベヒーモス』が倒し、その二体のXランクは一介の新人冒険者の使い魔である。――――まいった、上にどう報告すればいいんだ……」
「そうなりますよね!? 俺もそうなりました!」
頭を抱えるローワンに対して、アレンは仲間を見つけたとでも言いたげにうれしそうだ。
「……まずは前菜といこうか、軽く報告書を読ませてもらったが宝物庫と思わしき場所にはなにがあったんだい?」
「ありとあらゆる宝石、鉱石が」
『不死の王』との死闘の後に発見した宝物庫。
その中には金が、銀が、ミスリルが、アダマンタイト、魔鉱石、ダイヤモンド、ルビー、サファイヤ、オパール、シトリン、アメジスト、――――――――――――………………。
まさにこの世の全ての金属と宝石を集めましたとばかりに広がっていた。
ただし中にはすず、鉛、鉄、すず、花崗岩、砂岩、石灰岩、といったあまり価値のない種類のものも大量にある。
「俺も知らない鉱石や宝石も、探索者である『ツインエッジ』ですら見当もつかないと言っていたものもありましたが、マジックアイテムのようなものは発見できませんでした」
基本的にダンジョンの最深部にはまるでクリア報酬のように宝箱が存在し、貴重な武器、マジックアイテムなどが入っていることが多い。
今回の宝物庫のことは異例だ。
「それはまた珍しい。さしずめ神代の時代を生きた誰かのコレクションっといったところか」
「確かにそう考えるのが自然だとは思います。ただ……コレクションというにはあまりに雑然と置いてありました。あれは誰かに贈り物を贈りたいが、何が喜ばれるかわからないのでとりあえず全部集めてみた。……そんな感じでしょうか」
コレクションというには粗末な扱いだが、何かしらの目的意識がなければ到底揃えられないであろう種類で、集められた物に鉱石、宝石といった共通項はあれどその価値は貴重なものから其処ら辺に落ちているもの、かけ離れ過ぎて統一性はない。
だからとりあえず集めてみたといった方がしっくりくるのだ。
「面白い視点だね。実際にその場で発見した君たちにしか感じられない空気感や雰囲気というものもあるからね、覚えておこう」
宝物庫の中身が大量のため持ち帰らず、今後ギルドの運搬人や鑑定士、職員らが派遣され回収、目録が作られる。そこから新たにわかってくることもあるだろう。
ローワンは「さて」と紅茶を飲み干し、まっすぐアレンを見つめる。
「次に本題なのだが、我が支部が誇る最強の冒険者である『優者』から見て、不死の王、ベヒーモスの両モンスターは本物だと思うかい?」
アレンも真剣な表情でまっすぐローワンを見て答える。
「何も具体的な証拠はなくて、完全に俺の肌感覚での証言になりますが本物かと」
「そう感じた根拠は?」
「まずはノーライフキングの不死性、頚を落としても心臓を貫いても、焼いても凍らせても、瞬時に再生しダメージを与えられませんでした。そして全ての物質に死を与える吐息、無詠唱で合成獣を即座に作り出すネクロマンス、果てはその場にいるだけで『ドレインタッチ』のように生命力を奪われる結界、空間魔法。Xランクとはこういうものかとわからされましたよ」
リーカーシャ最強の冒険者『優者』の呼び名は伊達ではない。アレンはすでに何度も単独での竜種討伐を成功させているし、長年停滞していた神聖皇国の巨大ダンジョン攻略においてもおよそ10年ぶりに未踏破エリア攻略し最深記録を更新した。
そんな超一流の冒険者が自分よりも格上であると認めている。
「あ、ちなみに俺たちはその空間魔法で全滅させられかけました。いやー、初見で抵抗はまず無理ですねあれ」
あっけらかんと言われてこちらも苦笑するしかない。
「次に、十分に準備と人員を揃えれた状態で戦えば勝てるかい?」
相手の手の内、能力、長所と弱点。
今回の闘いで得た情報を用いて、存分にこちらが対策を立てたうえでならばどうだろう。
アレンは目を閉じしばし脳内でシミュレーションする。
「……今ならば、おそらく。『不死の王』はモンスターとして自我に目覚めたのはつい最近のことなのだと思います。闘い方が上手い下手以前に闘争というもの事態がほぼ初めてだったという印象です。十分に準備したうえでからめ手を使えば、……討伐までは無理でも封印ならできるかと」
「なるほど。それを聞けて少し安心したよ。ベヒーモスの方はどうだい? 闘えそうかな?」
「あれは無理ですね!」
『不死の王』の時は考え込んで答えたアレンだが、今度はローワンの問いに若干被せるような勢いで即答した。
「正直俺じゃどうしたって闘えるビジョンが見えません。あれは反則ですよ。詳しくはまた報告書でお伝えしますが、レーベさんが明確に闘うと意思を載せて攻撃したのは最後の一撃だけ。攻撃動作に入る前、その意思を発した瞬間にもう俺は格の違いというものがわかりましたよ。あれが『神気』ってものですかね」
いっそ清々しいとやけくそ気味に万歳をしてお手上げを表現するアレン。
「もし事を構えるならこちらも切り札を切る必要があるかと」
「反則には反則を……道理だね。しかし君にそこまで言わせるか、どうやらベヒーモスも本物みたいだね……」
それほどの存在が『ベヒーモス』だと名乗ったのなら、真実であろう。Xランクに到達しているモノがわざわざ自らを偽る必要はない。
「ギルド本部に報告する分には問題もない。いや、ないこともないが精々がギルド本部のギルドマスターが好奇心で突撃してくるぐらいだろう」
「あの人本当に自由人ですからね……」
二人して同じ人物を想像して渋い顔になる。
ギルドマスター、人間側の反則。
――Xランクの一人。
「まぁギルドマスターは何とでもなる。適当になだめすかして誤魔化してあしらって、時間を稼いでる間に本部に回収してもらえばいい話だよ。問題はこの国――リーカーシャ王家への報告だ……」
冒険者ギルドはどこの国にも属していない独立した機関である。
今から約200年前に当時のヒト種の英雄であった1人の人間が創始者となり、『未知を拓き道標を創る』を理念の下、現在の本部となる初めの冒険者ギルドを設立。
各国の支援と協力を得て勢力を伸ばし、現在はヒト種の治める国家のほぼ全てに支部がを持つ。
各国は自国の領土に冒険者ギルドを設置する条件に、その国で得た情報の報告義務、非常時での冒険者の協力義務、自国の情報を他国への供与することを禁止する約定を結んでいる。
一方ギルド側も、冒険者の一定の身分と権利、自由の保証、また戦争等に代表する国家間紛争への不干渉を各国へ認めさせている。
「王家への報告は3日後。それまでにギルド本部側との意思統一をし、事実はそのままに国際情勢を刺激しない報告内容を作りあげないとだ。『優者』アレンのパーティはダンジョンの奥で高位のアンデットと遭遇しこれを撃退、宝物庫で眩いばかりの金銀財宝発見した。こんな感じでいこうか」
「ものは言い様ですね、それだと俺が中心となってモンスターを倒したように聞こえる」
「嘘をつかないのが誠実な大人の付き合いというものさアレンくん。それにどうせ王家の皆様はアンデッドモンスターなんかより、金銀財宝の話の方が大好きだよ」
確かに嘘はついていないが、色々とはしょり過ぎている。
「そういえば神獣を従える新人テイマーくんは、今何をしているんだい?」
おそらく今後よくも悪くも世界の動乱の中心になっていくであろう、Fランク冒険者。
もちろん彼にも話を聞かないといけないだろう。
その人間性や、価値観、道徳心が今後の世界情勢の行く末を握っていると言って過言ではない。
「ああ、深月さんなら今『昼の影』や他の冒険者たちとスポーツをして王都の外で待機してますよ」
『不死の王』を新たにテイムしたことで、王都へ入るのは支部長の許可を得てからと考えた深月たち。
「そこは一応気を使ってくれているのかな?」
「どうでしょう? 深月さん自分では常識人のつもりみだいですからね。そこもまぁ魅力的なんですけど」
ベヒーモスやノーライフキングを使い魔にしていったいどこが常識人なんだか。と二人して苦笑する。
「ただの興味なんだか一体何のスポーツをしているのかな」
「俺も聞いたことなかったんですけど、深月さんがダンジョンでテイムしたマンドラゴラたちの中ではやっているスポーツで――」
マンドラゴラをテイムするなんて聞いた事もない。
どんどんと非常識が出てくるいちいちつっこんで聞いていては身が持たない。
――というかマンドラゴラってスポーツするんだ……。
「なんでも『やきう』とかいうスポーツだとか」
「……………………やきう??」
第三章
激闘っ!熱血モン娘甲子園~世界をすくう涙のストレート~ 始まります(嘘)




