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第47話 灯りが満ちるころ

 課長からの依頼を断り仕事を定時で終わらせたその日、5回目の勉強会を終えた。


 これで勉強会は終了だ。


 あとは洗礼式の日を待つだけ。


 勉強会の最後に改めて、洗礼を受ける気持ちはあるかと聞かれたけど、私は


「はい」


 と答えた。


 ここまで自分の中で全く揺るがず答えられたことは、今までなかったかもしれない。




 そしてその次の週の日曜日、最後の4本目の蝋燭が灯った。


 そのアドベントの蝋燭を杏奈ちゃんとしみじみ見る。


「もう来週クリスマスですね……」


 杏奈ちゃんは大人の礼拝の前に行われている子供向けの礼拝、CSと呼ばれる教会学校に通っているので、大人の礼拝が行われるまでの30分ほどの間で話すことが多かった。


「私、教会でクリスマス礼拝に出席するの初めてなんだよね。だから楽しみ」


「高辻さん、来週洗礼受けられますもんね。クリスマス礼拝はCSの子供たちも一緒に出席するんですよ。だから私もじっくり見届けさせてもらいます」


「あ、ありがとう。嬉しいけど緊張するなあ……」


「あと、私、年明けから大人の礼拝に出席しようと思ってます。行友教会では中学生はどっちに出てもいいってなってるんですけど、私は来年の春から中3なんで、そろそろかなと思って」


「そうなんだ」


 杏奈ちゃんも確実に大人に階段上ってるんだなあと勝手に親目線で微笑ましく見てしまう。


「あと、もうひとつ考えてることがあるんですけど……」


 杏奈ちゃんが少し言い淀む。


 こうやって杏奈ちゃんが躊躇うときは、大事なことを打ち明けてくれるときだ。


「何?」


 あくまで平静を装いながら真剣に耳を澄ます。


「実はXで、漫画を公開しようと思っていて」


「そうなの?」


 あんなに私に見せることすら恥ずかしがってた杏奈ちゃんが、そんなことを言い出すなんて意外だった。


 ちなみに見せてもらっていた漫画は6ページ完結の短いもので、最後は手を繋いで帰っていく2人にちょっと泣きそうになった。


 杏奈ちゃんははっきりうなずく。


「はい、高辻さんに見ていただいて、いっぱい褒めていただいたし、こうすれば見やすくなるかもってアドバイスももらって、そのとき思ったんです。漫画って人に読んでもらって完成するのかもって」


「……」


「それに漫画家って、自分の漫画を人に読んでもらうのが仕事じゃないですか。だから多くの人の目に触れてもらう機会を作るって大事なんじゃないかと思って。もちろん厳しい意見も来ると思うんですけど、逆に自分を試したいなって思ったんです」


「すごいね……」


 あの、大人しくて内気だった杏奈ちゃんがここまで変わるなんて。


 杏奈ちゃんは照れたように笑った。


「高辻さんが読んでくださったことが大きいです。自分が描いたものを人に楽しんでもらえるってこんなに嬉しいんだって思ったから」


 杏奈ちゃんの言葉を聞きながら、夕香さんや二宮さんのことを考えた。


 夕香さんは毎日親しみやすいブログを発信し、今はフォロワーも200を越えコメントのやり取りも活発になってきている。


 二宮さんのパッチワークもよく見れば教会員の中でも二宮さんの作品を愛用してる人が多いし、それに気づくと二宮さんは嬉しそうに声掛けをしている。


 自分の産み出したものが他の人の何かに火を灯す。


 それが創作の楽しさなのかもしれない。


「いいなあ……。私もまた絵を描こうかな」


 思わず呟くと、杏奈ちゃんはいつになく食いついてきた。


「本当ですか? 見たいです。描いたら見せてください!」


「え、いや、描くかどうかもまだ……」


「見たいです!」


 杏奈ちゃんの圧に圧される。


 これはいつぞやのカフェとは真逆の構図だ。


「……分かった。描いたら見せるね」


 すると杏奈ちゃんは嬉しそうに笑い、「ではまた来週」と言って帰っていった。


 杏奈ちゃん、この半年ですごく変わったな……と思ってると、二宮さんが話しかけてきた。


「杏奈ちゃん、明るくなりましたよね」


「はい。すごく変わったなと思います」


 二宮さんは少し表情をゆるめて言った。


「杏奈ちゃんのお母さんから聞いたんですけど、杏奈ちゃん最近成績が上がったそうなんですよ」


「あ、そうなんですか?」


「はい、なんでも本人が『勉強しておいたら将来の選択肢が増えるから』って言ってるそうで、自分から勉強するようになったんですって」


 そして二宮さんは私の方を見る。


「それって高辻さんの影響かなって思ってるんですけど」


 私は慌てて否定した。


「いえいえ、私はそんな立派なことは言ってません。でも、杏奈ちゃんがちゃんと将来を見つめられるようになったのはよかったなと思います」


 やがて礼拝開始時間が近づいてきたので、私たちは着席して礼拝の始まりを待った。




 そして翌週、私の洗礼式を行うクリスマス礼拝の当日がやって来た。



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