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ー14ー

 洞窟の中はひんやりと冷たく、呼吸をすると湿気を多く含んだ空気が鼻を通り抜けていく。


「まずは灯りがないと、『スフィアトーチ』」「『スフィアトーチ』」


 そう唱えたツインエッジの二人の手のひらから、二つの光の球が飛び出し洞窟の岩肌を照らし出す。

 光は深月たちの前を一定の間隔をあけて浮かび、深月たちが進むと同時に前に進む。


「これ、もしかして地下に向かってる?」

「そうみたいですね」


 洞窟は緩やかな下りの傾斜がついており体感でも僅かに感じられる。


「まさか先に進むと空気がなくなったりとかしねーよな?」

「んー、その可能性はないと思いますよ。確かに一般的な洞窟の中は地上より酸素の濃度が低いですが完全に密閉された地下空間はまれですし、わずかですが空気の流れを感じます。前を行くお二人も熟練の『探索者シーカー』でしょうから、気が付いたら息ができなくて全滅、なんてことはないと思います」


 深月が歩きながらふと思いついた質問にアイリスがこたえる。

 すると横からアルザが入ってくる。


「洞窟で空気がなくなるよりもっと恐いのはガス系のトラップだ。前の冒険者が引っかかっていて、その罠に空気よりも比重が重いガスが使われていたらまずその場に死体と一緒に留まっている」

「うげっ、マジ?」

「マジ。だから普通は洞窟探索する時には空気中の有毒成分を知らせてくれる魔導具、もしくはカンテラを持って入いる。灯りとしての役割も勿論だが、その炎が小さくなったら空気が薄くなっている、大きくなったら何らかの可燃性のガスが存在している。あとはネズミたか小動物を先行させて安全を確認するとかな。こんな具合に判断するんだが、さて、俺たちの案内人二人はどうしてんだか……」

「俺たち兄弟は匂いで今この場の大気中の成分を把握できるのさ!」「そうそう、それも万分の一の濃度で!」

「カンテラなんて使っていたらそれだけで片手が埋まっちまう!」「一流の探索者を目指すには必須と言っていい能力だぜ?」


 ツインエッジから声が届く。

 聞こえてきた内容はとても人間のできる芸当ではないように思うのだが。


「あ、みんな頭上に注意だぜ」「寝る子を起こすなよな」


 頭上? いま進んでいる洞窟は天井が高く頭を打つような心配はないはずだが。

 不思議に思いながらも何気なく視線を少し上に向ける。


「――――――うおっ!?」


 今ちょうどツインエッジの二人の頭上に大量のコウモリがぶら下がっている。

 そのコウモリは日本で見たものと違いどれも異形な姿をしていた。

 まず大きさが二倍ほど、目がなく牙が異常に発達している。


「『ブラインドバット』だな。ランクEのモンスターだ、集団で襲い掛かられたら少々やっかいだが、ランク通りそんなに強いモンスターじゃねぇよ。こいつらは夜になると洞窟の外に出て動物の血を吸う夜行性だ。寝てる今のうちに通らせてもらおうぜ」

「いやいやいや、…………えっ、マジで言ってんの?」


 この下を通るのかよ!?


「大丈夫大丈夫、こいつら寝てる間はスゲー鈍いから。ほら行くぞ」


 深月の心の準備が整わないうちに前衛の連中は続々とブラインドバットの下を通っていく。


「…………エイッ」


 一瞬ネルの尻尾が上に伸び何か黒い陰を突き刺したのが見えた。

 尻尾に刺さった黒い陰はそのままネルの顔の前まで連れていかれ、「シャクリ」と湿った音がなる。その後に数度のポリポリと咀嚼音が響く。


「こらネルっ何食ってんだ! そんなもの口に入れるな! ペッてしなさいペッて!」

「ペッ…………美味シクナイ…………」



 それから一行はモンスターと遭遇することもなく黙々と洞窟を歩き続ける。


 ふと一番前の二人が立ち止まった。

 二人はこちらに手で動くなと合図を送り腰のナイフに手を伸ばす。

 深月も息を止め臨戦態勢に入る。


「…………これは、呼吸の空気の流れも感じないし」「腐敗臭も酷い…………死んでる?」

「あーうん、死体だな」「みんな、警戒を解いて大丈夫だ!」


 ツインエッジはナイフにあてていた手を離し、そのまま悠々と進んで行く。


「これは…………」


 後を追って先に進んだ深月の目に入ってきたのは、下半身が大きなクモで上半身が美しい人間の女性であるモンスターが四匹。そしてその後ろに、大きく破れてはいるがそれでも驚く程大きな人間大のクモの巣が道を塞ぐように出来ていた。

 すでに先行していたサーフェル支部の冒険者にやられたようでモンスターは四匹とも全身に大きな損傷がみられすでに息絶えているようだ。


「アラクネです。ランクD+、洞窟のダンジョンではよく目撃報告があるモンスターです」

「ナンダカ、ネルト似テルナー」

「ネルちゃんもモンスターの分類でいえば同じアラクネ属ですからね」

「へー。確かにサソリとクモって似てるしな」

「それよりネル、貴様なぜこっちに居る? 前衛だろう、持ち場を離れるな」

「チェー」


 クモの巣を取り除き一行はさらに進む。




 歩き始めてからどの程度経過しただろうか、深月の体感ではすでに1時間ほど経っている。

 これまでの道中は目立ったモンスターは出ずに小型の低ランクモンスターしか出現しておらず、ツインエッジだけで対処ができている。

 このまま最深部まで行くのではないかと深月が考え始めた頃に、


「どうやらここからが本番みたいだぜ」「便所は行ったか? なにが出てきてもびびんじゃねぇぞ」


 魔法でつくられた2つの光の球が、真っ黒な鉱石で作られ精緻な装飾が施された二枚の荘厳な扉を照らしだしていた。



 

 扉の向こうはそれまでの洞窟とは様相が一切変わっていた。

 それまでの自然にできたであろう道とも呼び難い岩の地面とは打って変わって、扉の向こうは天井、壁、床が扉と同じ鉱石でできており、きれいに切り出された鉱石の表面は非常に滑らかで一切の凹凸が見られず明らかに人工物であった。

 最後に『女神の楯』の面々が中に入ると、自動で扉は閉じられ壁に備え付けられた灯りが一斉に火を灯す。


「まだダンジョンが生きている証拠です」


 そこからの探索はより慎重なものとなった、ツインエッジの二人は床や壁に耳をつけたり、軽く石を投げて反応を待ってみたり、進行速度は今までの半分以下にまで落ちた。

 しかし予想に反してその道程は順調で、トラップは先に探索した冒険者にほとんどが解除され、大型モンスターもおらず低ランクのモンスターと散発的に遭遇するにとどまった。





「おっ、今度はサラマンダーじゃねぇか、流石サーフェル支部の有名冒険者たちだな」


 サーフェル支部の冒険者に倒されたであろう牛の様に大きなトカゲのモンスターの死骸の横を通りながらアルザが軽く口笛を鳴らす。


「そうですね、扉をくぐってから見つかるモンスターの死骸もどんどん高ランクの強力なものになってきています」

「リザードマン、レッドキャップ、アラクネ、ミノタウロス、そしてこのサラマンダー!」「D、D、D+、C、Bとだんだんのってきてるな!」


 アレンの言葉をツインエッジが茶かすように軽口でのっかる。


「っと待った。空気の流れが変わった。たぶんそろそろ広い場所に出るな」「それとこの臭いはモンスターじゃなくて人の死体がありそう」


 ツインエッジの言う通り少し進むと大きく開けた広場に出て、そこには冒険者たちの死体が何十体も、腕が、足が散らばっていた。

 辺りは腐敗臭が充満しており、深月は胸の奥から酸っぱいものがこみ上げるのを必死に飲み下す。

 隣を見るとアイリスも不快そうに顔をゆがめて口元を手で覆っている。

 レーベや他の冒険者の面々は普段と変わりなく淡々とした表情だ。


「たき火の後があるな、休憩していたところを襲われたのか…………どうするアレン?」

「一度、生存者がいないか確認しましょう」

「無駄や思うけどな…………しゃーない」


 アレンの一声で全員が散らばり生存者を探すこととなった。


 ほとんどの死体が腐敗がすすんでおり一目で生死が確認できたが、中には全身にプレートアーマーを纏っている死体もある。

 確認のためにヘルムの目出しの部分をカシャンと上にずらす。出てきた顔は恐怖ゆえにか目が見開かれており、頬がこけ、枯れ木の様に干からびていた。

 深月は思わず目を逸らす。


「『死霊魔術ネクロマンス』の一種でしょうね。生気を吸い取られてミイラになってしまう、恐ろしい魔法です」


 説明するアイリスの声にも力は無い、この惨状に参っているのだろう。


「深月様、大丈夫ですか?」

「ああ…………これぐらい覚悟はしてきた」

 

 レーベが心配そうに深月の顔を覗き込んでくる。これ以上みっともないところを見せるわけにはいかない、もう一度気合いを入れなおす。


「ダンジョンで冒険者の死体を見つけた場合はどう対処したらいいんだ?」

「可能ならギルドカードと何か小さな遺品を回収してギルドへ報告となります。遺体はその場での鎮魂になります」

「そうか、出来れば家族の元に返してあげたかったな……」

「冒険者の死体があるということは、それだけの脅威が近くにあるということなので、遺体という荷物を持ち帰る作業はかなりの危険を伴いますから……」


 深月は別にこの冒険者たちと顔見知りなわけでもないが、それでも同じ冒険者として何か供養をしてあげたかった。

 きっと彼らにも家族はいて、冒険を続けるかぎりもしかしたら深月だっていつかこうなるかもしれない。

 アイリスだって好き好んでこのまま遺体を捨ておきたい訳ではないのだろう、この(しもべ)は優しいので本心は深月と同じで弔いたいはずだ。

 しかしそんな個人的な感情で他のパーティを危険にさらすことはできない。


「アンタは優しいね。いやただまだ冒険に擦れていないってとこかね」


 イリーダが声をかけてきた。


「そのフルアーマーの連中は『アーマーナイツ』の奴らさ」

「アーマーナイツ?」

「そ、たぶんサーフェルじゃ一番のパーティじゃない? メンバー全員がランクB以上、しかも全員が極度の鎧フェチ。見てみなよこの鎧、全部ミスリルだ。しかも相当高位の強化の魔法がかかってある。鎧としては最高級だろうね、まったくいくら掛かってんだか。竜種の一撃にも耐えられるんじゃないか?」


 イリーダは倒れて兜が外れて転がっている遺体に、兜を被せて死に顔を隠してやる。


「アタシは一応何度か顔を合わせたことがあるが全員気のいいおっさんたちだったよ。腕も確かだ。ま、だからこそ腑に落ちないんだけどね」

「なにが?」

「アンタ、もう一度自分の周りをよく見てみなよ」


 言われた通り周りを見渡す。

 無造作に倒れている鎧の死体。

 そのミスリルでできた最高の鎧が大きくへしゃげてしまっている、兜ごと頭を潰されている死体もある。




 結局確認作業はものの数分で終わり、もう一度、死体から離れたところに全員で集まる。


「生存者は見つかりましたか?」

「まぁこんな惨状じゃあな…………」

「『アーマーナイツ』も」「『死面デスマスク』もやられちゃってるぜ」


 おおよそ予想はできていたことだが、やはり生存者はいなかったか。

 生存者の確認と同時に回収したギルドカードはアレンがまとめて持つこととなった。

 実力ある他支部の冒険者が全員やられてた現状がさらに緊張と警戒心を高めさせ、その場の空気を重くさせる。


「そんなことより、この素晴らしい惨劇たちを演出してくれた化け物の話をしようっ!」


 そんな重苦しい雰囲気の中一人、カレルは目をギラギラと輝かせながら興奮した口調で語りだした。


「ミスリルの鎧を砕き! 死霊魔術ネクロマンスでこれだけ多くの冒険者の生気を吸った化け物の話だ!」


 そう言って心から楽しそうに高らかに笑うカレル。

 瞳孔が大きく開かれ、犬歯をむき出しにし、口の端で大きく弧を描く。



 ――――――こいつっ、ヤベえぇ! 完全にイっちゃてるっ!



 そのカレルの姿に広場の惨劇を目の当たりにした時とは別種の寒気が発生し、思わずアイリスと目を合わせて二人してレーベの背中に隠れてしまった。

 嫌な汗が背中を伝う。

 深月はこの瞬間、ダンジョン探索を開始してから最も帰りたくなった。


「そうですね、ミスリルの鎧を物理的に破壊できるモンスターなんてかなり種別が絞られる。力の強い竜種やサイクロプス高位のオーガ、アメミット。それに高度なネクロマンスを操るとなるとリッチやヴァンパイア。どうやらこのダンジョンにはかなりの数の高ランクモンスターが複数体存在するのでは――――――」

「おいおいおいおい! 『優者』様ともあろう奴がなに的外れな事言ってやがる!」

「どういう意味ですか?」

「いるんだよっ、このダンジョンに!! 永遠を生きる死人がっ! 死がっ! Xランクがっ! 『不死の王ノーライフキング』がよぉ!! はは、ハーッハッハッハッハっ!!」


 カレルの愉快でたまらないという笑いが死体が散らばる広場に響いた。

明けましておめでとうございます。


どうか今年もよろしくお願いいたします。




そろそろ仕事初め、学校なら新学期ですね、


皆さんはどのような年越しをお過ごしになりましたか?


因みに私はテレビの前で力の限りピーターアーツを応援してました。

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