U.F.O.
目の前にUFOが現れる。
もちろん昭和のアイドルの楽曲でもないし、カップ焼きそばのことでもない。
Unidentified Flying Object、未確認飛行物体、だ。
いや、目の前というと語弊があるかも知れない。実際にその物体が浮かんでいるのは、遥か上空なのだから。
双眼鏡越しの空に浮かぶUFO。
作り物かも知れない。誰かが僕を騙そうとしているのかも知れない。陰から誰かが、慌てふためく僕を観察しているのかも知れない。しかし、それでも良いと思う。そこで、目の前が急に暗くなって――。
気がつくと、僕は真っ白な空間の中にいる。
そしてそこには、まるで作り物のように完成された容姿を持った人間が大勢立っている。奇妙な形をしたテーブルのようなものを囲んでいて、会議かパーティを連想させる。ここはあの円盤の中だろうか。
その中の一人が口を開く。
「我々は、宇宙人だ」
アンケートを取ったら、宇宙人が言いそうな言葉の第一位に君臨しそうな、そんな言葉だ。
僕は尋ねる。「本当の宇宙人が、そんな言葉を言うのか」と。
別の人物がこう言う。「仕方がないだろう。君達の星には、我々を指す言葉がないし、我々の言語は、君達のものとは根本的に異なっているから、どうせ伝わらない。君達にも分かるように、ウチュウジンと言っただけのことだ」
「随分流暢に話すんだな」
「ここまでの意思疎通が可能になったのは、そこにいる彼の尽力が大きい。彼は単身この星で暮らし、数百年の時を掛けて、非常に正確な翻訳機の開発に成功したのだ」こいつらの寿命は人間の十倍位なのだろう。
しかし僕にそんなことを言われても、分かるはずがない。言葉が通じるか否かは、別としてだ。彼らが地球人の姿をしているのも、意思疎通を円滑に進めるためなのだろう。作り物のように思われたのは、実際作り物だったから、と言うわけだ。
そこで、僕が尋ねる。ここに連れてこられた時から感じていた疑問を口に出す。「どうして、僕を」ここに連れてきたんだ。
そこで、彼らの一人が言うのだ。
「君を迎えにきた。君も竹取物語は知っているだろう? そんな感じだ。君は我々の仲間だよ」
僕は小さい頃から大抵のことは人並みに出来て、他人から馬鹿にされたことも、褒められたことも、殆ど記憶には残っていない。苛められたこともないし、羨望の眼差しを受けたこともない。それでいて誰かが決めた常識という枠組みから出る事もせず、かといって優等生らしく振る舞うわけでもなく、日々という日々を、ただ消費されるだけのものとして、受け入れていた。そのことに気付いたのは、大分後になってからのことだったけれど。
たまには、こんな他愛のない妄想をしてみたくもなるさ。
別に、宇宙人じゃなくても良い。未来人でも幽霊でも妖怪でも、とにかく日常から連れ出して欲しい。男の癖に、シンデレラコンプレックスなんて、情けない事とも思うけれど。
僕は、新世界への憧れを抱いている。