絶望からの再起は王道展開って話。
「ほーら当ててみなよっ!」
「動きが、見えっ……!?」
『時空加速は加速原理からして加速とは異なる、私の送ったパターン通りに動けミネルヴァ!』
「は、いっ!?」
全く見えないアポロの動きを目で追うなんてことは土台無理、テルスさんから送られてくるデータを頼りに動こうとするけど……
「ほらほらほらぁ!そんな鈍い動きじゃいつまで経っても当たらないよぉ!」
「テルスさんっ、これ、流石に無理がっ!」
『っ……すまない、ユノと同じ情報量は捌ききれんか、再計算する!』
「早めで、お願いします……!」
ミリ単位での動きの微調整とか流石に無理!?っていうか弍乃さんはあの時これを涼しい顔でこなしてたって事……!?
「ていうかこれ矢は加速しないの欠陥じゃない?私近接戦苦手なんだけどぉっ!」
『幸い奴はまだ使いこなすまでには至っていない。パターンの解析は容易……更新完了!』
「これ、ならぁ!」
「……あ?合わせた?偶然?」
どうにかこうにか私にも再現できる動きを出力してもらい、アポロの矢と近接を同時に弾けるタイミングで大剣を合わせて双方パリィ。これを続けていけば防げはするだろうけど……有効打を、与えられない……!
『シルウィアの話が確かならティタノデバイスには制限時間が存在する。それまで持ち堪えれば君は勝てる!』
「それが後何分かとか分かれば、楽なんですけどねっ!」
「無駄話……舐めてんの?余裕ぶってぇ!」
「っ!」
皆と先に戦っていたのだから制限時間のリミットはある程度消費している筈。それに今の調子ならアポロの攻撃は全部弾ける、これなら……!
「……あはっ、いい事思いついちゃった」
「何を……なっ!?」
なんて思ってたら、数度攻撃を弾いたアポロは痺れを切らしたかと思えば嫌な顔で笑って……
「こっちの方が楽じゃん」
「させないっ!」
地に伏せたままの紗七達に狙いを定めた。慌てて止めようと大剣を投げて牽制するけど……
「あれ?楽ってそういう意味だと思った?私最初からお前を滅茶苦茶に壊してやることしか考えてないんだよ、ミネルヴァ!」
「ガッ……!?」
『ミネルヴァ!っ、悪辣な……!』
私に隙を作らせるための演技だったらしく、返す刃で思いっきり吹き飛ばされる。まずい、これじゃテルスさんの予測も無意味に……
「的当ての時間だよ!二重詠唱、拘束、固定!」
「あ、ぐ……」
空中に投げ出されたタイミングで四方から伸びてきた鎖に四肢を絡め取られる。これじゃ呪文すら使えない……
『ディーデバイスとの同期……クソっ、間に合わん!』
「ほーら何処から撃たれたい?足?手?心臓?それとも……頭?」
「誰、が……」
「きーめた、全部!《付与詠唱、拡散!」
アポロの構えた矢が此方を向く。ごめん、テルスさん、私がついていけないばっかりに……
「さよーなら、やっぱり私には……勝てないのよっ!」
放たれる無数の矢がまっすぐ向かって……
「強化詠唱、雷霆っ!」
「……は?」
『今のは……』
……直撃寸前で、鎖ごと雷に全て叩き落とされた。ていうか今の呪文って……!
「まに、あった……!」
「シルウィアさん!?」
どうにか着地して声の方向を向けば……予想通り、シルウィアさんが息を切らして立っていた。
走って、走って、とにかく走る。
「早く……行かなきゃ……!」
三葉さんにテルスを託してすぐ、カオスデバイスがディーデバイスの反応を検知した。それはまだいい、ただの魔導士一人であればもう負けるはずはないだろうから。
「また、私の、せいでっ……!」
問題は時間結界が展開されていない事。弍乃さんが消えたのも理由の一つだろうけど、それは……
「間に合って……!」
……テルスの言う通り、ティタノデバイスが完成してしまった可能性が高いということ。タルタロスには私が居なくなってもウルカヌス達が居る。設計図は残してきてしまっているし実戦投入してきたとしてもなんらおかしくはない。
時空加速は流れる時間から自分を切り離す事で加速を遥かに超えた高速移動を実現した技術。対応できてた弍乃さんがおかしいだけで……今の三葉さん達じゃ、絶対に、勝てない。
「っ!」
息を切らして、たまに躓いて、漸く辿り着いたら……
「ほーら何処から撃たれたい?足?手?心臓?それとも……頭?」
「三葉さんっ……!」
少し遅かったようで、大勢は決してしまっていた。私が開発したデバイスのせいで、また、誰か……
「ない……」
嫌だ。
「さよーなら、やっぱり私には……勝てないのよっ!」
「させないっ!」
気づけば無意識に、カオスデバイスを取り出して。
「強化詠唱、雷霆っ!」
「……は?」
三葉さんを助けるために、呪文を行使していた。
「まに、あった……」
「シルウィアさん!?」
「なーんでお前が此処に居るのさ。臆病者の癖に邪魔しないでよ」
「……はい、私は気弱で、臆病です。誰かに甘えてばかりで、自分1人じゃ、何もできなかった」
……二回、目の前で大事な人を失った。
「けど」
一回目は仕方ないと言い訳できた。3歳の幼児にできることなど、何もなかったのだから。
「それじゃ……」
でも、この前は違う。私にはどうにかできる力があった。なのにできなかったのは……私が、あの人に甘えすぎて何もしようとしなかったせいだ。
「弍乃さんに……お母さんに、合わせる顔が、ないから!」
「あ?なに自分で納得してるのさ」
『シルウィア、君は……』
だから変わろう。
「変身詠唱……」
何もできない臆病な私から。
「ユピテルっ!」
何かできる、私へ。
「シルウィアさん……」
『……ミネルヴァ、一つ提案がある』
「テルスさん……?」
デバイスを掲げ、再び着身。これは私の意思だ、組織の命令でも、誰に言われたからでもない。
「ハッ!笑わせる、スペックが高かっただけで「時空加速、五倍速!」しょっ……!?」
アポロが慢心している隙に時空加速を起動。一気に距離を詰めて、殴りかかる。
「はああっ!」
「ぐっ……舐める、なぁ!」
「遅いっ!」
アポロはまだ時空加速に慣れていない。最大の利点である速度の切り替えすら扱えて……いや、知らない?なら今のうちに……!
「呪文詠唱、錬成!」
「あいつと同じ真似しようったって!」
「真似じゃない!」
長槍を錬成し連撃。あの時弍乃さんがやってたように弓をひたすら防御に使わせ遠距離を封じ込める。今のアポロは推定三倍速、切り替えができていないのならこれを避ける術はない……行ける!
「私は、変わるって!そう、決めたんです!」
「ぐっ……舐めるなァっ!」
「っ!?」
必殺詠唱のためにアポロを突き飛ばそうとした瞬間彼女の速度が切り替わった。まさかこの土壇場で速度の切り替えを身に付けて……
「隙ありぃ!」
「なっ……あぁっ!?」
慌てて八倍速に切り替えるが少し遅く、放たれた矢と振り下ろされる弓の偏差攻撃をまともに被弾し地に伏せてしまう。まずい、このままじゃ……
「やっぱりスペックだけ!臆病者は研究室に引っ込んで「時空加速、五倍速っ!」っ……は?」
「シルウィアさんから、離れろっ!」
「ぐっ……なっ、何でお前が!?」
追撃しようとしたアポロを突如割って入った三葉さんが不意打ち。助かったけど……なんで、三葉さんが時空加速を……いや。
『やはり調整なしでは多大な負荷がかかる……制限時間は体感時間で1分もない、頼んだぞミネルヴァ!』
「はい、テルスさん!」
「テルス……」
……直したばかりだというのにまた無茶をさせてしまっている。ティタノデバイスのベースはカオスデバイスなのだから同期できると判断したのだろうけど……またテルスを壊す訳には、行かない!
「3秒でいいです、アポロの足を止めてください三葉さん!必殺詠唱っ!》」
「3秒……分かりました!」
「舐め腐ってぇ!」
「どっちの台詞かなっ、それっ!」
……初めてで凄まじい違和感が身体を襲っているだろうに、それを感じさせず三葉さんは速度の切り替えまで行ってアポロに肉薄している。
「また負ける?私が!?あってたまるか!」
「二度あることは三度あるっ!」
『残り42秒!』
なら、それに私も応えなくてはならない。迸る雷を槍に纏わせ、威力を付けるべく弍乃さんのように振り回し、十二倍速に切り替え急加速。
「舐めるな!こんな所で、終われるかっ!」
「今度こそ終わらせる!けど、それは私じゃなくて……!」
『残り38秒、やれ、シルウィア!』
「はいっ!」
地面を思いっきり踏み締め跳躍、三葉さんと切り結ぶアポロの頭上へと一気に跳んで。
「離れてください三葉さんっ!雷霆槍……」
「決めちゃってください、シルウィアさんっ!」
「ガッ……おまえ、らぁ……!」
「流星撃っ!」
勢いを付けた槍を真下に投擲。三葉さんはアポロを地面に叩きつけるついでに上手く離脱してくれたようで。
「これが……」
直撃した槍から電撃が迸って。
「私の、決意です!」
確かに、アポロのデバイスを破壊した。




