お約束の婚約破棄
【シーン1:魔法レベル判定試験】
王立ノブレス・リセウム。その一角で、土属性魔法のレベル判定試験が執り行われていた。
受験者は、エレオノーラ・ド・ラ・ヴァリエール。 緊張の面持ちで岩壁の前に立つ彼女を、王国有数の土属性スペシャリストたちが鋭い視線で見守る。試験開始の合図が響いた。
エレオノーラが岩壁にそっと手を触れる。次の瞬間、魔法が発動した。 凄まじい精度で岩を削り、人が通れるほどの穴を掘り進めていく。途中で地盤が脆くなれば、排出された砕石を即座に硬化・再利用して強固な支保工を組み上げ、周囲の崩落を完璧にシールドしてみせた。
地下水が噴き出す難所も、流体操作を応用した遮水壁で危なげなく突破していく。 最後には床面まで美しく舗装され、そこには魔法の産物とは思えぬほど見事な「トンネル」が出来上がっていた。
「……素晴らしい。これほど完成された土木技術は見たことがない」
駆け寄った試験官が、惜しみない称賛を送る。 「公式発表は後日ですが、土属性レベル5は間違いありません。歴史に立ち会えた気分ですよ」
エレオノーラの頬が緩み、安堵の笑顔がこぼれた。
【シーン2:卒業謝恩会と断罪】
数日後、王立ノブレス・リセウムの卒業謝恩会。 会場にエレオノーラが姿を現すと、華やかな喧騒がさらに色めき立った。
「あの方がエレオノーラ様よ。全属性満点なんですって」 「四属性フルマークなんて創立以来の快挙だわ。合計20点なんて信じられない……」 「一つでもレベル4があれば将来安泰なのに、全てレベル5だなんて。引く手あまたね」 「でも、彼女は第一王子の婚約者でしょう? 卒業後はすぐにご成婚かしら。才能、家柄、婚約者……すべてを手に入れているなんて、まるでお伽話の主人公ね」
称賛と嫉妬が混じった囁きの中、会場の奥へと進むと、そこには婚約者である第一王子、マクシミリアン・ルートヴィヒ・ベルンハルトが立っていた。 エレオノーラを見つけた彼は、冷徹な声を張り上げる。
「エレオノーラ! 本日この時をもって、貴様との婚約を解消する!」
会場が静まり返る。エレオノーラは呆然と問い返した。 「……殿下。一体、なぜでございますか」
「土魔法の試験で、貴様が使った魔法。あれはこのリリーナが考案した術式だ! 貴様はそれを卑劣にも盗み出し、我が物顔でレベル5を奪い取った。泥棒同然の女など、我が妃に相応しくない!」
「そんなはずはございません! 試験の順番は私が最後でしたし、あのような術式を用いた者は他に……」
「黙れ! リリーナが『使う予定だった』と言っているのだ! それを貴様が横から邪魔したのだろう! 全属性レベル5などという実績も、どうせ他人の手柄を奪い取った虚飾に過ぎん」
マクシミリアンは、リリーナという令嬢の肩を抱き寄せ、冷たく言い放つ。 「嘘つきの泥棒女め。今すぐこの国から出ていくがいい。日陰者らしく、どこかで野垂れ死ぬがいいわ!」
どうして、突然。 なぜ、こんな大勢の前で。 誰か、助けて――。
<いかにもというテンプレートが舞い降りてきていることに、エレオノーラはまだ気づいていない。>




