佑璃と蓮夜
滝丸が来た次の日、蓮夜は報酬を貰うために町に一人で出ていた。
「よし・・」
蓮夜が見えなくなったのを確認して戸を閉めた。
「着替えよう」
最近は蓮夜がいたのでろくに着替えもできていない。見られるわけにはいかないし、こそこそ隠れるわけにもいかなかったから。
まずは着物を脱ぎ、胸に巻いていた布もとった。
「ふう・・」
やっと一息つけた。胸を潰すため結構きつく巻いていたのだから仕方がない。
そのあとは、布を水でぬらして体を拭いた。
「痛っ」
新しい着物を着ようとして立ち上がった時思わず足に力が入ってしまった。
「はあ・・・」
疲れてそのまま横になった。
蓮夜が来て、緊張していたというのもある。そのためついうとうとと眠りについていた。
コンコン
「!!」
戸をたたく音で目が覚めた。
「ただいまー」
蓮夜が帰って来た。
今この状態で会うわけにはいかない。とにかく着物をまとって声をあげた。
「ま・・ちょっと待て・・!!」
しかし、すでに時遅し。ガラリと蓮夜が戸をあけた。
「!!!」
「・・・・」
お互い気まずい雰囲気になる。
「・・・ごめん・・」
そう呟くと彼は急いで戸を閉めた。
「ぅぁ・・」
見られた。まともに来てすらいないのだ。絶対に気づかれたし見られた・・!!
その後、動揺して時間かかるも着替えは終わった。
「蓮夜」
落ち着いてから戸の外にいるであろう蓮夜に声をかけた。
「みた・・?」
「・・・ごめん」
それしか言わなかった。
でも仕方がない。油断していた自分も悪いのだ。
「・・・中入れよ・・」
自分から戸をあけた。
そして家に入って彼は言った。
「本当にごめん」
「・・・いや、いいって。こっちも悪かった・・」
申し訳なさそうに頭を下げる蓮夜をなだめ、顔を上げさせると
「・・・って見るなっ!」
自然と蓮夜の視線が胸にうつっていた。
「悪かったっていったじゃん」
開き直ってやがる。こいつ。
「・・・でもさ」
「なんだよ」
「油断しすぎだ、馬鹿」
「!な・・なに・・」
「着替えるならさっさと着替えておけ、もしくはもっと隠れて着替えろ」
そう言われた。何の反論もできなかったけど。
「すいません・・あのさ・・」
1つ引っかかっていることがあった。
「驚かないのか?女・・だったってこと」
最初から謝っているだけで一度もそういうことを蓮夜から聞いていないのだ。
「ん?あー、うん」
じっと見てきた。
「だってわかってたし」
「はあ!?」
「小さいし、華奢だし、女顔だし、声も高いし、軽いし」
つらつらと述べていく。
「無理して男のふりしてるし」
な?と私の頭をなでた。
「かわいいな、おまえ」
「!!!」
何をいうのだ!こいつは!
「まあ、町の人達は気づいていないみたいだけど」
「・・・いつから?」
「最初は、女っぽい奴だなーとか思ってたけど、すぐにわかったよ」
「・・・じゃあ、飯屋のも・・わざとか」
娘を見て好きなのかと聞いてきたのを思い出す。
「うん、どう反応するのかなって思って」
「・・・はあ・・」
何を考えているのだ?
「それと・・女の子が野宿なんてするなよ」
「・・・」
「襲っちゃうよ?」
いきなり覆いかぶさるかと思うと床に押し付けられていた。
「蓮夜・・・!?」
「武士がこんな簡単に組み敷かれてどうするんだよ」
私の両手をつかんでいた。
「な・・にを・・ひゃっ」
首に唇が当たった。
「れん・・や・・!」
「佑之進・・じゃないな、名前何?」
目の前に蓮夜の顔があった。
「!!・・ゆ・・うり・・」
自然と本名を告げていた。
「ゆうり?」
「佑璃だよ・・」
「そっか」
すると額にくちびるがあたった。
「佑璃」
「なに・・や・・いや・・っ」
ふと我に戻る。いけない・・。
「佑璃!」
「嫌だ・・・」
しかし、私の力では蓮夜にかなわない。
「!!やめて!!!」
だからこそ思いっきり叫んだ。
「!・・あ・・」
蓮夜の動きが止まった。
「・・・ごめん・・」
私から離れた。
「・・・頭冷やしてくる・・」
彼は立ち上がると家から出て行った。
「・・・蓮夜・・の馬鹿・・」
そっと彼の触れたところを触った。
「・・滝丸・・・」
蓮夜に襲われている我に戻ったのは滝丸の顔が横切ったから。
「うう・・・」
どうして・・こうなったのだろう。
日が暮れても蓮夜は帰ってこなかった。
昼間あんなことがあったと言えども心配になって探しに出ることにした。
「・・・蓮夜・・」
「・・?あ・・」
川のそばでうずくまる彼をみつけた。
「・・・ごめん・・」
「もういいから、帰ってきなよ」
許そうと決めていた。
「佑璃?」
後ろから抱きしめた。
「はじめて・・かわいいって人から言われたから・・今回だけは許す」
初めてだった。兄さんは別物だけど。
「次はないから」
そういうと蓮夜がゆっくり口を開いた。
「ありがとう・・」
「うん。じゃあ、戻ろうか」
蓮夜から離れ、立ち上がろうとすると腕を握られた。
「何?」
「あのさ佑璃、女の子なら男に簡単に抱きつくなよ。また襲うかもしれないだろ」
「・・・蓮夜はそんなことしないよね?」
さっき次はないって言ったのに。
「わかんねえよ」
腕を引っ張られて私に抱きついてきた。
「わかんねえんだよ・・ごめん・・」
震えていた。ただ昼間とは違うというのはわかった。
「お前みてて・・懐かしくて・・触りたいとおもって・・」
今まで男として過ごしていたから我慢していたのだという。
「ごめん・・・」
「蓮夜・・」
「佑璃とあって少ししか経ってないのに・・すごい愛しくて・・」
「!!」
蓮夜の腕の力が強くなる。
「離したくなくて・・あんな行動とってしまったんだ・・ごめん・・」
傷つけるつもりはなかったと謝っていた。
「佑璃みてるとどこか懐かしくて・・俺のものにしたくなってた・・」
それはもう告白のようなものだった。
「!!蓮・・夜・・?」
そっと頬に手が添えられていた。
「あー!!」
ところがいきなり叫んで腕を解いた。
「駄目だ、駄目だ・・ああもう!!」
「うるさい」
パンと頭を叩く。
「はあ・・ごめん」
「今日は謝ってばかりだね」
「お前のせいだろ」
「人のせいにしないでください」
そう言い返して、立ち上がった。
「帰ろっか」
手を差し出すと蓮夜は素直に手を取った。
夜になり眠りに就こうとしていると蓮夜がぼそっといった。
「出世の道具・・」
「え?」
「どういう意味だ?」
どうやら滝丸との会話を聞いていたらしい。
「それは・・」
「いいじゃん。女ってばれてるし隠すこともないだろ?」
そこで少しだけ話をすることにした。
「お前貴族とかそういうのなのか?」
「違うけど、大きな貿易商の娘よ」
「へー」
父が出世を目的に私を嫁に出そうとするのだ。
「それで10も上のおっさんと結婚?」
「そういうこと」
だから逃げ出した。
「私は父様のいいなりになんかになるのは絶対に嫌。今まで我慢してきたけどこればかりはもう耐えられないよ」
「佑璃?」
「大体心配してるっていうのなら自分で探しに来るってものでしょ!わざわざ使用人なんか使わないであたかも心配してるふりなんかして馬鹿じゃないの!」
イライラが頂点に来ていた。
「一度も私のことなんか見てくれたことなんかないくせに何考えてのよ!いまだって結婚相手にどう言い訳するか考えてるだけなんだから!!どうせ私は出世の道具にしかみられてない・・・!!」
そこまで行ったところで頬を涙が伝っていた。
「あいつだってそうっ・・何もわかってない・・!」
「あいつ?」
「あ・・・」
これ以上は言いたくない。
「なんでもないよ・・」
涙をぬぐいながら答える。
「・・・わかった」
蓮夜も察して深く追求はしなかった。
足の調子も良くなってくると仕事探しに町に出ることになった。
「女の格好はー?」
「誰がするか」
「つまんねえの」
「ふん」
ここ最近はこんな調子だ。
「佑璃ちゃーん」
「いいか?町に着いたら本名で呼ぶなよ」
そう釘をさして久しぶりの町へと出向いた。




