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最終話 続いていく灯り

「高辻さん、行友ソリューションさん、打ち合わせの資料揃ってる?」


課長に聞かれ、答える。


「はい、今は事務員さんにコピーしてもらってます。30分ほどで準備できます」


洗礼を受けた翌日、普通に仕事の日々が始まる。


それも例年通り、年末進行なのでバタバタだ。


おまけに今日はあの行友テックから紹介された大口案件が佳境に入り、最終打ち合わせを行うことになっていた。


それに課長と江間さんと私で対応することになっている。


そうやって仕事に追われながら昨夜のことを思い出していた。


昨夜、彩希からの勧誘のLINEがあった後、グループメンバーの美月と尚美が抜けた。


今残ってるのは彩希と私ともう一人だけだ。


あのあと美月と電話をして話をしたけど、美月はすっかり諦めたような口調だった。


「彩希、あれから全然変わってないよ。何ならひどくなってる。私はたまに既読スルーして逃げてたけど、尚美は優しいからいちいち返事してたみたい。そうしたら『いつ来てくれるの?』って深夜でも電話かけてきてたって」


言葉につまる。


「……ひどいね」


「特に宗教なんてデリケートで『そんなのやめなよ』って言えないじゃん。言っても聞く耳持たないし、余計にヒートアップするからもう無理だよ。あそこから助けるのは他人じゃなくて家族の役目。親御さんがどう思ってるか分からないけど」


「そうだよね……」


お兄ちゃんが法律的にも何もできないって言ってたのも思い出し、本当に深刻で難しい問題なんだと痛感する。


「今グループに残ってるのは彩希と恵利加と私だけだよ。……でも私も抜けるわ」


美月は軽く息を吐いた。


「それでいいと思う。変に関わったらこっちも引きずり込まれるよ。恵利加はどうするか分かんないけど」


「……来年の初詣はどうする?」


「とりあえず茉那とは行きたいと思う。尚美には声かけてみるわ。恵利加は様子見かな」


「そうだね。分かった」




……そんな感じで美月との電話は切れた。


カルトは正直厄介な存在だとは思う。


でも例えおかしな団体でも彩希が救われたと思い込んでるなら、そこから引き離すのが彩希のためになるのかは分からない。


もちろん、お布施を注ぎ込んでるなら深刻だけど、お兄ちゃんの言う通り本人の意思とされてるならもう他人の素人に手を出せる状態じゃない。


申し訳ないけど、もう彩希とは無理だ。


そう思った。




─────────────────────




「高辻さん、もう出れる?」


江間さんが声をかけてくる。


そろそろ行友ソリューションの打ち合わせに行くため会社を出る時間だ。


「課長にも声をかけてきます。……江間さん、タバコ吸ってないでしょうね? 客先に出向くのにタバコ臭いってあり得ないですから」


すると江間さんは軽く息を吐いた。


「タバコはやめたよ。2ヶ月前に」


「え? そうなんですか? 私が口うるさいから?」


「……違うよ。健康のため。金ももったいないし」


「そうですよね。タバコなんてお金に火をつけて燃やしてるようなもんですよ。じゃあ課長呼んできます」


そう言って立ち上がり席から離れようとしたときにボソッと中矢さんが江間さんに呟いた。


「……むくわれないねえ」


江間さんも答えた。


「……焦ってないですから」




─────────────────────




「よかったですね。このまま行けば年明けに契約が完了しそうです」


行友ソリューションの最終打ち合わせも滞りなく終わり、私と江間さんは行友駅の方へ向かって歩いていた。


今回の案件は大口なので課長も同席したけど、その後課長は次の客先に行かなきゃいけないと言うことで車を乗って行ってしまい、私と江間さんは電車で帰ることになった。


「プロジェクトが動き出したらこっちが地獄なんだけどね……あれ」


ふと、江間さんの足が止まる。


江間さんの視線の先にあったもの、それは行友教会だ。


今日の打ち合わせは行友テックで行われたので、そこから駅までの道に行友教会があった。


「こんなところに教会があったんだ……」


「……江間さん、教会に興味あるんですか?」


「亡くなったばあちゃん、クリスチャンだったんだよね。俺も子供の頃何回か行ったことがある」


そして教会に近づき、ドアに貼ってあるポスターを見つめた。


「へえ、イブに燭火礼拝があるんだ」


一瞬考えて声をかける。


「……一緒に行きます?」


「え?」


江間さんが振り向く。


「どうせ江間さん、イブも仕事終わりは一人寂しく過ごすんでしょ。付き合ってあげますよ」


「いや、一人寂しいって決めつけないでくれる?」


「違うんですか?」


「……違わないけど」


そして江間さんは駅に向かって歩き出した。


「……考えとく」



─────────────────────



イブの燭火礼拝の日、結局江間さんは来れなかった。


急遽客先対応をすることになり、残業が必須になったからだ。


あんなに顧客ファーストになるなって言ってたのに、自分も振り回されてるじゃん。


それを考えて軽く笑う。


また年明けに、日曜の礼拝に誘ってみるか。


あの感じだと興味はありそうだし。


そうして燭火礼拝が始まる前、まだ礼拝堂に照明がついてる状態で椅子に座って礼拝の開始を待っていると、受付担当の二宮さんがある男性をつれてきた。


「高辻さん、すみません。こちらの方初めてみたいで、お隣よろしいですか?」


見るとそこにいたのはまだ大学生くらいに見える若い男性だった。


初めての教会ということでちょっとおどおどしている。


「分かりました。どうぞこちらへ」


そう言って、隣の席に案内した。


その男性は興味深げに礼拝堂内を見渡している。


「今日はどうしてこちらの教会へ?」


自分が初めて教会に来たときに聞かれまくった質問を自分がしてるのがおかしい。


でも初めて来た人に聞きたくなる気持ちがようやく分かった。


「……インスタを見て」


「え」


思わず目を見開く。


「インスタでなんだか雰囲気いいなって思って。そこにリンク貼ってあった礼拝の動画も見たんですけど、弱さが強さの源って言葉がすごく刺さって、もっといろいろ話を聞いてみたいって思ったんです」


「……そうなんですね。ようこそいらっしゃいました。歓迎します」


嬉しさが隠しきれなくて笑顔で話すと、その男性は少し赤くなって「ありがとうございます」と言い、そのまま下を向いた。


そして時間になり、榊原牧師が講壇に立ち礼拝堂内の電気が消される。


各々が持っている蝋燭の光が揺れて、去年見た風景がよみがえる。


あの時は辛くて寒くて最低だったけど、今はこんなに落ち着いた気持ちでこの光景を見れている。


この一年色々あった気もするけど、でも振り返ればあっという間だった。


私は手を組んで、目を閉じた。




天の父なる神さま


今年もこうやってイエス様の誕生をお祝いできることに感謝いたします。

どうか来年もその先もずっとこの時が持てますように。

そして全ての人に神さまの御心が共にあり、満たされる時を過ごせますように、心よりお祈り申し上げます。


主イエス・キリストの御名によって祈ります。



アーメン。


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