白き人
体が重い。
鬱陶しい湿気がべったりと纏わり付く。
目を開けば見慣れない天井。
…ここは…どこだ………?
「秋にい!!起きろ!!あ、なんだ。目ぇあけてんじゃん。」
入り口を見ると見慣れた人。
春彦を見て全てを思い出すーー。
「ああああああああああ!!!!学校じゃん!!!」
「うん。今、7時50分。」
「うそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!時間ねぇじゃん!」
「うん。遅刻しそう。」
「早く起こしてくれよ!!!」
「うん。でも、母さんがダメって言ってた。」
「あのクソババァ!!!普通逆だろ!ぎゃーー」
突然扉が開き、おたまが飛んできた。
「誰がクソババァですって?」
母ーー明美がロングワンピースを身にまとい現れた。
「だいたい、先週貴方が起こすなって言ったのが悪いんでしょう?」
明美は笑顔だ。しかし、とてつもなく恐ろしいオーラを感じる。
「す…すいませんでした…」
秋彦は軽く土下座をする。
「早く支度なさい。朝食は行きながら食べなさい。いいわね?」
「はい。女王さ…」
「ん?」
フライ返しを振り上げる。
「あっ…えと、お母様。」
瀬兎高等学校。8時25分のチャイムギリギリで2年A組の教室に滑り込む二人。
「「あ…れぇ?」」
一斉に視線を浴びる。
同じ扉から担任の先生、岡本 紗世が現れた。
「あら、あなた達が双子の転校生ね?よかった。さ、入って。」
二人を席へ案内する姿は、いささかメイドの様だった。
教卓にたった紗世は、二人をジロジロ見る生徒に目を向けた。
「今日からこの学校の生徒になる、藤岡春彦くんと、秋彦くんです。秋彦くんの方がお兄さんですっけ?それじゃあ、皆さん、仲良くして下さいね。」
パラパラと拍手が上がった。
朝のホームルームが終わり、休み時間。
二人の周りに人だかりが出来ていた。
「どっちがどっち?」
「どこからきたの?」
「二人ともイケメンだね」
イライラする秋彦とは対象的に、春彦はスイスイと質問に答える。
「僕が春彦で、あっちが秋彦だよ」
「東京から来たんだ」
「あ…ありがとう」
「……おい…」
秋彦が重い口を開いた。
「ん?なに?秋にい。」
「質問は春彦を通してくれ。俺は…寝る」
「ええええ?!」
「まぁそんな困った顔すんな。じゃっ。」
秋彦が机に頭をうずめてしまったのと同時に、ほとんどの人が春彦の机の周りに群がった。
「~~~!!!」