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第48話 迎えられる朝

 クリスマス礼拝は、実際のクリスマス12月25日の直前の日曜に行われる。


 クリスマス礼拝の当日、私はいつもより30分以上も早く教会にいた。


 昨夜は緊張してあまり眠れなかったけど、不思議と心は落ち着いていた。


 そして今日私は、この日のために買った淡いベージュのワンピースを着てきた。


 牧師にはシンプルな服だったら堅苦しくなりすぎなくてもいいって言われたけど、やっぱり一生に一度の儀式、神さまに向き合う大切な時間だと思ったからそれを形に表したいと思ったからだ。


 私が教会についた頃はまだ人はまばらだったけど、私を見つけると皆さん「本日はおめでとうございます」と声をかけてくれた。


 私が今日洗礼を受けることは、教会員にも周知されていた。


「高辻さん、いよいよですね」


 二宮さんにも声をかけられる。


「はい、緊張してきました……」


 すると二宮さんは軽く笑った。


「そうですよね。私は大学生のときに受洗したんですけど、その時を思い出します」


「そんなに若いときに洗礼を受けたんですね」


「若い子だと高校生で受ける人もいますよ」


「へー……」


 そんなに若いときから神さまに誓いを立てるんだ。


「高辻さん、おはようございます」


 榊原牧師も声をかけてきてくれた。


 礼拝前はいつも集中して椅子に座っている牧師だから、こうやって礼拝前に声をかけてきてくれるのは珍しい。


「先生、おはようございます。本日はよろしくお願いいたします」


「こちらこそ……。あれ?」


 牧師が入り口の方を向いたので、私もそちらに顔を向ける。


 そこには、両親、そしてお兄ちゃんがいた。



────────────────────



 礼拝開始時間よりかなり早く、両親とお兄ちゃんが姿を現した。


 特に服装について何も言わなかったんだけど、お父さんとお兄ちゃんはスーツ、お母さんはネイビーのツーピースを着ていた。


 思ったよりビシッとした身なりで現れたことに驚く。


「お父さん、お母さん、お兄ちゃん。おはよう。来てくれてありがとう」


 するとお母さんが笑って言った。


「思ったより分かりやすい場所でよかったわ。駅からも近いし」


 そして榊原牧師に向き合って頭を下げる。


「高辻茉那の母です。娘がお世話になっております。本日はよろしくお願いいたします」


 お父さんも「よろしくお願いします」と頭を下げていた。


 榊原牧師も丁寧に挨拶し、「本日はようこそいらっしゃいました。古い教会ですがリラックスしてご参加ください」と微笑んでいた。


 そのやり取りを見ながらお兄ちゃんに話しかける。


「お兄ちゃん。遠いのに来てくれてありがとう」


 するとお兄ちゃんは大したことないという感じで言った。


「昨日、近くのホテルに前泊したし大丈夫だよ。仕事でこれぐらいの移動はしょっちゅうだし」


 そういうお兄ちゃんの胸元を見る。


「今日は弁護士バッジつけてないんだね」


「仕事以外じゃつけないよ」


 お兄ちゃんは軽く笑い、改めて言った。


「茉那、今日はおめでとう。いい教会に出会えたんだな」


「……うん、ありがとう」


 両親と会話し終えた榊原牧師がこちらを向いた。


「初めまして。牧師の榊原です。茉那さんのお兄様ですね?」


「はい。茉那の兄の高辻陽太です。妹がお世話になっております」


 仕事柄スーツがさまになってるお兄ちゃんの所作は隙がない。


 お兄ちゃんもまあまあ背が高いから、高身長の榊原牧師とは目線の高さが同じだった。


 何となく緊張感が走ってる感じがしてハラハラする。


「茉那さんが教会に来てくださってから、本当にこの教会は変わりました。いろんな行事にも積極的に参加してくださって、IT改革も行ってくださったんですよ」


「ITですか?」


「はい、オンライン礼拝の手配や妻にブログを提案してくれたり、インスタの運営もしてくださってます」


 お兄ちゃんがこっちを見るのを感じて、思わず目をそらす。


「……そうだったんですね。実は事前にこちらの教会のことも調べさせていただいていて、そちらも拝見いたしました。妹がお役に立ててると聞いてほっとしております」


「茉那さんはもう教会ではなくてはならない方ですよ」


 何となく居たたまれなくなり、私は3人に言った。


「もう席に着こう。牧師も礼拝の準備があるから。先生、ありがとうございます」


 そういって3人を半ば強引に礼拝堂へ案内した。




 ─────────────────────



「へえ、これが教会かあ……」


 お父さんもお母さんも礼拝堂を見渡している。


 多分教会に来ること自体が初めてなのかもしれない。


「天井が高くて解放感があるね。あ、あれパイプオルガンか。本物初めて見たな」


「やっぱりプロテスタント?だからかしらね。内装が落ち着く感じね」


「……」


 お兄ちゃんは黙って周りを見渡している。


 その沈黙もちょっと怖い。


「高辻さん。おはようございます。本日はおめで……、あら、高辻さんのご家族?」


 声をかけてきてくれたのは小堀さんだった。


「おはようございます。はい、両親と兄です。今日はわざわざ来てくれました」


 小堀さんは満面の笑みで嬉しそうに言った。


「そうなんですね。初めまして。教会員の小堀です。お会いできて嬉しいです。高辻さんには本当によくしていただいてます」


「ありがとうございます、こちらこそ娘がお世話になっております」


 両親が答える。


 小堀さんの目はお兄ちゃんに止まって、そのまま私を見た。


「お兄様? かっこいいですね。モデルさん?」


 思わず苦笑する。


 お兄ちゃんは顔色も変えず頭を下げた。


「いえ、一般人です。初めまして。本日はよろしくお願いいたします」


 正直お兄ちゃんは妹の目から見てもかっこいいし、お兄ちゃんもこの反応には慣れっこだ。


 小堀さんに真ん中の通路沿いの正面がよく見える席に案内してもらい、3人はそこに座った。


 そして私は真正面の一番前に座る。


 そうして礼拝が始まるのを静かに待った。


 やがてパイプオルガンの奏楽が鳴り響き、クリスマス礼拝が始まった。



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