春は鳩 そして
春彦の居る場所。
ふんわりと暖かそうな白い空間。壁が見えない程広い。床は鳩の羽の様に柔らかい。
だが、春彦はまるで鳥籠の様な檻に入っていた。
「…え…?」
立ち上がり、鉄格子に近づいてみる。少し揺れた。
「ええええええええええええ!!!!何でぇぇぇぇぇぇぇぇぇ??!!」
パニック状態になってしまった春彦。
籠がぐらんぐらん揺れ、中の春彦も目が回った様にフラフラする。
「落ち着いて、少年。」
その声を聞いて荒れた心がとろけた。
美しく、どんなに鋭い棘でさえ溶かす様な美声。しかし春彦はそんな声にはときめかない。
「あ…貴女は…?」
声の主に問いかけた。すると、後ろからあの声。
「私は、この街の鳩を纏める長。名を、トハと言います。」
手紙をくれた乙女。笑顔を見せてくれたらきっと、悪魔も恋をするだろう。
だが、今はキッとした、真顔。
「え、と。」
「ごめんなさい、乱暴な事をして。それで…お名前を教えて下さらない?」
「あ、は、春彦って言います。」
「大分落ち着かれた様ですね。」
そりゃ…声で気持ちが溶けたんで。
トハという乙女は微笑んだ。
「それで…トハさんはなんでこんな事したんですか?てか、ここはどこですか?」
トハは一羽の鳩が持ってきた鍵で檻を開けた。春彦はゆっくりと出た。何時の間にか周りに無数の鳩がいた。
「本当にごめんなさい…。ここは、あなた方から言う、『異世界』と言う所です。その中のここは私たち鳩が魔力を補う、又は暮らす城となります。」
そこまで話すと何かを思い出したかのように春彦が尋ねた。
「あの!僕の兄ーー秋彦は何処に?!」
するとトハの表情が曇り、暫くの沈黙が続いた。
「ーーあなたのお兄様は…スラカの所にいます。」
場所は違えど、二人は双子。
互いを心配し、互いで気持ちを伝え合う。
二人は遠く離れた所で声をそろえた。
「「え…お互いが…敵…?」」
よく分かりません。
どうしましょ。。