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ー20ー

「はいそーですか。っていくと思ってんのかお前? そいつは間違いなくXランクの化け物だぞ」


 冒険者の中で最初に声を上げたのはカレルだった。

 おっしゃる通り。深月だってそんなわけないと思う。


「そうですね……。深月さんの使い魔に助けられたのでそのまま場を任せていましたが、一応この調査隊のリーダーを任されている俺としても、流石にその危険なモンスターをそのままなんの措置もなく連れて帰るのは容認できません」


 そりゃそうだ。

 ついさきほどまで倉木は深月たちと死闘を繰り広げており、レーベがいなかったら全滅していただろう。

 詳しい事情は分からないが、サーフェル支部の冒険者たち、そして『女神の楯(アスピーダ・セアス)』『大物喰い(ジャイアントキリング)』のメンバーが命を落とすきっかけは間違いなく倉木によるものだ。

 自然と倉木を庇って立つ深月たちと、対峙する冒険者という構図になる。


「お前一人だけで安っぽいガキの英雄願望(ヒロイック)に浸るのはけっこうだが、この悲惨な左腕が見えねえか? そいつがどんな存在か理解できない程馬鹿じゃないだろ」


 アルザが肘から先が無くなった左腕を掲げて見せる。

 先ほどの戦闘で合成獣(キメラ)に食いちぎられていた。


「こないだ手首やられたと思ったら次は前腕ときた。…………まぁ命あっての物種かね」

「ソレナラココニアルヨー」


 ネルが人間の腕を掲げる。

 食いちぎられたのでなくなったと思っていたが。


「うおーーオレの腕! ナイスだネルちゃん!!」

「ナンカスグ、ペッ、テ吐イテタカラ拾ッタ。美味シクナカッタノカナ?」

「なるほど、キメラになったことで正常な消化器官がなくなり食いちぎっても嚥下できなかったのか」

「アルザ、大丈夫。アルザの腕が汚くて臭くて不味くてモンスターでも食えたもんじゃなくても気を落とさないで」

「その、アルザさんが毎日水浴びしないと落ち着かない、意外と綺麗好きだってこと私たちは知ってますからねっ」

「んなこと気にするかっ! いいから早くオレの腕こっちに寄越してくれ!」

「深月ノ味方スルナライイヨー」

「え゛っ、いやっ、それは、うーん……。そこをなんとかしてくれませんかネルさん」


 緊迫した雰囲気だと思うが、『昼の影(デイシャドウ)』の面々とは今までの関係性もあってか少し緩いやりとりになる。

 ネルが「ウーン、ナントカナー」と腕を持ったまま悩んでいる。

 ちょっと画が怖いが腕を回収していたのは偉いのほめておく。


「深月ドウスルー?」

「いいよ、返してやって」


 仮にも師匠の腕を人質(?)に味方しろと迫るのは人としていかがなものかと。

 ここは素直に返してやろうじゃないか。


「ハーイ」


 ネルが腕をポーイとアルザに投げ渡す。

 くるくる宙を舞う左腕。ネルの緩い掛け声と相まってシュールな光景だ。


「よっしゃ流石我が弟子っ、話がわかるな! そしてお帰りオレの腕! アルミナくっつけてくれ」

「わかった。『世界樹の雫』の代金はアルザの取り分から引いておく」

「あぁー……、それもなんとかなりません?」

「ダメ」


 『昼の影』の面々がリーダーの腕をくっつけているのを横目に他の冒険者を説得しないといけない。


「そこのゾンビ娘が本当に『不死の王(ノーライフキング)』なのかはさておき、あたしとしてはそこのダークエルフのお嬢ちゃんの方が気になるけどね。本当は何者なんだか」

「そうだそうだ! とんでもない強さだった」「兄貴がプレッシャーで気絶するぐらいヤベー奴じゃん」


 確かに深月が想像するよりもレーベは強かった。

 神々しい漆黒の甲冑にその身に纏うレーベを見ると未だ十分に余力を残しているように見える。


「貴様らが囀るのは勝手だが、なぜ自分たちに選択肢が与えられていると思っているのか理解に苦しむ。ただ深月様のいうことを有難く奉ずることしかできないというのに」

「待て待てっ、別に喧嘩売りたい訳じゃないからな!?」


 相変わらず深月以外には高圧的に接するレーベだ。

 威圧ように片腕を掲げ前に出るのを慌てて止める。


「まぁ、実質こっちに選択肢がないって言うのはその通りやけどな……」

「そうですね……、今ここで深月さんたちと敵対しようものなら全員レーベさんのにやられて終わりですね。全員で足止めして誰か一人を地上に逃がす…………、いや、それも難しい」

「っは、仮にも王都の精鋭が集まってこの様かよ。笑えねぇな」


 そう、単純な戦闘能力でいえばレーベ一人で何とでもなってしまう。

 しかし深月は冒険者ギルドを敵に回したい訳ではないし、ここのメンバーとも短い期間ではあるが一緒に冒険をして大小はあれど情もある。

 なんとかお互いの落としどころを探っていきたい。


「ボクが超つえーモンスターを倒してテイムした。事実だけ抜き取ったらそれだけだ。別によくある話じゃねーのか?」

「そう言われればそれだけなんですが、……それは少し過程を省きすぎですね。本来モンスターのテイムは小さなころから長期間かけて調教するか、特殊な魔導具を使って主従を教え込んで反抗できないように行われます。深月さんの特殊な()()を考慮しても危険すぎる。テイムが中途半端でもし街中で彼女が暴れたら、一体どれほどの被害がでるか」


 この期に及んでこちらの事情に考慮して『ミツキフェロモン』のことをぼかして話してくれるアレンはいい奴なのだろう。

 それにアレンの言い分もよくわかる。

 あの死の国を展開する倉木の能力が暴発したら国が亡びる。


「そうなる前にまたレーベが何とかするさ」

「アタシらは安全装置(セーフティ)がテイマー本人に無く、使い魔だよりってとこも不安なんだけどね」

「深月様深月様、皆さんに納得してもらうためにもこちらから譲歩というか、ある程度の情報提供が必要なんじゃないかと」


 それまで後ろで控えていたアイリスがそっと深月に耳打ちする。


「そうは言ってもどうすりゃいいんだよ?」

「要は彼らは倉木さんが暴れても何の被害も出さず制圧できるって確証が欲しいんですよ。ここはもうレーベさんの正体を明かしてみてはどうでしょう? 苦肉の策ではあるんですけど」

「レーベの? それでうまくいくのか」

「深月様は異邦人ですのであまり実感ないと思いますが、『三神獣』の名にはそれだけの勢威と畏怖があります」


 深月はこの第一の(しもべ)の頼もしさも十分知っているが、それと同じぐらい深月が絡むと調子に乗ったり空回ったり、ぬけてるとこも時には下心も知っているので、なんとも人間らしく親しみを魅力に思って、勢威や畏怖なんて感じたことは初対面の時しかないが、この世界人間(現地人)であるアイリスがそういうならそうなのだろう。


「ボクは彼女――倉木蘭――はもう暴れることはないって確信してるけど、みんなにそれを信じてもらおうってのは無理だとわかってる。そしてひっじょーーーに不本意ながらボクに蘭を抑える力はないのも。だけど万が一蘭が暴走してもボクのレーベが必ず何とかしてくれる」


 神話の時代からやってきて神々しい漆黒の鎧を纏い、どのような障害であろうと難なく排除する。そんな自慢の使い魔は深月の発言が琴線に触れ「ふふっ、ボクのレーベ、ボクの……、ぐへへっ」と神々しい威容のまま尻尾をブンブンふりニヤついている。


「確かに今回はなんとかなりました。しかしいくらレーベさんが強くとも次もこう上手くいくとは限りません。おそらく次はもっともっと手強いでしょう」

「せやな。今回このモンスター娘の闘いは何の技術(わざ)もなかった、ただただ自分の持ってる武器を振り回しただけの素人や。しかし、一回でもちゃんとした人との闘いを経験をして、ある程度の知能を持って生き延びたモンスターの相手はホンマ()()()で」

「そうだとしても、レーベならなんにも心配ない」

「ソウダゾー、スゴインダゾー」


 こういう時は多少見栄を張ってでも大きく言い切るべきだし、実際深月は何の心配もしてない。


「へぇ、すごい自信じゃないか」


 イリーダは自身の大楯に肘をついて楽しそうに深月を見る。

 アレンもどうすれば深月にわかってもらえるか困り顔だ。


「なぜならボクのレーベは『ベヒーモス』だから」


 ………………………………。


 さらりと言ってみたが、反応は悪い。

 深月の予想と違い静まり返ってしまった。


「くくっ、はははははははっ! なるほど!」


 カレルの笑い声が響く。


「え、いやいやマジで!?」「ベヒーモスって本物!?」

「マジか……、ダークエルフじゃないとは思っていたけどベヒーモスかよ、そりゃオレの手首飛ばすぐらい訳ないよな」

「いや、アルザが手首を飛ばされたのは油断とすぐ調子にの性格が主な原因」


 腕を治療し終えた『昼の影』も合流。

 無事繋がった左手を開閉させ調子を確かめていたが、以前の出来事を思い出し手首もさすっている。


「しかし本当に神獣ベヒーモスだとすると、協会の奴らがが黙ってないかもな」

「それにベヒーモスを従えてる深月さんは何者なんだって話にもなりますよね」

「だなー、東の獣王国との小競り合いもやっと落ち着いてきたって話なのに、もしベヒーモスが現れたなんて向こうの耳にはいっちまったらどうなることか」

「神獣がヒトに従えられているなんて、それこそ神国の狂信者が黙ってるはずない」


 あれ? なんかスゲーやばくない? ボクやっちった?

 『昼の影』の面々の話を聞いていると段々不安になってきた。

深月のよく知らない未知の世界事情でどんどん大きな話になってきている。


「おい『優者』。癪だがそこの『ベヒーモス』の言う通り、こちらに選択肢なんてはなから無い。このガキのテイム能力を疑いだしたら今度は『ベヒーモス』が仮想敵になるぞ」


 少し意外だったがカレルが一番に蘭を連れて帰ることに承諾してくれた。


「『不死の王(ノーライフキング)』を討伐しきれるかわからんかったしな。ホンマに伝承通りの不死王なら何やっても死ねへんのやから」

「確かに、どちらにしろここまで話の規模が大きくなると現場レベルでは判断できません。ここは帰ってギルドに判断してもらいましょう」

「アッハッハッハ! ローワンの奴腰抜かすだろうねっ」

「下手したら世界戦争の引き金になりますからね! もうオレが判断できる許容範囲を疾うに超えています! 一応この調査隊のリーダーとしていいますが、全員今この場で見聞きしたことはギルドの判断がでるまで外部に漏らさないように!」

「わかってるよ! 言われなくてもアタシらだってこんな爆弾扱いきれないさ!」


やけくそ気味に大声で叫ぶアレンを珍しいものが見れたと上機嫌に笑うイリーダ。


 喧々諤々。


 深月の思惑通りに話は纏まったわけだが、今度はもっと頭の痛い事態が山積みのようだ。

 もう逆に何にも知りたくねーなー。っと遠い目になる。



約8年半更新が滞っていたにもかかわらず、待っていたと言葉をかけて頂けて、本当に感謝が絶えません

まだまだ先は長いですが必ず完結まで書ききります

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