父と烏
転校して一週間。まるで梅雨をも思わせる四月某日。
二人は驚くほどクラスに馴染んだ。
浅く広く友達を作り、先生には「早く馴染んでよかったわ」と言われる。
遅くなったが、鳩烏町について説明したいと思う。
あまり歴史や出来事がない街。
街の真ん中にある街の象徴、鳩烏山は、その名の通り鳩と烏の神を祀っている山。八月に産みの親の街に里帰りするという。
四月辺りとてもジメジメする、雨がよく降る地域。
藤岡家は父ーー嘉彦の転勤でこんな地味街にやって来た。
ーーそれが仕組まれた事だとは知らずに。
「ただいま~。母さん、お腹すいた~」
秋彦がなんとなく倒れそうになって言った。
「おかえり。おやつ、テーブルにあるから春と食べなさいね」
キッチンから声。
「チッ。子供じゃねーよ」
「ん?なんか言った?」
包丁を持って母が現れる。
「あっ、いや…なんでもない…」
「どうしたの?秋にい。」
母が引っ込んだのを確かめて呟いた。
「か…母さんに殺意を感じた…」
「あっ!ドーナツ!」
テーブルに手作りのドーナツがあった。母は見た目通り、料理が得意でよくお菓子を作ってくれる。
美味しそうに食べる春彦を見て、秋彦も食べる。
母の料理は、んまい。と思いながらモッサモッサと二個目を食す。
「ただいま~。」
「あら、あなた。おかえり~。」
夕飯時。父が仕事から帰った。
「いやぁ、会議が長引いちゃって。」
「あらぁ、そうだったの?大変だったわね~」
母は父にベタ惚れで、父を喜ばせるために料理の腕を磨いたようなものだ。
一方父の方は、ほんの少しだけ呆れているが、まだまだラブラブだ。ナウでヤングなカップルだ。(古い。)
「あーあ。めんどくせーなー。」
秋彦の部屋。只今勉強中だ。
「秋にい、頑張れよ。頼むから。」
同じく春彦の部屋。二人は同じ部屋だ。
「だってめんどくせーもん。」
「もう…。めんどくさいなら引き延ばすなよ!このバカ秋!!」
「はあ?!俺がバカだって?!ふざけんじゃねえよ!!」
「ふざけてませんー。少なくとも秋よりは真面目ですー。」
「はン。俺がバカならお前もバカなんだな。」
「なにを~~!!!」
ガタッと立ち上がる。
「うるさい!!!」
珍しく父が怒った。
「「え?」」
「あぁ、怒鳴ってすまん。いや、なんか最近カラスがうるさくてねー。ついイライラしちゃって…」
父は新しい煙草を取り出しくわえた。
「あー、ごめんな。春。」
「いや…こっきこそ。秋に…」
「あ、その『秋にい』じゃなくて、普通に秋って呼んでよ。」
「え?あぁ、うん。あ…秋。」
「うんうん。めっちゃしっくりくる。」
二人はとりあえず勉強を終わらせ、二段ベッドの上に秋、下に春という具合で潜り込んだ。
…ベッドの中でゲームをし始めたのは、言うまでもない…。