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第7話 礼拝後のやわらぎ

 パイプオルガンの奏楽が終わると、起立していた皆さんはそれぞれ着席した。


 漂っていた緊張感が緩み、少しリラックスした雰囲気になった。


「連絡事項をお伝えします。週報をご覧ください───」


 そう言って礼拝の司会を行っていた男性が、週報を手にこれからの予定を読み上げ始めた。


 それが終わり、みんなお互いに挨拶したり会話をしたり帰り支度を始めたりしていた。


 これで全部終わったのか……。


 まださっきの礼拝の余韻に引っ張られ呆然と座っていると、塩見さんに話しかけられた。


「マナさん、いかがでした? 初めての礼拝は」


「はい……、何と言うか、沁みました」


 自分の語彙力のなさが嫌になる。


 でもこの気持ちをどう表現したらいいのか分からない。


 塩見さんは穏やかに微笑んだ。


「そうですか。それならよかったです。今日の迷い羊の話は特に有名な箇所なんですよ。神様が罪を赦し愛情深く受け入れてくださることを分かりやすく表現してる章なんです」


「そうなんですね。羊っていうのが最初はあまりピンと来ませんでした」


「羊飼いと羊という例え話は聖書ではよく出てくるんですよ。多分あの時代、羊飼いと言うのが身近な存在だったと言うのもあるんだと思いますけど……」


 塩見さんが話を続けようとしていたところ、ある男性が足早に近寄ってきて声をかけた。


「塩見さん、話し中ごめん。僕そろそろ行かないといけないから、準備してくれる?」


 話しかけてきたのは60代くらいの男性だった。


 私の方を見て軽く会釈してくる。


 私も会釈を返すと、塩見さんは手持ちのバッグに聖書と讃美歌をしまいながら話してきた。


「マナさん、ごめんなさいね。私、帰らないと。実は私は足が悪いから一人で教会に来られなくて、車で通ってる方に送迎してもらってるの。タクシーで来てもいいんだけど、毎週だとちょっと厳しくて……」


 そう言って塩見さんはコートを羽織り、「またいらしてね」と微笑んで帰っていった。





─────────────────────




 塩見さんを見送り、私も帰ろうかなと身支度を整えていると、榊原牧師が近付いてきた。


「高辻さん、ようこそいらっしゃいました。本日の礼拝はいかがでしたか?」


 そこにいたのはさっき教壇で堂々と声を張っていた雰囲気とは一転、以前見た親しみやすい榊原牧師だった。


「先生、ありがとうございます。何と言うか、赦されるって何だろうって改めて考えました」


「そう言っていただけると嬉しいです。神様のお考えから何か感じていただけたのなら、それは私たちにとってはかけがえのない喜びなので」


 穏やかに微笑む榊原牧師に、私はひとつ気になっていたことを聞こうと思った。


「あの、ひとつ疑問に思ったことを聞いてもいいですか?」


「はい、何ですか?」


「さっきの例え話で、99匹の羊を置いて神様は1匹を探しに行くとのことでしたけど、真面目に言うことを聞いてる羊たちのことは放置なのかなと思って」


 私の率直な質問に、榊原牧師は一瞬目を丸くしたあと苦笑した。


「なるほど、その視点もありますね」


 ちょっと失礼なことを聞いちゃったかな?と心配していると、榊原牧師は「失礼します」と言って隣に座った。


「確かに罪を犯していない羊たちに対してどうなのか?と言う疑問は湧きますよね。あれはあくまで例え話ですが、……高辻さんは罪を犯してない人っていると思われます?」


 逆にストレートに返され言葉に詰まる。


「……そうですね、罪とまでは言わないかもしれませんが、間違いを犯したことのない人って少ないかもしれません」


 榊原牧師はうなずく。


「そうですね、絶対いないとは言いませんが、かなり少ないと思います。逆に自分は罪を犯したことがないと言う人は、もしかしたら自分の罪に気づいてないのかもしれません」


「……」


「もちろん罪を犯さないことがベストです。でも神様は罪を犯さないことも、罪を犯してもそれに気づいて悔い改めることも同様に尊いとおっしゃってるんです。これに関しては別の例え話もあって……」


「先生、その辺にしておいたら?」


 榊原牧師の話を遮ったのは、夕香さんだった。


「高辻さん、戸惑ってるじゃない。皆さん先生に挨拶して帰りたいって待ってるんですよ。早く入口へ行って」


 そう急かされ、榊原牧師は腰を上げた。


「高辻さん、すみません。つい語りたくなってしまって。職業病ですかね。それではまたあとでご挨拶しますので、一旦失礼します」


 そう言って榊原牧師は礼拝堂から出ていき、教会の入口で待っていた教会員の人たちと話し始めた。


 それを見て夕香さんは軽くため息をついた。


「たまにああやってスイッチが入ると、語りたがるんですよね。まあそれが仕事なんですけど」


 ぼやく感じで呟く夕香さんがかわいい。


「毎週、こうやって礼拝が行われてるんですね」


 夕香さんに話しかけると、夕香さんはこっちを見てにこっと笑った。


「はい、日曜日は必ず礼拝を行っています。もし気に入っていただけたなら、是非またいらしてください。月の第一日曜日は礼拝後に軽食が出る茶話会があるんですよ。もしよければ来月いかがです?」


 来月、2月の第一日曜日だと2週間後か……。


 このペースだと無理なく来れるかもしれない。


「はい、また来ます。実は友達が病気になっててその事をお祈りしたいと思ってたんですけど、今日はタイミングを逃してしまって……」


 すると夕香さんの顔が曇った。


「そうなんですね……。是非またいらしてください。正直若い人って少ないので、個人的にも高辻さんにはまた来てほしいなって思ってます」


 そう言ってにっこり微笑んでくれる夕香さんの笑顔に、私は心が暖かくなるのを感じた。




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