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第50話 祝福のあとに

 洗礼式が終わり、私は席に戻る。


 その後に聖餐式が行われた。


 いつも座っていた聖餐式だけど、今回は私も立って聖餐にあずかる。


 銀器に並べられた小さなパンを手に取り、椅子に座った。


 このパンは、最後の晩餐の時イエス様が「このパンは私の体である」と言われたもの。


 翌日に過酷な運命が待ち受けていると知っていたイエス様は、このパンを食べることで永遠に私たちと共にいることを伝えてくださった。


 それを思いパンを口に運び、噛み締める。


 その後に配られたぶどうジュースも同じように祈りながら飲んだ。


 聖餐式がどれほど神聖なものか、理解していないとあずかれない理由が今は痛いほど分かる。


 その後、献金、讃美歌、そして祝祷があった。


「願わくは、主イエス・キリストの恵み、神の愛、聖霊の交わりが、あなたがた一同とともにありますように」


「アーメン」


 パイプオルガンの奏楽に包まれながら、クリスマス礼拝は終わった。


 すると私の回りに皆さんが一気に集まってきた。


「高辻さん、改めておめでとうございます」


「行友教会の家族になっていただいて、本当に嬉しいです」


「久しぶりの洗礼式に立ち会えて、ちょっと泣きそうになりました」


 杏奈ちゃんも声をかけてくれた。


「高辻さん、おめでとうございます。私も高校生になったら信仰告白を考えてるので、感動しました。来年からは一緒に礼拝に出席するんで、よろしくお願いします」


「杏奈ちゃん、ありがとう。こちらこそよろしくね」


 そこに両親とお兄ちゃんも近寄ってきた。


 お父さんは少し戸惑いながらも笑顔を向けてくる。


「茉那、おめでとう。正直何が行われたのかよく分かってないけど、でも人生の節目に立ち会えて嬉しいよ」


「ありがとう、お父さん」


 お母さんも声をかけてくる。


「茉那、よかったわね。こんなにたくさんの方に愛されて祝福されて、お母さん、それを見れただけでなんだか感無量で……」


 お母さんは少し涙ぐんでいる。


 しばらくの間のあと、お兄ちゃんも口を開いた。


「茉那、おめでとう」


 お兄ちゃんの言葉に、その場の空気が少しピリッとした。


 でもお兄ちゃんは意に介さず、言葉を続ける。


「茉那が決めたことだから賛成したけど、こんなにあたたかい場だとは思わなかった。良かったな」


 すると小堀さんが両親とお兄ちゃんに声をかけた。


「この後、愛餐会があるんです。クリスマスと娘さんの洗礼をみんなでお祝いしましょう。是非ご参加ください」


 それを聞いて両親はうなずいていたけど、お兄ちゃんは頭を下げて断った。


「申し訳ありませんが、僕は仕事の関係でもう帰らないといけないのでこれで失礼いたします」


 しばらく考えた後、お兄ちゃんは言葉を続けた。


「……妹がこんなに幸せそうな顔をしてるのを見るのは久しぶりです。皆さん、本当にありがとうございます」


 そうして改めて頭を下げ、私の方を見て「じゃあ、また正月な」と言った。


 私が、「うん、またね」というと軽く微笑んで手を上げ、そのまま教会を後にした。


 その後ろ姿をみんなで見送る。


 姿が見えなくなった後、皆は口々に呟いた。


「高辻さんのお兄さん、なんだか存在感があるな……」


「スーツもパリッと着こなしておられたしね」


「お兄さん、お仕事何されてるんですか?」


 杏奈ちゃんに聞かれたので「弁護士だよ」と答えると、周りはどよめいた。


「ああ、それっぽいわ」


「味方にすると心強いけど、敵に回すと怖そう」


「お兄さん、昔からあんな感じだったんですか?」


 二宮さんに聞かれる。


「はい、子供の時から褒められることが多かったです」


 昔はそんなお兄ちゃんを絶賛する言葉を聞いて、それに比べて自分は……と思うことが多かった。


 でも今は、榊原牧師が言っていた通り「最強の味方、いい兄を持った」と心から思える。


 私はお兄ちゃんが出ていった入り口の方を見ながらはっきり言った。


「自慢の兄です」


 しばらくして隣にいる杏奈ちゃんがボソッと呟いた。


「お兄さん、妄想しがいがありそうなタイプですね……」


 その言葉にちょっと吹き出した。


「あ、身内の方にそんなこと言ったら失礼ですよね?」


 杏奈ちゃんが慌てて謝ろうとするので、私は手を振った。


「全然いいよ。お兄ちゃんをネタにして笑ったの初めてだから。ありがとうね」


 杏奈ちゃんは首を捻って不思議そうにしてたけど、私はお兄ちゃんに対してこれからはそんなに緊張感を抱かない気がした。




─────────────────────




 その後、両親を交えた愛餐会が開かれ、改めてクリスマスと私の洗礼を祝う会が行われた。


 愛餐会が始まる前、少し離れた場所に池畑さんがいるのを見かけた。


 池畑さんはこちらを見て、少し気まずそうにした後、軽く頭を下げた。


 私も頭を下げる。


 その後池畑さんは帰っていった。


 もう池畑さんを見ても心が騒ぐことはない。


 そう思えた。


 今日のクリスマス礼拝に夕香さんは姿を見せなかったけど、祈ちゃんが昨日から熱を出したらしい。


 もう生後2ヶ月になって体重は6.5キロを越えたらしいけど、結構熱を出す頻度も増えてきたみたいで、牧師から夕香さんのお祝いの言葉ももらっていた。


 そうやって教会の皆さんから祝福を受け、嬉しそうな両親を駅まで見送って、私も自宅に着いた。


 ワンピースを脱ぎながら今日1日を振り返る。


 今日は一生忘れられない日になる。


 また明日から普通に仕事の日々だけど、牧師の言う通りこれからは生まれ変わった自分として生きていけそうな気がした。


 そんな幸福感に包まれていつもの日曜の夜のルーティンをこなし、後は寝るだけの時間を過ごしていたとき、LINEの着信音が鳴った。


 見てみると1ヶ月以上全く動きのなかった大学メンバーのグループLINEで、書き込んだのは彩希だった。


 ちょっと警戒しながらもLINEを開く。


 そこには─────────


「みんな、この間は会ってくれてありがとう。

年明けの第一日曜日に天観心教の教祖先生からありがたいお言葉を聞く『気付きの会』があるの。これは一年に一回しかない貴重な会だから、是非みんなにも参加してほしくて案内します。救いを知ってほしいです」


 その言葉の後に、その『気付きの会』とやらの日時と場所が書かれた案内画像が貼られていた。


 それをなんとも言えない気持ちで見つめる。


 しばらく固まっていると、さらにグループLINEで通知があった。


 それは美月ともう一人の子、尚美がグループLINEから退出したとの知らせだった。





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