初登場回と幹部撃破は≠って話。
『今の君は着身した状態を擬似的な最適化と仮定しカオスデバイスを使用した姿……スペック上ではユノのそれを凌駕している』
「ぜんっぜん言ってる事分かりませんけどっ、これなら行けるっ!」
「こちらも行きますよエンネア!時空加速、十倍速!」
「ディーデバイスとカオスデバイスの同期とは中々面白いことをする!時空加速、十倍速!」
「経験が浅い頭数だけ揃えたってねぇ!時空加速、十二倍速!」
三葉さんに少し遅れてエンネアと共に時空加速を起動。高倍率の違和感にはまだ慣れきってないけど……それは三葉さん、そしてバッカスも同じこと。今此処で一番これを知っているのは私だ、露払いはさせてもらおう。
「いきなり飛ばしても楽になるわけではないでしょうにっ!」
「ハッ!怖いのかしら?たった1人に3人がかりなんてね!」
「怖いのは貴様の方ではないかバッカス、対時空加速用の調整などあの機獣には施してないだろうに、数さえあれば畏怖するとでも思ったか!」
「想定では上手くいく筈だったのだけれどねぇ、貴方がこんな馬鹿な真似をしなければっ!」
「想定外なんて想定内!その時点でお前はエンネアに負けてるんだ、バッカス!」
「おお、三葉が名前で呼んでくれたぞ……今日を記念日としよう」
「記憶が戻ってもそれは変わらないんですね貴方……」
十倍速の私達では十二倍速のバッカスへの対応がどうしても遅れてしまう。けれどさも当然のように変速して平然としていた弍乃さんがおかしいだけで高倍率への変速はデバイスと身体に多大な負荷をかける、当然バッカスも条件は同じ。耐えるか負荷を増大させるかすれば先に限界が来るのはあちらだ。
「ほざきなさい、必要とされるのは常に結果。貴方達について来れるかしらねぇ……!」
「言わせておけばっ……テルスさんっ!」
『制限時間は体感で2分だ、無茶はするな……十二倍速!』
「これならぁっ!」
……三葉さんが十二倍速に変速。確かに今の彼女のスペックはティタノデバイスのものを超えなんなら私すら超えている、テルスも止めはしないわけだ。ただスペックはそうでも時空加速の行使はまだ2回目……此方でフォローしなければ。
「エンネア、置いてくださいっ!」
「手柄は三葉に譲る気か!いいとも元からそのつもりだ、三重詠唱、錬成、拡散、複製!」
「っ、障害物を増やして邪魔したつもりかしら!」
時空加速の対象となるのは発動者及び発動者が所持している物体。触れずに速度を維持する事は不可能、故に弍乃さんや私は投擲が一瞬かつ高速で終わる槍を得物とした。
「三葉さんっ、一度武器を放ってください!」
「えっ、はっ、はいぃ!?」
『やりすぎるなよシルウィア』
「無論ですっ!」
だからこうして三葉さんが武器を手放してもすぐには落ちず空中に暫く留まる。できたのは杖を持つバッカスと周囲に浮かぶ大量の剣、ついでに三葉さんが手放した武器……後はこちらで仕上げるだけだ。
「強化二重詠唱、雷霆、収束!」
「馬鹿の一つ覚えを」
「それは実際に受けてみてから言うものです」
「……は、あああぁぁぁ!?」
放った雷霆は空中に浮かぶ武器に落ち、一点……バッカスの杖目掛けて収束し、直撃。幾ら速くなろうが雷の速さを咄嗟に、しかも不意打ち込みで避け切れる筈がない。
単体での使い勝手が良いのが追尾ならば組み合わせることにより真価を発揮するのが収束、全ての呪文はこの同時行使を前提としてお母さんがクロノデバイスに搭載した物……娘である私が下手な使い方をするわけないだろうに。
「三葉さんっ!」
「はいっ!」
「舐めっ……るなぁ!」
隙を晒したバッカスに三葉さんは回収した武器でインファイトを仕掛ける。ただでさえ電撃で負荷を与えた所に十二倍速の制御、あの時の弍乃さん程ではないがデバイスにはガタが来る。
「機獣はどうする、シルウィア!」
「時空加速が終わってから負荷に耐えられればそのまま相手します、ダメなら……紗七さん達に任せます!」
「変わったな、何でも1人でやろうとしてたのが懐かしいぞ!」
「元々私はできる事なら他人に任せて生きたいんですっ!援護しますよ三葉さん!」
エンネアが避雷針として生成した武器を手に取り此方も十二倍速に変速、確実にバッカスを倒すべく挟み撃ちで強襲する。
「今日こそケリをつけるっ!」
「数が増えればいい気になって!」
「この前数を増やしていい気になってた奴が言う事じゃないですね、バッカス!」
「……む、これ私が機獣を相手した方がいいのではないか?」
今の計算だとギリギリバッカスの限界より先に三葉さんの時空加速が切れる、その前に決着を付けるには先程よりももっと致命的な隙を作るしかない。とはいえバッカスは上手い事杖で三葉さんの猛攻を捌きながら此方に牽制を入れる余裕さえある……なら。
「二重詠唱、光線、追尾!」
「目眩しにもなるとでもっ!」
「いいえこれでいいっ!」
牽制で放った光線は容易く弾かれる、けどそれは最初から通るなんて思ってない。本命は……
「二重詠唱、収束、重圧ッ!」
「みすみす受けるとでも」
「逃がさないっ!」
「ぐ……おぉぉ!?」
バッカスのみに範囲を絞った重圧。体勢を僅かばかり崩した奴に三葉さんが攻めかかる事で離脱までにほんの一瞬時間がかかった……その一瞬が、敗因だ。
「今ですっ!」
『私の負荷は問題ない、全て使え!』
「行くよ、必殺詠唱ッ!」
私が攻撃に加わればこれはすぐ解除されてしまう。だから……此処は三葉さんに任せよう。
「では私も共に行こうか、必殺詠唱!」
エンネアはどうやら機獣をどうにかしてしまうつもりらしい。ありがたい限りだが……紗七さん達の自信を奪ってしまわないかが少し心配だ。
「ぐ、舐めた、真似、を……!」
「アテナイアーッ!」
剣と鎌を1つとし、鋏状にして三葉さんはバッカスへ突進。
「死傷刃」
そしてエンネアは機獣達の上空に大量の剣を生成。
「アトロポスッ!」
「ガッ……」
三葉さんの重なる刃がバッカスを直撃し。
『時空加速解除!』
「流剣雨」
エンネアが腕を下すと共に剣が落下を開始して。
「では、我々も解除するかな」
「ええ」
バッカスが三葉さんの必殺詠唱を被弾した以上続ける意味もなく時空加速を解除。
「さあ見たまえ」
元の時間軸に戻ると同時エンネアの降らせた剣は余す事なく機獣に突き刺さり。
「これが三葉に捧げる祝いの花火だとも」
盛大に、大爆発を引き起こした。
「いや、そういうのいらないんで……というか直してください……」
「これでもダメか……仕方あるまい……」
「周辺に被害を出す位置でやるから……」
しょぼくれた顔で修復を唱えるエンネアは見なかった事にする、なんだあれは……いや、今重要なのはそれじゃない。
「あ、はは……いやぁ、想定外ね……」
「私の……いや、私達の勝ちだ、バッカス」
『まずはそのデバイス、回収させてもらおう』
着身が解け転がり落ちたバッカスに三葉さんが刃を向ける。あの吹き飛び方はセーフティのそれじゃない、間違いなくデバイスの破壊には成功している。
「嫌、ね……それに、まだ負けてないわ」
「デバイスは壊した。もう認めてよ、負けは負け!」
「アハッ、可愛いわねぇ……」
だが、様子がおかしい。もう一度重圧をかけてみるか……
「まあ、そう言う訳で」
けど、その瞬間。
「さようなら、私も流石に……怠けすぎたわ」
「何を」
「逃すとでもっ」
バッカスは徐に手を上げて……
「言っ……」
「思っ……」
次の瞬間。
「……え?」
「……消え、た?」
文字通り、最初からそこに居なかったかのように消え失せていた。
『時空加速の痕跡はない……だが類似する反応は……有り得ん、どういうことだ?』
「テルスさん?」
『……続きは戻ってから話す。説明すべき点が多すぎる』
「は、はあ……」
どうもテルスには心当たりがあるみたいだけど……こんな出鱈目をできる呪文なんてあっただろうか?
「みーつばっ」
「あっ、紗七……えっと、あの、皆?」
「怖がらないでください三葉さん。私たちはちょーっとお話がしたいだけなんです」
「そうそう、なんでこうなったかっていうね」
「2時間は立てると思わないでよね……ね?」
「……て、テルスさん……」
『諦めろ』
「うぅ……」
まあ、今は事後処理だ。しょぼくれた顔が真顔になってひたすら修復しているエンネアには悪いが私も今後のために色々させてもらおう。
「助かったわ、正直危なかった」
「隠し持っているデバイスを何故使わなかった?」
「簡単な話よ。手数はあってもなるべく見せない方が良い。そうした方が意表を付けるもの」
「そう、か」
「というかちょっと遅くないかしら?テストとはいえ指示を出すまで何もしないなんて……」
「私に貴方が言ったのは万が一負けそうだったら連れて離脱する、それだけ。後60秒も必要なかった、40秒で離脱できていた」
「……そうだったわね。貴方も結構頑固な事で」
「元の私もそうだったのかもね」
「どうかしら……さて、私は少しタルタロスに籠るわ、その間貴方には私の役割を引き継いでもらう」
「意見はない」
「ふふ、安心しなさい。サポートなんて一切ないけど……」
「貴方は正真正銘、最強の魔導士なのよ」




