表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/43

ー3ー


 あれからギルドを出て朝食を済ませ、クエストへと向かう。

 今回の目的地は王都から馬で約1時間離れた小さな村。なんでも普段はこういった低ランクのモンスターが出たときはその村の猟師が対応するらしいのだが、今回は猟師は以前の狩りで怪我をして動けないらしい。

その小さな村は猟師以外は農具しか持ったことのないような農民しかいないので、こうして依頼が回ってきたというわけだ。


 いつもどおりアイリスの背中の上でゆったり揺られながら、深月は訊ねる。




「あの支部長の提案、なんだと思う?」

「さぁ? 一応私たちにプラスになるとは言ってましたけどね」

「それが今一信用できないんだよなー。なんか腹黒そうだったし」




 深月たちのなにがローワンの興味を引いたのか。

 深月の体質やレーベの正体。どれもバレたとは思わないが、ギルド支部長の興味を引くであろう事に思い当たるものは多々ある。


「深月ハカワイイカラ。キット支部長サンハ深月ノコトガーー」

「はいストップーッ! ネルの何を言おうとしているかはボクにはまったくこれっぽっちもわからないけど、それ以上は言うなっ」

「『私の言うことを聞けばすぐにランクをあげるよ。さぁ、服を脱いでーー』って感じですか?」

「だから言うなって言ってんだろアイリス!!」




 ボクには何の事か、まったくっ、さっぱりっ、これぽっちもっ、予想もできないけどもっ、貞操の危機なんて感じちゃいねーんだからなっ。



「何も心配する事はありません。もし深月様の不利益になるようでしたら私にお命じください。深月様の障害は私がこの手で排除します」

「お前は、なんか思考が短絡的になったよな」


 いや、最初からこんな奴だったかもしれない。


 ………………色々な危機を感じたらレーベに頼ろう。



「まぁ、いざとなったらレーベを投入するとして、今は目の前のクエストのことを考えるか」

「場合によってはレーベさんを投入するんですか……」



 わからない事をいつまでも頭を悩ませるのはバカらしいし、もっと間近にやらなきゃいけない事があるのだ。



「アイリス、ゾンビってどんなモンスターなんだ? 一応冒険者マニュアルに書いてあった分は読んできたけど」

「ゾンビはですね、元はごく普通の人間で、死んだ後に体内に残っている魔力が様々な要因で変異し疑似的な命を持ったモンスターです。

魔力が変異する要因は様々な説があってはっきりとはしていないんですが、死の間際に恨み怒り等の強い感情を抱いたために魔力が暴走したとか、大量に魔力が散った場所――つまり大勢の人が死んだ戦場とかですね――で、死体に残る僅かな魔力同士が集まって一つにまとまろうとしたため、だとか。ゾンビに人種が多いのは知能が高い分負の感情がより強く出てしまうからだってことみたいです。

まぁどれも仮説みたいなものでまったくわかっていないと言った方が正確かもですね」


 死んでからゾンビになる。つまり日本のゲームみたいに、噛まれたからといってゾンビになる心配はなさそうだ。


「後は生前にかなり実力のある魔法使いだった場合は『ゾンビ』から更に変異して『リッチ』ってBランクの上級モンスターになるんですが、その辺の説明も聞きます?」

「んー、今はいいや。それよりも倒し方を教えてくれよ、ギルドじゃ決まった倒し方があるみたいな言い方してたじゃんか」

「ああ、それは簡単ですよ。心臓を狙うんですよ」

「はぁ、心臓ねぇ?」


 そりゃあ、どんな生き物も心臓をやられちゃ死ぬだろが、……もう心臓動いてないじゃん。

だってゾンビなんだもの。


「そんな“こいつ、なに言ってるんだ”みたいな目でみないでくださいよ。ちゃんとした理由があるんですってっ」


 深月の訝しげな目線の意味を正しく理解したアイリスは、慌ててフォローを入れる


「ゾンビを相手にして一番注意すべき点は、その耐久(タフ)さです。元々が死んでるのでお腹に大きな穴が空こうが両腕が無くなろうが気にせず向かってきます。元の人間の死に方によっては最初から頭が半分無かったり、下半身が無かったりしますし。そこで余計なカウンターを貰わないためにも心臓を狙うんです。魔力の源であり貯蔵庫でもある心臓を攻撃すれば一撃で倒すことが可能ですから」


 話を聞いてみると、成る程。合点がいった。

 だから初心者向けなのか。

 攻撃をかいくぐって懐にもぐり、正確に一撃を入れる。どちらもこれから戦っていく上で必ず必要になる技術だ。

 攻撃力は高いが、動き自体は遅いし、防御力は正確な一撃入れることができればそれで倒せる。これほど実戦に慣れるために最適な相手はそういないだろう。



「それだけわかれば十分だな」



 うしっ、やるか。




 初陣に向けて一つ気合いを入れる。




「今回はボク一人でやるから、お前等は見学な」




「はっ。……は?」

「えっと……、今なんて言いました?」

「エ? ドウイウコト??」




 やっぱり、こんな反応になったか。

 三人とも足を止めて、深月の顔を凝視している。さっきの深月の発言が信じられないらしい。

 仕方ないからもう一度言う。




「さっき言った通り。今回のクエストはボク一人でやるから」




 ……………………。




 だいたい30秒ぐらいだろうか、沈黙が続いた。




「すいません深月様、少しの間アイリスから降りてもらってかまいませんか」

「ああ、いいけど」




 最初に沈黙を破ったのはレーベ。

深月は言われた通りにアイリスから降りる。



「ありがとうございます。では、」


 レーベは深月にお礼を言って、こほん、と一つ咳払いをして息を吸い込み、


「緊急事態だ。全員集合しろっ!」


 いったい何が始まるのやら、三人が集まって輪になりコソコソ話し始めた。



「今の深月様のお言葉を聞いたな。我々はどうするべきだと思う? 挙手は省略して構わん。意見のある者から順に述べろ」

「私は、心情を別にするとですけど、実戦は早いに越したことはないと思います。これからも深月様が前線に出るつもりである以上、少しでも場数を踏んでもらわないと」

「アイリスは賛成か。ネルは?」

「ウー……、私ハ反対、深月ガ怪我シタラ大変」

「ネルさんは反対ですか、レーベさんはどうなんです?」

「私は勿論反対だ。万が一にでも深月様の玉のお肌に傷がたらどうする。万が一の可能性でも排除するのが我々(しもべ)の役割だ」

「そうは言ってもですね、深月様は最終的にネルさんやレーベさんと肩を並べる事を目標にしている訳で。主のサポートをするのも(しもべ)の役割ですよ」

「デモデモ、イキナリ3匹ハ危ナイヨ」




 ――――こいつら、ボクの居ないとこでもこうやって楽しくやってんだろうなぁ。



 深月を外野において、従者3人でどんどん議論は進んでいく。

 心配されるのは嬉しいし、深月が前に出るのは現状では足手まといでしかない事も事実なのだが、初心者向けのモンスターでこうも心配されるのは少し過保護すぎじゃなかろうか。




「待て待て、少しはボクの意見も聞いて――――」

「申し訳ありませんが、今は(しもべ)だけの非常に重要な議論の最中ですので」

「深月さまの大事な初めてのゾンビ戦の話をしているんです!」

「マタ後デ、オ話シヨウネ」


『今は黙っていてくださいっ!』



「…………はい」


おかしい。

ボクに関する大事な話なのだからボクが入るのは当然なのではないのか。何も間違った要求はしていないと思うのだが(しもべ)たちの剣幕に押しきられてしまった。








 そして、あーでもないこでもないと従者たちで話し合った結果がレーベの口から発表される。



「深月様、決まりました。深月様には1対1を三回してもらいます。具体的にどうするのかといいますと、私とネルが1匹ずつゾンビを押さえておきますので、その間に深月様は残りの一匹を倒して下さい。そうしたら1匹ずつ解放していきますので、それを三回していただくということで」




 大自然で海釣りをしようとしたら、有料性の釣り堀に連れて行かれた。




「お前等ボクに対して過保護すぎないかぁ?」

「Bランク相当の実力がつくまで、実戦は控えて頂く。という案も出たんですが、そちらの方がよろしかったですか?」

「……こっちでいいです」




 Bランクて、それもう目的達成しちゃってるよね。

 なんせ当面の目標がBランク冒険者のアルザなんだから。



「今回は諦めてくださいよ。何度かやっているうちに、きっと私たちも安心して見ていられるようになりますから」


 自分もかつてはFランクの冒険者だったこともあってか、アイリスだけがフォローしてくれる。



「アイリスの初の実戦の時はどうだったんだよ?」

「私ですか? 私の時は、確かゴブリン4匹でした」

「一人で?」

「はい。一人で」

「……」

「あ、あはは……」


 微妙に気まずくなった空気をフォローするために、アイリスは「それはそうと」と話を変える。


「少し気になったことがあるんですよ。もしゾンビに『ミツキフェロモン』が効いたらどうするんです?」

「あぁ? そりゃ当然………………」



 まったく、考えて無かった。

 みんなに『ミツキフェロモン』の説明をしてからというもの、意識的にモンスター討伐系の依頼は避けてきたのだが、そろそろ実戦を経験しておくべきじゃないかという焦り、初心者向けだというゾンビがタイミング良く出てきたせいで、つい頭から抜けてしまっていた。



「なるほど。そして深月様の魅力に参っているところを仕留めるつもりでしたか。流石深月様、見事な策略です」

「ワァ、鬼畜ダネッ深月!」

「そんな事しねーよっ、お前らボクをなんだと思っているんだ!」



 そしてネル、そこまですると、それはもう鬼畜じゃなくて外道の所行だ。



「もしかして、考えてなかったんですか?」


 アイリスの問いに控えめに頷く。


「あちゃあ……。もうクエスト受けちゃいましたから、今から止めるとなると違約金払わなきゃいけませんよ」

「しまったな。……ゾンビを使い魔にしているテイマーとかいる?」

「いませんよ。ゾンビはモンスターテイマーじゃなくてネクロマンサーの領域です。知能がほとんどなくて、本能のままに行動するゾンビを調教しても、ろくに指示が通らないので」

「そのネクロマンサーはどうしてんの?」

「ネクロマンサーは従えているんじゃなくて、魔法で縛っているだけですから。深月様の『ミツキフェロモン』を使えば懐かれることはできると思いますが、従えるとこが可能かどうか」

「そして、もし従えることができても、今度は『ゾンビを従えているテイマー』として注目の的になるわけか」

「ええ。ネルさんのようなAランクモンスターを従えるテイマーはごく少数ですが居なかったわけじゃありません。でも流石にゾンビを従えるテイマーは史上初だと思いますよ」

「注目を集めるのは今に始まった事じゃねーし、もう開き直ってはいるけど……」



 問題は『ミツキフェロモン』で従えられるかどうかだ。



 こいつらの様子を見るかぎり、とてもじゃないが無理そうだよなぁ……。


「しゃーない。違約金は正直痛い出費だが、ゾンビが女だった場合は今回は帰ろう」


ぞろぞろゾンビを連れてギルドに帰る訳にもいかないから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ